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2020.09.22 (公開 2019.11.06) 海水魚の採集

琉球列島の磯で採集できる「ハゼ」の仲間の見分け方

ハゼの仲間は世界に2000種以上いるといわれ、日本にも数百種が知られています。しかしながら同じハゼ科の中にはよく似た魚も多く、同定は難しいものです。今回は奄美以南の琉球列島の磯、潮溜まりなどで見られる代表的なハゼの仲間について、写真とともに簡単な同定のポイントをご紹介します。

なお、本州の磯で採集できるハゼの仲間とその見分け方については、こちらの記事をご覧ください。

琉球列島の海のハゼ

琉球列島の海では本州の磯とくらべてずっと多くの種類のハゼと出会うことができます。しかし、出会えるハゼの種類は生息地の環境により違いがあります。ここでは環境別にどんなハゼの仲間が生息しているかをご紹介します。

荒磯

▲奄美諸島喜界島の荒磯

ひとことで「磯」といっても色々なタイプがあります。写真の荒磯は奄美大島近辺の喜界島のものですが、沖縄本島の北部でもこのような磯が見られ、磯釣りのポイントとして人気があります。このような荒磯には潮溜まり(タイドプール)が多数でき、クモハゼの仲間やハダカハゼの仲間、イソハゼの仲間などが見られます。しかし、ハゼの仲間の種類的には少なく、カエルウオの仲間やイシガキスズメダイ属・クロソラスズメダイ属などのスズメダイ類、ニザダイの類が多いです。

サンゴ礁域の潮溜まり

琉球列島のサンゴ礁沿岸も、本州~九州の磯と同様に潮がひけば大きな潮溜まりができます。この潮溜まりでもいろいろな魚を見ることができます。スズメダイの仲間、ニザダイの仲間、カエルウオの仲間、ベラの仲間などのほか、チョウチョウウオの仲間の幼魚にも出会えるかもしれません。

もちろんハゼの仲間も色々います。クモハゼの仲間やイソハゼの仲間はもちろん、オキナワハゼの仲間、サラサハゼの仲間、クツワハゼの仲間など色々いて、上手い人などはアカハチハゼなどクロイトハゼ属の種や、共生ハゼの仲間であるヤツシハゼ、ダテハゼの仲間なども採集しています。

注意点としてはたまに足元にオニダルマオコゼ、ウルマカサゴ、ウンバチイソギンチャクといった毒棘を有する魚や無脊椎動物が潜んでいることもあり、刺されないように注意しなければなりません。またサンゴ礁の外側は急激に深くなることもあり危険です。

内湾域

▲漁港のわきにあった内湾の潮溜まり

内湾、もしくは河川の河口付近にある潮溜まりでは、サンゴ礁のものとはまた別のハゼの仲間が見られます。イソハゼ類はサンゴ礁の潮溜まりで多数みられたナンヨウミドリハゼなどは姿を消し、ミナミイソハゼに置き換わります。このほかにもナメラハゼやイレズミハゼなど、内湾を好むハゼは多数おりますが、河川の流れ込みがある場所があればさらに多くの種類のハゼと出会えるかもしれません。

また河川汽水域周辺ではトビハゼ属のミナミトビハゼなどもよく見られます。これを採集して飼育しても面白いのですが、その特殊な性質ゆえに一般的な海水魚と飼育するのは避けたほうがよいでしょう。

琉球列島の磯で採集できるハゼたち

クモハゼ

クモハゼ

クモハゼは本州~九州までの広い範囲に分布するハゼですが、琉球列島でも見ることができます。分布域は広く、インド-太平洋の極めて広い範囲に見られますが、そっくりな種もいるので、同定には難儀することもあります。やや大きくなり(10cm前後)、動物食性でもあるので飼育には注意が必要です。

クモハゼの飼育については、こちらもご覧ください。

クロヤハズハゼ

▲クロヤハズハゼ幼魚

クモハゼと近縁なクロヤハズハゼも琉球列島に分布している普通種です。クモハゼ同様に主に潮溜まりにおいてはごくふつうに見られるハゼです。クモハゼ同様成長すると全長は10cm近くなり、小魚や小さなエビは食べてしまうこともありますので、飼育や混泳には注意が必要となります。

