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2020.09.26 (公開 2019.08.13) 海水魚の採集

本州の磯で採集できる「ハゼ」の仲間の見分け方

ハゼの仲間は2000種以上いるといわれ、日本にも数百種が知られています。しかしながら同じハゼ科の中にはよく似た魚も多く、同定は難しいものです。今回は本州(特に関東から紀伊半島の太平洋沿岸)の磯、潮溜まりなどで見られる代表的なハゼの仲間について、写真と簡単な同定のポイントをご紹介します。

なお、こちらでは琉球列島の海で採集できるハゼの仲間をご紹介しておりますのでご覧くださいませ。

本州にすむハゼ

▲アゴハゼは磯で見られる普通種

ハゼの仲間(ハゼ亜目)は2000種以上いるといわれ、その生息環境も河川の渓流から水深400mを超える深海までさまざまです。しかしもっともハゼの仲間が多く見られる場所としては沿岸域で、サンゴ礁やその周辺の砂地、河川が流れ込む場所などには多くのハゼの仲間を見ることができます。

日本の本州沿岸でもハゼの仲間はいろいろ生息しています。磯の潮溜まりを覗いても何種かのハゼは必ず見ることができるでしょう。

アナハゼはハゼの仲間ではない

▲アナハゼ属のアサヒアナハゼ

関東近辺の磯では盛夏以外はよく見られるアナハゼの仲間は、名前に「ハゼ」とついているものの、カジカ亜目・カジカ科に属し、ハゼの仲間とは縁が遠い魚です。カジカ亜目の魚は北海道などでは多くみられますが、本州~九州では少ないです。しかしこのアナハゼ属は九州沿岸まで分布しています。

ほか関東沿岸ではキヌカジカ、サラサカジカ、イダテンカジカ、スイといった種も見ることができます。飼育も楽しいのですが、高水温には弱いので注意が必要です。

ハゼごとに好む磯の環境

▲大きめで深さもある潮溜まりでは多くのハゼに出会えるかも

磯の潮溜まりで多くの種のハゼを見たいのであれば、房総から紀伊半島の太平洋岸にある、大きめの潮溜まりを覗いてみることです。そのような場所ではイソハゼやアゴハゼ、クモハゼなどのほか、季節によりますがキヌバリなども見ることができるでしょう。季節は夏から秋がよく、そのころにはハゼも多いのですが、そのほかにもさまざまな魚が見られ、磯が一番賑やかになるシーズンといえます。

周囲に砂地があるような場所では、マハゼやヒメハゼなど、砂地に生息するハゼの姿も見られるかもしれません。ただ、そのような場所ではイソハゼなど、岩礁域に多い種は少なくなるようです。また、アゴハゼ属の場合、内湾に面した場所ではドロメが多く、外海に面した磯ではアゴハゼが多いような印象を受けます。

磯で採集できるハゼたち

ドロメ

ドロメ

▲ドロメの小型個体

ドロメとアゴハゼは「アゴハゼ属」とよばれるハゼの仲間のメンバーです。どちらも分布域は広く、北海道南部から九州までの海に広く見られます。ドロメはアゴハゼと比べやや内湾性なのか、宇和海や内房では比較的よくみられる種類です。外房ではアゴハゼが多い感じがしますが、同じところに両方の種がみられることもあります。大きなもので全長15cmほどになり、アゴハゼよりも大きく育ちます。

アゴハゼ

▲アゴハゼの成魚

ドロメと同様に磯ではよく見られるハゼの仲間です。とくに外海に面した岩礁域の水深1m以浅に多い感じで、小型個体は海藻についていることも多いです。磯では周年ごく普通に見ることができます。ドロメもアゴハゼも飼育は容易ですが、動物食性が強く、口に入るような魚や甲殻類を捕食してしまうことがあるため、注意が必要です。アゴハゼはドロメよりもやや小型で全長10cmほどです。

▲アゴハゼとドロメの見分け方

ドロメとアゴハゼは非常によく似ていますが、尾鰭を見れば同定は難しくはありません。尾鰭に目立つ黒色点があるのはアゴハゼ、不明瞭なのはドロメ。尾鰭の後端が白く縁どられるのがドロメ、それがないのはアゴハゼです。

アゴハゼの飼い方とドロメとの見分け方の詳細は、こちらをご覧ください。

クモハゼ

▲クモハゼ

クモハゼ属の代表的な種です。クモハゼ属は日本の沿岸でも10種類が知られていますが、関東の沿岸ではこのクモハゼが最も多く見られます。また、能登半島以南の日本海岸でも見られます(数は多くないよう)。やや大きく成長し、全長10cm近くになります。結構気が強めで口に入るサイズの小魚を襲って食べてしまうことがありますので、混泳には注意が必要です。飼育は極めて容易で、高水温にも極めて強いです。

クモハゼの飼育方法については、こちらをご覧ください。

スジクモハゼ

▲スジクモハゼ。写真は若魚

千葉県以南に分布しますが、関東沿岸ではクモハゼの方が多く本種は少ないようです。紀伊半島や高知沿岸などでは本種も多く見られます。クモハゼと極めてよく似ていますが、背鰭の模様や背鰭背面の鱗の分布などが異なります。また体側の斑紋もクモハゼとはやや異なります。クモハゼよりはやや小ぶりで、ほかの魚との飼育もしやすいです。ただ口に入るサイズの魚は捕食の対象になってしまうので混泳には注意が必要です。

