2020.02.24 (公開 2017.09.30) 海水魚図鑑
オジサンの飼育方法~ユニークな名前の海水魚を飼う
オジサンはそのユニークな標準和名で知られるヒメジ科の魚です。大型のものは食用や釣りの餌になりますが、小型のものは飼育しても楽しい魚です。下顎の1対のヒゲで砂の中の餌を探します。
ここではオジサンの飼育に必要なことをまとめました。
標準和名 | オジサン |
学名 | Parupeneus multifasciatus(Quoy and Gaimard, 1825) |
別名 | ヘエルカタカシ(沖縄)、メンドリ(高知など、総称) |
分類 | スズキ目・スズキ亜目・ヒメジ科・ウミヒゴイ属 |
全長 | 約35cm(普通はもっと小さい) |
飼育難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッドM、ガーリックパワー |
温度 | 22~26度 |
水槽 | 60cm以上 |
混泳 | チョウチョウウオの仲間、小型のハゼの仲間、小型甲殻類は注意 |
サンゴ飼育 | 可 |
オジサンってどんな魚?
▲奄美諸島喜界島で釣れたオジサン
オジサンはヒメジ科の海水魚です。ヒメジ科の魚は世界で90種近くの種類が知られ、いずれも下顎に1対のヒゲをもっています。オジサンの標準和名の由来となっているこのヒゲはただの飾りではなく、「味らい」と呼ばれる味覚をつかさどる器官があり、砂の中に生息する餌を探すのです。人間で言うところの舌のようなものといえるでしょう。ナマズのひげと同様です。
体側の後部には黒い鞍状斑があり、体色は普段は白っぽい色~褐色ですが興奮したり、逆に夜の休息時には体を赤くします。本種にかぎらず、ヒメジの仲間は模様を変化させるものが多いです。
東部インド洋からハワイ、マルケサス諸島にまで広く分布し、日本では相模湾以南の太平洋岸に分布し、沖縄ではごく普通に見られる種類です。ヒメジの仲間では中型の種で、食用にされたり、釣りの餌にされたりします。同じヒメジ科・ウミヒゴイ属の魚の中にはホウライヒメジのように体が赤くて大きくなるものもおり、四国などでは「メンドリ」と呼ばれ親しまれています。
オジサンと近縁種の見分け方~混同に注意
▲オジサンに似た魚たち
釣り人や市場の関係者の間ではヒメジの仲間を「オジサン」と呼ぶことがありますが、実はそれは正しくありません。実際には標準和名でオジサンと呼ばれるのは本種のみです。
オジサンは九州以北の市場に並ぶことはほとんどなく、九州以北の市場で「オジサン」と呼ばれるのは別種のオキナヒメジやホウライヒメジであることがほとんどです。オジサンはこれらの種類とは、体側の斑紋で容易に区別できます。オジサンは体側の後方に2本の暗色横帯が入りますが、これらの2種は尾鰭の付け根付近に黒い円形斑があったり、帯状斑があったりしますので、すぐに見分けられますので、混同しないようにしましょう。
フタスジヒメジも体側に2本の暗色横帯がありますが、暗色の横帯がでる場所が異なり、ヒゲも黒っぽいのでオジサンとは容易に区別できます。
オジサンと近縁な魚たち
▲ウミヒゴイ属の代表種、コバンヒメジ
オジサンはヒメジ科・ウミヒゴイ属の魚です。ウミヒゴイ属の魚はインド-太平洋から30種ほどが知られています。大西洋には分布せず、そのかわりにベニヒメジ属が分布しています。地中海にも生息していませんでしたが、紅海産の種Parupeneus forsskaliがスエズ運河建設以降進入しているようです。日本産のほかのヒメジ科魚類とは、鋤骨、口蓋骨の歯を欠き、顎歯は大きく1列に並ぶこと、側線鱗数は26~32であることなどで見分けられます。またヒメジ属と比べると大きくなるものが多く、マルクチヒメジやオオスジヒメジなど50cmに達するものもいます。オジサンやインドヒメジはそれらに比べて小さ目で飼育しやすいといえるでしょう。
