2020.12.11 (公開 2020.12.11) 海水魚図鑑
コケ対策として入れられる巻貝とその効果
マリンアクアリウムは水槽を「見て楽しむ」趣味です。ですから水槽にコケが生えてしまい、水槽が見えにくくなると楽しみにくいといえます。そのようなときにコケを食べてくれるのがコケ取り貝です。うまくいけば、水槽のコケを食べて掃除の手間を減らしてくれるかもしれませんが、食べた跡は残るので結局掃除は必要です。今回はコケ取り貝と称される貝の仲間についてご紹介します。
コケを食べてくれる貝
軟体動物はいくつかの「綱」に分かれており、その中で藻類を食べてくれるのは腹足綱(巻貝やウミウシのグループ)、多板綱(ヒザラガイのグループ)くらいです。二枚貝の仲間は水中のプランクトンを捕食し、水槽壁面・ガラス面のコケは食べられません。
またこれらの貝はコケを掃除機のように吸い取るのではなく、歯で削りとって食べるため、コケを食んだ跡が残ります。そのため、「掃除が不要!」とはならないので注意が必要です。また、コケの種類によっては食わないこともあります。
シッタカガイ
この名称で呼ばれるのはいくつか種類があり、バテイラやベニシリダカ、オオコシダカガンガラなどですが、最近はクボガイやクマノコガイなどをも含む、ニシキウズ科全般を指すことがあります。いずれも食用になり、とくにバテイラなどは漁業権が設定されることもあるので注意が必要です。藻類を常食しており、水槽でもガラス面や壁面につくコケをよく食べてくれます。比較的安価で、購入しやすいといえますが、種類や個体によっては高水温に弱いのことがあるのでこの点も注意が必要です。
ニシキウズ
琉球列島に生息する「沖縄版シッタカガイ」といえるような種です。基本的な特徴はシッタカガイと同じではありますが、こちらは熱帯性のため高水温に強く、熱帯性海水魚やサンゴとの飼育に向いています。基本的に本種は沖縄便に強いお店ほど入手しやすい種といえるでしょう。貝殻底部の模様が「渦」を巻いているように見えることからこの名前がついたともいわれます。
チョウセンサザエ
サザエ科の貝もコケ取りとして採用されることがあります。写真のチョウセンサザエはアクアリストが購入するだけでなく、ライブロックに小さなものがついており、これが水槽内で育って大きくなった、なんていうケースもあります。昼間は岩の中に隠れたりしていますが、夜になると活発に岩の上や壁面などを歩き回ります。この仲間には水産上重要種であるサザエはもちろん、タツマキサザエやリュウテンサザエなども知られています。アクアリウムにおいては沖縄便につよいショップが扱うこともあるようです。
アマオブネガイ類
▲アマオブネガイ
磯の浅いところにごく普通にみられる巻貝です。サザエやアワビほどは食用とされていません。淡水水槽の掃除屋さんとして知られるイシマキガイやカノコガイなどの近縁種で、やはり掃除屋さんとして役に立つ種類です。この名前で呼ばれているものにはアマオブネガイのほか、アマガイやキバアマガイ、琉球列島などに多いリュウキュウアマガイなども含まれています。潮だまりでも見られ、沖縄方面まで足を延ばすと、サンゴヤドカリの仲間がアマオブネガイの仲間の貝殻を背負うところはよく見られる光景といえます。アマオブネガイは千葉や和歌山などでもごく普通にいますが、琉球列島にも分布し水温にも幅広く対応できそうです。
タカラガイの仲間
▲ハナビラダカラガイの貝殻
▲外套膜が体を覆ったハナビラダカラガイ
タカラガイの仲間はそのかわいらしい見た目からコレクターに人気があり、また工芸としても使用されました。そんなタカラガイの仲間にはコケ取りをしてくれる種も知られています。きれいなキイロダカラガイやハナビラダカラガイは九州以北の海にもおり、採集して飼育しコケを食べてもらうとよいでしょう。ただしホシダカラガイなどは雑食性が強く、カイメンやサンゴなどを食べてしまうこともあるので注意しなければなりません。また作業効率もシッタカなどと比べて落ちる印象です。タカラガイを採集、もしくは購入して入れる前にどんな性質でどんなものを食うのか、はちゃんと調べておきましょう。また見た目がよく似たウミウサギガイなどはウミキノコなどを食べてしまいます。
