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2020.09.22 (公開 2020.01.08) 海水魚図鑑

ウミヘビ科魚類を飼育する~爬虫類のウミヘビとの違いも徹底解説!

「ウミヘビ」という名前をもつ生き物には魚類のウミヘビと、爬虫類のウミヘビがいます。この両者の違いは鱗や鰭、毒牙の有無などにより区別されますが、同じ「ウミヘビ」という名前でしばしば混同されることがあります。爬虫類のウミヘビは有毒であり飼育が規制されていますが、魚類のウミヘビは少なくともかみつかれても無毒であり、飼育して楽しい魚といえます。今回はこの魚類のウミヘビと爬虫類のウミヘビや、ほかのウナギ目魚類との違い、飼育方法の基礎などをご紹介します。なお、今回は魚類のウミヘビと爬虫類のウミヘビの違いも解説していますが、飼育の方法などについてはすべて魚類のウミヘビについて解説しています。

ウミヘビと呼ばれる生き物

ウミヘビと呼ばれている生き物は、魚類のものと爬虫類のものがいます。しばしば混同されることもありますので、まずは違いを覚えておきましょう。

魚類のウミヘビ

▲ダイナンウミヘビ(ウナギ目・ウミヘビ科)。魚類のウミヘビ

魚類のウミヘビはウナギ目・ウミヘビ科の魚類の総称です。分類学的上はウナギやアナゴの仲間などに近いです。一部の種ではするどい歯を持ちますが毒はありません。主に動物食性で、夜釣りの際に釣れることがあります。ダイナンウミヘビは仕掛けを絡ませ、小骨も多く食べにくいため釣り人からは歓迎されません。

なお、ハリガネウミヘビという仲間の魚類がいますが、ハリガネウミヘビの仲間はハリガネウミヘビ科と呼ばれるまた別の科になります。

爬虫類のウミヘビ

▲エラブウミヘビ(有鱗目コブラ科)。爬虫類のウミヘビ

爬虫類のウミヘビは有鱗目(ヘビ・トカゲを含む)コブラ科のうち、水中に適応したグループです。有毒ですので「特定動物」とされ、飼育にはさまざまな規制があります。しかしウミヘビ同様に海辺に生息するヤスリヘビ類などのように、毒がない、もしくは毒が弱い爬虫類のヘビの仲間が輸入されることもあります。

爬虫類のウミヘビの仲間は暖かい海に生息していますが、海流にのってやってくるのか、紀伊半島などでも見つかっているようです。おとなしいものが多く、海で出会っても離れれば何もしてこないことが多いですが、咬まれたら命にかかわるような強い毒をもつものもいるので、決していたずらしないようにしなければなりません。漁業で混獲されることもあり、針や網からウミヘビを外すときに襲撃されることがあり、それによる死亡例があります。

魚類のウミヘビと爬虫類のウミヘビの違い

魚類のウミヘビと爬虫類のウミヘビはこの特徴により区別できます。まず特徴的なのは鱗で、魚類のウミヘビは外見上鱗がみられませんが、爬虫類のウミヘビではびっしりとした鱗が見られます。

鰭については魚類のウミヘビでは顕著な鰭をもっているものの(後述)、爬虫類のウミヘビでは鰭が見られません。また、先ほども述べたようにもっとも重要な違いとして、魚類のウミヘビは咬まれても無毒ですが爬虫類のウミヘビは毒をもち、ときに致命的なものとなりえます。

このほか発生の違い(魚類のウミヘビは卵生、爬虫類のウミヘビはほとんどが卵胎生)、呼吸方法(魚類のウミヘビは鰓呼吸をするが、爬虫類のウミヘビは肺呼吸)、分布域(魚類のウミヘビは三大洋にすむが、爬虫類のウミヘビは大西洋にはいない)などがあげられます。なお、分類学単位の標準和名「ウミヘビ科」というのは基本魚類のウミヘビの方をさします。爬虫類のウミヘビはコブラ科に分類されることが多いですが、一部の文献などでは爬虫類のウミヘビを「ウミヘビ科」とすることもあります。以下、この項目では特記ない場合「ウミヘビ」といえば魚類のウミヘビを指すものとします。

