2019.03.28 (公開 2018.09.15) 海水魚図鑑
フウライチョウチョウウオの飼育方法~関東で採集可能!餌付けのポイントや混泳の注意点
フウライチョウチョウウオは、チョウチョウウオ科の一種で熱帯性の魚です。しかし夏から秋にかけて関東以南の太平洋岸の磯で採集することができます。
かわいい幼魚を持ち帰りたくなるものですが、フウライチョウチョウウオはデリケートで雑食性のチョウチョウウオとしてはやや飼育しにくい種となります。
ここではその飼育のポイントや、採集した個体の餌付け、混泳の注意点などをまとめていきます。
標準和名 | フウライチョウチョウウオ |
学名 | Chaetodon vagabundus Linnaeus, 1758 |
英名 | Vagabond butterflyfish |
分類 | スズキ目・スズキ亜目・チョウチョウウオ科・チョウチョウウオ属 |
全長 | 20cm |
飼育難易度 | ★★★★☆ |
おすすめの餌 | 冷凍アサリなど。根気よく餌付ければ配合飼料も食べる |
温度 | 25℃ |
水槽 | 60cm~ |
混泳 | 強 |
サンゴ飼育 | サンゴは食べてしまうため不可 |
フウライチョウチョウウオってどんな魚?
フウライチョウチョウウオは、チョウチョウウオ科・チョウチョウウオ属の魚です。チョウチョウウオ(ナミチョウ)やトゲチョウチョウウオなどとならび夏から秋にかけて関東地方の磯でもよくみられる種類です。体の後方が黄色っぽく、体側に斜めの縞模様がありトゲチョウチョウウオに似ていますが、飼育はトゲチョウチョウウオよりも若干難しめです。
標準和名・学名・英名はみな「浮浪者」とか「風来坊」とかいう意味があります。Butterflyfishとはチョウチョウウオの仲間の英名です。洋の東西で同じような考えをしていたのかと思いきや、和名のほうは英語の直訳とされています。自然下では全長20cmを超えます。分布域は広く、東アフリカから中央太平洋にまでみられます。
フウライチョウチョウウオの近縁種
トゲチョウチョウウオ
▲トゲチョウチョウウオの幼魚
フウライチョウチョウウオと同様、関東地方以南の太平洋岸でも夏から秋にかけて幼魚を採集することができるチョウチョウウオです。体側にクロスする斜帯があり、フウライチョウチョウウオと間違いやすいのですが、トゲチョウチョウウオは体側の後半がオレンジ色ですが、フウライチョウチョウウオは黒い帯が入ります。
成魚になるとトゲチョウチョウウオの背鰭軟条部には大きな黒色斑が残り(ただし紅海のものは黒色斑がない)、鰭条が糸状に伸長しますがフウライチョウチョウウオにはこれらの特徴は見られません。
トゲチョウチョウウオは好奇心が旺盛で比較的早く配合飼料も突くようになります。そのためフウライチョウチョウウオよりも飼育はしやすいといえます。
インディアンバガボンドバタフライフィッシュ Chaetodon decussatus
モルディブ諸島からインドネシアまでのインド-西太平洋域に生息するチョウチョウウオで、背中や臀鰭が一様に暗色なのが特徴です。地味な色彩ですがよく見るととても美しいチョウチョウウオです。スリランカなどから入ってくるものであまり高価ではありませんが、飼育はやや難しいようです。
ホースシューバタフライフィッシュ Chaetodon pictus
中東の海に生息するフウライチョウチョウウオのそっくりさんです。スウェーデンの学者フォルスカルにより1775年に記載された種でしたが、ながらくフウライチョウチョウウオと同種とされていたものです。体側後方の黒い帯の入り方や尾鰭の模様などが異なるため現在では別種とされていることが多く、通称「アラビアフウライ」などともよばれています。流通量は少ない種です。
名前だけが似ている魚
