2020.08.22 (公開 2019.05.07) 海水魚図鑑
モヨウモンガラドオシの飼育方法~ウツボに似ているがウツボとの混泳は要注意
モヨウモンガラドオシは日本の太平洋岸でも見られるウナギ目・ウミヘビ科の魚類です。ウツボの仲間と勘違いされがちですが、胸鰭があるなどの特徴からウツボとは別科とされます。動物食性が強く小魚や甲殻類を食べてしまい、大きく育つため大型水槽が必要になることから初心者にはおすすめできませんが、慣れると餌をねだるなど、飼育していると楽しい魚です。
標準和名 | モヨウモンガラドオシ |
学名 | Myrichthys maculosus (Cuvier, 1816) |
英名 | Spotted snake eel, Tiger snake eel, Ocellated snake-eelなど |
分類 | 条鰭綱・ウナギ目・ウミヘビ科・ウミヘビ亜科・ゴイシウミヘビ属 |
全長 | 100cm |
飼育難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめの餌 | イカやエビなど |
温度 | 25℃前後 |
水槽 | 120cm~ |
混泳 | 小魚を食べてしまうおそれあり |
サンゴとの飼育 | サンゴにいたずらしないがサンゴ水槽での飼育はおすすめしない |
モヨウモンガラドオシってどんな魚?
▲モヨウモンガラドオシ(ウミヘビ科魚類)
▲爬虫類のウミヘビ(コブラ科の爬虫類)
モヨウモンガラドオシはウナギ目ウミヘビ科の魚です。「ウミヘビ」といっても爬虫類ではなく、魚類です。爬虫類のウミヘビは特定動物に指定され、飼育に当たっては登録などが必要なのですが、魚類のウミヘビではそのような許可は必要がありません。なお爬虫類のウミヘビとは体に大きな鱗がないことにより区別されます。
体色は灰色からクリーム色で、大きな黒い斑点があります。従来はこの斑点の大きさによりゴイシウミヘビとモヨウモンガラドオシの2種に分けられていましたが、現在ではこれらの種は同じ種とされます(後述)。
また、ウミヘビ科魚類は尾鰭がないことが特徴とされており、本種も尾鰭を有していません。ただし「尾鰭があるからウミヘビ科ではない」ということではなく、クリミミズアナゴなど一部の種は尾鰭を有しています。
別名と近縁種
モヨウモンガラドオシは、別名「ゴイシウミヘビ」といいます。従来はゴイシウミヘビという種とモヨウモンガラドオシという種がいたのですが、ゴイシウミヘビとモヨウモンガラドオシは同種であることがわかり、標準和名が統一されました。これは、標準和名は原則1つの分類単位(この場合は種)につきひとつしか与えられないからです。例外はサケの仲間で、陸封型と降海型にそれぞれ標準和名が与えられます(例:アマゴとサツキマス、アメマスとエゾイワナなど)。
ただし、ゴイシウミヘビの名称は種の上の分類単位である「属」の標準和名として今なお残っています(ゴイシウミヘビ属)。このゴイシウミヘビ属の魚はインド-太平洋、大西洋に広く分布していますが、ハワイや東太平洋の島嶼にすむものなど、モヨウモンガラドオシと見分けがつかないものもいます。一方、大西洋産のものでは灰色の体に白い水玉模様があるものなど、太平洋のものとは異なる色彩のものがいます。日本に生息するゴイシウミヘビ属魚類は3種で、モヨウモンガラドオシのほかに、シマウミヘビとマダラシマウミヘビの3種が知られていますが、観賞魚店で多くみられるのは本種とシマウミヘビで、マダラシマウミヘビはめったに見られません。また、大西洋産の種もめったに輸入されません。