ホシハゼ

▲ホシハゼ

ホシハゼも日本の広い範囲に分布しています。琉球列島でも浅い磯や障害物の周辺、海藻の中に隠れています。琉球列島ではヒメホシハゼという近縁種もいますが、頭部の斑紋や体側腹部にある黒色斑の有無などによりホシハゼと区別することができます。

琉球列島には7種のホシハゼ属魚類が分布していますが、アクアリストが採集できるのはホシハゼとヒメホシハゼの2種のみで、ほかの種は深場に生息します。特にヤノウキホシハゼなどは水深25m以深に多く、観賞魚店での購入に頼るしかなさそうです。ホシハゼやヒメホシハゼ、ヤノウキホシハゼは腹鰭が左右に分かれていますがほかの種の腹鰭は左右が癒合しているのが特徴です。

カザリハゼ

▲カザリハゼ

ハゼ科・クツワハゼ属のハゼです。カザリハゼは白っぽい体に体側に黒色の小さな斑点が並ぶのが特徴で、決して派手ではないのですが、それでもよく見たら美しい魚です。本州~九州でクツワハゼ属といえばクツワハゼかホシノハゼがほとんどなのですが、沖縄ではカザリハゼ、ホシカザリハゼ、オキカザリハゼ、マダラカザリハゼ、ヒメカザリハゼが見られ、クツワハゼは若干見られるものの、ホシノハゼはほとんど見られません。2度ほど採集しましたが、残念ながら標本用としてしまいましたので、飼育の経験はありません。全長10cmほどになります。

サラサハゼ

▲サラサハゼの幼魚

▲サラサハゼの成魚

サラサハゼはベントス食性のハゼで、砂底から数cm上をホバリングします。アカハチハゼやミズタマハゼ同様、ベントス食のハゼですので、飼育では砂を敷く必要があります。砂をまき散らすので、サンゴ水槽にはあまり向いていないところがあります。本州~九州にも生息していますが、沖縄では数も安定していて、幼魚もよく見られます。大きくなり全長12cmに達します。強い魚との混泳は避けた方がよいでしょう。とくに小さな個体であればなおさらです。

サラサハゼ属にはこのほかジュウモンジサラサハゼやホホベニサラサハゼ、キンセンハゼなどもいます。内湾のサンゴ礁域周辺に多いですが、ワカケサラサハゼやエサキサラサハゼのように河口域やマングローブ域にすむ種もいます。いずれの種も本種と似たような食性をもち、サンゴ水槽にはあまり向かないかもしれません。

ミナミイソハゼ

琉球列島にもイソハゼは分布していますが、私は見たことがありません。多くがこのミナミイソハゼか、次のナンヨウミドリハゼです。ミナミイソハゼはイソハゼよりも小型種で、2.5cmほどで、三重県や和歌山県、高知県などで見ることができますが、主な分布域は琉球列島です。小さい体ですが非常に丈夫で、ペアで飼育すると産卵することもある(ただし仔魚の飼育は困難)ほどですが、大きな魚がいるような環境ではいつのまにかいなくなってしまうことも多く、うまく飼えません。小型水槽での飼育が理想です。

ナンヨウミドリハゼ

▲ナンヨウミドリハゼ

ナンヨウミドリハゼもイソハゼの仲間で、千葉県以南の太平洋岸にも分布していますが、南方系で琉球列島では多く見られる種です。琉球列島ではミナミイソハゼが内湾の潮溜まりに多いのに対し、ナンヨウミドリハゼはサンゴ礁域の潮溜まりに見られる感じです。ミナミイソハゼよりもグリーンが強くてよく目立ちます。丈夫で飼育はしやすい魚ではありますが、大きく強い魚がいるようではだめで、いつのまにか姿を消してしまうことがあります。やはり小型水槽での飼育が望ましいです。

アカヒレハダカハゼ

大きくなっても2cmほどにしかならない小型種です。サンゴ礁の潮溜まりというよりは、荒磯の潮溜まり、それも干潮時には水深10cmくらいしかないような場所で見られました。全身が濃い緑色で鰭だけが赤いという独特の色彩を持つ種です。これほど小さいとほかの魚との混泳は困難になります。八丈島、屋久島、琉球列島から台湾、西‐中央太平洋の島嶼域に分布します。なお、筆者は小さな水槽を用いた単独飼育で1年ほど飼育していました。

