2020.12.04 (公開 2018.08.31) 海水魚の採集
【関東編】秋の海で採集できる魚たち~秋は磯採集のベストシーズン!
夏の終わりから秋にかけては磯採集のベストシーズンといえます。
潮溜まりには数多くの死滅回遊魚が群れており、一年の中でもっとも磯が華やかになる季節です。また関東の海で周年見られる種でもこの季節になると初夏~夏に生まれた幼魚の姿を見ることができます。
ただし、秋とはいってもまだまだ暑い日が続きますので熱中症には注意して磯採集を楽しみましょう。
秋の磯の特徴
▲秋の磯(千葉県・房総半島)
▲春の磯はアオサが多く滑りやすい(同)
夏の終わりから秋の磯は冬から初夏よりも水温が高かったり、台風などが発生したりするため海藻は少なくなりますが、それでも足元には十分な注意が必要です。お子様と採集を行うのであればとくに注意しなければなりません。またカツオノエボシやゴンズイ、オコゼの類など有毒な生き物も多く、見慣れない生き物がいても安易に触らないように注意しなければなりません。
とくに子供たちは見慣れない生き物に触ってしまうことも多く、注意が必要です。かならず大人が近くにいてあげましょう。
気象
▲台風一過の港。流木がたくさん流れ着いている
秋といっても9~10月ごろは暑さが厳しいので、熱中症対策は必ずおこなわなければなりません。水分の摂取はこまめに行いましょう。また魚の入っているバケツ内の水温上昇を防ぐため、バケツは岩陰などに置いておくとよいでしょう。
台風接近中は風・波がいずれも強いため採集どころか海へ近寄ることもしてはいけません。台風が過ぎた後はまだ波や風が強いため潮溜まりや港湾の中にも流木や流れ藻などが浮かんでいることがあります。その中には魚の稚魚なども数多く見られ、絶好の採集チャンスといえます。
秋の海で出会える魚
チョウチョウウオ・ヤッコの仲間
▲チョウチョウウオは飼育が難しい
チョウチョウウオの仲間の幼魚は秋の磯のアイドルといえます。毎年多くのファンがこの魚との出会いを求めて海へと繰り出すのです。関東沿岸ではチョウチョウウオ、フウライチョウチョウウオ、トゲチョウチョウウオ、チョウハン、セグロチョウチョウウオ、アケボノチョウチョウウオ、ハタタテダイなど見られる種は限られてきますがそれでもこれらのチョウチョウウオは毎年流れ着いてきます。運が良ければゴマチョウチョウウオやニセフウライチョウチョウウオといった種類も見られ、これらの登場に期待するアクアリストも多いのです。
ただしチョウチョウウオの仲間は飼育がやや難しく、私もほとんど長期飼育には成功していません。
理由は、最初から配合飼料を口にするとは限らず、殻つきのアサリなど(水を汚しやすい)生の餌を用意しなければならないこと、幼魚はこまめに餌をあげなければならないこと、白点病・エラ病といった病気にかかりやすいことがあげられます。
これらの対策としては、高いろ過能力をもつろ過槽の使用、殺菌灯の使用などにより防ぐことができます。しかしながらこれらを使用しても病気になることがあります。エマージェンシーに対応できない初心者にはあまりおすすめできない魚といえるのです。
キンチャクダイ(ヤッコ)の仲間は関東地方では種類的には少ないです。サザナミヤッコはほとんど毎年出現しこれを狙うアクアリストも多いのですが、成魚は大型化します。
ソラスズメダイ
▲ソラスズメダイの幼魚
関東の磯で見られる青いスズメダイが本種です。ルリスズメダイはもっと南方系で和歌山や四国でもなかなか見られませんが、ソラスズメダイは関東の磯でも見られます。しかし飼育しているうちに黒っぽくなったり、性格がきつくなったりすることもあるのでよく考えてから持ち帰るようにしましょう。もちろん、採集した場所であっても逃がすということはしてはいけません。
飼育方法についてはこちらをご覧ください。
オヤビッチャの仲間
▲房総半島の磯で採集したオヤビッチャ
オヤビッチャやその近縁種も夏から秋にかけて磯でみられます。夏に登場したときはまだ黒っぽかったオヤビッチャも、このころにはもうすでにカラフルな色彩となり、アクアリストを楽しませてくれます。オヤビッチャとシマスズメダイが多いですが、このほかにロクセンスズメダイ、テンジクスズメダイといった種も採集することができます。
なおオヤビッチャやロクセンスズメダイは外海に面した磯に多く、テンジクスズメダイはやや内湾に多い印象があります。シマスズメダイは適応能力が高いのかどちらの環境でも見られます。しかしこの3種が同所で見られる場所もあります。
これらのスズメダイは丈夫で飼育自体は容易なのですが、ほかの魚との混泳が難しいものが多く、家に持って帰るまえによく考えるようにしましょう。
