2020.09.21 (公開 2020.01.27) 海水魚図鑑
ゴンベの仲間を飼育する~混泳やサンゴ水槽での注意点
ゴンベの仲間はアクアリウムで親しまれている魚です。サンゴにはあまり害がないので、サンゴ水槽で飼育されていることも多いのですが、性格はきついものもおり、混泳には注意が必要です。今回はゴンベの仲間はどんな魚なのか、どのような習性をもった魚なのかについてご紹介します。
ゴンベの仲間の特徴
「ゴンベ」はスズキ目ゴンベ科魚類の総称です。ゴンベの仲間は大きな二つの特徴によりほかの多くの魚類と見分けることができます。
胸鰭
▲ミナミゴンベの胸鰭下部軟条
ゴンベの仲間や、近縁のタカノハダイ科の魚は胸鰭下部の軟条が肥厚し長く伸びるという特徴があります。このほかメバル科の魚種にも肥厚した胸鰭をもっているものもいますが、同じように岩やサンゴなどの上にいることが多いゴンベの仲間がこのような特徴を持っているのは興味深いものです。
背鰭の糸状突起
▲ヒメゴンベの背鰭にある糸状の突起
ゴンベの仲間の背鰭には糸状突起があります。どの種にもあるようですが、一部の種では目立ちません。この糸状突起はゴンベ科にはありますが、近縁とされるタカノハダイ科やケイロダクチュルス科の魚類には見られず、この背鰭の糸状突起の有無で見分けることができます。
ゴンベの仲間の近縁種
よく似たタカノハダイ科
▲タカノハダイ科の代表種タカノハダイ
タカノハダイの仲間はゴンベ科に似ており、胸鰭下方部の軟条が肥厚しているのが特徴で、魚類図鑑でもタカノハダイと近い位置に置かれていることが多いです。ただしゴンベの仲間とは異なり背鰭棘先端の糸状突起がありません。
分布域は南半球のとくにオーストラリア近海に多くの種類が見られます。北半球では種類が少なく、日本、韓国、中国、ハワイ諸島にすこしいるだけです(うち日本産は3種)。観賞魚としてはオーストラリア産の種類が少し販売される程度であり、しかも低い水温が必要、さらに高価であることから、あまり人気がありません。一方近海に生息するタカノハダイは磯で幼魚を採集することができます。沖縄にも分布しているものの、基本的には温帯の魚ですので水温は低めに抑えたいものです。
またゴンベ科の魚は全長50cmにもなるものがいますが、多くは20cm以下の小型種です。一方タカノハダイは全長80cmになるものもいます(日本のタカノハダイは30cmくらい)。日本ではゴンベ科の魚はほとんど食用にはなりませんが、タカノハダイは市場にも出て食用になり、とくに冬に美味です。
なお、日本産のタカノハダイはすべて現在はLatridaeの中に含まれています。科の標準和名は従来ユメタカノハダイ科とされていましたが、現在はタカノハダイ科に変更になっています。
ケイロダクチュルス科
▲バードフィンガーフィン。東京・葛西臨海水族園
南アフリカにはタカノハダイ科に近縁のケイロダクチュルス科Cheilodactylidaeというのもいます。この科の中には従来タカノハダイやミギマキ、タラキヒなども含まれていましたが、Cheilodactylus属の2種を除き、現在は別科になっています。ただし、海外の文献や、日本でもWikipediaなどを見ているとこの属の中に日本産のタカノハダイなどが含まれていることもあり、注意が必要です。
ハナゴンベはゴンベの仲間ではない
▲ハナゴンベ
ハナゴンベは名前に「ゴンベ」とあり、実際に過去ゴンベ科に含まれてきましたが、現在はハタ科ハナダイ亜科に含まれています。可憐な見た目で混泳もさせやすく、サンゴにも無害なハナダイ亜科ですので人気が高い魚です。ただし水質についてはゴンベ科魚類の多くの種よりも高いレベルのものが求められます。ハナゴンベの飼育については、こちらをご覧ください。
