2020.11.10 (公開 2017.11.13) 海水魚図鑑
クマノミの飼育方法~種類やイソギンチャクとの共生に関するまとめ
クマノミといえば、イソギンチャクとの共生で知られる海水魚の仲間です。クマノミは丈夫で飼育しやすく、色もきれいなので、古くからアクアリストに飼育されてきた魚でもあります。なお、単に「クマノミ」と呼称した場合、スズメダイ科の中のクマノミ亜科の総称を指す場合と、そのうちのひとつの種類を指す場合があります。今回は、後者について解説します。通称ナミクマノミとか、学名からクラーキーなどと呼ばれることもあります。「カクレクマノミ」の飼い方や注意点を知りたい方は以下のリンクを参照して下さい。
標準和名 | クマノミ |
学名 | Amphiprion clarkii (Bennett, 1830) |
流通名 | クラーキー(学名より)、ナミクマノミ |
英名 | Yellowtail clownfish, Clark’s anemonefishなど |
分類 | スズキ目・スズキ亜目・スズメダイ科・クマノミ亜科:クマノミ属 |
全長 | 10cm |
飼育難易度 | ★☆☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッドなど |
温度 | 25℃前後 |
水槽 | 60cm~ |
混泳 | 大きくなったものは気が強いので注意 |
サンゴ飼育 | ハナサンゴ科やアワサンゴはダメージを受けることもある |
クマノミって、どんな魚?
▲雌と思われる個体。雄(トップ画像)と比べて尾鰭が白っぽい
クマノミはスズキ目・スズメダイ科・クマノミ亜科の魚で、カクレクマノミとならぶクマノミ亜科の代表的な魚種といえます。インド-西太平洋の熱帯から温帯海域に広く分布し、日本では千葉県以南の太平洋岸でその姿を見ることができます。体側には2本、尾の付け根のものと合わせて3本の太い白色(青く見える)横帯があり、雄は尾鰭が黄色になります(雌は白っぽい)。
本種に限らずクマノミとイソギンチャクの共生は有名で、シライトイソギンチャクやサンゴイソギンチャクなどと共生していますが、イソギンチャクから離れて泳いでいることもあり、カクレクマノミなどと比べるとイソギンチャクへの依存度は低いといえそうです。
色彩は地域により若干の差がありますが、基本的には体側に2本の横帯があり、雌は尾鰭が白っぽく、雄は尾鰭が黄色なのが特徴です。本種はベラの仲間やハナダイとは逆に雄から雌に性転換をすることが知られています。自然下では大きなイソギンチャクの周辺に群れていて、雌が死んでしまったり、釣ったり採集されていなくなると、大きな雄が性転換して雌になります。
クマノミの色彩と改良品種
クマノミの分布は広く、ペルシャ湾からメラネシアにまでおよびますが、産地により微妙に色彩に違いがあるのが特徴です。日本産でも本州から九州の太平洋岸に棲むタイプ、沖縄にいるタイプ、小笠原諸島に生息するタイプ、それぞれ別の色彩をしています。これらの種はそれぞれ別種になる可能性もあり、一部の文献では日本産の本種に対しAmphiprion japonicusという学名を用いていますが、ここではこの件については棚上げにしておきたいところです。なおAnthias clarkii (=Amphiprion clarkii)のタイプ産地はスリランカということです。このほかバリエーションとしてよく知られているのは「アイブロークラーキー」というもので、眼の上に白い模様があります。名前の由来はこれをアイブロー(眉)に見立てたものです。
クマノミの好む飼育環境
水槽
▲クマノミ飼育に適した90cmオーバーフロー水槽
クマノミはカクレクマノミと比べると若干大きくなり、全長12cmを超えます。そのため水槽はカクレクマノミと比べて大きなものが必要になります。できれば60cm以上の大型水槽で飼育するのが理想です。
小さいうちは小型水槽での飼育も可能です。しかしながらクマノミは性格が強く、水槽内でも成長することを考えれば60cm以上の水槽は必ず必要になるといえます。予算が許すのであればオーバーフロー水槽がもっとも向いているといえるでしょう。
ろ過装置
クマノミはスズメダイ同様に丈夫で飼育しやすい魚ですが、水が汚い状態では上手く飼育することは難しいと言えます。おすすめは値段の割にはろ過能力の高い上部ろ過槽です。もちろんオーバーフロー水槽にしてサンプ(水溜め)でろ過を行うシステムは多くの水量をとろ材の容量を確保できるのでおすすめです。
