2019.11.21 (公開 2018.08.03) 海水魚の採集
採集した魚をバケツで持ち帰る~飼育用に生かして持ち帰る工夫
海で採集した魚を家で飼育する、ということは楽しい事なのですが、そのために絶対に必要なことがあります。それは「家まで生かして持ち帰る」ということです。
ここでは採集した魚をバケツを用いて車やバス、電車などを利用して安全に持ち帰る方法についてご紹介します。
バケツを使って魚を持ち帰る
おすすめのコマセバケツ
磯採集にバケツは欠かせません。採集した魚を生かしておいたり、魚を持ち帰ったり、もしくは物入れとして使用したり、家庭の水槽の水替えや薬浴などにも使える大変便利なものですので、常備しておくとよいでしょう。
私がおすすめするバケツはコマセ(撒き餌)を入れるのに使う「コマセバケツ」です。いくつかのサイズがあり、大きいバケツの中に小さいバケツを入れたりと便利なものです。
バケツのフタを加工する
▲フタにちょっとした工夫を
コマセバケツは頑丈で、魚がぶつかったり、ハリセンボンが膨らんだくらいの衝撃では穴があきません。折りたたむことはできないのですが、積み重ねができるため便利です。しかしバケツに蓋をしてしまうとエアレーションができなくなり、開けっ放しのままエアレーションをしてしまうと魚の種類によっては脱走するおそれもあります。また運搬の際に水がはねてしまうおそれもあります。
そこでバケツのフタを加工してしまうのがおすすめです。コマセバケツの蓋にドリルなどを使用して小さな穴をあけ、エアチューブを通すとよいでしょう。もちろんチューブが通らないような穴では意味を成しません。フタにもう一つ空いている穴はたまった空気を逃がすためのものです。
EVA樹脂製のバケツを使用する
▲EVA樹脂のアジバケツ
コマセバケツと同様に釣り具店で販売されているEVA樹脂(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)製のバケツは折りたたみが可能なこと、人件費の安い中国で製造されているものもありリーズナブルなお値段で入手可能なものが多いなど便利なものです。
ただし、EVA製のものの中にはふたができないものもあり、購入する前に注意が必要です。また、ジッパーやチューブを通す穴の部分などには金属製の部品を使用していることもあるため、サビるのを防ぐために使用した後はきちんと水洗いをする必要があります。
またハリセンボンを入れておくと万が一ハリセンボンが膨らんだ際に、穴をあけてしまい使い物にならなくなったりすることがありますので入れる生物の種類にも注意しなければなりません。
バケツ以外に必要なもの
海水魚を安全に持ち帰るにはバケツ以外にも必要なものが多数あります。
電池式エアポンプ
▲単一乾電池2本で動くエアポンプ「ニッソー Chikara α-B1」
大昔は採集した魚が酸欠にならないように二連球という器具を使用し、空気をバケツやご飯を炊く釜の中に入れた海水に送って持ち帰っていましたが、現在は乾電池で動くエアポンプが安価で入手できます。このエアポンプを使用してエアレーションを行い安全に魚を運ぶとよいでしょう。
また、電池で動くエアポンプは地震などの災害やトラブルによる停電、循環ポンプの故障時など非常時においても水槽にエアレーションができる便利な器具ですので、磯採集に行く予定がなくても、予備の電池とともに一つは用意しておきたいものです。
ただし、航空機の中には持ち込めない(エアーポンプを作動させて運ぶことはできない)ので、遠距離で採集を行い飛行機で帰るときには袋に酸素を詰めてパッキングするなど、別の対策が必要になってきます。
エアチューブ
▲エアチューブとエアストーンは付属するものが多い
エアポンプとエアストーンをつなぐチューブです。このチューブは釣り具店などでエアポンプを購入するとついてくることがありますが、付属しないこともありますのでチェックするようにしましょう。
エアスト―ン
▲採集したクマノミやスズメダイを運ぶ
エアチューブの先に付けるものです。セラミック製、木製のものなど色々販売されていますが、木製のものは「ウッドストーン」と呼ばれることが多いです。エアリフト式のプロテインスキマーにもよく使われているものです。
