2020.04.21 (公開 2020.04.20) 海水魚図鑑
ホシササノハベラの飼育方法~アクアリストよりも釣り人になじみ深いベラ
ホシササノハベラはベラ科・ササノハベラ属の魚です。ササノハベラ属は温帯域に多いベラで、日本にはこのホシササノハベラとアカササノハベラが知られていますが、従来はこの2種は同じ種とされていました。カラフルな色彩、派手な模様が多いベラ科の仲間としては地味で観賞魚としてはあまり人気のない魚ですが、釣り人にはお馴染みの魚です。今回はこのホシササノハベラの飼育方法についてご紹介します。
標準和名 | ホシササノハベラ |
学名 | Pseudolabrus sieboldi Mabuchi and Nakabo, 1997 |
英名 | Siebold‘s wrasse |
分類 | スズキ目・ベラ亜目・ベラ科・ササノハベラ属 |
全長 | 20cm |
飼育難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめの餌 | 大型魚用の配合飼料、イカ、エビなど |
温度 | 23℃前後 |
水槽 | 90cm~ |
混泳 | ほかの大きめの魚と飼育する。小型魚や甲殻類などは食べてしまうことも |
サンゴとの飼育 | 岩組を崩されないよう注意。温帯性でサンゴはあまり似合わない |
ホシササノハベラって、どんな魚?
ホシササノハベラはベラ科・ササノハベラ属の魚です。日本の沿岸(琉球列島は除く)の広い範囲に見られる温帯性のベラです。派手な種類の多いベラ科のメンバーではありますが茶褐色や灰色に近い緑色という比較的地味な魚で、観賞魚店ではまずおめにかかれませんが、砂地のそばの磯では簡単に釣ることができる釣り人におなじみのベラです。磯釣りでお馴染みなので「磯べら」と呼ばれていますが、やや深い場所から釣れることもあります。タイやメバル、イサキ釣りの外道として扱われがちですが、食べてもおいしい魚で、磯で釣れたものを飼育するのも楽しいでしょう。なお、日本産ササノハベラ属はこのホシササノハベラとアカササノハベラの2種が知られています。
近縁種アカササノハベラとの違い
▲アカササノハベラの雌。ホシササノハベラに似ている
従来はホシササノハベラ・アカササノハベラ両種ともに「ササノハベラ」と呼ばれていましたが、1997年に「ホシササノハベラ」と「アカササノハベラ」の2種にわけられました。
学名については従来はPseudolabrus japonicusという学名が使われていましたが、この学名をもつ種の原記載は日本産のどの種のベラでもないとされ、ホシササノハベラにはあらたな学名が与えられました。アカササノハベラは中国をタイプ標本とするPseudolabrus eoethinusと同定されました。
アカササノハベラとホシササノハベラの見分け方は頭部の線にあります。頭部には線が複数本ありますが、そのうちもっとも下方にある線が胸鰭基部に達しないのがホシササノハベラ、達するものがアカササノハベラです。ただしアカササノハベラの大型の雄では模様が途切れてしまうこともあるので注意します。アカササノハベラの雄は紫と黄色という派手な色彩をしておりますが、雌はホシササノハベラににた地味な色です。しかし目立つ白色斑がないので見分けることができます(斑点はないが白色の不明瞭な横帯がでることがある)。
ほかのササノハベラ属
ササノハベラ属は太平洋の温帯域とオーストラリア周辺海域に10種が知られています。多くが温帯種で、日本周辺にすむ2種をのぞき南半球に分布しています。その中には魅力的な種も含まれていますが、残念ながらササノハベラ属はマイナーな属でほとんど輸入されることがないのですが、以前にレッドバンデッドラスというオーストラリア産の種が大阪のブルーハーバーで販売されていたことがありました。しかしめったに見られる種ではありません。また入荷してもどうしても高価になってしまいます。
ホシササノハベラ飼育に適した環境
水槽
全長20cmほどになるため、最低でも90cm水槽での飼育が望ましいといえます。多く魚を入れたいのであれば120cm水槽での飼育をおすすめします。オーバーフロー水槽が最適でしょう。
水質とろ過システム
