2020.12.09 (公開 2020.12.09) 餌・添加剤
ブラインシュリンプ(アルテミア)はどんな餌?どんな生物に適している?
小型の海水魚は主に微小な甲殻類などのプランクトンや付着藻類などを食べていますが、多くの種は飼育下では配合飼料もよく食べてくれるため、あまり餌の心配はいりません。ただし魚の稚魚、あるいはヨウジウオなどの餌が特殊な魚には、口に入るサイズの微小な生きたプランクトンを与えなければなりません。そのようなときによく用いられるのがブラインシュリンプです。今回はこのブラインシュリンプ、通称アルテミアについてご紹介します。
ブラインシュリンプとは
▲ブラインシュリンプの孵化したての個体(冷凍)
ブラインシュリンプは水中に生息する甲殻類の仲間です。この生物は塩湖や塩田などに生息し、乾燥に耐える耐久卵を産みます。この卵を塩水に入れれば24時間くらい後に孵化します。属の学名から「アルテミア」ともよばれます。日本にはアメリカ(主にユタ州ソルトレイク)のものや中国産、ブラジル産などのものが輸入されていますが、それぞれ別の種類のようです。その中でもArtemia salinaと呼ばれる種類が多いようです。
このブラインシュリンプは養殖の幼魚に与える餌としてはよく使われているものです。このほか実験キットとして「シーモンキー」などと称され、夏休みなどにはホームセンターや量販店などでの扱いもあります。ブラインシュリンプ卵は日本動物薬品、テトラなどいくつかのメーカーが販売しています。小さい銀色のパックに入っていたり、缶に入っています。
ブラインシュリンプを与える
ブラインシュリンプを与えるメリットとデメリット
メリットとしては、安定して生きた動物プランクトンを魚に給餌できるというところにあります。ブラインシュリンプの登場により、手間はかかるとはいえ、家庭でも熱帯性淡水魚の繁殖が楽しめるようになりました。しかしながら海水魚の場合は、うまれてくる稚魚は淡水魚より小さく、まずはシオミズツボワムシなどを与えなければなりませんが、その後の段階としてブラインシュリンプを与えることになります。また後述しますが、ヨウジウオなどの魚は成魚でもブラインシュリンプなどのプランクトンフードを与えなければなりません。
ブラインシュリンプを与えるデメリットとしては、生きたブラインシュリンプを与えるのであれば育てる作業をする必要があるということです。もちろん孵化させるだけでなく、ブラインシュリンプに餌を与えることが必要になります。また問題としてブラインシュリンプ自体はあまり栄養がないとされており、栄養強化を行う必要があります。養殖場などでは海産の珪藻類やナンノクロロプシスなどを使用します。家庭水槽では、このような餌料生物用の餌を培養することはなかなか難しいため、市販されている栄養強化剤、クロレラ、酵母などを餌にします。
冷凍ブラインシュリンプ
「冷凍ブラインシュリンプ」は孵化させたブラインシュリンプを冷凍させたもので、キョーリンやベンリーパック食品製のものが全国の観賞魚店で販売されています。
メリットとしては栄養が強化されていること、長期間冷凍庫で保存できること、育てる手間が不要なことがあげられます。デメリットとしては冷凍餌であることです。保管には冷凍庫が必要であること、これらの冷凍ブラインシュリンプは凍っており、死んでいるので動きません。そのため動くものしか食べない魚は見向きしないことも多いのです。
どんな生物に適している?
