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2020.06.05 (公開 2017.07.22) 海水魚図鑑

遊泳性ハゼの種類・分類

2000種ほどの種が知られるハゼの仲間のうち、海底でじっとしていないでよく泳ぐタイプのハゼの仲間を遊泳性ハゼといいます。

ハゼ科でもチャガラやキヌバリなど、遊泳性が強い種がいますが、ここでご紹介する遊泳性ハゼは、クロユリハゼ科とオオメワラスボ科の魚を指します。体は側扁し、腹鰭も二つに分かれ吸盤状になっておらず、海底に生息するハゼの仲間よりも遊泳しての生活に適するようになったものといえます。英語ではハタタテハゼの仲間をFire goby(炎のハゼ)、タンザクハゼはRibbon goby(リボンハゼ)、それ以外の多くのクロユリハゼ科魚類はダートゴフィッシュ(投げ矢の魚)と呼んだりします。オオメワラスボ科の魚はWorm gobyと呼ばれます。Wormとは「虫」の中でも足のない細長い虫を指します。

クロユリハゼ科 Ptereleotridae

学者によってはクロユリハゼ科を認めず、オオメワラスボ科の亜科としていることもあります。基本的にオオメワラスボ科の魚は細長い体なのに対してクロユリハゼ科の魚はそれよりも短い体であることが多いです。科の和名は書籍「決定版 日本のハゼ」で新しく提唱されました。

ハタタテハゼ属 Nemateleotris

遊泳性ハゼの仲間でももっともポピュラーなものです。第1背鰭前半部の棘が長く伸びるのがユニークで、色彩も海水魚らしく美しい、さらに飼育もしやすいので観賞魚としての要素の多くを持ち合わせている仲間といえます。比較的近縁なもの同士のようで、ダイビングの世界では交雑個体もよく見られます。

★ハタタテハゼ N. magnifica Fowler, 1938

綺麗な色で温和で餌をよく食べ飼育が容易ということで、海水魚飼育初心者にすすめられることが多い魚です。背鰭が長くて格好いいですが大きめの強い魚と組み合わせるとご自慢の背鰭が切れてしまうこともありますので、温和な魚とサンゴ水槽で飼育するのに適しています。広い水槽であれば同種同士での飼育も可。静岡県以南のインド-太平洋域に広く分布し、頻繁に輸入されています。

★アケボノハゼ N. decora Randall and Allen, 1973

紫色の美しいハタタテハゼ属の魚です。ハタタテハゼと比べるとやや気は強めで同種同士では争うことがありますが、その分強めのカクレクマノミなどの魚と組み合わせやすいのです。伊豆諸島、静岡県、高知県などにも分布しますが、観賞魚としてはフィリピンなどで採集された個体が流通します。

エクスクイジットファイヤゴビー N. exquisita  Randall and Connell, 2013

アケボノハゼのインド洋版的な種類で、体の黄色味が強いのが特徴です。値段はアケボノハゼとくらべると若干高めですが、飼い方などは太平洋産と同様です。また採集も比較的丁寧なのか、よい状態のものが多く初心者にもおすすめできます。

★シコンハタタテハゼ N. helfrichi Randall and Allen, 1973

パープルファイヤーゴビー、とか、ヘルフリッチとか呼ばれる遊泳性ハゼの仲間です。紫色の体と黄色い頭部が美しい人気種ですが、他の3種と比べて高価です。日本では沖縄の離島や小笠原諸島などで本種を見ることが出来ます。南太平洋では本種によく似ていますが頭部もピンク色のものがおり、アケボノハゼとエクスクイジットファイヤゴビーの関係と同様に別種なのか、それとも地域によるバリエーションなのか、調査がまたれます。

クロユリハゼ属 Ptereleotris

クロユリハゼ属はインド-汎太平洋域と、西大西洋に生息していますが、日本の観賞魚店で販売されているのは多くが西太平洋に分布する種類です。世界では少なくとも20種が知られ、日本にはそのうちの12種が、富山湾および千葉県以南の温帯の海から、沖縄などサンゴ礁の海まで広く分布しています。

★クロユリハゼ Ptereleotris evides (Jordan and Hubbs, 1925)

成魚は体の前半分が薄い青色、後半部が暗色という、派手さはないものの美しい色彩で人気の魚です。本種はクロユリハゼ属のなかでももっとも流通量が多く、入手しやすい種といえます。また飼育しやすい種でもあります。千葉県以南の太平洋岸、インド-太平洋、紅海の浅いサンゴ礁域にすみ、幼魚は極めて浅いところで群れており、採集することもできます。写真の個体は高知県で採集した個体です。全長10cmほどになります。

★オグロクロユリハゼ P. heteroptera (Bleeker, 1855)

