2020.09.26 (公開 2019.09.11) 海水魚図鑑
イシダイの飼育方法~大きく成長し混泳や水温にも注意が必要
イシダイは日本各地の沿岸に生息する普通種です。幼魚はかわいいし、白黒の横帯がおしゃれなので持ち帰りたくなるのですが、成長は早く、水槽内でもそれなりの大きさに育ち、性格もきつく混泳もしにくいため本当に持ち帰るべきかはよく考えなければなりません。
標準和名 | イシダイ |
学名 | Oplegnathus fasciatus (Temminck and Schlegel,1844) |
英名 | Barred knifejaw |
分類 | スズキ目・スズキ亜目・イシダイ科・イシダイ属 |
全長 | 約40cm(最大80cm) |
飼育難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッド |
温度 | 22℃前後 |
水槽 | 120cm以上 |
混泳 | 単独飼育が無難 |
サンゴ飼育 | 不可 |
イシダイって、どんな魚?
▲横帯が綺麗なイシダイの幼魚。これより小さいと黄色味が強い
▲イシダイ(雄の成魚)
イシダイはスズキ目イシダイ科イシダイ属の魚です。分布域は広く、北海道のオホーツク海沿岸から琉球列島におよびます。ただし、琉球列島ではあまり多く見られず、日本海岸では能登半島、太平洋岸では関東沿岸から九州までの磯で多く見られる魚といえます。体には黒い横帯がありますが、これは成長すると薄くなり、雄では不明瞭になります。雄の大型個体は口の周辺が黒くなり、底物師(イシダイやクエなどを追う釣り師)は「くちぐろ」と呼んでいます。
幼魚は通称「シマダイ」、地域によってはサンバソウとも呼ばれています。食用としてよく知られた魚でもありますが、頭がよく人によくなつく、寿命が長め(10~20年というのが通説、飼育環境によりこれより長いことも短いこともありえる)と、ペット感覚で飼育を楽しむことができる魚ともいえます。ただし、小さな水槽では飼育できません。どんな魚もそうですが、本種のように特に大きく育つような魚は生半可な気持ちでは飼育してはいけません。
近縁種
▲イシガキダイ
イシダイの仲間は日本にはイシダイとイシガキダイの2種が分布しています。イシガキダイは体側に斑点があるのが特徴ですが大きく育つと斑点が目立たなくなり、口の周りが白くなるため、磯釣り師からは「くちじろ」の愛称でよばれます。イシダイよりも大きくなり(90cm近く!)、南方に多いようです。このイシガキダイの飼育法については別項でご紹介します。
イシダイ科はイシダイ属のみが知られます。インド-太平洋域に分布しますが、分布は局所的で熱帯域ではあまり見られません。もっともイシダイ属魚類が多いのは南東アフリカ(南アフリカとモザンビーク)沿岸で3種、日本、台湾、中国、朝鮮半島、ロシアからミッドウェイ、ハワイに2種、南米西岸とオーストラリア南部にそれぞれ1種が分布しています。ただこれらの海域以外の場所でも発見されることがあり、イシダイはアメリカ西岸や地中海で採集されたこともあります。アメリカ(オレゴン州)の記録は東日本大震災の津波の後、漂流した船についていたもので、地中海(マルタ)の記録はバラスト水などが原因の可能性があります。
ハイブリッド
▲イシダイ属の交雑個体
イシダイとイシガキダイは近縁種で交雑することがあります。このような種類は「キンダイ」などと呼ばれますが、交雑個体には標準和名は与えられないので、当然「キンダイ」も標準和名としては認められないということになります。
イシダイ飼育に適した環境
水槽
▲水槽で大きく育ったイシダイ
イシダイは水槽内でも成長が早く、小さな稚魚を採集してもいつのまにかてのひらサイズになってしまいます。水槽内では野生ほど大きくはならない、といわれますが、それでも小さくても120cm以上の水槽で飼育するしかありません。幼魚のうちは45~60cm水槽でも飼育できます。しかし必ず大きな水槽が必要になるので、そこは留意しなければなりません。もちろん飼いきれなくなっても海に逃がすようなことはしてはいけません。お店もしくは水族館に引き取ってもらうのがベストでしょう。
ろ過槽