モヨウモンガラドオシと名前が似たものにモンガラドオシというのがいますが、この種はウミヘビ属という、また別の属です。この属にはホタテウミヘビや深海性のスソウミヘビなど70種以上が知られ、ウミヘビ科の中でも多くの種類を含む属です。
胸鰭と歯
▲小さい胸鰭を有している
モヨウモンガラドオシはウツボの仲間に似ていますが、ウツボの仲間ではありません。ウツボの仲間は胸鰭は持っていませんが、モヨウモンガラドオシはやや小さいものの胸鰭をもっていることで、ウツボの仲間と区別することができます。また、顎歯はウツボの仲間ほど鋭くはありません。ただしウミヘビ科でも鋭い犬歯を持つ種もいるし、ウツボ科でも顆粒状の歯をもつものもいます。
モヨウモンガラドオシ飼育に適した環境
水槽
幼魚は60cm前後の水槽でも飼育できますが、モヨウモンガラドオシは全長1m近くに成長するため、成魚は最低でも120cm水槽、もしくは90×60×60cm水槽が必要になるでしょう。
水質とろ過システム
生の餌を好んで食べるため水が汚れやすいので、外掛けろ過槽、外部ろ過槽は候補になりにくいです。また外掛けろ過槽は小型水槽向けですので、大きく育つモヨウモンガラドオシを飼育するのには向いていないところがあります。単体水槽であれば上部ろ過槽の使用がおすすめですが、これと外部ろ過槽を同時に使用すればろ過能力が増強するのでおすすめです。底面ろ過槽は砂を動かすこともあるモヨウモンガラドオシの飼育には向きません。筆者はジェックス デュアルクリーン600という上部ろ過槽でモヨウモンガラドオシを飼育しています。
もっともおすすめの方法はオーバーフロー水槽にしてサンプでろ過を行う方法です。モヨウモンガラドオシはサンゴを捕食しないため、ベルリンシステムなどのサンゴ水槽での飼育も不可能ではないのですが、水を汚しやすいためおすすめできません。またウツボほどではありませんが、活発に活動することにより、サンゴを岩組から落としてしまうこともあります。オーバーフロー水槽にするときは、フロー管かコーナーフローの上部にアクリル板などを置き、逃げ出さないようにします。
水温
水温は25℃をキープします。温帯(和歌山県など)で採集されたものを25℃で飼育していても問題ないようです。ただし水温は原則として一定を保たなければなりません。1日で水温が20℃だったり、25℃だったりではモヨウモンガラドオシも体調を崩してしまうおそれがあります。
隠れ家
▲塩ビパイプから頭を出すモヨウモンガラドオシ
モヨウモンガラドオシは岩の隙間などに隠れるのが好きですので、水槽でも隠れ家を用意してあげましょう。隠れ家としておすすめなのは塩ビ製のパイプです。ライブロックやサンゴ岩などは動かしてしまったりすることもあるため、注意が必要です。
フタ・重石と隙間うめ
▲フタの切れ込みの部分にアクリル板を置き脱走を防ぐ
▲重い石ではなくペットボトルをフタの上にのせる
モヨウモンガラドオシは小さな隙間から飛び出して死んでしまうという事故が起きやすいのでフタは必需品です。これに重石を載せておきたいところですが、本当に重い石を乗せてしまうとフタが割れて危険ですので、水を入れた500mlのペットボトルなどを上に乗せるようにします。
また、ごく小さな隙間からも出てしまうことがあるので、写真のようにフタにある小さな隙間もうめてしまいましょう。
モヨウモンガラドオシに適した餌
モヨウモンガラドオシは動物食性です。餌としてはイカやタコの切り身、エビ、魚の切り身など生の餌をメインに与えます。偏食や拒食を防ぐため、いくつかの餌をローテーションして与えるとよいでしょう。注意点としてはこれらの餌を与えると水が汚れやすくなることです。外部ろ過槽を単用するなどしているとろ過能力が足りず水が汚れやすくなってしまいます。また、寄生虫がついていることもあるため、いったん冷凍して与えるようにしましょう。給餌するときはピンセットで餌をつまんで与えます。