名前だけが似ている種にニセフウライチョウチョウウオとヒメフウライチョウチョウウオの2種類がいますが、見た目はフウライチョウチョウウオとはあまり似ていません。
ニセフウライチョウチョウウオは全長30cmに達し、チョウチョウウオ科の魚では最大級といえます。ヒメフウライチョウチョウウオは従来スポットネイプバタフライフィッシュという英名でよばれていましたが、日本でも沖縄の慶良間(けらま)諸島で発見され和名がつきました。「ヒメニセフウライチョウチョウウオ」とよばれていることもあります。これらは食性や性質もフウライチョウチョウウオとは若干異なり、飼育方法なども違うところがあるのでここでは述べません。
フウライチョウチョウウオに適した飼育環境
▲フウライチョウチョウウオの成魚
水槽
幼魚のうちはそれほど大きい水槽を用意する必要はありませんが、成魚は60cm水槽を用意する必要があります。ほかのチョウチョウウオとの混泳を考えるのであれば小さくても90cm、欲をいえば120cm水槽が欲しいところです。
水質とろ過システム
チョウチョウウオを飼育するのあればしっかりしたろ過槽を用意する必要があります。外掛けろ過槽は簡易型のろ過槽でクマノミやハゼなどの魚を飼育するのに適していますが、チョウチョウウオなどを飼育するのであれば十分とはいえません。また外掛けろ過槽小型水槽向けであり、そのような意味でも60cm以上の水槽で飼育したいフウライチョウチョウウオにはあまり向いていないといえます。
外部ろ過槽、上部ろ過槽であればフウライチョウチョウウオの飼育が十分可能ですが、外部ろ過槽を使用するのであれば上部ろ過槽もしくはプロテインスキマーとの併用がおすすめです。これは外部ろ過槽は密閉式のろ過槽のため酸素がろ材にいきわたりにくいためです。
一番おすすめなのは大型のオーバーフロー水槽で飼育することです。これはほかのろ過槽と比べて圧倒的に水量とろ過能力が大きいことが理由です。システムとしては大量のろ材を用いたウェットろ過、もしくはドライボールを使用したドライろ過がおすすめです。サンゴを飼育するためのベルリンシステムでの飼育はサンゴを食べてしまい、餌もよく食べるため排せつ物の量も多いチョウチョウウオの仲間には不向きといえます。
水温
水温は25℃をキープします。それより低めでも高めでも飼育できますが、水温は一定であることが大事です。水温の変動が大きくなると体調を崩してしまい、そこから病気になってしまうこともあるからです。
また病気予防のために殺菌灯を使用したいところですが、そうなると水温も上がってしまいますのでクーラーも大きめのものを使用したいところです。
殺菌灯
チョウチョウウオは白点病などになりやすいイメージがありますが、病気予防には殺菌灯の使用が有効です。ただしこの殺菌灯は万能ではありません。たとえ殺菌灯を使用していても水がきたなかったり、水温が頻繁に上がったり下がったりするようではチョウチョウウオも体調を崩し病気になってしまうことがありますので過信しないことが大事です。
そのほか
フウライチョウチョウウオは比較的臆病なので小さいうちはほかのチョウチョウウオに追いかけまわされることがあります。そのためチョウチョウウオ同士の混泳の際に隠れられるように、ライブロックやサンゴ岩などを組み合わせ隠れ家を作ってあげましょう。
フウライチョウチョウウオに適した餌
▲アサリは一度冷凍させる
自然下ではおもにサンゴのポリプや付着生物、軟体動物や甲殻類も食う雑食性のチョウチョウウオですが、採集してからいきなりメガバイトというわけにはいきません。まずは冷凍したアサリやコペポーダなどの冷凍餌を与えます。アサリを冷凍するのは病原菌などが水槽に持ち込まれるのを防ぐためです。
