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2020.07.18 (公開 2020.07.06) 海水魚の採集

磯採集で獲れても持ち帰らないほうがよい魚

磯採集ではいろいろな魚が採集できます。しかし、採集してもうまく飼育できないものや、ほかの魚を駆逐してしまう魚などは持ち帰っても死なせてしまったり、もてあますだけになってしまいます。今回は磯で採集できても持ち帰らないほうがよいかもしれない魚をご紹介します。

持ち帰らないほうがよい理由

磯で採集した魚。せっかく採集した魚ですので、持ち帰って飼育したくなりますが、すべての海水魚が飼育に向いているわけではありません。中には以下のような理由から、ほかの魚との飼育には適していない魚もいるのです。これらの魚は単独での飼育ならば問題ないように思えますが、大きくなるものもおり、結局あまり飼育には向いていないといえるでしょう。

気性が荒い

▲ネズスズメダイの成魚はかなり気が強い。単独で飼育するべき

まず気性が荒い魚は前から飼育していた魚をいじめることがあるため、入れないようにしたほうがよいでしょう。とくにスズメダイの仲間では有名で、幼魚はかわいいしカラフルなのですが成長すると地味な色彩になってしまうことが多く、さらにほかの魚を追いかけまわすようになってしまいます。メジナの仲間やイスズミの仲間なども気が強めのことがあり、これらの魚も注意したほうがよいでしょう。このほか水族館の人気者であるモンガラカワハギの仲間も強い歯と顎をもち、魚をかじったりします。

すぐ大きくなる

▲メジナは大きくなりやすい(写真は水族館で飼育していたもの)

すぐに大きくなってしまうような魚もいます。たとえばメジナやイスズミの仲間は小さいものでもあっという間に大きくなり木葉以上の大きさになってしまいます。そのため水槽もできれば最初から大きな水槽で飼育するようにしたいものです。このほかスズメダイやフエダイ、イサキの仲間なども成長が早くてすぐに大きくなってしまうので注意します。とくにフエダイやイサキ科は小魚も食べてしまうので気をつけなければなりません。またアジの仲間は大きくなるだけでなく遊泳力もつよいため、よほど大きな水槽でないとうまく飼うことは困難でしょう。

動物食性が強い

魚の中には動物食性が強い魚もいます。オニカサゴ、イソカサゴなどのカサゴ類やウツボ類、さらに先ほどもご紹介したフエダイ・イサキ科などがその例にあてはまります。また中にはカエルアンコウなどのように生きたもの以外はなかなか食べてくれないものもいます。タツノオトシゴはブリードものはホワイトシュリンプなどに餌付きやすいのですが、採集ものはそうではないためブリードものより飼育が難しいといえます(ブリード個体も飼育しやすいわけではない)。また、このほかにもハゼの仲間なども極小サイズの魚を食べてしまうことがあるので注意が必要です。

毒を出す

フグの仲間やハコフグの仲間も磯で採集できる人気の魚ですが、これらの魚は毒を出すことがあり、飼育は単独で行わなければなりません。持ち帰るときも単独で持ち帰らなければならず、かつ海水も共有しないほうがよいでしょう(つまり隔離ケースなどにいれるのではなく、別のバケツが必要)。このほか関東の磯で採集される魚としてはミサキウバウオなどが毒を持っていることが知られています。

飼えなくなっても放流してはいけない

▲最後まで面倒を見てあげよう

この「海水魚ラボ」でも何度か書いてきたことですが、飼育ができなくなったからといっても放流することのないようにします。たとえ採集場所に逃がすとしても、寄生虫や病気の問題などもあり、一度飼育した魚は採集場所であっても逃がさないようにお願いしたいものです。

持ち帰らないほうがよい海水魚一覧

今回は主に関東近辺の磯で夏に採集できる海水魚で、ほかの魚と飼育しないほうがよい魚をご紹介しています。これらのほかメバル、アイナメ、カジカ類、コモンイトギンポ、スナビクニンなどの魚は高水温に弱くサンゴ水槽には不向きなところがあります。またチョウチョウウオの仲間のようにサンゴを食べてしまうものなどもおり、そのような魚もサンゴ水槽しかないようであれば持ち帰らないほうがよいでしょう。