モヨウモンガラドオシをお迎えする
モヨウモンガラドオシは採集することも、購入することもできます。日本国内における主な分布域は房総半島以南の太平洋岸、伊豆―小笠原諸島、琉球列島です。海外ではインド-中央太平洋に広く分布しますが、ハワイ諸島に分布しているものは別種とされています。
採集する
沿岸域の浅い場所でも見られますが、岩の隙間などに隠れることもあり、採集が難しいこともあります。釣りで採集することもできますが、針を飲み込んでしまった個体は飼育には向きません。
購入する
モヨウモンガラドオシは輸入されることもありますが、日本の太平洋岸で採集されたものが販売されることもあります。ウツボと同様に扱われるためウツボに強い店、あるいは近海魚に強いお店で扱っていることが多いです。小型個体は比較的安価ですが、大きく育ったものは若干高価です。選ぶときのポイントは、口や鰭に傷や赤いただれがないこと、体がぼろぼろでないものを選ぶことです。お店で長く飼育されていて、かつ餌をよく食べているものがおすすめです。
モヨウモンガラドオシとほかの生き物の関係
ほかの魚との混泳
▲ウツボとの混泳例
見た目がよく似たウツボの仲間と混泳をさせたくなりますが、モヨウモンガラドオシはウツボほど眼がよくないのか、あるいは臭いをかぐ能力が劣るのかわかりませんが、ウツボの仲間の方が素早く餌を食べるためモヨウモンガラドオシには餌がいきわたらないということがありました。ウツボと混泳している水槽での給餌は、モヨウモンガラドオシの顔の前に確実に餌を置くようにします。慣れれば水面まで近づいてきて、ピンセットから餌を食べるようになります。そうなれば給餌も楽しくなります。給餌は毎日行う必要はなく、3日に1回くらいがベストです。与えすぎは水を汚すおそれがあります。また、ハゼなどの小型魚はモヨウモンガラドオシの餌になってしまうため、おすすめできません。
▲ウツボに襲われて死んでしまったモヨウモンガラドオシ
モヨウモンガラドオシはウツボの仲間との混泳も可能ですが、狭い水槽ではクモウツボなど、おとなしいウツボとの飼育が望ましいでしょう。モヨウモンガラドオシは穏やかな性格で、かなり強いウツボ(ウツボ、トラウツボなど)と飼育するとかみつかれて死んでしまうことがあります。とくに給餌中に餌の奪い合いで起こることが多いといえますので、注意しなければなりません。
サンゴ・無脊椎動物との相性
サンゴ水槽での飼育も不可能ではないのですが、力が強くサンゴをひっくり返すなどするおそれがあること、水を汚しやすいことからあまりサンゴ水槽向きの魚とはいえません。エビ、カニなどの甲殻類や軟体動物などはモヨウモンガラドオシの餌になってしまうことがあるため、一緒に飼育しないようにします。
モヨウモンガラドオシ飼育のまとめ
- ウツボではなくウミヘビ科の大型魚で1mほどになる
- 爬虫類のウミヘビではなく体は大きな鱗に覆われない
- 飼育には許可などは不要
- かつてゴイシウミヘビとされていたものは同種
- 成魚は120cm以上の水槽が必要
- 上部ろ過槽かオーバーフロー水槽で飼育する
- 水温は原則25℃をキープ
- 塩ビパイプなどの隠れ家も入れてあげるとよい
- フタはしっかりする。隙間もアクリル板などを置いて埋めておく
- イカやエビの切り身などを食べる。給餌の前にいったん冷凍する
- 購入時は口や体に傷やただれがなく、鰭もぼろぼろでないものを選ぶ
- 長期ストックされよく餌を食べている個体が望ましい
- ウツボとの混泳では餌がいきわたっているかよくチェックする
- サンゴ水槽での飼育は不可能ではないがあまり向いていない