2020.07.03 (公開 2019.03.12) 海水魚の採集
【関東編】春~初夏の海で出会える魚と採集の注意点
長い冬も終わり、春になると海辺にもアクアリストたちが戻ってきます。春の磯は熱帯性のチョウチョウウオの仲間などはまだ出現していないものの、磯には小魚の姿がたくさん見られ、磯採集シーズンの訪れを感じさせます。しかしながらこの時期の潮溜まりで見られる魚は高水温に弱いものが多く、クマノミや小型ヤッコなどの魚との飼育はあまり向いていないなど、注意が必要になります。
春の磯で獲れる魚をうまく飼育するには、獲れる魚のことを知ることが大切です。今回は春の磯でよく見られる魚をご紹介します。また、春の磯採集での注意点もあわせてご紹介します。
なお、磯採集の基本についてはこちらをご覧ください。
春の磯の特徴
▲ウミウチワとアオサ類
▲海藻で足元が見えない。要注意
春の海は海藻が多く見られます。魚は大体海藻の中に潜んでいることが多く、海藻の中に網を入れると採集できることがあります。5月の大型連休の際には潮がよく引き、磯には大きな潮溜まり(タイドプール)が出現します。潮溜まりは比較的浅く、子供でも比較的安心して遊ばせられますが、海藻が多いと滑ったり、海藻で足元が見えなかったりすることもあるため、注意が必要です。
春に採集できる魚
ここでは、主に関東地方の磯で春に採集できる魚をご紹介します。流石にまだチョウチョウウオやヤッコなどの熱帯性の魚は見られませんが、磯ではさまざまな魚と出会うことができます。
小型のハゼの仲間
▲チャガラ
▲キヌバリ(太平洋型)
この時期の磯では色々なハゼの仲間を見ることができます。その中でも多いのはチャガラやキヌバリで、これらはいずれもハゼ科・ゴビオネルス亜科・キヌバリ属の魚です。ハゼ科の魚はアゴハゼやマハゼのイメージから岩や砂底にへばりついているものと思われがちですが、この属の魚4種はどれも遊泳性が強く、海底から離れたところをおよぎまわります。これらの魚は夏を過ぎると深場にうつるようで、少なくなる印象があります。キヌバリは秋になると大きく育ったものが浅瀬に戻ります。飼育するのも楽しいですが、どちらの種も高水温に弱いので夏はクーラーが必須となります。
カジカの仲間
▲サラサカジカ
▲アサヒアナハゼ
カジカ科の魚は河川の上流から深海にまで知られ、日本にも90種ほどが知られていますが、その多くの種は冷たい水を好みます。冷水を好む魚で、北海道の沿岸から沖合には種類が多いのですが、関東近辺でも春~初夏にかけてイダテンカジカ、キヌカジカ、スイなど数種は見ることができます。温帯性であってもどの種も高水温は苦手ですので、やはり長期飼育にはクーラーが必要になります。
「アナハゼ」という魚がいますが、アナハゼはハゼの仲間ではなくカジカ科の魚になります。北海道~九州までのほとんどの海岸に生息しますが、動物食性が強く小魚を捕食してしまったり、高水温に弱かったりするのでクマノミなど熱帯性魚類との飼育にはあまり向かないところがあります。
アイナメの仲間
▲クジメの幼魚
アイナメの仲間はカジカ亜目の魚です。北海道から東北地方の沿岸に生息する種が多いのですが、関東沿岸でもアイナメとクジメの幼魚を見ることができます。アイナメは全長60cmにもなりますが、クジメはそれよりは大分小さく、家庭での飼育に適しているといえますが、やはり高水温は苦手で、水槽用のクーラーがないと飼育は難しいでしょう。アイナメの幼魚は地域により「アブシン」とも呼ばれます。アブラメ(アイナメの地方名)の新子、という意味です。
カズナギの仲間
▲コモンイトギンポ
一見ウナギの仲間のように見えますが全く異なったグループの魚で、スズキ目ゲンゲ亜目タウエガジ科の魚です。ゲンゲ亜目は先ほどのべたカジカ亜目と近縁とされ、やはり冷たい海を好む魚です。日本には6種が生息しており、関東地方の沿岸ではコモンイトギンポやトビイトギンポなどが多く見られます。
ほかの温帯性魚類同様で、高水温には弱いです。尾部で海藻などに巻きつく奇妙な生態を観察できます。水槽ではエアレーションなどに使うチューブなどにつかまったりしています。
このほか磯では同じタウエガジ科のダイナンギンポ、ベニツケギンポ、ムスジガジ、ニシキギンポ科のギンポやタケギンポなどもタイドプールやその周辺の海藻の中に潜んでいることがあります。何れも温帯域に生息しますが、やはり高水温に弱いのか夏になると磯の浅場ではあまり見かけなくなってしまいます。したがって、カクレクマノミなどとの飼育は難しいところがある、といえそうです。ただしベニツケギンポは25℃前後でも飼育できていました。なお、マリンアクアリスト誌の62号および85号で「ダイナンギンポ」とされている魚はセンニンガジという魚で、ダイナンギンポとは全く別の魚です。センニンガジはメギス科の魚でサンゴ礁に見られる熱帯性の海水魚です。