イレズミハゼ

磯にある転石下に生息する、黄色い体と横帯が美しい種です。サンゴ礁域の潮溜まりだけでなく、内湾の干潟にあるサンゴ岩の下などでも見ることができます。大変に丈夫で、小さい体にも関わらず長生きしてくれます。いつも腹を上にして泳ぐのが特徴です。イレズミハゼ属の魚は日本に10種ほどがいますが、浅い潮溜まりで見られるのはこのイレズミハゼくらいです。

イレズミハゼによく似たものにベンケイハゼというのがいますが、イレズミハゼは第1背鰭棘の鰭膜が深く切れ込むか、第1背鰭棘が糸状に伸びること(ベンケイハゼはそうならない)や、成魚は体側前半にのみ横帯がある(尾鰭基底にまで太い横帯が入る)ことにより区別できます。

本種の飼育について詳細はこちらをご覧くださいませ。

ナメラハゼ

▲ナメラハゼ

沖縄本島で採集された個体をもとに新種記載されたハゼで、学名の種小名にも「okinawa」の文字が入ります。本種を含むオキナワハゼ属のハゼは大きな胸鰭や尾鰭が特徴で、飼育しても面白いのですが、なぜかナメラハゼはうまく飼育できたことがありません。ゆったり泳ぐ習性で、甲殻類などには襲われることもあるので一緒にしない方がよいです。種子島・屋久島から琉球列島に分布し、九州以北の磯では見られません。海外では西太平洋に分布します。

生息場所はサンゴ礁域、内湾に面したタイドプールで、イレズミハゼと同じく大きなサンゴ岩の下に潜んでいることも多いです。

サンカクハゼ

▲サンカクハゼ

沖縄のサンゴ礁でみられるハゼの仲間です。透明感のある体や特徴的な吻部などはユニークですが地味なため販売されているところは少なく、沖縄の魚に強い店で購入するか、自分で採集する必要があります。サンカクハゼの仲間は琉球列島には8種が見られますが、浅い潮だまりでみられるのはほとんどが本種のようです。丈夫で飼育しやすいハゼです。

サンカクハゼの飼育方法はこちらをご覧ください。

チチブモドキ

▲チチブモドキ

この種はハゼ科ではなく、ハゼ亜目カワアナゴ科の魚になります。仏領ポリネシアからアフリカのモザンビークまでの熱帯域に広く分布する魚です。一般的には河川の下流から汽水域、マングローブ域に分布していますが、この個体は河川の流れ込みがない磯の大きな岩の下に潜んでいました。河川がないところでは潮溜まりなどに潜むのかもしれません。写真の個体は幼魚で、成長すると15cmほどになり、飼育していて楽しい魚です。

ツムギハゼ

▲ツムギハゼ

河川の汽水域から沿岸の内湾でよくみられるハゼの仲間です。一見何も変わったところのないハゼのように見えますが、体側に大きな暗色斑が3つ、一列に並んでいるのが特徴です。そして本種の最大の特徴は、皮膚や筋肉にふぐ毒(テトロドトキシン)をもつことです。ただし本種の毒性については地域や個体により差があり、強い毒のもの、弱い毒のもの、無毒のものがいます。静岡県以南でみられますが、基本的には奄美大島以南に多く分布する種です。ごく普通に見られますが、有毒ですので食べないように注意しなければなりません。

ツムギハゼの飼育についてはこちらをご参照ください。

沖縄のハゼまとめ

  • 本州よりも多くの種類のハゼが分布する
  • 荒磯の岩礁ではクモハゼ・イソハゼ・ハダカハゼの仲間が見られる
  • サンゴ礁の潮溜まりではハゼの種類が多い
  • 内湾でも多くのハゼが見られる
  • 河川の河口域では特に多くの種が見られる
  • クモハゼ属は種類が多く同定が難しいことも
  • ホシハゼ・ミナミイソハゼ・ナンヨウミドリハゼは本州でも見られる
  • サラサハゼ・カザリハゼ・アカヒレハダカハゼなどは本州ではあまり見ない
  • チチブモドキなどカワアナゴの仲間が見られることも
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