体は鮮やかな水色で、尾鰭の中央部に黒色斑があるのが特徴の種です。この種は痩せやすく飼育しにくいことがあります。おとなしい魚と一緒に飼育するべきで、カクレクマノミなど強い魚との混泳には注意が必要で、本種が慣れてからカクレクマノミを入れる、などの工夫が必要です。千葉県以南、インド-中央太平洋、紅海の浅いサンゴ礁域に分布し、本属で唯一ハワイ諸島にまでみられるなど、この仲間ではもっとも広い範囲に分布しているともいえます。全長12cmになります。

★ゼブラハゼ P. zebra (Fowler, 1938)

体側に多数の細い横帯があるのが特徴的な種で、全長10cmほどになります。下顎に小さな突起をもち、尾鰭が長く伸びないなどの特徴でもほかのクロユリハゼの仲間と見分けることができます。飼育は他のクロユリハゼ属魚類とあまりかわりませんが、丈夫で飼育しやすいです。インド-太平洋域に広くみられ、日本においては神奈川県以南に分布しており、採集した人もいます。

★イトマンクロユリハゼ P. microlepis (Bleeker, 1856)

体色は青みをおびていて、胸鰭基底に黒い線が入るのが特徴です。飼育はゼブラハゼと同様で、比較的痩せにくく飼育しやすい魚といえます。ハワイ諸島を除くインド-太平洋、紅海の熱帯域に分布する種です。日本においては千葉県館山以南の太平洋岸に広くすみ、幼魚は自分で採集することも可能です。

★ヒメユリハゼ P. monoptera Randall and Hoese, 1985

ほかのクロユリハゼ属と異なり第1・第2背鰭がつながり、尾鰭の形も三日月状になるなど変わった種類です。色彩的にはイトマンクロユリハゼによく似ていますが、眼の下の黒い帯も特徴的です。伊豆半島以南、インド-中央太平洋に生息する種で、浅いサンゴ礁域にすみます。全長10cmになります。

★オグロヒメユリハゼ P. lineopinnis (Fowler, 1935)

名前はオグロクロユリハゼに似ていますが、より細身でブルーグレーの色彩が特徴的です。尾鰭の中央付近に黒色斑があるのも特徴です。日本では相模湾以南、海外ではインド-太平洋域に分布する種で、全長10cmを超えます。入荷したことがあるかどうかは不明ですが、やや深場に生息するようで、高水温は禁物と思われます。

★コヒレクロユリハゼ P. brachyptera Randall and Suzuki, 2008

日本からは2015年に発見された種です。胸鰭基底に赤色っぽい線が入ること、第1背鰭がかなり低いことから、他のクロユリハゼ属の魚と区別することができます。観賞魚として入ってきたことがあるかは分からないのですが、水深20m以深の場所に見られ、高水温には注意が必要と思われます。西表島から西太平洋に分布します。

★ハナハゼ P. hanae (Jordan and Snyder, 1901)

千葉県および富山湾以南に分布する、温帯によく適応した種です。尾鰭の軟条の数本が伸長しているのが特徴です。観賞魚店で販売されることはほとんどなく、自分で釣る、または浅場に生息する幼魚を採集するのがもっともよい方法です。全長15cmと、この仲間では極めて大型になり、小型水槽では飼育しにくく、また高水温にも注意する必要があります。ダテハゼやテッポウエビなどと飼育すると、面白い共生関係を観察することが出来ます。

★リュウキュウハナハゼ Ptereleotris sp.

以前、ハナハゼの琉球型と呼ばれていたものです。ハナハゼは尾鰭の軟条が多数伸びていますが、本種は上方と下方の2本のみが長く伸びます。和名はついているものの、学名は決定していません。リュウキュウという和名ですが沖縄のほか、伊豆半島や和歌山、高知、フィリピン、インドネシアにもいます。

★スミゾメハナハゼ P. rubristigma Allen, Erdmann and Cahyani, 2012

ハナハゼやリュウキュウハナハゼに似ていますが、尾鰭の後縁は丸みを帯び、軟条が伸びることがないので区別できます。2012年に新種記載され、2013年に和名がついたばかりの種です。日本では千葉県以南の太平洋岸、海外ではインド-西太平洋にいます。観賞魚店ではハナハゼとして売られたり、イトマンクロユリハゼとして売っていることさえありますが、イトマンクロユリハゼと違って痩せやすいので飼育には注意が必要です。全長9cmほど。

★スミレハナハゼ P. uroditaenia Randall and Hoese, 1985

2015年に日本初記録として報告された種です。和名がつく前は英名のフラッグテールダートフィッシュと呼ばれていた魚で、黄色い尾鰭に二本の黒く太い線があるのが特徴です。第1背鰭の第3・4軟条が長く伸びるのも特徴です。西太平洋に生息し、日本では西表島に分布していますが、日本産の個体はまず流通しないでしょう。東南アジアからまれに入ってきます。全長12cmを超える大型種です。

ビューティフルダートフィッシュ P. kallista Randall and Suzuki, 2008

スミレハナハゼに似ている種ですが、尾鰭の色彩が違うのと、第1背鰭棘条がスミレハナハゼよりも長く伸びるのが特徴です。日本には分布せず、フィリピンに分布し、もっと入ってきても良いと思うのですが、入手が困難な種です。