個人的にはキイロダカラガイやハナビラダカラガイをのぞき、あまりおすすめしません。ハナビラダカラガイの飼育方法については、以下のリンクで記述しています。
アワビ・トコブシ
アワビは主に養殖の個体(俗にグリーンアワビなどと称される鮮やかな緑色個体)が海水魚店に入ってきますが、このような種類は温帯に生息し、一般的な熱帯性海水魚との飼育には不向きなところがあります。琉球列島や西太平洋のサンゴ礁に生息するミミガイなどの種も入ってきますが、こちらは沖縄便に強いお店でしか入ってこないので入手が難しいといえます。採集は漁業権に抵触するようなこともあり難しいです。このほか同じアワビ類でもトコブシやアナゴの仲間は南方系に多く、こちらのほうがアワビより向いているかもしれません。養殖では配合飼料を与えたり、大型海藻を与えありしますが、我が家では照明の照射時間を長くしているためか、ほどよくコケが生えており、それだけで2年以上飼育することができています。
マガキガイ
ソデボラ科(以前はスイショウガイ科とされた)の巻貝です。本州以南の沿岸に生息している貝で、温帯から熱帯の海域に多くいます。見た目は熱帯域に生息する有毒の貝であるイモガイなどによく似ていて、擬態かもしれません。藻類食というよりは雑食に近いようで、砂を攪拌してくれたり、ときに水槽の壁面・ガラス面に付着した藻類やバクテリアなどをいろいろ食べています。高知県などでは「ちゃんばら貝」と称し食用になり、意外と美味です。
この貝については以前にもご紹介していますので是非ご覧ください。なお、本種が含まれるソデボラ科の仲間はほかにクモガイやスイジガイなど、土産物店でお馴染みの貝もいろいろ含まれています。
餌について
コケ取りに入れられる巻貝は餌のコケがないと飢え死にしてしまいます。そのためコケを取りすぎないよう、水槽にコケ取り貝を入れすぎないように気を付けなければなりません。照明を適切につけておくとやがてコケが生えるので、照明は重要といえます。9~11時間くらいは照明をつけておいたほうがよいでしょう。なお、アワビ類の養殖には専用の配合飼料を使用することもありますが、我が家ではコケがよく生えるためか、それだけで2年以上生存しています。
天敵
▲ベニワモンヤドカリの新居はマガキガイを食べてゲット
ヤドカリの大きいものや大型のベラ、モンガラカワハギ、イシダイなどは貝を食べてしまうことがあるので注意します。いずれもひっくり返して貝殻を割って食べたりします。ヤドカリが貝を襲うのは、餌を食べるということのほか、貝殻を得るという目的もあります。ヤドカリと貝には相性があるようで、例えば我が家ではベニワモンヤドカリを貝と飼育していますが、ニシキウズやチョウセンサザエ、アワビなどは問題なかったのですが、マガキガイは食われてしまいました。また、タカラガイの仲間もベニワモンヤドカリが入っていることが多く、ベニワモンヤドカリやマガキガイ・タカラガイなどとは組み合わせるべきではないといえます。
コケ取り貝まとめ
- コケ取りの貝は基本的に腹足綱(巻貝)の仲間
- 食み跡は残るのでコケ掃除が不要になるわけではない
- コケの種類によっては食わないことも
- シッタカガイは安価で購入できるが高水温に注意が必要
- ニシキウズは高水温に注意が必要
- チョウセンサザエなどの貝もコケ取りには役立つ
- アマオブネガイは淡水のイシマキガイなどに近い仲間
- タカラガイもコケ取りに役立つが種類によってはサンゴを食うことも
- アワビなどもコケ取りに有用だが水温が合わないこともある
- マガキガイは主に底砂の攪拌に役立つ
- コケ取り貝は餌がないと飢え死にしてしまう
- 大型魚やヤドカリに襲われることも
- 特にベニワモンヤドカリとマガキガイ・タカラガイとの相性は最悪