ただ、私は輸送にはこのエアストーンを使用しません。これは水に空気を吹き込みますが、ろ過はしないため、何か問題があったときに魚が死んでしまうおそれがあるからです。また淡水魚(タナゴなど)やテンジクダイの仲間の場合は細かい気泡が魚を傷つけてしまうということもあるようです。
投げ込み式ろ過槽
▲カニも入っているがカニは他の魚とは別に運びたい
エアストーンのかわりに投げ込み式ろ過槽を使用する方法もあります。私が一番おすすめする方法でもあります。エアチューブの先端、エアストーンの代わりに付けるもので、キンギョなど淡水魚水槽のろ過に適しています。
海水魚の飼育にはパワー不足ではありますが、運搬中の水のろ過、酸素の供給という点では高いパフォーマンスを示してくれるものです。
乾電池
▲適した電池を使用する
電池式エアポンプを動かすのには乾電池も当然必要になります。単一乾電池2本で動くものが多いのですが、一部、単三乾電池2本で動く機種もあります。機種ごとに必要な電池を購入しなければなりません。
他の魚と持ち帰ってはいけない生き物
バケツで持ち帰るとき複数の魚をいっぺんに持ち帰ることがあります。しかし、魚の種類によってはおすすめできません。他の魚や生物を捕食してしまったり、最悪の場合毒を放出し、バケツの中の生き物を全滅させてしまうおそれがあります。
特にハコフグはアクアリストに人気があり、関東近辺でも出会えるため持ち帰ってしまうことが多いのですが、注意が必要です。
エビ・カニ・ヤドカリ類
▲甲殻類は要注意
エビやカニの仲間はバケツの中でほかの生き物を捕食してしまうおそれがあります。ヤドカリの仲間はコロコロころがり他の魚を傷つけてしまうこともあり、なるべくほかの魚とは隔離して運ぶようにします。逆にエビやカニが死んでしまうと水を汚す恐れがありますのでそのような意味でもほかの魚と一緒に運ぶのは避けた方が無難です。
エビやカニなどを運ぶときには、輸送中に掴まることができるようにスポンジなどを入れておくとよいでしょう。メラミンスポンジをカットしたものなどを入れておきます。
カワハギ・モンガラカワハギ類
▲モンガラカワハギの幼魚。気が強いので注意が必要
▲逆にソウシハギはデリケートで飼育しにくい
モンガラカワハギの仲間は観賞魚として人気が高いのですが、ほかの魚の鰭や体などをかじるという悪癖をもっています。大変強い性格の魚で、バケツの中でもその悪癖を披露するおそれがあるので、持ち帰るか、逃がすべきかよく考えましょう。なお、モンガラカワハギの仲間は色々な種を磯遊びで採集することはできますが、標準和名モンガラカワハギ(通称ホンモンガラ)はやや深みにすむらしく、なかなか見ることができません。
カワハギはモンガラカワハギと比べたらまだ大人しめですが、それでも注意したほうがよいでしょう。逆にウスバハギやソウシハギといった種類は、ほかの強い魚からつつかれて、ストレスで死んでしまうおそれもありますので注意しなければなりません。もっとも、この2種類は非常に大きくなりますので家庭水槽で飼育するのは難しいです。
ハタ・カサゴ・カエルアンコウなど
▲ハナオコゼは肉食性が強い
ハタやカサゴ、カエルアンコウといった魚は小さくても肉食性が強いため持ち帰るときは注意しなければなりません。とくにカエルアンコウや、カエルアンコウと近縁のハナオコゼなどは自分と同じくらいの魚を捕食してしまうことさえありますので、単独で運搬や飼育をするようにします。
またカサゴの仲間でもミノカサゴの仲間は比較的スレに弱いらしく、その意味でも他の魚と運搬するのは極力避けたほうがよいかもしれません。
砂に潜るベラ
▲小型で繊細なベラの幼魚はVIP待遇で運びたい
ベラの仲間のうち、砂の中に潜るベラは他の魚、とくに肉食性が強い魚と持ち帰るのは避けるようにします。砂がない環境では、バケツの底に横たわって眠るのですが、他の魚などに襲われてしまう可能性があるからです。逆に大きな個体は小さなエビなどの甲殻類を捕食してしまうこともあります。
フグ・ハコフグ類
▲かわいいけど毒を出すので要注意!
