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2019.12.08 (公開 2019.08.22) 海水魚の採集

流れ藻や浮遊物につく魚を採集する

春から夏にかけて沖合に出現する「流れ藻」や、台風の後、沿岸に打ち寄せられた流木やゴミの中には小さな海水魚が沢山見られることがあります。流れ藻はなにも隠れるところがないような場所で、小魚たちが身を寄せ合い、外敵から身を隠す場所でもあります。その流れ藻が沿岸にやってきたら、藻ごと掬うと、面白い魚に出会えるかもしれません。ただし、流れ藻につく魚の中には飼育がやや難しいものや、混泳しにくい魚も多く、初心者にはあまり向いていません。

流れ藻とは

▲漂流する流れ藻

固着していた岩から離れ、海面を漂うホンダワラなどの海藻、いわゆる「流れ藻」は海を旅する魚の稚魚たちが一時的に身を寄せる「隠れ家」として利用することがあります。沖合には表層を泳ぐ小魚や、生まれたばかりの魚の稚魚が身を隠せるような場所はほとんどありません。そうなると、ほかの大きな魚などのハンターに狙われやすくなります。そのような小魚や稚魚が流れ藻に身を寄せるのです。しかし、流れ藻の中も完全に安全、というわけではありません。その中に潜むハナオコゼやマツダイといった魚が小魚を狙っているかもしれないのです。

流れ藻以外の浮遊物

▲台風一過、静岡県の港に流れ着いた流木

流れ藻以外にも流木やごみなどが浮遊して魚たちの住処になることがあります。流木は魚のほかに、エボシガイなどの固着する甲殻類(カメノテやフジツボなどの仲間)などを運んだりもします。このような浮遊物は台風の後に沿岸に運ばれてくることが多いのですが、風や波が強い中での採集は避け、弱まってから採集するようにします。

また、流れ藻や浮遊物について魚が長期間にわたる旅をすることがあります。例えば2011年の東日本大震災で被災した漁船がアメリカ西海岸に漂着し、その中に数匹のイシダイがいた、なんていうことがニュースになっていました。このように流れ藻につく魚は広い範囲に分布する種も多く、はるか昔から、そのような魚が分布域を広げる「手助け」をしてきたのかもしれません。

しかし、透明なプラスチックごみなどはウミガメなどが食べてしまったり(のどに詰まって死んでしまうことも)、最近ニュースなどでも耳にする「マイクロプラごみ」などの問題を生みますので、プラスチックに限らずごみを海へ捨てたり、大雨や台風などで海へ流出してしまいやすい場所にプラスチック製品などを放置するのはやめましょう。

流れ藻・浮遊物と漁業

▲モジャコ漁の船

流れ藻の下には小魚がいっぱい見られますが、これを狙う漁法も存在します。有名なのは「モジャコ漁」です。これは流れ藻につくブリの幼魚(モジャコ)を採集するもので、採集した幼魚を種苗生産に用いるのです。このほか、流れ藻ではないのですが浮遊物につく習性を使った漁法に「シイラづけ」というものがあります。これは竹を束ねたものを水面に浮かべて集まってきたシイラを漁獲するというものです。

ブリは採集しないように!

▲漁獲されたブリの稚魚(モジャコ)

ブリの稚魚は漁業により漁獲されますが、この種は種苗生産の主要対象種にもかかわらず、今でもマダイやヒラメのように飼育しての採卵によるものではなく、ニホンウナギなどのように稚魚を海から採集しての種苗採集となるため、それだけ厳しい採捕計画が求められます。したがって、ブリの稚魚を採集するのには都道府県知事の許可が必要になります。ただし、防波堤や磯についた流れ藻の下では、メジナやオヤビッチャ、同じアジ科のカンパチなどは見られましたが、ブリの稚魚は見たことがありませんでした。写真のブリの稚魚も沖合の流れ藻につくモジャコ漁で採集されたものです。

流れ藻・浮遊物につく魚たち

流れ藻や浮遊物につく魚の代表的なものをご紹介します。ただ、これを見ていると流れ藻につく魚は初心者には飼育もしくは混泳が難しいものが多いといえます。ある程度海水魚の飼育経験を積んだベテラン向けともいえるでしょう。

ナンヨウツバメウオ―幼魚は他魚との混泳に注意、大きく育ち持て余すことも

▲高知県で採集したナンヨウツバメウオ

ナンヨウツバメウオはスズキ目マンジュウダイ科の魚です。この種は成魚と幼魚で模様が大きく異なり、幼魚期は茶色の枯葉のような姿が特徴的です。岩手県以南の太平洋岸、日本海西部、琉球列島、インド-太平洋に広く分布しています。ただし、枯葉に擬態しているのは幼魚・若魚のうちだけで成長するとシルバーの地味な色彩の魚に変貌してしまいます。それだけでなく全長50cmほどと大型に成長してしまい持て余すことになることがあります。そのため持ち帰っても飼えるかどうかはよく考えなければなりません。