ウミヘビの体つき

頭部

▲ダイナンウミヘビ。鼻孔が口の付近に開く

ウミヘビ科魚類の特徴としては後鼻孔が上唇の縁辺に開くことがあげられます。そのため口付近の様子が、似た形のアナゴ科やハモ科、ウナギ科とは大きく異なります。暗い海中で餌を探すための工夫でしょうか。また、一部の種では眼が非常に小さくなっています。

歯の形状はウミヘビの仲間により若干異なります。ダイナンウミヘビなどは大きな犬歯を有しています。そのため食用魚としてよく知られるハモと間違えられやすいのですが、後鼻孔の位置や尾鰭の有無により区別することができます。歯が強いものは咬まれると怪我をすることもあり、毒がないとはいえ注意が必要です。主に小魚やイカ・タコなどを食べ、それをしっかり逃がさないようになっています。

大きさ

▲1mを超えるダイナンウミヘビ

ウミヘビ科魚類はサイズもさまざまです。ミミズアナゴの仲間は概ね小型で30cm以下のものが多いのですが、1mを超える種も見られ、日本沿岸で釣りをしていると釣れてくることがあるダイナンウミヘビなど1mをこえるサイズのものも頻繁に釣れます。中には大西洋産のOphichthus rex (英名キングスネークイール)のように2mをこえるような種類も知られていますが、これほど大きいのは種類的には少ないです。

▲モヨウモンガラドオシの胸鰭(矢印)

魚類のウミヘビは鰭を持っていますので、爬虫類のウミヘビとの見分けは容易です。胸鰭はあるものが多いのですが、ハクテンウミヘビやヒモウミヘビなど、胸鰭をもたない種も知られています。なかにはトガリウミヘビのように胸鰭だけでなく、背鰭や臀鰭のない種も知られています。モヨウモンガラドオシなどはウツボ水槽で飼育され、その模様からウツボと間違えられることもありますが、胸鰭があることで容易に見分けられます。

一方、尾鰭はほとんどのウミヘビ科魚類では見られません。この特徴により、アナゴ科やハモ科などの魚と見分けることができます。ただし、ミミズアナゴなどニンギョウアナゴ亜科の魚には尾鰭があります。このような種類は頭部の様子で見分けられます。

同じウナギ目魚類のニホンウナギやマアナゴなどには血液や粘液に毒があることが知られています。ウミヘビ科魚類の毒性については明らかになっていませんが、血液や粘液などに毒をもつものがいる可能性はあります。ただウミヘビ科魚類については、食用になるものが少なく、研究がすすんでいないかもしれません。

ウミヘビとアナゴの仲間の見分け方

ウミヘビ科の多くの種類は尾鰭を持たないので、アナゴの仲間とは容易に見分けることができます。

ウミヘビ科魚類には「ヒレアナゴ」や「ミミズアナゴ」など、名前に「アナゴ」とつくものもいます。このような種はウミヘビ科としては例外的に尾鰭をもつグループです。日本産ではミミズアナゴ属、ミナミミミズアナゴ属、ムカシウミヘビ属、セレベスヒレアナゴ属、ヒレアナゴ属が当てはまります。これらの種とアナゴ科の魚の見分け方は後鼻孔の位置です。ウミヘビ科の魚類は尾鰭があるものでも、後鼻孔が上唇縁辺にあるためアナゴの仲間と見分けるのには、それをみるようにしたほうがよいでしょう。ただしアナゴの仲間にもメダマアナゴのように後鼻孔が上唇縁辺にあるものもおり、そのようなものはウミヘビ科と間違えられることもあります。そのような種は、尾鰭の特徴と合わせて判断するしかありません。