以下は、日本に分布するウミヒゴイ属魚類リストです。ただ、オオスジヒメジについては2つのタイプがあるとされており、今後これらの種は別種になる可能性が示唆されています。また、ミナベヒメジとロケットヒメジの2種は2013年に「日本産魚類検索第三版」以降和名がついたものであり、同書には掲載されていません。ただ前者については2008年ごろからその存在が知られていました。フタオビミナミヒメジは従来(2002年)から日本(小笠原諸島・南鳥島)から報告されていましたが、和名がついたのは上述の「魚類検索第三版」の中です。なお、フタスジヒメジの学名も変更されているので注意が必要です。いずれの種も食用になり、柔らかい身質は刺身、煮つけ、揚げ物などで美味です。
日本産ヒメジ科・ウミヒゴイ属魚類リスト (標準和名の50音順)
インドヒメジ Parupeneus barberinoides (Bleeker, 1852)
ウミヒゴイ Parupeneus chrysopleuron (Temminck and Schlegel, 1843)
オオスジヒメジ Parupeneus barberinus (Lacepède, 1801)
オキナヒメジ Parupeneus spilurus (Bleeker, 1854)
オジサン Parupeneus multifasciatus (Quoy and Gaimard, 1825)
コバンヒメジ Parupeneus indicus (Shaw, 1803)
タカサゴヒメジ Parupeneus heptacanthus (Lacepède, 1802)
フタオビミナミヒメジ Parupeneus insularis Randall and Myers, 2002
フタスジヒメジ Parupeneus crassilabris (Valenciennes, 1831)
ホウライヒメジ Parupeneus ciliatus (Lacepède, 1801)
マルクチヒメジ Parupeneus cyclostomus (Lacepède, 1801)
ミナベヒメジ Parupeneus biaculeatus (Richardson, 1846)
リュウキュウヒメジ Parupeneus pleurostigma (Bennett, 1831)
ロケットヒメジ Parupeneus jansenii (Bleeker, 1856)
オジサン飼育に適した環境
水槽
▲60cm水槽で飼育しているオジサン
比魚類データベース「Fishbase」によれば、オジサンは全長35cmになるともいわれますが、普通はもっと小さいものです。それでも20cmと、観賞用の海水魚としてはそこそこのサイズになるので、水槽もまた大きめの物が必要です。小さくても60cm規格水槽が必要で、できれば100リットル以上の水量を確保できる60×45×45cm水槽や、90cm水槽で飼育したいものです。
ろ過槽
オジサンは底砂をいじくりまわすため、底面ろ過装置は向いていません。また外掛けろ過槽は小型水槽向きで、少なくとも60cm以上の水槽が欲しいオジサンの飼育にはあまり向いていません。上部ろ過槽や外部ろ過槽が現実的な選択肢です。オーバーフロー水槽で飼育するのもよいでしょう。
水温
オジサンは22~26℃くらいの水温で飼育できますが、25℃前後が基本です。しかし最も大事なことは、水温を一定に保つことです。砂をいじくり病気を発生させるおそれのあるヒメジの仲間を飼育するのに、水温の安定は意外にも重要なことなのです。
※クーラーを使用するには、水中ポンプ及び適したサイズのホースが必要です。
底砂
▲オジサンを飼育するときは底砂を敷いてあげたい
オジサンに限らずヒメジの仲間は砂の中に潜む生物を好んで捕食します。薄くてもよいので砂を敷いてあげるようにしたいものです。厚く敷く必要はありません。逆に厚く敷くと硫化水素が発生する危険もあります。
オジサンの餌と添加剤
オジサンの餌は基本的に配合飼料を与えます。普通はヒゲを使って探り当てよく食べてくれますが、どうしても食べないようなときは、イワシやアジを冷凍し、切り身にして与えるとよいでしょう。ただし生の餌をあげすぎると水を汚してしまうおそれがあるので注意します。
配合飼料に「ガーリックパワー」などを添加し、病気に対する抵抗力をつけさせるのもよい方法といえます。
オジサンの病気の予防と治療