イソギンチャクは光が必要で、上部ろ過槽でも飼育可能ですが、ろ過槽が光を遮るのでイヤというときは、外部ろ過槽を使用するのもよいでしょう。ただし外部ろ過槽は密閉式のろ過槽でろ過バクテリアに酸素が届きにくいというデメリットもあります。そのデメリット解消のために外掛けろ過槽やプロテインスキマーなども併用することをおすすめします。
水温
クマノミの水温は25℃前後が理想です。温帯に生息する個体は20~23℃くらいが良いかもしれませんが、25℃で問題なく飼育できます。我が家のクマノミは釣りで採集したものなのですが、実際に25℃で飼育しても問題はないように思います。それよりも高い水温で飼育することもできますが、色褪せしやすいなどの問題が出てくるおそれがあります。もちろん水温が簡単に変動するのではだめです。
照明
クマノミを飼育するのであれば照明は弱いものでも問題ありません。我が家では安価なニッソーのLEDライトや蛍光灯(白系1灯、青系1灯)で飼育していますがクマノミ飼育ではとくに問題はありません。ただしこれはクマノミ飼育の話であり、クマノミだけでなくイソギンチャクも一緒に飼育するのであればそれなりの光が必要です。しかし本種がよく入るサンゴイソギンチャクやシライトイソギンチャクといった種類は比較的弱めの光でも飼育することができます。
ライブロック
クマノミは縄張りをつくりますので、複雑にライブロックを組み合わせてレイアウトするとよいでしょう。もちろん他の魚と混泳するのであれば、他の魚も岩陰に隠れられるように組み合わせなければいけません。
クマノミが好む餌と添加剤
クマノミは海の中では動物プランクトンや小型の甲殻類、藻類をおもに捕食する雑食性の魚で、ときにはクマノミの胃の中からイソギンチャクの触手などが出てくることもあります。餌は状態が悪くなければすぐに配合飼料を食べてくれるので、餌付けはとても簡単です。繁殖を狙うのであれば、さらにビタミンなどを餌に添加したり、冷凍の餌を与えるのもおすすめといえます。ただし冷凍餌は量によっては水を著しく汚すおそれもあり、与えすぎないように注意します。
添加剤としては全ての生物に必要であるヨウ素や微量元素なども添加したいものです。もちろんサンゴやイソギンチャクを飼育しているのであれば、その他の添加剤も必要になります。
クマノミにおすすめの餌
クマノミに必要な添加剤
クマノミをお迎えする
クマノミをお迎えするのには、海水魚店で購入する方法と、自分で採集する方法のふたつの方法があります。
クマノミを海水魚店で購入する
▲クマノミ購入の際に注意したいポイント
クマノミは海水魚専門店であればほとんどの店で購入可能です。値段は産地により若干異なりますが、東南アジア産のものが安価で、インド洋や中央太平洋産の個体は若干高価です。色彩が様々ですので気に入った模様のものを選ぶとよいでしょう。
ですが、入荷してすぐの個体は購入してはいけません。とくに東南アジア産の個体は入荷後の状態をよく見極めてから購入するべきです。これは東南アジア産の個体は雑に扱われ、運搬するときの袋も、小さくて水があまり入らない袋で来ることが多いからです。入荷して日数がたち、よく餌を食べているものを選ぶとよいでしょう。もちろん、たとえ日数が経っていても鰭がぼろぼろの個体や鰭が溶けているような個体、鰭に白い点がついているような個体、泳ぎ方がおかしい個体、体表が赤くにじんでいるような個体は選ぶべきではありません。この点はほかの海水魚と同様です。
クマノミを採集する
▲釣りにより採集されたクマノミ
クマノミは日本近海で採集することも可能です。千葉県以南の太平洋岸で、潮通しのよい、浅い岩礁域にサンゴイソギンチャクがあれば、その中で見られることもあります。漁港に大きなイソギンチャクがありそこにクマノミがいれば、そこで釣りをすれば比較的簡単に採集することができます。ただし、深い場所から一気に引き上げてしまうと、内臓がダメージを受けるおそれがありますので、注意が必要です。またクマノミはやや肌が弱いようで、ほかのスズメダイ科と比べると輸送中にダメージを受けやすい傾向があります。
クマノミの病気対策