コトヒキ

▲コトヒキの幼魚。このくらいのサイズで真っ黒なこともある

▲ある程度大きくなったコトヒキ。模様は面白いのだが。

理由:性格が非常にきつい

コトヒキはスズキ目シマイサキ科の魚です。幼魚は真っ黒い体、成魚は弧を描く模様が特徴でなかなかきれいなので持ち帰りたくなりますが、性格が非常にきついためほかの魚と混泳させるのは困難といえるのです。とくにこの種は夏の磯、極めて浅い波打ち際や、お湯のように熱くなったタイドプールにも見られ子供が採集してしまうこともあります。しかし先述のような激しい性格の持ち主でほかの魚をいじめるため持ち帰らないようにしたいものです。大きくなるとルアーにもアタックし、食用となりなかなか美味です。

メジナ

▲春の磯ではよくみられるメジナ

理由:性格はややきつくすぐに大きくなる

メジナは日本の広い地域の沿岸でみられるお馴染みの磯魚です。性格はややきついという程度でほかの魚との混泳もできるのですが、問題なのは成長が早いことで、すぐに大きくなることです。餌を与えていると写真のような子メジナでも1年で木葉サイズを超えるような大きさになります。そのため狭い水槽しか持てないのであれば持ち帰らないほうがよいでしょう。また、メジナ科と近縁のイスズミ科も似たようなもので、成長が早いです。

一応メジナの飼育方法はこちらでご紹介しています。

シマスズメダイ

▲シマスズメダイの幼魚

理由:性格が非常にきつい

シマスズメダイもまた夏季、お湯のように熱い潮だまりでみられるスズメダイの仲間です。太平洋岸では千葉県以南のどこでも見られ、年によっては日本海岸でも見ることができ、7月ごろから磯でみられるため夏のはじまりを告げるような存在でもあります。しかしその性格は極めて激しく、大きく育ってしまうとルリスズメダイなどもかないません。潮だまりで簡単に採集でき、飼育も簡単ですが、安易に持ち帰ってはいけない魚ということがいえます。ちなみに塩焼きなどにして食べるとかなり美味な魚です。

ネズスズメダイ

▲ネズスズメダイの幼魚

▲ネズスズメダイの成魚。上の写真の1年くらい後に撮影

理由:性格が非常にきつく色も地味になってしまう

ネズスズメダイは関東近辺でも見られるスズメダイで、鱗の斑点と、背中のメタリックブルーがたいへんに美しいスズメダイです。しかしこの特徴を有するのは幼魚だけで、成長すると体はその名のとおりねずみ色に変貌してしまいます。関東の磯でも年によっては見られますが、成長した後のことも考えないとひどい目にあいます。たいへん丈夫で非常に飼育しやすい種ではありますが、大きくなった後のことも考えなければなりません。また、同じように関東でみられるルリスズメダイ属の魚であるミヤコキセンスズメダイや、イチモンスズメダイも似た習性をもっているので注意が必要です。

ミツボシクロスズメダイ

理由:かわいいのは幼魚だけ。性格非常にきつく危険

ミツボシクロスズメダイは体が黒く、白い大きな点がありかわいいスズメダイなのですが、かわいいのは幼魚のころだけで、成魚は黒く丸い体はそのままですが白い点は小さくなり、性格も非常にきつくなりソラスズメダイも敵いません。単独で飼育できるなら別ですが、そうでなければ確実にショップへの引き取り案件になってしまう種です。ですので海では見るだけにして、持ち帰りはしないようにしましょう。一応ミツボシクロスズメダイの飼い方については記してありますのでご覧ください。

コショウダイ

▲コショウダイの稚魚

▲ある程度の大きさになったコショウダイ

理由:性格がややきつめで大きく育つ

イサキ科のコショウダイの幼魚は真っ黒で、体高が高く、波打ち際を落ち葉のように漂っていることがありますが、成魚は全長50cm以上になる大型種です。水槽ではさすがにそれほどのサイズにはならないようですが、それでも大きな水槽が必要になります。また成長すると気が強くなり、小魚を捕食することもあるため、小魚との飼育は厳禁です。

カサゴの仲間

▲イソカサゴ(写真)やハオコゼが磯で多くみられる

理由:動物食性が強く餌付きにくいことも

関東近辺でもカサゴ、オニカサゴ、イソカサゴ、ハオコゼなどが採集できるのですが、動物食性が強くて小魚を食べてしまいます。またなかなか配合飼料を食べてくれないこともあり、初心者にはおすすめできない魚といえます。イソカサゴやハオコゼは単独で飼育すれば楽しいのですが、やはり小型の甲殻類は餌になってしまいます。一部の種は高水温にも弱いので注意しなければなりません。鰭棘に毒があるのでこの点も注意しなければなりません。