飼育方法についてはこちら。
オヤビッチャ属の同定方法についてはこちらをご覧ください。
そのほかのスズメダイ
▲イチモンスズメダイの幼魚
▲ネズスズメダイの幼魚
▲ネズスズメダイの成魚
磯で採集できるスズメダイの仲間はほかにもいます。関東の磯でもイチモンスズメダイやネズスズメダイといったとてもカラフルなスズメダイと出会うことができるのです。イチモンスズメダイや、よく似たミヤコキセンスズメダイは黄色い体に青と赤の線、そして大きな目玉模様があり、ネズスズメダイはグレーの地色にメタリックブルーの線、そして鱗が同様の色で縁どられるという非常に美しい色彩の魚です。
これだけ綺麗な魚だと、観賞魚として人気があるのは当然といえます。しかし、現実としてこれらのスズメダイはあまり観賞魚店でみることはありません。なぜならばこの仲間が美しいのは幼魚だけで、成長すると黒色やグレーなど地味な色彩に変貌してしまうからです。
かなり気が強く温和な魚をいじめることもあり、ほかの強い魚と混泳させるのが無難です。カクレクマノミなどよりも気が強く、持って帰るかどうかはあらかじめよく考えてからにしましょう。
関東地方で見られるスズメダイの仲間にはこのほかにもスズメダイ、ミツボシクロスズメダイ、ナガサキスズメダイ、クマノミなどがいます。コガネスズメダイやマツバスズメダイなどはやや深場に生息し釣りで入手することもできますが、飼育できるような状態で釣れることは意外と少ないといえます。
イソギンポの仲間
▲カエルウオは成魚も幼魚も模様がほとんど変わらない
カエルウオは磯ではほぼ一年中みられる魚ですが夏から秋のはじめにかけてはかわいい幼魚に出会えます。地味な魚ではありますが岩などにつくコケを食べてくれるので助かります。バケツの隙間などから飛び出すこともありますので注意が必要です。持ち帰るときはバケツのフタに穴をあけ、そこからエアポンプのチューブを通すようにするとよいでしょう。
温帯性のナベカなども高水温には強く、夏の磯でもよく見られます。夏季には親をそのまま小さくしたようなかわいい稚魚の姿も見られます。
カエルウオの飼育方法はこちらをご参照ください。
ベラの幼魚
▲ニシキベラの幼魚
▲コガシラベラの幼魚
ベラの仲間も色々見られます。ニシキベラやホンベラ、カミナリベラ、オハグロベラはほぼ周年見られますが、関東ではこの時期にかわいい幼魚が浅場を遊泳しています。熱帯性のベラでもアカオビベラやコガシラベラなどの幼魚が千葉県以南の太平洋岸の浅瀬を遊泳しています。これらのベラは細身の体をしており輸送中にほかの魚などに襲われたりつつかれたりなどして弱ったり死んでしまったりということがあります。それを防ぐために隔離ケースなどにいれて運ぶようにしましょう。
ニシキベラやコガシラベラ、オハグロベラといった種類は夜間岩陰で眠りますが、ホンベラやアカオビベラ、カミナリベラなどは砂の中に潜って眠ります。
ニザダイの仲間
▲シマハギ
ニザダイの仲間は関東でも何種類か生息しており、水深1mを切るような浅瀬でも採集することができます。関東沿岸では通称「並ニザ」とよばれる標準和名ニザダイが多く、このほかクロハギやシマハギ、ニセカンランハギといった種類や、ごくまれにヒレナガハギやニジハギといった種も採集することができます。
大変動きが素早く、細かく動くので採集には難儀する種類です。しかしそれだけ、網に入ったときの感動が大きい魚ともいえます。コケを食べてくれるものが多くコケとりとして入れられることも多いのですが、遊泳性が強く大きくなるものが多いこと、鰭に毒をもつものがいること、白点病などの病気にかかりやすいので注意が必要です。
アイゴ科はニザダイ科と近縁とされている魚ですが、卵の性質が異なるようで関東地方の磯ではアイゴ科魚類はアイゴ以外のものはほとんど見ることができません。一方、やはりニザダイ科魚類に近縁なツノダシは関東はもちろん、年によっては東北地方の太平洋岸にも出現します。
ハゼの仲間
▲クモハゼはやや性格がきついので注意
夏から秋にかけては関東沿岸でも数多くのハゼ科魚類が見られます。クモハゼ、ヤハズハゼ、クツワハゼ、イソハゼ、ホシハゼなどが多くみられるようになりますが、高水温に弱いキヌバリやチャガラなどは夏になると浅瀬から姿を消し、若干深めの場所に移っていくようです。一方同じゴビオネルス亜科のアゴハゼやドロメはといった種は夏でも浅いタイドプールでよく見られます。
遊泳性のハゼとしてはクロユリハゼなども見られるようになります。飼育は容易ですが臆病ですので気が強い魚との混泳は避けましょう。