クマノミは基本的に丈夫で飼育しやすい魚ですが、輸入されて、あるいはお店に入ってきてすぐの疲れている個体は白点病や恐ろしいトリコディナなどにかかることもありますので、注意が必要です。安定した水温、常にきれいな水にして予防するようにしたいものです。それでも不幸にも病気になってしまった場合は白点病であれば薬浴、トリコディナであれば淡水浴で治療します。ただしトリコディナは病気の進行が非常に早くて危険です。
クマノミとほかの生き物との関係
クマノミと他の魚との混泳
▲他の魚と混泳しているクマノミ
クマノミは水槽内においてペア以外の同種同士との組み合わせは争う恐れがありますので、基本的に他の魚との混泳になります。他の魚と飼育する場合はベラの仲間、スズメダイの仲間、大きめのハナダイの仲間、小型ヤッコ、中~大型ヤッコなどとの飼育を楽しむことができます。ただし、クマノミはカクレクマノミと比較して若干大きくなり、混泳相手として上に挙げたような魚も比較的大きくなるため、必然的に混泳には90cm以上、できれば120cmくらいの大型水槽が必要になってきます。
クマノミとサンゴ・無脊椎動物との相性
▲クマノミとボタンポリプ。手前はアクセサリーの「いそぎんちゃくん」
クマノミとサンゴとの関係は概ね問題ありません。ソフトコーラル・ハードコーラル・LPS・SPS問わず、さまざまな種類のサンゴと飼育することができますが、繁殖を狙うため冷凍の餌を多く与えると水が悪化しやすくなり、SPSとの飼育は要注意です。またクマノミはハナサンゴなどゆらゆら揺れるLPSの中に入ることもありますが、サンゴがストレスを感じていないかよく観察しましょう。とくにハナサンゴやアワサンゴの類などは一緒にしないほうがよいかもしれません。
エビは小型のものはクマノミに捕食されるおそれがあり、逆に大型のイセエビなどはクマノミを襲うこともあります。おすすめのエビはスカンクシュリンプやホワイトソックスなど、クマノミの鰭や皮膚につく寄生生物を食べてくれる種類です。
クマノミとイソギンチャクとの関係
▲クマノミがよく入るサンゴイソギンチャク
▲イソギンチャクと戯れるクマノミの幼魚
クマノミはさまざまなイソギンチャクと共生します。クマノミがイソギンチャクと共生する理由は「身を守るため」です。イソギンチャクは刺胞毒をもち魚を食べてしまうのですが、クマノミは体表から粘液を分泌し、イソギンチャクの毒が通じないようになっています。イソギンチャクというほかの魚にとっては毒になる隠れ家をもつことで身を守っているのです。
自然下でクマノミが共生するシライトイソギンチャクやサンゴイソギンチャクなどは比較的飼育しやすい種ではありますが、一般的に「イソギンチャクは初心者向きではない」とされています。光量の不足で弱らせたり、水質悪化で死なせるということもあるのですが、それよりもポンプに吸い込まればらばらになったり、オーバーフロー水槽ではフロー管につまって水をあふれさせたり、イソギンチャクの強い毒でサンゴにダメージを与えてしまうなどトラブルを起こしてしまいやすいので注意したい生物です。なお、クマノミの仲間は飼育下ではイソギンチャクがなくても問題はありません。
海水魚初心者の場合でどうしても「イソギンチャクとの共生を見てみたい」というときには、カミハタから出ている「いそぎんちゃくん」などのイソギンチャクを模したアクセサリーを入れるのもよい方法です。クマノミが確実に入ってくれるという保証はありませんが、水槽内のレイアウトとして悪くないのでおすすめです。
クマノミの飼育まとめ
- カクレクマノミと並びクマノミ亜科の代表的な種
- シライトイソギンチャクやサンゴイソギンチャクなどと共生する
- カクレクマノミよりも大きくなる。大きめの水槽が必要
- 上部ろ過槽がおすすめ。
- イソギンチャク飼育には外部ろ過槽でもよい。スキマー併用を推奨
- 水温は基本的に25℃で安定していること
- ライブロックを上手く組み合わせ、クマノミの住まいをつくる
- イソギンチャクを飼育するなら照明は必要
- 配合餌をよく食べてくれる。ヨウ素や微量元素も添加
- 入荷してすぐの個体や鰭が溶けているもの、体に傷があるものなどは購入を避ける
- 入荷直後は病気になるおそれもあり要注意
- 同種の飼育はできるだけ避け、他の魚と混泳させる
- イソギンチャクのかわりにハナサンゴなどに入ることもあるができれば避けたい
- イソギンチャクはトラブルメーカーになりやすく、初心者には共生はすすめにくい