ウツボの仲間

▲トラウツボ

理由:動物食性が強く単独飼育が原則

ウツボの仲間も磯で採集できることがありますが、やはり動物食性が強く、ほかの魚と飼育しないで単独飼育が原則となります。飼育するとよく人に慣れかわいいものなのですが、脱走してしまったりするのでしっかりとフタをしておくこと、水質が悪化しやすいのでしっかりとしたろ過槽が必要になること、そして大型水槽が必要になることに注意が必要です。関東沿岸では種の標準和名ウツボのほか、トラウツボ、ワカウツボ、コケウツボなどが採集できます。鋭い歯をもつので取り扱いには注意が必要です。

フエダイの仲間

▲ニセクロホシフエダイ。小さいうちはかわいいが・・・。

理由:動物食性が強く大きくなる

フエダイの仲間は関東沿岸では種類が少ないのですが、それでもクロホシフエダイやニセクロホシフエダイ、イッテンフエダイ、ゴマフエダイなどは潮だまりでよく見られる魚といえます。しかしこれらの種類は動物食性が強く、口に入る魚や甲殻類は何でも食べてしまいます。またクロホシフエダイやゴマフエダイは大きく育ち、水槽内でも30cmを超えますので飼育する前に本当に終生飼育できるのか考えるようにしましょう。ニセクロホシフエダイはそれらの種類よりも小さくまだ水槽飼育向きではありますが、先述のように肉食性が強いので注意が必要といえます。

アジの仲間

▲カスミアジ

▲コバンアジの幼魚

理由:大きく育ちまた取り扱いにも注意が必要。動物食性も強い

アジの仲間も釣りなどで採集でき持ち帰って飼育されることがあるのですが、体表が弱く取り扱いには注意が必要です。また遊泳性が強く大型水槽が必要であり、小魚や甲殻類なども捕食しています。そのため非常に大きな水槽でアジや、アジと同じくらいの大きさの魚と混泳するしかありません。やはり飼育はおすすめできない魚といえます。関東沿岸ではギンガメアジ、カスミアジ、ロウニンアジなどの幼魚(俗にメッキアジと称される)、コバンアジの幼魚なども獲れますが、終生飼育は困難といえるでしょう。

ウバウオ

▲ミサキウバウオの幼魚

理由:毒をだすことがあり

ウバウオの仲間は粘液に毒をもっている魚です。ウバウオは小型種で吸盤を使い岩や大型の海藻にくっついています。ユニークな生態をもつ魚なのですが、粘液に毒があるとされます。また飼育は難しく、特に海藻につくウバウオは高水温に弱い感じがします。またサンゴ礁や岩礁につくミサキウバウオも飼育しやすいとはいえません。

ニジギンポ

▲ニジギンポ

理由:ほかの魚の鰭などをかじる

ニジギンポは流れ藻などについていたりしてかわいいのですが、ほかの魚の鰭をかじることもあり注意が必要です。またニジギンポと同じグループのテンクロスジギンポやニセクロスジギンポ、ヒゲニジギンポなども同様に鰭をかじったり、鱗を食べる習性が知られています。安易に持ち帰らないほうがよいでしょう。分類学的にはカエルウオやヤエヤマギンポ同様イソギンポ科の魚なのですが、コケを食べることはないので注意が必要です。また鋭いカミソリのような牙をもちかまれるとけがをすることもありますので注意しましょう。

フグ・ハコフグ

▲皮膚から毒を出す可能性があるサザナミフグ

理由:毒を出すことがあり飼育もやや難しい

フグやハコフグの仲間は毒魚で有名です。単独飼育であれば問題はないのですが、ほかの魚と飼育すると皮膚から毒を出してしまうことがあります。またフグやハコフグは飼育がやや難しく、初心者が飼育しても長生きさせにくいといえます。やせさせないようにしっかりと餌を与えてあげるようにします。またサンゴについては捕食してしまうこともあり、とくにSPSやLPSとの飼育はおすすめできません。