▲単独で運ぶようにする
ハコフグやコンゴウフグの幼魚も夏から秋にかけて本州沿岸で採集することができます。可愛いのでついつい持ち帰ってみたくなるのですが、皮膚からパフトキシンという毒をだし、水槽の魚を殺してしまうことがあります。
水槽だけでなく、運搬中のバケツの中でも毒を出すことがありますので、他の魚と一緒にバケツで持ち帰ることはやめたほうがよいでしょう。また運んでいる途中に強い揺れを起こすのもよくありません。安全運転を心がけ、慎重に運ぶようにします。
ハコフグだけでなく、皮膚や内臓に毒をもつフグも皮膚から毒を出すことがあり、他の魚を殺してしまうことがあります。そのため持ち帰るときには他の魚とは別のバケツに入れて運搬する必要があります。
ヌノサラシの仲間
▲ヌノサラシ(ハタ亜科・ヌノサラシ族・ヌノサラシ属)
▲アゴハタ(ハタ亜科・ヌノサラシ族・アゴハタ属)
▲ルリハタ(ハタ亜科・キハッソク族・ルリハタ属)
黒い体に白い線が特徴的なハタの仲間です。皮膚からグラミスチンという毒を出して魚を殺してしまうおそれがあります。また、ハタの仲間ですので肉食性が極めて強く、杉浦 宏氏の著書「海水魚の飼い方」(ひかりのくに、1974年)のなかでヌノサラシと多数のカクレクマノミを一緒に飼育していたのにクマノミが全くいなくなり、このヌノサラシのみが残ったというエピソードが紹介されています。
従来はヌノサラシのほか、アゴハタ、ルリハタ、ヤミスズキ、トゲメギスなど皮膚毒をだすハタ似の魚を「ヌノサラシ科」と独立させていましたが、現在ではこれらはハタ科に含める考えが一般的です。どの種も毒を出す肉食魚で、扱いはヌノサラシと同様、注意が必要です。アクアリストが磯で採集できるのはキハッソク、アゴハタ、ヌノサラシなどで、ルリハタやヤミスズキなどはやや深場に生息しています。
有毒で肉食性が強いためか、観賞魚としての人気はイマイチなグループですが、マーシャル諸島や南太平洋にすむマロンフィッシュは非常に美しい体色で、20万円を超える高級魚です。
ウバウオ
▲ミサキウバウオ
ウバウオの仲間はマイナーなものですが、磯採集ではよく出会うことができるので持ち帰ってしまうアクアリストも多いのです。ウバウオやミサキウバウオ、ハシナガウバウオなど浅海に生息する種が多いですが、このウバウオの仲間にも粘液毒をもつものがいることが知られています。危険が迫ると毒を放出しますが、この毒も魚を殺してしまうほど強いとされていますので注意しなければなりません。
ミナミウシノシタ
▲ミナミウシノシタ
ミナミウシノシタはカレイに近いササウシノシタ科の魚で、有眼側の斑紋が美しいのでついつい持ち帰ってみたくなりますが、鰭条の基部にあいている孔から毒を出すため他の魚と飼育したり持ち帰ったりするのは避けた方が無難といえます。この毒は魚にとっては猛毒とされており、小魚を死なせてしまうもので、サメなども嫌がるといわれています。ヒトの中毒例はありません。
この仲間はオトメウシノシタなど模様が似ているものが知られていますが、日本産で毒をもつのはミナミウシノシタのみとされており、色彩が似ているのは無毒のものが有毒の生き物ににた警告色を持つ「ベイツ擬態」のようです。
コバンハゼ
▲コバンハゼの仲間
▲ポイズンゴビー Gobiodon citrinus (Rüppell, 1838)
