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2020.11.17 (公開 2020.02.19) 海水魚飼育の基礎

海水水槽に「ナマズ」の仲間がいない理由

淡水水槽を経験したアクアリストであれば、水槽でナマズの仲間を飼育した経験も多いでしょう。底砂掃除をしてくれる「コリドラス」、水草についたコケを食べてくれる「オトシンクルス」、見た目が派手でマニアも多い「プレコ」など…。

しかし、海水魚の水槽でナマズの仲間を飼育しているアクアリストはほとんどいません(少なくとも私は出会ったことがありません)。それはいったいなぜなのでしょうか。

ナマズの仲間はどんな魚なのか

▲南米最大のナマズ、ピライーバ

まず、海水水槽でナマズが飼育されない理由の前に、ナマズの仲間とはいったいどんな魚がいるのかご紹介します。

ナマズ目魚類は2005年の時点では少なくとも34科以上が知られており、種は2405種以上が知られているとされましたが、毎年のように多数が新種記載されています。その結果、ナマズ目魚類はフィリピンのFishbaseによれば3800種を超える大所帯となっています。大きさも様々で、南米アマゾン川・オリノコ川などに生息するピライーバや、欧州産のヨーロッパオオナマズのように3mを超えるような巨大なものもいますが、多くは小型種です。

分類学的には骨鰾上目とよばれるグループであり、コイやドジョウ、カラシンの仲間に近縁です。南極を除く全大陸に生息していますが、欧州などは極端に種類が少なく、東南アジア、アフリカ、南米では数多くの種類が見られます。日本では種類が少なく在来種は14種(うちアカザは複数種に分けられる可能性が高い)。淡水魚が少ないオーストラリアでは淡水性のゴンズイやハマギギの仲間など一風変わった魚が見られます。

一方外来のナマズが移入先で問題になることもあります。チャネルキャットフィッシュやブラウンブルヘッドといった種類はオセアニアやアジアなどに移入され生態系に悪影響を及ぼしています。日本においてもチャネルキャットフィッシュやマダラロリカリアなどが増殖し問題となっています。

ナマズのひげの役割

夜行性のナマズの仲間、ギバチ。ヒゲをたよりに餌を探す

ナマズの特徴としては「ひげ」があげられます。このひげがある姿がかわいいというのもナマズが人気な理由でしょう。例えばナマズやギバチなどはひげに触れた餌を捕食します。ナマズの仲間は夜行性のものが多く、この長いひげを頼りに餌を探しているようです。ただしこのひげはどのナマズの仲間にもあるわけでなく、パンガシウスの仲間(とくにメコンオオナマズなど)のように退化しているようなものもいます。また幼魚はひげがあるものの、成長するとひげがなくなってしまうような種も知られています。

お役立ち系のナマズ

ナマズの中には、水槽のガラス面や水草のコケを食べてくれたり、残り餌を食べてくれるようなものもいます。

コケを食べてくれる

▲小型のロリカリア科魚類、オトシンクルス

▲プレコの仲間は水槽に生えるコケを食べる

水草水槽では水草についたコケを食べてくれるオトシンクルスなどが好まれます。オトシンクルスの仲間はロリカリア科の小型種で、ほかの魚に害を与えないので人気の魚です。一方大型魚混泳では同じロリカリア科魚類であるプレコの仲間が人気です。ただしセイルフィンプレコやアグアプレコ、トリムプレコの類は大型になり性格もきつくほかの魚との混泳は注意が必要です。とくにセルフィンプレコは大型になる種で、小型水槽での飼育はやめたほうが無難です。また大型プレコの仲間はアクリル水槽をぼろぼろにしてしまうことがあります。

プレコの仲間は一部汽水域に入るようなものもいますが、海水域には生息していません。そのためプレコは海水では飼育できません。海水水槽のコケを食べてもらうのであれば、ニシキウズやサザエの仲間など藻類を食べる巻貝にお願いするしかないです。

残餌を食べてくれる

小型ナマズの中でも最も有名なのがコリドラスの仲間でしょう。コリドラスの仲間は小型でありきれいな色彩で、かわいいこと、飼育しやすい(ものが多い)こと、多くの種類が知られ(未記載種も多い)コレクション性もあること、繁殖もさせやすいことから初心者からマニアまで非常に人気があるナマズです。また多くの魚との混泳を楽しむことができます。さらにほかの魚の残り餌も食べてくれることもうれしいポイントといえるでしょう。ただし残り餌ばかり食わせるとやせてしまうこともあるので注意が必要です。

コリドラスの仲間も海にはいませんので、当然ながらコリドラスも海水水槽では飼育できません。海水水槽で残り餌を食べてもらうのであれば微小なヤドカリやそのほかの甲殻類、巻貝の一種であるムシロガイなどを入れておくのが望ましいでしょう。

ナマズの仲間は海水にはほとんどいない!

▲骨鰾類としては珍しい海水魚、サバヒー

ナマズの仲間は基本的にほとんどの種が淡水魚であり、海水に生息するナマズの仲間はゴンズイ科とハマギギ科くらいと少ないもので、しかも飼育も簡単とはいえません。そのため海水水槽ではナマズの仲間はほとんど飼育されないのです。また、ナマズの仲間が含まれる骨鰾類(骨鰾上目)も海にはほとんどいません。この仲間にはネズミギス目、コイ目、ナマズ目、カラシン目、デンキウナギ目がいますが、ほとんどが淡水魚であり、ネオンテトラやクラウンローチ、ゼブラダニオなど、有名な熱帯魚も多く含まれますが、海水魚はほとんどいません。さきほど述べたゴンズイの仲間とハマギギの仲間のほかには、わずかにネズミギス目のネズミギスやサバヒーくらいのものです。ニゴイやウグイ、マルタ、ジュウサンウグイ、コイなど一部の種は海域にも出現しますが、これは例外的なものです。