硝酸塩の蓄積には強めですが、といって汚い水で飼育するのはよくありません。きれいな海水で飼育するようにしましょう。ろ過槽はホシササノハベラに適した水槽サイズを考えると上部ろ過槽か、オーバーフロー水槽にしてサンプでろ過する方法の二択になります。ただ上部ろ過槽だけでの飼育はおすすめしません。上部ろ過槽をメインにし、外部ろ過槽を補助的に用いたり、プロテインスキマーも使うとよいでしょう。後述の理由から水を汚しやすいからです。
水温
水温はやや低めの23℃前後がよいでしょう。ササノハベラの仲間はどの種も温帯性が強く、28℃くらいと高めの水温では餌をなかなか食べないことがあるので、高水温は避けます。もちろん水温の変動が大きいと、丈夫なホシササノハベラといっても病気になる可能性もあるため避けなければなりません。常にヒーターとクーラーを使用して一定の水温を保つように心がけましょう。
砂と隠れ家
ササノハベラ属は砂に潜ることはあまりないとされていますが、我が家では岩の下に潜ろうとする様子が観察できました。ただし我が家の水槽では岩の隙間など眠れるような場所が少なかった、という可能性もあります。また文献によれば夜間は岩陰で眠るが冬は砂中で冬眠する旨の記述もありますので、粗目の砂はあったほうがよいかもしれません。
ホシササノハベラに適した餌
ホシササノハベラは動物食性が強いのですが、多くの場合配合飼料を食べることが多いです。しかしかなり大きく育ったものは最初から配合飼料を食べるとは限らないので、最初は生の(一度冷凍したものを解凍したものがのぞましい)エビやイカの切り身などを食べさせたほうがよいかもしれません。ただしこのような餌は栄養のバランスが偏りやすく、また水質悪化も招きやすいので注意が必要です。先述のとおり、ろ過槽はしっかりしたものを選ぶ必要があります。
ホシササノハベラをお迎えする
ホシササノハベラは近海魚に強いお店であれば扱っていることもありますが、観賞魚店ではほとんど見ることはできません。本州~九州沿岸の釣りではそこそこよく見られる種で、内湾のような場所で多く見られます(一方荒磯ではアカササノハベラが多くなりますが、ホシササノハベラとアカササノハベラの両方の種が同じ場所で見られることも)。これを釣って飼育するのが簡単といえます。
ただし、何も考えず釣っただけでは上手く飼育することは困難です。夏の防波堤の上に置いたら魚の体表が焼けてしまうおそれもあります。しっかりしたケアが必要になります。ただどうしても針を深くのみこんでしまったものや、肛門から内臓が出てしまっているもの(船釣りで釣れたものに多い)、釣れた時点でひっくりかえってしまっているものは、飼育には向きません。食べたらおいしい魚ですので飼育が出来そうにないものは持ち帰って食べてあげるとよいでしょう。
ホシササノハベラとほかの生物との関係
ほかの魚との混泳
▲同じような温帯性の魚との混泳が最適
大きめのスズメダイやテンジクダイの仲間であれば混泳可能です。おそらくアイゴやウミタナゴなど、ほかの魚との混泳も大丈夫でしょう。ただ温帯性の魚ですので、あまり熱帯の海水魚との混泳には向いていないところがあります。このほか小さなハゼなどは捕食してしまうおそれもありますので注意が必要です。
サンゴ・無脊椎動物との相性
ベラの仲間のほかの多くの種と同様、ホシササノハベラも甲殻類は大好物です。そのため甲殻類と一緒に飼育しないほうがよいでしょう。サンゴは基本的には無害ですが温帯性のホシササノハベラにはあまり似合わず、ホシササノハベラが大きいと岩組を崩してしまうこともあります。
ホシササノハベラ飼育まとめ
- 磯に多く生息し、釣り人には「磯べら」とも呼ばれる
- 従来はササノハベラとされていたが2種に分けられている
- ササノハベラ属はオーストラリア周辺の温帯域に多く知られる
- 大きくなるため90cm以上の水槽が欲しい
- 水を汚しやすくオーバーフローシステムが最適
- 水温はやや低め、23℃くらいがよい
- 隠れ家は用意してあげたい
- 餌を食べないときは生の餌を与える
- 釣ったものを飼育するとよいが、釣った後のケアをしっかり
- 大きめの魚との混泳は可能だが、小魚や甲殻類は食べてしまうことも
- サンゴとの飼育もできなくはないが、あまり似合わない。岩組を崩すこともあるので注意