★スジクロユリハゼ P. grammica Randall and Lubbock, 1982

背鰭はビューティフルダートゴビーほどではないものの少し伸びます。西太平洋のものは体側にオレンジ色の縦縞模様が入る美しい種ですが、モーリシャスなどインド洋のものは黒い縦縞模様となり、それぞれ別の亜種とされることがあり、研究が進めば別種になる可能性もあります。西太平洋産のものはフィリピンから輸入されて比較的安価ですが、インド洋のものはなかなか入って来ず、販売されても高価です。やや深場の種なので高水温には要注意です。大きいものでは全長10cmに達します。

サツキハゼ属 Parioglossus

本州沿岸ではサツキハゼとベニツケサツキハゼくらいしか見られませんが、琉球列島では種類が豊富です。その中には限られたマングローブ域などにしかすまず、開発の影響で絶滅が危惧される魚もいます。今回は主に海域に生息する種をご紹介します。日本には11種、世界では20種ほどが知られています。インド-中央太平洋の熱帯域に生息し、カリブ海など大西洋には分布しません。

★サツキハゼ Parioglossus dotui Tomiyama, 1958

日本の本州~九州沿岸では最もよく見られるクロユリハゼ科魚類といえます。何匹飼育しても争うことなどないので、水槽でも群れを再現できます。サンゴ礁や磯というよりも河川の河口域に近い内湾に大きな群れでいます。能登半島および千葉県以南に分布する普通種です。全長5cmほどです。

★ベニツケサツキハゼ P. philippinus (Herre, 1945)

サツキハゼに似ていますが、尾鰭の斑紋の様子がサツキハゼとは異なります。生息地はサツキハゼとほとんど同様で、サツキハゼの群れにまざっていることもありますが、基本的にはサツキハゼよりも暖かい地域を好む種といえます。西太平洋に生息し、日本では千葉県以南にすみます。全長5cmほど。

★ヨスジハゼ P. formosus (Smith, 1931)

茶色っぽいからだと、体側の黒色縦線が特徴的な小型のサツキハゼ属魚類です。岩礁域に生息する種ですが残念ながら奄美諸島以南まで行かないと出会うことができない種です。観賞魚としてはごくまれに流通する程度です。全長3cmほどの小型種です。

★ミヤラビハゼ P. raoi (Herre, 1939)

ヨスジハゼに似ている種で、体の黒色縦線が目立ちますが、本種には第1背鰭にも黒色斑があるので他のサツキハゼ属魚類と容易に区別できます。内湾の港、岩礁域、マングローブ域などさまざまな場所に出現します。奄美大島以南にすみます。

そのほかの属

★タンザクハゼ (タンザクハゼ属) Oxymetopon compressus Chan, 1966

その名の通り体の断面が極めて側扁しているのが特徴なハゼの仲間です。この属の魚は世界に5種いて日本にも何種かいますが正式な報告があるのはタンザクハゼのみ。内湾の泥底のような場所をこのみます。観賞魚としてはあまり入ってきません。全長15cmを超え、大きめの水槽が欲しいところです。

ドワーフシグナルゴビー (アイオリオプス属) Aioliops megastigma Rennis and Hoese, 1987

サツキハゼ属よりもさらに小型の、アイオリオプス属に含まれる遊泳性ハゼです。頭部が黄色で、尾部に大きな黒い斑点があります。日本には分布せず、フィリピンやインドネシアに生息する種です。遊泳性ハゼは飼育が難しくないものが多いのですが本種は極めて臆病で、飼育が難しいです。

ピンクダートゴビー (カグヤハゼ属) Navigobius sp.

クロユリハゼ科としては珍しい、赤みを帯びた体が特徴的な種です。カグヤハゼ属のうちモモイロカグヤハゼは鹿児島県や奄美大島などから知られていますが、観賞魚として入荷するのはモモイロカグヤハゼではなく、近縁の別種であると考えられます。主にフィリピンから入荷する種で、値段の問題もあり入手することは困難なのですが、ハゼ好きならいつかは手に入れたいあこがれの種といえそうです。

オオメワラスボ科 Microdesmidae

オオメワラスボ科の魚は観賞魚として出回ることはほとんどないものの、にょろにょろした、おもしろい姿かたちをしています。日本産の種は少なく、オオメワラスボ属の4種類が知られているだけです。

オオメワラスボ属 Gunnellichthys

非常に細長い体でサンゴ礁の海底を遊泳します。日本からは4種類が知られています。観賞魚として輸入されることがありますが、極めてまれなものです。

★ニシキオオメワラスボ Gunnellichthys curiosus Dawson, 1968

昔からの愛好家には「ネオンワームゴビー」という名前でも知られています。全長20cm近くになり、体側のオレンジ色の縦帯が非常によく目立ちます。臆病な種類で強い魚と一緒に飼育するのは禁物です。

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