ゴンベの仲間に適した飼育環境
一般的なゴンベであれば水槽は最低でも45cm、混泳をしたいのであればできれば60cm水槽が欲しいところです。大型になるイレズミゴンベやジャイアントホークフィッシュはもっと大きなサイズの水槽が必要になります。
ろ過システムについてはゴンベの仲間は飼育しやすく、硝酸塩の蓄積にも耐えられる種類が多いので、魚水槽に向いています(ただしベニゴンベは綺麗な水で飼いたい)。ただしそれでもろ過槽は簡易な外掛けろ過槽は出来るだけ避けるか、ほかのろ過槽と組み合わせるのが適しています。60cm水槽であれば上部ろ過槽を使うとよいでしょう。もちろんオーバーフロー水槽にしてサンプ(水溜め)でろ過を方法は、他を圧倒するろ過能力をもつのでおすすめです。
砂に潜る習性もなく、底面ろ過槽を使用する場合を除き、砂を敷く必要はありません。とくに魚水槽で飼育する場合は砂がない方が管理もしやすいといえます。
また、とびだしてしまうおそれもあるため、水槽にはしっかりフタをしめておきましょう。
ゴンベの仲間に最適な餌
ゴンベの仲間はどの種も動物食性です。そのためホワイトシュリンプなどを与えるべき、という意見もありますが、ホワイトシュリンプばかりだと水が汚れてしまいますので、できるだけ配合飼料を与えるようにします。配合飼料はフレーク状のもの、粒状のものがありますが、粒状がおすすめです。フレークは魚が口でちぎって食べられるなどのメリットもあるのですが、薄っぺらく量的には少ないのです。
どうしても食べない場合は冷凍餌やヨコエビなどを与えるようにします。ただし冷凍のホワイトシュリンプは水質を悪化させやすいので注意が必要です。ろ過を万全にしておくべきでしょう。
ゴンベの仲間の混泳
ゴンベの仲間は性格がきついものが多く、ほかの魚との混泳はあまり向いていません。とくにメガネゴンベやヒメゴンベなど大きく育つものは気が強いため、できれば中・大型ヤッコやスズメダイなどとの混泳が適しているでしょう。ただしスズメダイも大きいものはかなりきついため注意が必要です。またゴンベの仲間同士も争うのでゴンベの仲間同士の混泳も避けた方が無難でしょう。
ゴンベの仲間と無脊椎動物の相性
▲クダゴンベ。サンゴの上に乗っているのはかわいいが…。
サンゴ水槽で飼育されることが多いゴンベですが、ゴンベの仲間はサンゴの上に乗っかったりすることがあり、長いこと乗っかられるとサンゴにストレスになることがあります。サンゴの調子に注意しましょう。水槽もできるだけ広い水槽で飼育してあげたいものです。またその習性からクマノミと共生するタイプのイソギンチャクに捕食されてしまうこともありますのでこれもいけません。
甲殻類との混泳もタブーです。ゴンベの仲間は甲殻類の仲間を好んで食べるからです。クリーナーシュリンプとして有名なアカシマシラヒゲエビ(スカンクシュリンプ)や、シロボシアカモエビ(ホワイトソックス)さえ襲うことがあります。ゴンベの仲間は混泳できる生物がカクレクマノミやハゼなどよりも少ないというのは、水槽にゴンベの仲間を入れるデメリットといえるでしょう。
ゴンベの仲間の人気種
クダゴンベ
▲クダゴンベ
クダゴンベはゴンベの仲間では細長い体と、長く伸びた吻が特徴です。体には網目模様があり、大変美しいのでゴンベの仲間でもとくに人気がある魚です。細長い口が特徴なのですが、口を大きく開けて甲殻類などを食べてしまいます。その一方なぜか拒食になってしまうこともあり、注意しなければなりません。
ゴンベ科魚類では最も分布が広く、主にフィリピンから入ってくるため、価格もあまり高価ではないのですが、状態には十分注意が必要です。とくに体表に爛れがある個体、鰭がぼろぼろの個体、背肉が落ちているものなどは絶対に購入しないようにします。