オジサンは髭を使って底砂の中の餌を探しますが、その際に砂を巻き上げてしまい、砂の中に潜む白点病の原因となる原生動物をも巻き上げてしまうおそれがあります。そのため病気対策のためにさまざまな手段をとる必要があります。具体的には殺菌灯の導入、ヒーターとクーラーを用いて水槽の温度を一定にする、餌に添加剤などをもちいて魚の病気に対する抵抗力をつけさせる、などです。
病気になった場合はよく観察して、何日も消えないようなら魚病薬を使って治療します。規定量の半分くらいにとどめておくのが安心です。なお、サンゴ水槽では原則魚病薬は使うことができません。
※この製品を使用するには、水中ポンプ及び適したサイズのホースが必要です
オジサンの入手方法と選び方
購入
飼育するためにオジサンを入手するうえでもっとも一般的な方法は、観賞魚専門店で購入する方法です。オジサンは高くても2000円ほどと、比較的安価な魚ですが、それゆえ高級なヤッコなどと比べると雑な扱いを受けていることがありますので、入荷して日が経ち、落ち着いた個体を選ぶようにします。
また多くの観賞魚店の場合、魚をパッキングするときには水槽から、容器で直接掬って袋に入れてくれる、または網に入れたものを、傷つけないように容器で掬って袋に入れてくれるはずですが、網で直接袋に入れるようなお店もあります。オジサンは鱗がはがれやすく、網で掬うと傷がついてしまうおそれもあります。お店でどのように魚を掬って入れてくれるか、よく観察しましょう。
オジサンの採集
オジサンをはじめとする熱帯性のヒメジの仲間は夏から秋にかけて本州から九州の太平洋岸にも幼魚が出現しますので、磯で採集することも可能です。ただし、幼魚はとくに擦れに弱いので、網で掬ったあと、網ごと直接陸に上げず、容器を使って水ごと移すようにしたほうがよいでしょう。
オジサンの成魚は釣りで採集することもできますが、針を外すときなどなるべく魚を手で触れないように注意します。針を飲み込んでしまった個体は飼育には向きません。
オジサンの混泳
オジサンと他の魚との相性
▲ヒメフエダイとの混泳例
小型ヤッコ、遊泳性ハゼ、ベントスゴビー、ハナダイ、カエルウオ、そしてクマノミなど、同じサイズであれば色々な魚との混泳が可能です。大型水槽ではオジサン同士の混泳も可能です。
オジサンとチョウチョウウオの仲間との相性はあまりよくありません。ヒメジの仲間は底砂をいじりますので、砂が舞い上がり、白点病になってしまうおそれもあるからです。ただでさえ白点病にかかりやすいチョウチョウウオとの飼育はおすすめできません。
また小型のハゼの仲間も混泳はおすすめできません。ヒメジの仲間は大きくなるにつれ魚食性が強くなり、小魚を食べてしまう恐れがあるからです。逆にオジサンの幼魚は弱く臆病で、他の魚との混泳は注意が必要です。カエルアンコウやカサゴはもちろん、ベラやバスレットなどの仲間も要注意です。ハタの仲間を釣るときは餌にヒメジの仲間を使うことがあり、家庭の水槽で一緒に飼育するのは難しいといえます。
オジサンとサンゴ・無脊椎動物との相性
オジサンはサンゴを捕食する恐れはありませんが、砂を掘るのでサンゴに砂がかかったりしないように、あるいは砂をほってサンゴが崩れないように注意する必要があります。逆に大型のイソギンチャクには捕食されてしまうこともあるので一緒にしないようにします。
一方、小型甲殻類はオジサンの好物ですので一緒にしない方がよいでしょう。逆にイセエビなど大型の甲殻類は、オジサンを捕食する可能性があります。
オジサン飼育まとめ
- オジサンはヒメジ科ウミヒゴイ属の海水魚で、相模湾以南の太平洋側で見られる
- ウミヒゴイ属の他の魚も「オジサン」と呼ばれることがある
- 60cm以上の水槽で飼育する。ろ過は上部、外部、オーバーフロー
- 水温は25℃前後。病気予防のため、水温の安定が大事
- 底砂を敷いてあげたい
- 配合飼料を与える
- 鱗がはがれたり、傷がつきやすいので、扱いは慎重に
- 成魚は小魚との混泳に注意
- 幼魚は逆にほかの魚に襲われないように注意
- 甲殻類は大好物
- サンゴとの飼育も可能、ただし砂がサンゴにかからないように要注意