イシダイを飼育するならろ過装置もしっかりしたものを使用しなければなりません。イシダイに限りませんが、大きめの魚を飼育すると、排せつの量も多いからです。それを考えるとろ過槽はオーバーフロー方式がベスト。どうしてもオーバーフロー水槽にできないというのであれば、上部ろ過槽と外部ろ過槽を併用して使用するしかありません。外部ろ過槽は単体で使用するとろ過能力が不足するので、魚中心の水槽には向きません。
小型水槽~60cm水槽では外掛けろ過槽、外部ろ過槽、上部ろ過槽のいずれかをチョイスすることができます。その間に大型水槽の見積もりをしておきましょう。
水温
丈夫なイメージがあるイシダイですが高水温に弱い面があります。25℃が限界かもしれません。22℃前後が理想でしょう。水温を保つには水槽用のクーラーが必要になります。
底砂
海水魚を飼育するのに適している砂はサンゴ砂です。pHの下降を招くため淡水魚用のソイルは絶対に使用してはいけません。白い砂だとよくない!という場合はシーケムから出ている「グレイコースト」などの商品を使うようにします。グレイコーストはその名の通り灰色っぽい砂ですが淡水・海水問わず使用可能で、海水で飼育する場合は砂の中の物質が溶け出してpHの低下を防ぐ効果があります。逆にカラシンなど弱酸性を好む淡水魚には適しません。
イシダイを飼育するのであれば、砂は必ず敷かなければならない、ということはありません。底に砂を敷かないベアタンクでも飼育できます。むしろ海水魚だけを飼育するのであれば砂を敷かない方が管理もしやすいです。ろ過槽にしっかりサンゴ砂を敷き詰め、酸性化を防ぎます。
イシダイに適した餌
早いうちから配合飼料を食べますので、餌の心配はあまりしなくてもよいでしょう。ただし、どうしても食べないときはホワイトシュリンプなどの冷凍餌に餌付かせるしかありません。また、イシダイは高水温に弱い面があるため、水温が高いと餌を食べなかったりします。水温が28℃以上は危険といえます。
イシダイをお迎えする
▲浮遊物についていたイシダイ
イシダイは採集するのが手っ取り早いです。幼魚は磯で見られたり、流れ藻やブイ、流木など浮遊物につく習性があるため比較的容易に採集することができます。ただ小さいものは白点病にかかりやすいこともあり、釣りなどによりてのひらサイズほどに育ったものを飼育するのが安心といえます。
イシダイといえば採集、ですが、観賞魚店でも(とくに近海魚に強いお店で)販売されていることがあります。活魚として売っているようなものは高価ですが、てのひらサイズのものであればそれほど高価ではありません。ただしほかの魚同様スレ傷がないか、白点病にかかっていないかなどについてはしっかりチェックします。また温帯性の魚ですので、高水温でストックされていると調子を崩すこともあるので注意します。
イシダイとほかの生物との相性
ほかの魚との混泳
▲ガラス面に映った自分を意識するイシダイ
幼魚は同種同士で複数飼育できますが、成長すると大きくなることを考えるとあまりおすすめできません。
ほかの魚との混泳は難しいです。大人しい魚はイシダイにいじめられたり、鰭をつつかれることがあるため、おすすめできません。巨大な水槽でメジナやイスズミなど、同じように気が強い魚とでないと混泳が難しいこともあります。また、混泳をする場合はかなり大きな水槽が必要になり、家庭の水槽ではイシダイ1匹のみの単独水槽が無難かもしれません。
サンゴ・無脊椎動物との相性
イシダイはサンゴをつついたり、甲殻類(とくにエビ、カニ)やウニ類、貝類などを食べます。好奇心旺盛でしっかりガラス面にへばりついている貝を落としてしまうこともあり、無脊椎動物との相性も悪いです。
イシダイ飼育まとめ
- 磯釣りの対象魚・高級食用魚としてお馴染み
- 幼魚と成魚では体の模様が異なる
- 大型に成長し寿命も長い
- 飼育できるかどうかよく考えてから持ち帰ること
- 小さくても120cm水槽が欲しい
- オーバーフロー水槽がベスト
- 高水温には弱いので注意
- 底砂は敷かなくてもよい
- 配合飼料を食べるが、高水温下では餌を食べないことも
- 磯や防波堤で採集できるが、てのひらサイズの個体が飼いやすい
- ほかの魚やサンゴ・無脊椎動物との飼育には不向き