ソウシハギ・ウスバハギ

▲ソウシハギ(左)とウスバハギ(右)の幼魚

▲ソウシハギの成魚

理由:神経質で飼育しにくく巨大に育つ

ウスバハギもソウシハギもカワハギ科の魚ですが、どちらも大きくなり、とくにソウシハギはカワハギの仲間で最大級で80cmに達することもあります。どちらも幼魚は独特の形状をしておりついつい持ち帰りたくなってしまうものですが、幼魚のうちは神経質で尾鰭などつつかれやすいため、単独での飼育が望ましいといえます。一方成魚では巨大な水槽が必要になるため、いろいろ手間がかかる種といえます。ウスバハギは定置網や釣りで漁獲され食用になります。ソウシハギは琉球列島などを中心に食用になりますが血が非常に匂うことがあり、また内臓が毒化することもあるので注意が必要です。この毒はスナギンチャク類に含まれるものとされます。つまりはこの仲間はマメスナギンチャクなどをつつく恐れがあるということで注意が必要です。

またこの仲間は流れ藻につく習性がありますが、流れ藻につく魚はほかの魚との飼育が難しいものも多く注意が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。

モンガラカワハギ科

▲アミモンガラ

理由:性格が非常にきつく何でもかじる

磯ではモンガラカワハギ科の魚に遭遇することもあります。関東沿岸でもゴマモンガラやキヘリモンガラ、アミモンガラ、クラカケモンガラ、ムラサメモンガラなど一部の種はみることができます。その中でアミモンガラやキヘリモンガラは流れ藻についていることが多く、ブイなど流れ藻以外の浮遊物についていることもあります。性格が非常に厳しく(特に大きい個体)、単独飼育が安心です。また歯も鋭く、コードをかじるなどすることもあり、オーバーフロー水槽で飼育するのが安心です。しかしながらモンガラカワハギの仲間は愛嬌があり単独での飼育でもとても楽しい魚です。

ナンヨウツバメウオ

▲ナンヨウツバメウオの幼魚

ナンヨウツバメウオの成魚

理由:大きくなり巨大な水槽が必要になる

ナンヨウツバメウオは枯れ葉に擬態することで知られる魚です。太平洋岸だけでなく、日本海岸でも年によっては防波堤などでぷかぷか浮かんでいる本種を見ることができるのです。しかしこのように擬態をするのは幼魚のうちだけで、成長するとシルバーに変貌してしまいます。それだけでなく非常に大型になり。海では50cmに達するなど、あまり飼育には向いていないところもあります。なお、分類学的にはニザダイなどに近い仲間とされており、特に幼魚は白点病などに注意しなければなりません。

ハナオコゼ

▲流れ藻についていたハナオコゼ

理由:自分と同じサイズの魚も食べる

ハナオコゼはカエルアンコウの仲間ですが、ほかの仲間とは全く異なる習性を有しています。それは流れ藻に潜み、近づいてきた魚を捕食するというものです。そしてこのハナオコゼは自分よりも大きなサイズの魚をも捕食してしまうという特徴があります。カエルアンコウの仲間は磯やその周辺の砂地で見かけますが、これらもハナオコゼ同様に単独飼育しなければならず、初心者向けの魚でもありません。

タツノオトシゴ・ヨウジウオ類

▲タツノオトシゴは飼育が難しい

タツノオトシゴといえばアクアリストにもお馴染みの魚ではありますが飼育が難しいことで知られています。口が小さく配合飼料が食べられず、主に動物プランクトンを食しているからです。よく冷凍コペポーダや冷凍ホワイトシュリンプ(イサザアミ)などをあげるとよいとされますが、採集したタツノオトシゴはなかなか餌付かないことがあります。海水魚店で販売されているのは養殖物がほとんどで、そのような個体は冷凍ホワイトシュリンプを食べることも多く、飼育は楽といえますが水を汚しやすいので注意が必要です。また同じヨウジウオ科の魚で、同様の習性をもつヨウジウオも飼育が難しい海水魚として知られていますが、こちらはまだ飼いやすいかもしれません。

ほかの多くの魚とは混泳できず、多くの餌が必要で水を汚しやすいのでサンゴ水槽での飼育もあまり向いていません。ある程度の経験が必要な魚といえます。

採集できても持ち帰らないほうがよい魚まとめ

  • 採集しても飼育には向かない魚がいる
  • スズメダイの仲間やコトヒキ、モンガラカワハギ類などは気性が激しい
  • メジナの仲間などはすぐに大きくなってしまう
  • 動物食性が強い魚も飼育しにくい。とくにカエルアンコウやタツノオトシゴなどは生き餌しか食わないことも
  • 毒を出すフグやハコフグ、ウバウオの仲間なども注意が必要
  • 飼えなくなっても海に放流してはいけない
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