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2020.12.04 (公開 2018.12.24) 海水魚飼育の基礎

魚類の標準和名・学名・英名の違いと覚え方

観賞魚店で販売される海水魚は、いくつか異なる名前で呼ばれることがあります。例えばクマノミの仲間は、英名で「スパインチークアネモネフィッシュ」とか「マロンクラウン」と呼ばれています。

魚の名称にはいくつか種類があります。日本語の「標準和名」や、(原則)ラテン語の「学名」は学術的な名称ですが、英名は地域によって異なったり、ひとつの種に複数の名称がついていたりするため、混乱を招くおそれがあります。飼育してみたい魚がいる場合、標準和名や学名はしっかり覚えておくべきでしょう。

標準和名:日本における魚類の固有かつ学術的名称

日本魚類学会による標準和名の定義

標準和名は、名称の安定と普及を確保するためのものであり、目、科、属、種、亜種といった分類学的単位に与えられる固有かつ学術的な名称である

日本魚類学会による標準和名は以上のように定義されています。

また、標準和名は原則、「日本産魚類検索: 全種の同定、第二版」という本をもとにすることも決まっています。一般的な魚類図鑑(つまり、海水魚図鑑ではない)に掲載される名称が「標準和名」です。

標準和名は原則としてひとつの魚種についてひとつしか与えられません。例外として、サケ・マスの仲間だけは、降海型(海に降りる個体)でひとつ、陸封型(一生を淡水域ですごす個体)でもうひとつ、合計ふたつの標準和名があるものがいます。たとえば、海に降りるサツキマスと、一生を淡水で過ごすアマゴは同じ種類ではありますが、ふたつの標準和名をもっています。

マリンアクアリウムの世界では日本に生息し、その標準和名が広く浸透している魚は標準和名を使うことが多いです (例: ホンソメワケベラ、トゲチョウチョウウオ、ヒフキアイゴ、など) 。ただし、日本に生息しているものでも標準和名を使わず、英語名で販売されることが多い魚もいます。

例えば、標準和名「ニシキテグリ」と呼ばれる魚は、英名の「マンダリンフィッシュ」という名前で販売されることもあります。また標準和名「コガネヤッコ」は英名「レモンピールエンゼルフィッシュ」で販売されることが圧倒的に多いです。

▲コガネヤッコは英名のレモンピールの名でよばれることが多い

また、スミレハナハゼやホタルビサンゴアマダイ、フカミヤッコといった、標準和名がついてあまり年月が経っていない魚も、標準和名が使われず英語名が使われる傾向があります(もっともフカミヤッコは標準和名がついてから10年近く経過していますが…)。

▲ベルスエンゼルの標準和名は「フカミヤッコ」。沖縄県伊江島などに分布

日本産であっても標準和名で販売されないことが多い種

(表記は標準和名/販売されている名の順)

  • コガネヤッコ/レモンピール
  • アヤメヤッコ/コリンズ
  • スミレハナハゼ/フラッグテールダートゴビー
  • ニシキテグリ/マンダリンフィッシュ
  • ヨコシマニセモチノウオ/オセレイトラス
  • ニューギニアベラ/ニューギニアラス
  • アオスジオグロベラ/セバーンズラス、マルチカラーラス

ほか多数

標準和名の改名と廃止

▲オオモンイザリウオ、改めオオモンカエルアンコウ

標準和名は混乱を招いたり、差別的用語を含んでいると改名されたり、あるいは廃止されたりすることがあります。

たとえば「イザリウオ」は差別用語を含んでいるとして「カエルアンコウ」となったり、淡水魚ではありますが従来「シマドジョウ」の標準和名で親しまれた魚は「ニシシマドジョウ」「オオシマドジョウ」など複数種にわけられ、標準和名「シマドジョウ」は廃止されました。同じような例は3種に分かれたメバルの例もありますが、科や属の和名としてはメバル科・メバル属の名称が残っています(メバル科は2013年に新しくつけられた科の標準和名)。

▲標準和名「メバル」も消滅したが、属や科の和名は残る

逆に別々の種とされたものが同一種とわかり標準和名が廃止されることもあります。お馴染みの青いルリスズメダイは従来は尾鰭の色の違いにより、尾鰭が青いものを「ルリスズメダイ」、透明なものを「コバルトスズメダイ」というそれぞれ別の和名がつけられていましたが、のちにそれらは雌雄の違いであることがわかり、現在はルリスズメダイの標準和名が有効で、コバルトスズメダイの和名は消滅してしまいました。同様のケースとしては、従来別種とされていたゴイシウミヘビとモヨウモンガラドオシのようなケースもあります。

ただし、これらの廃止された名称は使用が禁止されたわけではなく、観賞魚店でそれらの名称で販売されていても問題はありません。たとえば観賞魚店でもルリスズメダイを「コバルトスズメダイ」として販売されていることも多いです。

