2020.09.26 (公開 2019.08.14) 海水魚図鑑
トカラベラの飼育方法~成長につれて色彩・斑紋変化が楽しめる
トカラベラはスズキ目・ベラ科・ホンベラ属の海水魚です。インド-太平洋のサンゴ礁域に広く分布し、日本でも越冬はできないものの、相模湾以南で確認されています。ほかのベラの仲間の多くと同様、雌雄、幼魚と成魚で色彩が異なり、水槽で飼育していても幼魚が成魚にかわる姿を楽しむことができます。ただしやや大きく成長する種のため、小型水槽での終生飼育は不可なので注意が必要です。
標準和名 | トカラベラ |
学名 | Halichoeres hortulanus (Lacepède, 1801) |
英名 | Checkerboard wrasse |
分類 | 条鰭綱・スズキ目・ベラ科・カンムリベラ亜科・ホンベラ属 |
全長 | 25cm |
飼育難易度 | ★☆☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッドなど |
温度 | 25℃ |
水槽 | 90cm~ |
混泳 | 成魚は気が強くなるので注意が必要 |
サンゴとの飼育 | サンゴには無害 |
トカラベラって、どんな魚?
▲トカラベラの成魚(雌)
トカラベラはベラ科・カンムリベラ亜科・ホンベラ属のベラです。ベラの仲間は雌雄、または幼魚と成魚で斑紋が大きく異なるものも多いのですが、本種も例外ではなく成長するにつれ色彩や斑紋が大きく変わります。名前に「トカラ」とありますが、相模湾や和歌山県以南の磯でも見られ、海外では南東アフリカから西太平洋に広く生息しています。
分類
▲ミツボシキュウセンの雄。トカラベラと近縁のよう
トカラベラは「日本産魚類検索」をはじめとした、多くの図鑑では「ベラ科ホンベラ属」とされますが、Kuiterのベラ図鑑(Labridae Fishes: WRASSES、Reef Builders, Inc.)では別属のHemitautoga属とされています。この属には3種がおり、いずれも日本に分布しているミツボシキュウセンとセイテンベラが含まれています。ただこの属については認めていない学者も多いのです。
この属の有効性はともかく、これら比較的大きくなる(全長20cmになる)ホンベラ属の魚は互いに近縁ということがいえるかもしれません。またこの3種はいずれも採集しやすい浅瀬にいるのも特徴で、磯で採集することもできます。
成長による色彩と斑紋の違い
▲トカラベラの幼魚(2018年10月採集、採集直後撮影)
▲トカラベラ幼魚(2019年3月18日撮影)
他のホンベラ属魚類同様、成長につれ色彩や斑紋が大きく変化します。幼魚は白黒の模様が特徴的で、背鰭に目玉模様があります。やがて成長すると背鰭や尾鰭、頭部が黄色になります。また体側に黄色い斑紋が2つほどありますが、目玉模様は成長に伴い消えてしまいます。雄は体が緑色になり頭部にピンク色の斑紋が出てきます。ホンベラ属をはじめ砂に潜るベラについてはこちらもあわせてご覧ください。
トカラベラ飼育に適した環境
水槽
幼魚は45cmほどの小型水槽でも飼育できますが、水槽でもある程度のサイズにまで育つことを考えると60cm水槽でも狭くなります。90cm以上の水槽で飼育するようにしましょう。
水質とろ過システム
トカラベラはある程度の水質の変化に耐えられますが、できるだけきれいな水で飼育したいものです。外掛ろ過装置は能力がイマイチなことが多いので単用は避け、上部ろ過槽との併用が望ましいでしょう。外掛けろ過槽の使用はあまり望ましくありません。トカラベラはやや大きく育つ種ですので、大きめの水槽で飼育したいからです。
おすすめはほかのろ過槽と比べて、圧倒的なろ過能力を誇るオーバーフローシステムです。粗いサンゴ砂をろ材にした強制ろ過でもよいですし、サンゴを飼育するためのベルリンシステムなどでもかまいません。ただし、ベルリンシステムで飼育するときは魚は多くは入れられなくなります。
水温
原則25℃前後をキープするようにします。22℃と低めの水温でもよいのですが、急激な水温の変化のないように注意しましょう。
フタ
ベラの仲間はどの種も遊泳性が強く、水槽から飛び出す事故が起きることもあります。そのようなことを防ぐためにもフタはしっかりしましょう。