その後アサリと配合飼料の両方を与え、少しずつ切り替えていくようにします。頑なに配合飼料を拒む個体はアサリやコペポーダだけで飼育していきますが、アサリはビタミンを破壊する酵素をもっておりますのでできるだけアサリのみを与えるのは避けたいところです。一方コペポーダだけだとチョウチョウウオの仲間のお腹を満たすことができません。やはりいくつかの餌を併用するべきでしょう。
また餌に添加剤を添加するのもおすすめです。ブライトウェルの「エンジェリクサー」を添加するとアミノ酸やタンパク質を魚に供給でき餌の嗜好性も高め、同じくブライトウェルから出ている「ガーリックパワー」を添加すれば餌の嗜好性を高めるだけでなくガーリックエキスが魚の抵抗力も高めてくれます。
フウライチョウチョウウオを入手する
自分で採集する
▲採集したフウライチョウチョウウオ
フウライチョウチョウウオは夏から秋にかけて千葉県以南の太平洋岸で幼魚を採集することができます。幼魚はタイドプールでも見られますが細かくネズミのようにちょこまか動くので意外にも採集しにくいといえます。ただ最近の採集家は本種やチョウチョウウオ(ナミチョウ)の採集を避ける傾向があるようです。これはフウライチョウチョウウオやチョウチョウウオはトゲチョウチョウウオなどと比べ神経質で長期飼育がしにくいからです。
購入する
大きめのものが欲しいのであれば、観賞魚店で購入するのもよいでしょう。フウライチョウチョウウオを購入する際の注意点としてはいくつかありますが、口がスレているもの、体表に傷や白い点、ただれなどがあるものは避けなければなりません。できればお店でも餌をよく食べているものを選ぶとよいのですが、お店で餌を食べていても家庭の水槽で餌を食べるとは限りません。
産地はフィリピンやインドネシアが多く、ザツに扱われやすいので入荷直後の状態が不安定な時期は購入するのを避けるべきといえます。沖縄からも来ますがこの種に関してはどこの産地のものについても、長期ストックされよく餌を食べるようになった個体を購入するのが安心です。
フウライチョウチョウウオの混泳
ほかの魚との関係
▲他のチョウチョウウオとの混泳はケンカに注意
ほかのチョウチョウウオとの飼育はあまり望ましくないといわれています。とくに気が強いミゾレチョウチョウウオやトゲチョウチョウウオなどとの混泳は注意しなければなりません。ただし大きいものはほかのチョウチョウウオを追い払うことがあるなど、パワーバランスの見極めが難しく、混泳させるのは難しいと言えます。
ほかの魚との関係は問題ないことが多いのですが、ソラスズメダイ(フウライチョウチョウウオと同様磯で採集できるので混泳させることも多い)などのスズメダイの仲間やメギス(ニセスズメ)の仲間、モンガラカワハギなどは気が強いので避けたいところです。
サンゴ・無脊椎動物との相性
サンゴは突いて食べてしまうためサンゴ水槽での飼育は禁物です。小型のエビ・カニ・ヤドカリとの飼育は可能ですが、チョウチョウウオの仲間に捕食されやすいものもおり注意が必要です。逆にチョウチョウウオを食べてしまうおそれがあるイセエビやオトヒメエビ、カニやヤドカリの大きなものはいけません。貝もチョウチョウウオが突いて食べてしまうこともあるので注意が必要です。
フウライチョウチョウウオの飼育まとめ
- 雑食性のチョウチョウウオだが意外と長期飼育が難しい
- トゲチョウチョウウオに似ているが体側後方に黒い帯がある
- ろ過はしっかりしたものを
- 殺菌灯は病気予防に効果あり。しかし万能ではない
- 殺菌灯をつけていても温度急変や汚い水では病気になるおそれがある
- 最初から配合飼料は食べない。まずは冷凍餌を食べさせる
- アサリとコペポーダの併用がおすすめ
- 関東の磯でも夏から秋に採集できる
- パワーバランスの見極めが難しくほかのチョウチョウウオとの混泳はしにくい
- スズメダイやニセスズメとの混泳は要注意
- サンゴなどとは混泳不可。貝類も捕食されるおそれあり