分類学単位の標準和名

▲カゴカキダイ

魚類の標準和名は種や亜種にだけ与えられるものではなく、「目」や「科」、あるいは「属」といった分類学的の単位にも与えられます。たとえば、ホンソメワケベラはスズキ目・ベラ科・ソメワケベラ属に分類されますが、この場合目の標準和名は「スズキ目」、科の標準和名は「ベラ科」、属の標準和名は「ソメワケベラ属」となります。

魚類の分類は、学者によって考えが変わることもあります。例えばカゴカキダイは、日本ではスズキ目・カゴカキダイ科とすることが多いですが、海外ではイスズミ科の中に入れることもあります。日本においてもイスズミ科と同じ科に入れるのにふさわしいというのであれば、当然カゴカキダイの科の和名もイスズミ科になるわけです。

海外にすむ魚の和名

▲クイーンエンゼルフィッシュの和名は「ホクロヤッコ」

海外に生息する魚にも和名がついている魚がいます。たとえばカリブ海に生息するクイーンエンゼルフィッシュには「ホクロヤッコ」、同様にカリブ海産のキンチャクダイ科魚類であるロックビューティには「ヌリワケヤッコ」、オーストラリアの南部に生息する希少なチョウチョウウオ科魚類、ロードホウバタフライフィッシュには「トビチョウチョウウオ」の和名がついています。

このような海外産種につけられた和名を「標準和名」とみなすかは学者の間でも意見が分かれていますが、1.学術的な論文や書籍などに掲載され、2.和名のもとになった標本があり、将来一種類とされていたものが複数に分けられたとしても混乱をまねくことがない場合は、たとえ海外産の魚種であっても、標準和名としてもよいと思います。

また、観賞魚として日本に輸入された魚を新種記載した、なんていうケースもあります。フィリピン固有種のキンチャクダイ科魚類「ホシゾラヤッコ」という魚がそれで、1972年6月にフィリピンで採集され日本に観賞魚として輸入されたものを1976年に新種として記載し、新種記載の際に和名も付されました。

学名:世界共通の名称

▲ヒフキアイゴの学名

学名は世界共通の生物の名称で、基本的にはラテン語で表記されます。基本的に属名と種小名を組み合わせたもので「二名法」と呼ばれます。また亜種を設定するときは種小名のあとに亜種名をくっつけます 。また、上記のヒフキアイゴのように亜属を表記する場合は属名のあと、かっこの中に記すようにします。属名と種小名 (亜種や亜属を表記する場合はそれらも) は文章の中の他の文字と区別しやすいように、異なる文字体で表記するのが決まりで、現在はイタリック体で表記されるのが基本です。従来は、アンダーラインを引くなどしていましたが、現在はイタリック体が用いられることがほとんどです。

それに加え、学術的な刊行物や図鑑などでは、命名者名と年号も記します。命名者が二人以上いる場合はカンマやアンパサンドをつけたりします。命名者と年号の間はカンマで区切ります。

命名者者名や年号にかっこがついていることがありますが、これは記載された後、属名が変更されたことを示します。たとえばタテジマキンチャクダイPomacanthus imperator (Bloch, 1787)は、最初にChaetodon imperatorとして記載されましたが、のちにPomacanthus属に移動されたので、命名者や年号にかっこがついているのです。

学名は世界共通の名称ではありますが、実際には研究者の考えなどにより、図鑑や学術的な刊行物によっても使用している属名や種小名が異なっていたりすることはありますので、注意が必要です。例えば共生ハゼのイトヒキハゼは日本ではCryptocentrus filifer ですが、海外ではハゴロモハゼ属にいれられてMyersina filiferという学名になっていたりします。

学名の読みについては、学者や書籍(カタカナ読み)で異なっていることがあります。例えば、2019年1月に行われた深海生物検定については、「Moritella yayanosii」という超深海性の微生物の学名について、テキストでは「モリテラ・ヤヤノシアイ」とされましたが、問題集では「モリテラ・ヤヤノシ」となっていました。どちらが間違い、というわけではないのですが、あらかじめスペルを覚えて間違いのないようにしておくとよいでしょう。

分類階級の学名

標準和名は種だけでなく、そのほかの分類階級にも与えられていますが、学名も同様に目や科といった単位につけられます。ヒフキアイゴであればスズキ目・アイゴ科ですが、それぞれPerciformes・Siganidaeという学名がついています。語尾は魚を含む動物の場合、目は-iformes (ただし、規定はないとされる)、 科は-idaeですが植物、菌類などではそれぞれ別の語尾がつくので注意が必要です。これらは属や種の学名と異なり、イタリック体にはしません。

英名

海外産の海水魚は英名で販売されることが多いです。ただし英名は学名とは異なり、正式な名称というわけではありません。1つの魚種に複数の英名がついていたりします。たとえば、サザナミヤッコは英名ではSemicircle angelfish、Koran angelfishなどと呼ばれたりします。前者は幼魚の模様、後者は若魚の尾鰭の模様に因むようです。