ハゼの仲間の卵は岩などに産み付けられます。そのため卵の状態では浮遊して分布を広げることができないので、浮遊するタイプの卵を産むチョウチョウウオやニザダイなどと比べると関東の磯ではあまり南方種を見つけられません。
どの種も飼育しやすいのですが、クモハゼやクツワハゼなどは大きくなると混泳している小魚を食べてしまうこともあり注意が必要です。
フグ・カワハギの仲間
▲房総で採集したサザナミフグの稚魚。浮遊する海藻についていた
フグやカワハギの仲間も熱帯から多くの魚が海流にのって関東近辺にも姿を見せます。人気のハコフグの仲間も磯で出会うことがありますが、死んだり危険がせまったときなどは皮膚から毒をだし、運搬中にも毒をだすことがあるため、慎重に持って帰らなくてはなりません。また飼育中も同様に毒をだすことがあるので、単独での飼育がおすすめといえます。
フグ科の魚は台風の後がねらい目です。サザナミフグなどは海に浮かんでいる浮遊物の中に潜んでいることが多く、その中にかくれているところを掬うのがおすすめです。年や場所によってはモヨウフグ、ワモンフグ、スジモヨウフグといった種類が混ざることもあります。しかしフグの仲間は病気になりやすいことや餌を食べるときに餌を口に入れたり出したりするので水を汚すおそれがあること、死ぬと毒を出すおそれがあることなどからあまり初心者にはおすすめできません。殺菌灯や高いろ過能力を持ったろ過槽を使用することも重要です。
モンガラカワハギ科のアミモンガラや、カワハギの仲間のソウシハギ、ウスバハギ、ハクセイハギなどは流れ藻についていることが多い魚です。しかしアミモンガラは性格がきつく、ソウシハギは全長1mオーバーになる大型種でしかもデリケートな性格の魚であり、あまり初心者にはおすすめできません。南方にすむキヘリモンガラやゴマモンガラの幼魚も年によって採集できますが、これらの魚の性格はスズメダイの仲間よりもずっときついため混泳にはまったく適しません。
これらのことを考えると初心者にはあまりおすすめできない魚たちといえます。
その他 秋の海で見ることができる魚たち
▲コバンヒメジ
下あごに2本のひげがあるヒメジの仲間はベラといっしょに群れていることがあります。関東の浅い磯で見られるものはホウライヒメジやコバンヒメジが多いのですが、ときにはオジサンやオオスジヒメジなど、沖縄などに多い熱帯性の種類も見られます。ベラといっしょに群れているのはウミヒゴイ属の魚が多く、ヒメジやヨメヒメジなどの種類はあまり見られません。
波打ち際にきらきら光り輝くボラの仲間が群れていることもあります。ワニグチボラやフウライボラなどは波の泡に擬態しているともいわれています。ボラの仲間はほかの魚に危害を加えることはありませんが逆にほかの魚に襲われて死んでしまうこともあり注意が必要です。
この時期の釣りものとして人気があるものの中にはメッキアジと呼ばれるギンガメアジ属の養魚がいます。釣れたアジの口から針を上手く外すことができれば飼育も可能ですが、かなり大きくなるため注意が必要です。ギンガメアジは淡水域にも入り、かなり上流にまでその姿をみることができます。
このようにいろいろな魚を採集することができますが、その中には気が強いもの、毒でほかの生き物を殺すおそれがあるもの、病気になりやすいもの、すぐ大きくなるものなどがいます。初心者の方はなるべくベテランの方と同行し、わからない魚を教えてもらうようにするとよいでしょう。もちろん図鑑などで魚類の同定を試みるのもよいですが、初心者には難しいかもしれません。最初は磯で出会える魚が掲載された本で同定を行うのがよいでしょう。
この海水魚ラボでも何度か述べてきたと思いますが、一度持ち帰り飼育した魚を逃がすということは絶対にやってはいけません。
魚を磯から持ち帰るときの注意
▲外食の際は注意が必要
秋といえどまだまだ気温が高いため、クーラーの効いた車内にバケツを置いておくようにしましょう。トランクの中は高温になるため魚を置いてはいけません。
採集は結構疲れますので、帰りにレストランなどで食事をしたいということもあるかもしれません。その時は少しだけ窓を開け、魚の入ったバケツに帽子などで日陰を作ってあげるようにしましょう。自動車の窓を閉めっぱなしにすると、車内の温度は50℃を超えることもあります。そんな温度では魚は生きてはいけません。もちろん貴重品などは必ず身に着けるようにします。
秋の磯採集~まとめ
- 秋になってもまだ暑い。熱中症対策は万全に
- 秋は死滅回遊魚も多く磯がもっともにぎやかな季節
- 台風の日は海に近づかない
- チョウチョウウオやスズメダイなど熱帯の魚に出会えることも多い
- 性格がきつかったり毒を出すなど初心者向けでない魚もいる。持ち帰る前に確認を
- 周年磯にいる魚でも稚魚に出会える