ナベカ
▲ナベカは周年磯で見られる
春の磯ではよく目につくイソギンポ科の魚です。鮮やかな黄色の体が特徴の魚で、熱帯魚のようにも見えますが温帯性の魚です。この種は春だけでなく一年中見ることができる温帯性種です。意外と高水温にも耐え、クマノミなどとの飼育も可能です。イソギンポ科の魚はコケをよく食べてくれるカエルウオなどもよく知られていますが本種はナベカ族の魚で、あまりコケは食べてくれません。
コケギンポ
眼の上に大きな目立つ皮弁があり愛嬌がありますが、コケギンポはカエルウオやナベカとは異なるコケギンポ科の魚で、コケは食べてくれません。大きな口をもち、動物食性でプランクトンや小型の底生動物、稚魚などを食べています。飼育については非常に簡単で飼育しやすい魚で、高水温にも比較的強めです。一年中磯でみられる魚です。
メバル
▲メバルの仲間
メバルといえば釣り魚として知られていますが飼育しても面白い魚です。シロメバル、クロメバル、アカメバルといますが、内湾的な環境ではシロメバルが一番多いようです。餌は食べてくれますがやはり高水温には注意しなければなりません。
メバル科は種類が多く、関東の磯ではメバルのほかムラソイ、ヨロイメバル、カサゴなども見ることができます。ソイやカサゴは海底でじっとしていることが多いようですが、飼育方法はどの種もあまり変わりません。ただしどの種も動物食性で小魚や無脊椎動物を餌にしてしまうことがありますので注意が必要です。手網で採集することもできますが、小さな針を使った釣りで採集するのもよいでしょう。しかしながら針を飲んでしまったものは飼育には向きません。
メジナ
▲千葉県で採集したメジナの稚魚
▲メジナの若魚
メジナ科の海水魚です。成魚は磯釣りの対象魚として人気があります。また食用魚としても知られており、白身の美味な魚です。周年よく見られますが、この季節には稚魚が磯の浅場を群れで泳いでいるのを見かけます。
餌は最初から配合飼料を食べてくれるので問題はありませんが、水温の上昇にも、低い水温にも、低塩分にも耐えるかなり強健な魚です。ただし、成長は早くすぐに大きくなってしまうこと、大きいものは若干気が強くなることを考えると、本当に持ち帰るべきか悩む魚ともいえます。
メジナは全国の磯で見られ、千葉県以南の太平洋岸ではこれにクロメジナとオキナメジナが混じります。日本海側ではクロメジナやオキナメジナは少ないようです。
カゴカキダイ
▲カゴカキダイ(下の2匹)
▲カゴカキダイ
メジナと同じくイスズミ科に入れられることもある魚です。このころになるとラメ入りイエローの体のカゴカキダイが磯の浅瀬でよく見られます。黄色い体がよく目立ち、丈夫で飼育もしやすいといえますが、大きくなると性格はややきつめになり、サンゴ水槽ではサンゴをつつくこともあります。
タカノハダイ
成魚は食用になる魚ですが、オレンジ色の斜帯と尾鰭の水玉模様が鮮やかで、熱帯魚と思われ敬遠されることもあります。幼魚も成魚と同じような色彩で、魚が少ない春季の磯では存在感があります。餌もよく食べますが、やや高水温には弱い面が見られます。
アミメハギ
▲アミメハギ
カワハギ科の魚で、カワハギを小さくしたような感じの魚です。大きくても7cmほどと飼育に適したサイズ。最初のうちはホワイトシュリンプなど冷凍の餌を与えますが、人工飼料にもなれます。水温が28℃以上になると弱ってしまいますので、やはり夏はクーラーが必須となります。
採取するときの注意
▲この海藻の上は滑るおそれあり要注意
春はまだまだ涼しい、と思いがちですが5月の連休のときなどは真夏かと思うほど暑くなります。熱中症には十分注意しましょう。麦わら帽子やスポーツドリンクなどの飲料品は必需品です。また岩には緑色のアオサなどの海藻が生えていますが、これはかなり滑りやすいので足元には注意しなければなりません。海の危険といえば、海でおぼれたとか、ガンガゼやゴンズイ、ハオコゼといった危険生物に刺されたなんていうケースが思いつきがちですが、海に入らなくても危険があるのです。また、不測の事態を避けるためできるだけ複数人で磯に行くようにしたいものです。
関東春の磯採集まとめ
- 春の磯は海藻が多い
- 海藻の上に乗ると滑って転倒するおそれあり注意
- 5月の連休あたりでよく潮が引き広大な潮溜まりが出現
- 春の磯で採集できる魚はクマノミやヤッコとの飼育が難しい
- 綺麗なオレンジのハゼはチャガラやキヌバリ。繊細で高水温に弱い
- カジカの仲間は小魚を捕食することも
- 食用として有名なアイナメやクジメも採集できる
- ナベカは比較的高水温に対する耐性あり
- メバルはほかの魚を捕食することも
- メジナやカゴカキダイはやや性格が強めなので注意