▲ヨウジウオの仲間(写真はテングヨウジ)の餌に最適
生きたプランクトンをメインに食べる魚に向いています。具体的に言えば、タツノオトシゴを含むヨウジウオの仲間、ヘコアユやカミソリウオ、チンアナゴなどの仲間、魚の稚魚などです。また無脊椎動物でも捕食性の強いイボヤギなどのサンゴやクラゲなどの餌に適しているといえます。
ブラインシュリンプはまた、淡水魚であるカワスズメ(シクリッド)や淡水性フグなどの稚魚の餌としても使用できます。ただし淡水魚の餌として使用する場合は、与える前に塩抜きをする必要があります。
実際にブラインシュリンプを育てる
必要なもの
ブラインシュリンプ乾燥卵・エアポンプ・エアチューブ・エアストーン・ヒーター・容器を用意します。オーバーフロー水槽などで飼育している場合、写真のようにサンプで湯煎をするようにして孵化させることもでき、水槽用のヒーターと別のヒーターは不要です。
育てる
容器に海水を入れ、ヒーターで海水をあたためます。水温は25℃で問題ありませんが、早く孵化させるのであれば28℃前後に設定します。20℃以下では孵化しないこともあるようです。海水にブラインシュリンプの乾燥卵を入れます。28~30℃では24時間前後で孵化します。
給餌・栄養強化する
先述のようにブラインシュリンプは栄養的には欠陥があるとされますので、給餌をしたり、海水魚に必要な脂肪酸などを与えて栄養の強化を図る必要があります。専門店の「日海センター」が運営するネットショップや、餌や専用の栄養強化剤が市販されている店から購入するとよいでしょう。なお栄養強化剤は魚の栄養強化にはなりますが餌生物にはメリットがあまりないようで、餌と栄養強化は別のものとして考えるようにします。
卵の保管
▲ブラインシュリンプの卵
開封後は冷暗所に保管しておく必要がありますが、私が使用しているブラインシュリンプは日本動物薬品のもので、同社によれば、結露によって腐敗する可能性があり、冷蔵庫での保管は避けたほうがよいようです。また耐久卵は5~6年ほど生命を保つことができるといわれていますが、これは未開封の場合で、開封後はなるべく早めに使いきるようにします。もちろん、余った卵やブラインシュリンプそのものを海や河川に放すようなことは絶対にしてはいけません。
そのほかの生き餌とのちがい
アカムシ・イトミミズ
アカムシ(赤虫)は昆虫の一種であるユスリカの幼虫です。オイカワなどの淡水魚を釣るときの餌として、またコイ、淡水ハゼ、シクリッド、淡水フグなど淡水魚の生き餌として知られ、冷凍されたものも販売されています。しかしながら栄養価の違いや消化の問題から海水魚の餌としては適していません。また淡水魚の餌として知られる生物にはほかにイトミミズなどもありますが、これも海水魚に与えるのは避けたいところです。
ワムシ
袋形動物と呼ばれるグループです。非常に小さな生物ですが、シオミズツボワムシなどは海水魚の初期餌料として知られています。一部の海水魚店がシオミズツボワムシを培養して販売しておりますが、それにより一般のアクアリストでも海水魚の繁殖を成功させることができるようになりました。ただし稚魚はともかく、プランクトン食の成魚には小さすぎて食べにくいこともあります。
コペポーダ
小型の甲殻類であるカイアシ類のことで、ケンミジンコとも呼ばれます。海水魚の餌として知られている生物の一種で、魚の稚魚はこのコペポーダを好んで捕食しています。また、ヨウジウオや食用魚のイワシなど成魚でもこれらのプランクトンを捕食しています。しかしながら生きたコペポーダを魚に与えることは難しく、観賞魚店で販売されている冷凍のものを餌として与えることになります。しかしながら冷凍コペポーダはどうしても生きたコペポーダよりも食いつきが悪くなります。
イサザアミ
見た目がエビの仲間に似ていますが、アミ目という別の目の甲殻類です。沿岸域や汽水域に多く生息しており、これを採集し生かしたままストックされ、観賞魚店で販売されています。タツノオトシゴやヨウジウオ、魚の稚魚などに最適の餌です。しかしながら時期によっては入手できなかったり、扱っている観賞魚店とそうでない店があるなどのデメリットもあります。このイサザアミを冷凍させたものがキョーリンから販売されています(キョーリン クリーン ホワイトシュリンプ)。栄養強化がされており栄養面では申し分ないのですが、タツノオトシゴなどに与える場合、やはり生きたものと比べて食いつきが悪いのが難点です。
エビ
▲よく餌に使用されるイソスジエビ
エビの仲間のうち、テナガエビの仲間のイソスジエビ、スジエビモドキ、スネナガエビなどは肉食性海水魚の餌として用いられることがあります。やや大きく栄養強化がしやすいですが、欠点としてはどこの観賞魚店でも取り扱っているというわけではないことがあげられます。また、エビは時期によっては小さいサイズのものが手に入りにくい場合も考えられ、ごく小さいサイズの魚に与えるのであればブラインシュリンプのほうが適しているといえるでしょう。入手性についても、ブラインシュリンプはどこの観賞魚店でも扱っていますし、ホームセンターや玩具店などでも扱っていることがあります。
ブラインシュリンプまとめ
- アルテミアとも呼ばれる小さな甲殻類
- ヨウジウオなどの飼育に最適
- 卵を塩水に入れると24時間以内に孵化する
- 海水で生きられかつ安定して供給・育成可能な餌生物
- 孵化させて育てたり栄養強化する必要がある
- 冷凍ブラインシュリンプは魚によっては見向きしないこともある
- 育てるには容器やヒーター、エアチューブ、エアストーンなどが必要
- このほかエビやイサザアミなどが生き餌として知られる
- アカムシやイトミミズなどは海水魚の餌として与えないほうがよい