ツバメウオは少ない

▲沖縄美ら海水族館で飼育されているツバメウオの成魚

日本産のツバメウオ属は4種(水中写真のみが知られているものを含めると5種)いますが、本州~九州でもナンヨウツバメウオやミカヅキツバメウオの幼魚、ツバメウオの若魚~成魚を見ることができます。ただし、なぜかツバメウオはある程度の大きさに育ったものは釣りなどで採集されるものの、ナンヨウツバメウオの枯葉サイズのような小さいものはなぜかあまり見られません。

マツダイ―肉食性が強く大きく育つ

▲高知県のマツダイ

1科1属2種のみが知られる小さな科、マツダイ科の魚です。マツダイもナンヨウツバメウオ同様、水面に浮かぶ枯葉に擬態しています。しかし意外と動きが素早く、網を近づけたら素早く逃げることもあります。

これも成長すると50cm以上(海だと最大1m近く!)になり、家庭での終生飼育は難しいため、よほどの大型水槽が用意できないなら手を出すべきではないかもしれません。動物食性で口に入るような魚は食べてしまいますので、小魚との混泳はできません。食用魚となり、味はかなり美味です。

分類学的にマツダイ科は東南アジアに生息するDatnioididaeと近縁とされています。この科の魚は淡水から汽水に生息しており、淡水魚を飼育するアクアリストには人気があります。

ハナオコゼ―同じサイズの魚も食べちゃうぞ

▲ハナオコゼ。福岡県産

カエルアンコウ科の魚です。この科の魚は多くが浅い海底を歩くようにして過ごしていますが、このハナオコゼだけは流れ藻について、流れ藻のなかに隠れる小魚を襲って食べてしまいます。ときには自分と同じくらいの大きさの魚(同じハナオコゼも!)食べてしまいますので、混泳は困難です。したがって単独飼育しか飼育方法はありません。餌も生き餌が必要になり、初心者には不適といえます。

ほかのカエルアンコウとの見分け方

ハナオコゼとほかのカエルアンコウを見分ける方法は簡単です。体表は小さな棘ではなく小瘤に覆われ、すべすべ、つるつるした手ざわりのものがハナオコゼで、ほかのカエルアンコウの仲間は小棘や小突起に覆われざらざらした感じの手触りのものが多いです。

カエルアンコウ科の魚は食用としてはあまり人気がないものですが、大型になるオオモンカエルアンコウなどは唐揚げなどにして美味しい種です。そのときは鱗のついた皮は剥がして調理します。

メジナ・イスズミ―丈夫で飼いやすいが成長が早く性格もきつめ

▲メジナの稚魚

メジナは磯魚の代表的な種ですが、稚魚は潮溜まりでみられるほか、流れ藻についていることも多いです。メジナは丈夫で飼育しやすいのですが、成長が早くすぐ大きくなること、やや性格がきつめであることなどから、本当に飼育するべきか、よく考えてから飼育するようにしましょう。

メジナのほかによく似た仲間であるイスズミの仲間も採集できることがあります。イスズミの仲間の幼魚は体が黒くて白い点がある幼魚が採集できるのですが、同定は難しいです。飼育については特に難しいところはありませんが性格がきつめであり、かつ大きく成長するため、あまり飼育には向いていません。食用としての評価は分かれますが(季節により磯臭さ有り)、強い引きをしてくれるので、磯釣りでは人気があります。

オヤビッチャ―丈夫で飼いやすいスズメダイの仲間

▲流木の中に潜んでいたオヤビッチャ。静岡県産

オヤビッチャも潮溜まりで幼魚が多く見られますが、メジナ同様、幼魚のうちは流れ藻や、ブイなどの浮遊物のまわりでもよく見られる種といえます。

丈夫で飼育しやすいのですが、性格はややきつめで、ほかの魚との混泳には注意したほうがよいでしょう。

イシダイ・イシガキダイ―性格かなりきつく巨大になり高水温にも注意

▲流木についていたイシダイ。静岡県産

イシダイやイシガキダイの幼魚も流れ藻や浮遊物についていることがあります。近海の魚としては綺麗なので飼育したくなる魅力的な魚ですが、オヤビッチャよりも性格がつよめな上に、高水温に弱いこと(とくにイシダイ)、自然界では成長すると80cm近くにまでなることから、家庭水槽での飼育にはあまり向いていない面もあります。むしろ食用・釣り魚として人気が高い魚です。どちらも成長するにつれ色彩や斑紋が変化していきます。

ウスバハギ・ソウシハギ―カワハギ科の最大種

▲ソウシハギ(左)とウスバハギ(右)。千葉県で2匹揃って浮遊物についていたもの。

▲新江の島水族館で飼育されていたソウシハギ

ウスバハギもソウシハギもカワハギ科・ウスバハギ属の大型種で、ウスバハギは全長70cm、ソウシハギは1m近くにも育ち、カワハギ科では最大級の種類です。カワハギの仲間は広域分布している種類は少ないのですが、この2種はインド-太平洋だけでなく、大西洋にまで分布を広げています。流れ藻について分布を広げたのかもしれません。

何れの種も飼育は難しく、とくにソウシハギは全長1mを近くになることもあるため家庭水槽での飼育は無理があるかもしれません。ソウシハギは長い尾が格好いいのですが、混泳の相手を選ばないと鰭がすぐぼろぼろになってしまいます。幼魚はつつかれて死ぬこともあるようで、とくに弱い幼魚のうちは単独での飼育が望ましいかもしれません。