ウミヘビとハモの仲間の見分け方

▲ダイナンウミヘビ。尾鰭の部分がなく、背鰭と繋がらない

▲ハモ科のハシナガアナゴ。背鰭や臀鰭とつながった尾鰭を有する

ハモの仲間(ハモ科)はアナゴ科に近縁な分類群です。ハモといえば高級魚として有名で、ウミヘビ科のダイナンウミヘビはよくハモと間違えられることもあります。とくに夜釣りではハモもダイナンウミヘビも鋭い歯をもち、魚の切り身やイカなどの餌にかかって来て、暗いためよく見えないことから間違えられることも多いようです。

ハモはしっかりした背鰭と尾鰭・臀鰭がつながりひとつの鰭のようになっているのが特徴です。一方ダイナンウミヘビは尾鰭がなく、尾部に鰭がありません。

ウツボとウミヘビの仲間の見分け方

▲ウツボの特徴

ウミヘビの仲間とウツボはよく似ており、たまに間違えられることもあります。しかし、ウミヘビ科は多くの種類で胸鰭を持つのに対しウツボの仲間は胸鰭をもたないことと、鼻孔の位置(眼の直前にある)などの特徴で見分けることができます。ウツボの後鼻孔は眼の前方の背部にあるのが特徴です。また、ウツボの仲間は胸鰭がないなどの特徴をもち、著しく特殊化したグループともいえます。

ウミヘビの分布と生息地

ウミヘビ科の魚は、太平洋、大西洋、インド洋を問わず世界中の暖海に生息しています。日本においては北海道南部~琉球列島までの広い範囲に分布します。沿岸の浅場~水深200mまでにすむものが多いのですが、スソウミヘビやメダマウミヘビなどのように水深300~400mほどの場所から底曳網で漁獲される種もいます。また、ほとんどが海産ですが、カワウミヘビなど一部の種は河川に生息しています。

ウミヘビの仲間はどの種も肉食性です。海の中では小魚や甲殻類、イカ・タコなどやそれらの死骸を捕食しています。飼育にあたってもそれらの餌が必要ですが、これらの餌はスーパーマーケットでも入手可能なものばかりであり、餌の確保にはそれほど苦労はしないでしょう。ただし、生のものは寄生虫などがついていることもあるため、いったん冷凍してから与えるのがベターといえます。

ウミヘビ科魚類は顎の構造はウツボと異なるようで、あまり大きな餌は食べにくい感じです。同じくらいの長さのウツボと比べると餌を見つけるスピードも遅いようで、ウツボとウミヘビを混泳している水槽で、ウミヘビがなかなか餌を食べられないようなことがあればどちらかを別水槽で移した方がよいかもしれません。

ろ過槽

ろ過槽は外掛けろ過槽はやめたほうがよいでしょう。外掛けろ過槽はどうしても水槽の上方に隙間ができやすく、その隙間からウミヘビが脱走してしまうおそれがあるからです。ろ過能力が高くて隙間が外掛けろ過槽ほどできにくい上部ろ過槽か、オーバーフロー水槽が最適です。ただし、それでも小さな隙間ができますので、スポンジなどで隙間を埋めるようにしましょう。

脱走対策

ウツボの仲間同様、脱走には細心の注意が必要になります。ウミヘビ科の魚はウツボよりも細い身体つきのものが多いので、小さな隙間からも脱走するおそれがあるためフタはしっかりしておくことはもちろんのこと、隙間埋めも重要になります。餌を与えてうっかりフタをするのを忘れてしまい脱走してしまった…という事故例が多いようです。

水温

熱帯性の浅場にすむものは25℃前後、温帯性のものは22℃前後に設定します。ヒーターとクーラーで水温を一定に保つようにしましょう。また深海性のスソウミヘビなどはさらに低い水温で飼育したいので、一般の水槽用クーラーよりも低く設定できるクーラーが必要になります。

混泳

▲モヨウモンガラドオシとウツボ類の混泳

ほかの魚との混泳も可能ではありますが、小魚は捕食してしまうことがあるので避けた方が無難でしょう。水族館ではウツボの仲間と飼育されていることが多く、家庭水槽においてもウツボと混泳させることができます。ただしニセゴイシウツボやドクウツボ、グリーンモレイなど大型化するものやかなり気が強いものは避けたほうがよいでしょう。大きさに差があると捕食されてしまうおそれがあるからです。