キイロサンゴハゼなど、観賞魚として人気のコバンハゼ (サンゴハゼ) の仲間も皮膚毒をもち、他の魚を殺してしまうことがあるので注意します。この仲間は英語でポイズンゴビー (毒ハゼ) と呼ばれるものもおり、これも皮膚毒に由来するようです。この種はシトロンゴビー、もしくはフォーバーゴビーともよばれて観賞魚として販売されていることがありますが、水槽内でも毒を出すことがありますので注意しなければなりません。
ハゼ科魚類で毒をもっているものにはコバンハゼの仲間のほかにツムギハゼ属のツムギハゼがいます。皮膚や筋肉などにフグ毒を持っているため注意が必要です。
ナマコ
ナマコは底砂掃除の役割をしてもらうため水槽に入れられることがあります。しかしナマコは弱ったりしてしまうとサポニンと呼ばれる魚にとって致命的な毒をだすため、注意が必要です。もちろん採集して持ち帰る時も不慮の事故などでナマコが弱ってしまわないように気をつけなければなりません。また、マナマコなどは地域によっては漁業権に引っかかってしまう場合もあります。もっともマナマコなどの温帯性種はクマノミなどと飼育するのには適してはいませんが…。
隔離ケースを上手く使おう!
▲隔離ケース
傷ついた魚、弱った魚、あるいは争う魚を隔離するために、プラスチック製の隔離ケースが販売されています。
コトブキから販売されている「ワンルームハウスデラックス」は、小さなサイズのため、採集した魚を持って帰る際、隔離するのにおすすめです。隔離ケースは他にもアズーの「ビックフィッシュハウス」や、スドーの「サテライト」などが販売されていますが、これらは大きかったり水槽のフチにかけて使用するタイプで、採集した魚をバケツの中で隔離して持って帰るのには適していません。隔離ケースも用途にあわせて使い分ける必要があるわけです。
隔離ケースは肉食性の魚やエビを隔離するだけでなく、捕食されやすいハゼの仲間、やはり捕食されやすかったり、飛び出し事故を起こしやすいカエルウオの仲間、脱走の達人(無脊椎?)であるタコなどを安全に運ぶのにも適しています。
ただし、ケースが小さいのでやはり脱走の達人であるウツボやアナゴなどの類を隔離して運ぶのには適しません。また、ハコフグやヌノサラシなど毒を出す魚は水に毒を放出するため、隔離ケースは役に立ちません。このような魚はほかの魚とは別のバケツで運ぶ必要があります。
常に安全運転で
▲サービスエリアやパーキングエリアでこまめに休憩したい
魚獲りを終えて帰宅するまでが採集です。とくに自家用車の場合、自宅まで運転して帰らなくてはなりません。せっかくよい魚を採集しても、事故で魚が死んでしまったり、本人が死んでしまったら意味がありません。
採集は意外と疲れるものです。特に海に潜るのであれば帰りはへとへとになってしまいます。高速道路を使用する場合はサービスエリアやパーキングエリアでこまめに休憩をするようにして、常に安全運転を心がけましょう。また、ハコフグの仲間は振動などを起こすと毒を放出する恐れがあるので、とくに慎重に。
採集した魚をバケツで持ち帰る方法まとめ
- おすすめはコマセバケツ。フタにエアチューブ用の穴をあけるなど工夫したい
- EVA製のバケツも使用できる。金属部品が多いので注意
- 乾電池で動くエアポンプは常備したい
- エアストーンではなく投げ込み式ろ過槽の使用がおすすめ
- エビやカニは魚を襲う恐れあり
- モンガラカワハギやカサゴなどもほかの魚を襲う
- ベラは砂を敷かない状況では襲われやすい
- ハコフグ、ヌノサラシ、コバンハゼなど皮膚毒を持に入れて運ぶ
- 毒を出す魚やナマコは隔離ケースではなく別のバケツで運ぶ
- 休憩しながら安全運転で