ウスバハギは「ハゴイタ」ともよばれ、刺身や鍋物などにして美味です。一方ソウシハギは腸に毒を持つことがあり、肉にちょっと臭みがあり食用としてはあまり人気がないのですが、沖縄(センスルーと呼ぶ)や東南アジアでは重要な食用魚です。

アミメハギ・カワハギ―小ぶりだが高水温には弱い

▲アミメハギ。三重県

▲流れ藻についていたカワハギの稚魚。宇和海

ソウシハギは全長1mにもなる巨大な種ですが、アミメハギは成魚でも全長7cm前後の小型種です。小型のカワハギで、60cm水槽でも終生飼育できますが、高水温には注意したいものです。生息地は青森~九州の沿岸で、瀬戸内海でも見られます。沖縄には分布しておらず、代わりに同属のセダカカワハギがアマモ場などで見られます。

また、食用としてや釣りの対象魚としてお馴染みのカワハギも流れ藻で幼魚を採集できます。飼育方法は概ねカワハギと同様ではありますが、アミメハギより大きく成長します。また付着生物を啄むこともあるのでサンゴや無脊椎動物との飼育はしないほうがよいでしょう。

アミモンガラ―かなり性格がきつく混泳は危険

▲高知県で採集したアミモンガラの幼魚

モンガラカワハギの仲間で、三大洋に広く分布し、日本国内でも太平洋岸・日本海岸どちらでも見ることができます。全身真っ黒の体ですが、腹部に白い斑点が入ります。全長は30cmほどで、大きめの水槽が必要になり、性格がきつめでほかの魚を襲うこともあるなど、あまり混泳には向いていません。

釣りや定置網などで漁獲され食用になります。筋肉の部分はしゃぶしゃぶにして食べるとかなり美味しいです。日本海側では冬期の水温低下に耐えられず弱ったものが漂着することもあります。

シイラ―家庭水槽での飼育は困難

シイラは成長すると2m近くにもなる大形の肉食魚ですが、幼魚は流れ藻や流木などの浮遊物についていることが多いです。ブルーグリーンの体がきれいで飼育してみたくなるのですが、酸欠やスレにあまり強くないようで飼育はかなり難しいです。大きくなり遊泳力も強いことを考えると、水族館では飼育できるものの、少々大きい水槽であっても家庭の水槽で飼育できるような魚ではないといえます。

トビウオの仲間―飼育は極めて難しい

トビウオの仲間も流れ藻や浮遊物についていることが多い魚です。ホソトビウオ、ツクシトビウオ、アヤトビウオなど、何種かいるようですが、トビウオの仲間は同定が難しいです。また飼育も難しく、家庭水槽向きではありません。ただそのユニークな姿は、アクアリストに驚きと感動をもたらすでしょう。特に背面から見た姿がかっこいいです。

ニジギンポ―下顎に牙あり、怪我に注意

▲ニジギンポの幼魚。静岡県

イソギンポ科の魚は底のほうに多いイメージがありますが、幼魚は流れ藻についていたりすることもあります。とくにニジギンポは流れ藻や浮遊物についていることが多い魚です。

ニジギンポの仲間はほかにもイヌギンポやハタタテギンポがいますが、このような魚も流れ藻についていることがあります。ハタタテギンポは琉球列島ではかなりよく見かける種です。

なお、ニジギンポやその近縁種は下顎に巨大な牙をもっており、咬まれるとスパッと切れて怪我をすることもあります。咬まれないように気をつけましょう。

サザナミフグ―毒を出すこともあり単独飼育が望ましい

▲浮遊物についていた稚魚。千葉県にて。

フグの仲間で流れ藻などについていることもあります。小さな1cmほどの黒い豆のような個体を採集することができます。やがて白い斑点と白い線が体に現れ、サザナミフグらしくなります。フグの仲間は毒を出したり、最初のうちはなかなか配合飼料を食べなかったりして初心者向けの魚とはいえない面もあるのですが、人によくなれる楽しい魚といえます。分布は広く、インド-太平洋から東太平洋にまで分布しており、日本では青森県以南に見られますが、関東周辺では死滅回遊魚で冬には死んでしまうようです。

流れ藻採集まとめ

  • 流れ藻や浮遊物にはたくさんの小魚がついていることがある
  • 隠れ場所のない沖合にすむ幼魚にとっては重要な避難場所
  • モジャコ漁とよばれるブリの稚魚(モジャコ)を獲る漁がある
  • モジャコ採集には都道府県知事の許可が必要
  • 流れ藻に群がる魚の中には家庭での飼育に適さない種も多い
  • シイラは大きくなり遊泳力が強く家庭水槽での飼育は困難
  • ナンヨウツバメウオやマツダイ、ソウシハギなども大きく育つ
  • ハナオコゼは肉食性が強く単独で飼育したい
  • オヤビッチャやメジナなどは初心者でも飼育できるが気は強め
  • サザナミフグなどは毒を出すこともある
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