クダゴンベの詳しい飼育方法はこちらをご覧ください。
ベニゴンベ
▲ベニゴンベ
このベニゴンベもクダゴンベなどと並び人気が高い種です。とくに全身が赤い体で背中の部分、そして眼のまわりに黒い模様があるなどの点が特徴的です。
自然下ではハナヤサイサンゴの間などに潜んでいることがあります。また飼育する海水も硝酸塩濃度の低い綺麗な水を好みます。そうしないと色があせやすいようです。
琉球列島、小笠原諸島などに分布し、海外では中央太平洋にまでみられます。ただしハワイ諸島にはおらず、ハワイ便で来ることがありますがその場合は別のところで採集されたものがハワイ経由で来ます。また価格もフィリピンのゴンベと比べて高価です。
メガネゴンベ
▲メガネゴンベ
メガネゴンベは和歌山県田辺湾以南に分布し、磯で採集したアクアリストもいます。また、リーフでの釣りで釣れることもあります。丈夫で飼育しやすいですが全長は10cmをこえ、性格はきつくなります。そのため小型のカクレクマノミとの飼育はあまりおすすめしません。またその性格のためでしょうか、販売される数も多くありません。
サラサゴンベ
▲サラサゴンベ
オキゴンベ属の中でもカラフルな種であり、全長7.5cmほどと小さく、後から入れるのであればカクレクマノミとの混泳も可能なのでアクアリストに飼育されることも多い種です。飼育しやすく初心者にもおすすめです。ただしハゼやカエルウオなどを襲うこともあり注意が必要です。
インドネシア便やフィリピン便でコンスタントに入ってきます。ただしその分状態はしっかり見た方がよさそうです。国内では伊豆以南にすみ、アクアリストによる採集例もあります。
サラサゴンベの飼育について詳しくはこちらをご覧ください。
ヒメゴンベ
サラサゴンベに似ているゴンベですが、サラサゴンベよりも大きく全長10cmオーバーになります。そして当然気が強くなり、初心者にはあまりおすすめできません。サラサゴンベに似ていますが眼下の模様は斑点状であり(サラサゴンベでは赤い明瞭な線)、腹部にも斑紋があります(サラサゴンベにはあまりない)。ハゼと混泳していたらハゼをつつき殺してしまったこともあります。ヤッコや大型のクマノミなどと混泳させるべきでしょう。
この種も国内では伊豆半島以南に分布し、アクアリストによる採集例もあります。写真の個体は高知県で釣りにより採集されました。海水魚店で販売されているものの中には国内産も見られます。海外では紅海・南アのイーストロンドンからカリフォルニア湾まで幅広く見られます。
そのほかのゴンベ
ゴンベ科は日本に8属14種、世界では12属33種ほどが知られています。しかしその中で観賞魚として流通する種類はごくわずかです。釣りをしているとウイゴンベやオキゴンベがたまに釣れますし、琉球列島ではさらにホシゴンベやイレズミゴンベ、イソゴンベも釣れます。しかし、釣れたときに大きく傷ついたり、針を飲み込んでしまったものは飼育には向きません。またうまく持ち帰れても、魚の性格が問題になることがあります。とくに大きくなるイレズミゴンベなど、この問題が発生しやすそうです。
ゴンベ飼育まとめ
- スズキ目ゴンベ科魚類の総称
- タカノハダイと同様に肥厚した胸鰭軟条をもつ
- 背鰭棘に糸状突起がありタカノハダイと区別できる
- ハナゴンベはゴンベの仲間ではない
- 一般的なサラサゴンベやクダゴンベは45cm水槽でも飼育できる
- 混泳なら最低でも60cm、種類によっては90cm以上の水槽が欲しい
- 硝酸塩の蓄積には耐えられる
- 基本的には砂を敷かなくても飼育できる
- 動物食性で配合飼料やホワイトシュリンプを与えるとよい
- きつめの性格のものが多く混泳は避けたい。ゴンベ同士も避ける
- サンゴにストレスがかからないようよく観察する
- 甲殻類との混泳は不向き