おもな種類

ウミヘビ科魚類は種類が多く、日本産だけでも50種を超え、現在で毎年のように新種記載や日本初記録種の発見が続いています。ここでは代表的な種を掲載するにとどめます。

モヨウモンガラドオシ

観賞用のウミヘビ科魚類としては最もよく見られる種といえるでしょう。斑紋には若干の変異があり、従来はこの特徴からモヨウモンガラドオシと、ゴイシウミヘビのふたつの種に分けられていましたが、現在はこの2種は同種とされています。また、アキウミヘビという別名もあります。ゴイシウミヘビという名前は種の標準和名としては消滅しましたが、属の標準和名として残っています。

ほかの魚との混泳も可能ですが、口に入ってしまうような魚とは一緒に飼えません。また全長1mに達するので大型水槽が必要になります。インド-中央太平洋に生息しており、日本でも千葉県以南太平洋岸に広くすんでいるため自家採集(磯採集、釣りなど)で入手することもできますが、針を深く呑み込んでしまった個体は飼育には向きません。餌はイカやエビなどを与えるようにします。とても丈夫で飼いやすい魚です。

モヨウモンガラドオシの飼育については、こちらもご覧ください。

シマウミヘビ

モヨウモンガラドオシと同じゴイシウミヘビ属のウミヘビですが、体側の斑紋が斑点ではなく、黒と白の横帯が体中に入る種類です。全長90cmに達する大型種で、モヨウモンガラドオシ同様、大型水槽が必要になります。日本では四国沿岸や琉球列島などに生息しています。観賞魚としては主にフィリピンなどから来るため、あまり高価ではないのも嬉しいところです。

日本産ゴイシウミヘビ属は3種が知られこのほかにマダラシマウミヘビという種類が最近になって報告されています。シマウミヘビによく似ているものの、非常に細かい縞模様を持つ種類です。この属のものは大西洋にもすみ、カリブ海産のシャープテールイールなどもたまに販売されていることがありますが、シマウミヘビよりもずっと高価です。

ホタテウミヘビ

▲ホタテウミヘビ

ウミヘビ属の魚で、全長80cmに達する大型種です。ホタテウミヘビは観賞魚店で販売されていることはあまりなく、夜間に浜辺から投げ釣りをしていると釣れてくることがある魚です。色彩的には派手な魚ではありませんが、飼育してみると面白い習性を観察することができるでしょう。温帯域から熱帯域にかけて分布していますが、本州~九州までの沿岸で採集されたものは高水温に注意する必要があります。

ミミズアナゴの仲間

ここまで紹介したウミヘビ亜科の魚と異なり、ニンギョウアナゴ亜科の魚です。ミミズアナゴ属や近縁のミナミミミズアナゴ属はどの種もよく似ており同定が難しいのですが、多くの種が小型です。あまり販売されてはいないのですが沖縄などでは磯で採集できることがあります。またミサキウナギなどごく一部の種は温帯性で、近海物を扱う観賞魚店でも販売されていることがあります。

まとめ

  • 「ウミヘビ」と呼ばれるものには魚類のものと爬虫類のものがいる
  • 爬虫類のものは有毒で飼育は規制されている
  • 魚類のウミヘビには鱗がないが、爬虫類のウミヘビには鱗がある
  • 魚類のウミヘビには鰭があるが、爬虫類のウミヘビに鰭はない
  • 魚類のウミヘビの歯に毒はないが、歯がするどいものもおり要注意
  • 後鼻孔が上唇の縁辺に開くこと、尾鰭がないことによりほかのウナギ目魚類の多くと見分けられる
  • ミミズアナゴの仲間など一部の種は尾鰭がある
  • ウツボ同様イカやエビなどの生の餌を与える
  • 脱走対策のためフタはしっかりしておく
  • ろ過槽は外掛けろ過槽は望ましくない。上部ろ過槽かオーバーフロー水槽推奨
  • モヨウモンガラドオシやシマウミヘビがおすすめ
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