砂
▲トカラベラの水槽の底には砂を敷くこと
トカラベラはホンベラ属の種ですが、この属の魚はどの種も夜間砂の中に潜って眠るタイプのベラです。また危急時も砂に潜ってやり過ごすことができるため、水槽にも砂を敷いて寝床や隠れ家を作ってあげましょう。写真の個体(5cmほど)であれば3~4cmくらい砂を敷いてあげるとよいでしょう。
トカラベラに適した餌
動物食性が強く、甲殻類などを好み食べます。基本的に水槽でもすぐに「メガバイト レッド」などの餌を食べてくれるはずですが、どうしても食べないというときは冷凍のホワイトシュリンプなどを与えるようにします。ただし、冷凍餌は水を汚すので注意します。もちろん、ほかの性格がきつい魚からプレッシャーを受けている、というときにはその魚を別の水槽へ移すようにします。
トカラベラをお迎えする
トカラベラは採集することも、観賞魚店で購入することもできます。
採集する
和歌山県以南の太平洋側に多く見られます。浅い磯で見られますが毎年狙って採集できるほど、多く見られるものではありません。また小ぶりのものでないとすいすい泳いで採集がしにくいものです。二つの網をうまく使って片方の網に追い込むようにするとよいでしょう。沖縄などでは浅いサンゴ礁の礁湖にも見られ数もそこそこ多いです。成魚は釣ることもできますが、針を飲み込んでしまったものは飼育には向きません。
購入する
トカラベラは海水魚店でも販売されています。産地は主にフィリピンやインドネシアであり、高価なものではありませんが状態には気をつけなければなりません。鰭がぼろぼろ、もしくは溶けているようなもの、泳ぎ方が明らかにおかしいもの、水槽の隅でじっとしているもの、体表に傷やただれがあるもの、入荷して日が経っていないものなどは購入しないようにします。
また本種のように夜間砂に潜って眠るベラについては、お店の水槽でも砂を敷いているかどうかチェックしたいものです。なるべく砂を敷いてある水槽のものを買うようにします。
ほかの生物との関係
ほかの魚との混泳
▲トカラベラと他魚(イトマンクロユリハゼ)との混泳
ほかの魚との混泳は可能ですが、トカラベラは大きくなると意外ときつめになりますので、おとなしいハナゴイなどとの混泳は避けた方が無難かもしれません。逆に性格がきつめの魚との混泳では、トカラベラが砂から出て来なくなるなんていうこともあります。特にニセモチノウオ系や、キツネベラ系などは性格がきつく、姿が似た魚とは激しく争うことがありますので、このような魚との混泳は避けましょう。
サンゴ・無脊椎動物との相性
▲サンゴ水槽でも飼育できる。ただし、甲殻類は襲う。
トカラベラはサンゴを捕食するような魚ではありませんので、サンゴ水槽での飼育もできます。ただしクマノミの仲間と共生するようなイソギンチャクは捕食性が強く、しかも強い刺胞毒をもつので混泳は避けたいところです(マメスナギンチャクやディスクコーラルなどとの混泳は問題ありません)。また大型個体は睡眠時や危険が迫り、砂に潜るときに砂を巻き上げることもあり、その点にだけは注意した方がよいでしょう。
甲殻類は種類によってはトカラベラの餌になることがあります。逆に大きなオトヒメエビは小さなベラを襲うこともあるため、一緒に入れないようにします。同様に大きくなるイセエビや、大型のカニ、同じく大型になるヤドカリなどとの飼育もよくありません。
トカラベラ飼育まとめ
- ホンベラ属のカラフルなベラ
- ミツボシキュウセンやセイテンベラとは近縁
- 成長によって大きく色彩が変化する
- 60cm水槽でも小さいのでできれば90cm水槽で飼育したい
- 上部ろ過槽かオーバーフロー水槽で飼育する
- 水温は22~25℃で安定していることが重要
- 飛び出すおそれもあるためフタはしっかりする
- 夜間の寝床や危急時の隠れ場所として砂を敷いておく
- 配合飼料もすぐ食べてくれる
- 購入するときは入荷直後のもの、傷があるもの、白い点があるものなどは避ける
- 砂を敷いてある水槽のものを購入する
- 大型個体は気が強くなるので注意が必要
- サンゴには無害だがイソギンチャクには食べられることも
- 甲殻類は食べてしまうことがある。逆に大型の甲殻類に襲われる可能性も