また日本において「パープルファイヤゴビー」と呼ばれ販売されているのはシコンハタタテハゼなのですが、英語圏でこの名前で呼ばれるのはアケボノハゼだったりします。ただし英語圏でもアメリカではElegant firefishと呼ばれることが多いようです。

このように英名での呼び名はさまざまであり、英名だけを覚えるのは望ましいとはいえません。標準和名や学名も覚えておくようにしたいものです。

複数の英語名でよばれる主な海水魚

Holacanthus passer。通称パッサーエンゼル、もしくはキングエンゼル。

表記は学名/英語名の順。

  • Amphiprion percula/ペルクラクラウンフィッシュ、オレンジクラウンフィッシュなど
  • Apolemichthys arcuatus/ブラックバンデッドエンゼル、バンディットエンゼルなど
  • Holacanthus passer/パッサーエンゼル、キングエンゼルなど

ほか多数

ハイブリッドや幼魚の名称

▲イシダイ属のハイブリッド。通称「キンダイ」

ヤッコやベラの類ではハイブリッド(交雑個体)が出現することもあります。このようなハイブリッドはふつう子孫を残せず、種としては認められません。そのため標準和名も学名もつけられません。コガネヤッコとナメラヤッコのハイブリッドは「ナメラピール」と呼ばれたり、イシダイとイシガキダイのハイブリッドは「キンダイ」なんていう名前がついていますが、標準和名ではありません。

一方、種と思われていたのが実はハイブリッドであった、ということもあります。たとえばタウンゼントエンゼルという西大西洋のヤッコはホクロヤッコとブルーエンゼルフィッシュのハイブリッドであることが分かり、学名もついていたものの廃止されたということがあります。同様にキンチャクダイ科のアカネキンチャクダイも、キンチャクダイとキヘリキンチャクダイのハイブリッドではないか、という意見があります。そうなれば「アカネキンチャクダイ」という名称は通称としては残るものの、標準和名としては使えないことになります。

似たようなものとして、幼魚と成魚、あるいは雌雄で異なる名前がついていた魚もいます。幼魚と成魚で模様が違うスズメダイの仲間や、幼魚と成魚だけでなく雌雄でも大きく色彩や斑紋の異なるベラの仲間にこのようなケースがよく見られます。

海水魚店で扱われる魚の名前

イエローリップダムゼル

▲「ヤマブキスズメダイ」として販売されていたイエローリップダムゼル

海水魚店では海水魚を標準和名でなく英語名や通称で販売しても問題はないようです。ただし、日本魚類学会 標準和名検討委員会が標準和名の定義などを定めた理由は「名称の安定と普及を確保するため」ですので、日本に分布している魚はなるべく標準和名を使うようにしたいものです。

海水魚店では間違えて別種の名前で販売していた、なんていうこともあります。例えばこの「海水魚ラボ」でも記事にしたイエローリップダムゼルは「ヤマブキスズメダイ」として販売されていることがほとんどです。ほかにもシールズカーディナルフィッシュをフタホシイシモチとして販売していることもあります。そっくりな種を見間違えたか、あるいは問屋さんが間違って使っているのをそのまま観賞魚店で使ってしまった、というようなことだと思いますが、このようなケースではたとえ学名も標準和名を覚えていても間違えた種を購入してしまう可能性があります。とくに魚の個体をなかなか見ることができない、通信販売で魚を購入する際は注意した方がよいでしょう。

海水魚ラボにおける魚類の名称ポリシー

当サイト「海水魚ラボ」で使用されている魚類の名称は、日本に分布し、標準和名がついている魚種であれば標準和名を使用します。海外産の個体でも「ホクロヤッコ」「ビックリクルマダイ」など、標本をもとにして和名がつけられるものがある場合はこの和名を標準和名に準ずるものとして使用しますが、「クイーンエンゼルフィッシュ」などほかに使用されており普及されている名称がある場合にはそれらの名称を使用することがあります。

海外産の魚種で標準和名がない場合は英語名を使用します。当サイトで使用している魚類の英語名は世界最大の魚類データベースである「Fishbase」で使用されているコモンネームを主として使用しています。このようなコモンネームがなくても一部の書籍やデータベースサイトなどで使用されている名称がある場合は、出典を明記して使用します。ただしサンゴなどのように同定が難しい生物は、グループの総称を名称として使用することがあります。

まとめ

  • 標準和名は日本における固有かつ学術的な名称
  • 学名は世界共通の名称だが、学者の考えにより異なることは多々ある
  • 標準和名や学名は魚種だけでなく、目や科、属などの分類学単位にも与えられる
  • 英語名は一番やっかい。同じ種に複数の名称が与えられることも
  • ハイブリッド(交雑個体)には学名や標準和名は与えられない
  • 幼魚や雌雄で別の標準和名がつけられた魚もいる
  • 観賞魚店では魚を別の魚の名前で販売していたケースも

参考:魚類の標準和名の定義等について(日本魚類学会 標準和名検討委員会)

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