海にいる数少ないナマズ

海に生息するナマズの仲間は少なく、ゴンズイ科とハマギギ科が知られているだけです。例外的に大雨の後など湾内でナマズの姿が見られることもありますが、このようなケースは含めません。

ゴンズイ科

インド―太平洋にすむゴンズイ科の魚は、ナマズ目の仲間、というよりも骨鰾類では数少ない海水魚です。ゴンズイ科のすべてが海水魚、というわけではなく、中にはタンダンの仲間のようにオーストラリアやその周辺の淡水・汽水域を主な住みかとしている種も存在します。海水に生息するゴンズイ科の魚は、日本近海に住むゴンズイやミナミゴンズイ、東南アジアのグレイイールキャットフィッシュ、オーストラリアの西岸にすむセイルフィンキャットフィッシュなどで、観賞魚として入ってくるのはゴンズイやセイルフィンキャットフィッシュなどです。

背鰭は二つに分けられ、第2背鰭と臀鰭は尾鰭とつながり、ウナギのような形の尾となっています。背鰭と胸鰭に棘があり、この棘には強い毒があるので、取り扱いには注意します。掬うときも網ではなく、プラケースなどで掬ってあげたいものです。スレ傷などに弱いのか、飼育してもあまり長生きしないことが多いです。

ゴンズイはホンソメワケベラほどではないのですが、大きな魚をクリーニングすることがあります。

ハマギギ科

ハマギギの仲間はおおむね汽水域から沿岸の浅場に生息し、ゴンズイの仲間同様にナマズ目では珍しい海水魚のグループです。ゴンズイと異なり、大きくほかの鰭とつながっていない尾鰭をもち、脂鰭もあるため、見た目は淡水産のギギやギバチなどを思わせます。日本には3種が知られるもののまれな種で、観賞魚の世界でもなかなかお目にかかれず、また広い遊泳スペースを確保する必要があります。それでも汽水域に生息する一部の種は観賞魚としての入荷も見られます。雄が口腔内で卵を保護するマウスブルーダーとしての習性も知られています。口腔内で卵を保護する魚はほかにもいろいろいますが、海水魚ではテンジクダイやアゴアマダイの仲間とならび少数派です。

見た目がナマズに似た魚

海にはナマズの仲間は少ないのですが、ナマズの仲間に似た魚がいくつかいます。

イタチウオの仲間

▲イタチウオ

イタチウオは日本沿岸からインド―太平洋の浅瀬から深海(650m以浅)に生息する魚です。口に大きなヒゲがあり、ナマズの仲間ににていますが、アシロ目アシロ科と呼ばれる、まったく異なるグループでむしろタラなどに近い仲間とされています。その中でも海産ナマズであるゴンズイと間違えられることもありますが、本種にはゴンズイの特徴である縦帯がないのが特徴です。また背鰭にも胸鰭にも大きな棘はなく、つかんでも問題ありません。全長40cmと、比較的大型の魚で、刺身にして食べると極めて美味です。

アシロの仲間はほかにも多数の種がしられますが、日本産のアシロの仲間で吻部にひげをもつのはイタチウオのみです。ヨロイイタチウオやウミドジョウなどは下あごに細い糸状のものがあるのですが、これは腹鰭です。

ヒメジの仲間

▲オジサン

スズキ目ヒメジ科の魚です。下顎に1対のひげをもち、多くの種類でより髭の数が多いナマズの仲間とは区別できます(日本のナマズは3対6本)。このひげもナマズのヒゲ同様感覚器官であり、ひげを自在に動かして餌の場所を探すことができますが、大型の種類は魚を食べてしまいます。アクアリストにおいてはこの仲間では比較的小型のオジサンやインドヒメジが見られ、これらのヒメジが水槽飼育向けです。このほかに黄色がきれいなマルクチヒメジなども入ってきますが、マルクチヒメジは50cmにも達する大型種ですのでおすすめしません。ただしヒメジの仲間は白点病などにかかりやすく、注意しなければなりません。

コンビクトブレニー

スズキ目ポリディクテュス科の魚です。「ブレニー」の名前がありますが、トラギスなどと同様のワニギス亜目とされており、カエルウオなどのギンポ亜目とは縁が遠い魚といえます。西太平洋からオーストラリアに2種が知られており、一般的にはフィリピンやインドネシアなどに生息する、Pholidichthys leucotaeniaと呼ばれる種が流通し、オーストラリア産のPholidichthys anguisが入荷したという話は聞きません。

英名の「コンビクト」(Convict)というのは囚人のことで囚人が着る「囚人服」ににた模様があることからこの名前が付いたようです。しかしこの模様は成魚にのみあり、幼魚のころは黒いからだに白い線があり、大きな群れでおり、ゴンズイの仲間の幼魚ににています。ゴンズイは背鰭・胸鰭の棘に毒があり、擬態の一種ともいわれています。観賞魚としてはフィリピン、もしくはインドネシアから入ってくるので高価な魚ではありませんが、状態には注意しなければなりません。

海のナマズまとめ

  • 淡水水槽ではナマズの仲間がよく飼育されるが、海水魚水槽では飼育されない
  • 海水で飼育できるナマズにはゴンズイやハマギギの仲間がいるが、飼育はやや難しい
  • コケ取りとされるオトシンクルスやプレコの仲間は海水での飼育は不可
  • 残餌を食べるコリドラスの仲間も海水では飼育できない
  • コケは貝類に、残り餌はムシロガイやヤドカリに食べてもらう
  • イタチウオやヒメジはナマズの仲間同様にひげがある
  • コンビクトブレニーはゴンズイに擬態している
世界のナマズ 増補改訂版

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江島 勝康
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