ホシハゼ

▲ホシハゼ

黒っぽい体に青く輝く斑点があり、本州~九州の磯で採集することができるハゼの仲間ではもっとも美しいハゼといえるかもしれません。夜間の休息時などは体が灰色になります。主に底生小動物などを捕食し大人しめの性格で、飼育も混泳もしやすい種です。岩の下に見られますが、空き缶の中に隠れていることもあります。全長6cmほどで、千葉県から琉球列島までの太平洋岸、隠岐諸島以南日本海岸、東シナ海沿岸に見られ、海外ではインド‐太平洋の熱帯・亜熱帯海域に広く分布しています。

ホシハゼの飼育方法については、こちらをご覧ください。

クツワハゼ

▲クツワハゼ。眼の後方の黒い線が特徴

クツワハゼ属の代表的な種です。体は細めで、眼の後方から延びる黒い線が特徴で、体側には赤い斑点もあります。磯の浅場でよく見られる種ですが全長10cmとやや大きくなり、肉食性も強くほかの魚を襲うこともありますので注意が必要です。

クツワハゼ属の魚は日本に7種がいますが、関東沿岸にいるのは本種とホシノハゼくらいです。ホシノハゼはクツワハゼに似ていますが体側の模様の形が大きく異なり、眼の後方に黒い線がないので容易に見分けられます。どちらも日本海では東北沿岸から九州、太平洋岸では千葉県から九州に見られる普通種です。

チャガラ

▲チャガラ

遊泳性のハゼで、オレンジ色の体が綺麗なハゼの仲間です。美しい色彩から、熱帯魚と間違えられそうですが琉球列島などには見られない温帯性の種類です。また、高水温に弱いためクマノミなど熱帯性の魚との混泳にはあまり適していません。キヌバリほど顕著ではないものの、日本海のものと太平洋のものは斑紋や色彩に若干の違いがあります。

キヌバリ

▲キヌバリ

本州沿岸の磯で採集できるハゼ科の中では最も美しい種といえます。ハゼの仲間では遊泳性が強く、海藻が多い場所を数匹で泳いでいます。熱帯魚のような魅力がありますが、温帯性の魚で高水温には弱いです。チャガラと同じ属のハゼで、意外なことにてんぷらでお馴染みのマハゼと近縁の仲間とのことです。

分布域により体側の横帯が6本のものと、7本のものがあります。前者は関東以南の太平洋岸に、後者は日本海沿岸と東北地方太平洋岸に分布しています。

キヌバリの飼育方法については、こちらをご覧ください。

アカオビシマハゼ

▲アカオビシマハゼ。三重県で採集し水槽で大きく育てた

チチブ属の種類で、淡水域に生息するチチブや、ヌマチチブと近い仲間のハゼです。体側に黒い縦線が入るのが特徴ですが、全身が黒っぽくなったり(婚姻色)、細かい横帯が出現することもあります。

よく似たものにシモフリシマハゼというものがいますが、アカオビシマハゼは臀鰭に2本の赤色縦帯があるのに対し、シモフリシマハゼにはないこと、アカオビシマハゼの頭部には白い斑点が散らばるが頭部下面には白い点がないのに対しシモフリシマハゼは頭部下面にも白い点があることなどで見分けられます。またシモフリシマハゼは汽水域にすむのに対し、アカオビシマハゼは沿岸の磯や内湾、汽水域までさまざまなところにいます。飼育は極めて容易ですが、やや大きく成長し、肉食性が強くなり、小魚を捕食することもあります。

イソハゼ

▲イソハゼ

イソハゼは全長4cmほどで、この仲間では最大級の種です。太平洋岸では千葉県以南、日本海岸では青森県以南に分布し、海外では朝鮮半島や台湾でみられます。本州の日本海沿岸で見られるのは本種かアカイソハゼくらいで珍しいものといえます。

イソハゼの仲間にはオヨギイソハゼやナンヨウミドリハゼなど美しい色彩のものもいますが、本種は灰色の体で地味な色彩をしています。前鰓蓋上方に大きな一つの黒色斑があること、頬部に小さな黒い斑点があり、腹部にも沢山の黒色斑があることなどが特徴で、これによりほかのイソハゼの仲間と見分けられます。琉球列島にもいますが温帯性が強く、千葉県でも越冬しているようで、5月の連休のころにはマックスサイズに近い大きな個体が採集できます。

イソハゼの飼育方法はこちらをご覧ください

イソハゼ(やベニハゼ)など小型ハゼの仲間については、こちらをご覧ください。

ミナミイソハゼ

▲ミナミイソハゼ

関東の磯では見られないのですが、琉球列島にすみ、本州でも三重県や和歌山県で採集できる小型のイソハゼ属魚類です。全長は2.5cmとイソハゼよりも小ぶりです。イソハゼに極めてよく似ている種類ですが、前鰓蓋上方に二つの黒色斑があることにより見分けることができます。

タイドプールでも採集でき、飼育もしやすいですが、カクレクマノミなど大きな魚と一緒に飼育すると隠れ家から出て来なくなることもあるので注意が必要です。これはこのほかの極小イソハゼ類にも同じことがいえそうです。

ナンヨウミドリハゼ

▲ナンヨウミドリハゼ

ミナミイソハゼに似ていますが全身が濃いグリーンで鰓蓋上方にミナミイソハゼやイソハゼのような黒色斑がないのが特徴です。千葉県以南に分布していますが、多くみられるのは紀伊半島以南です。飼育方法はミナミイソハゼと同様で、肉食性の魚とはもちろん、カクレクマノミなどやや大きく育つ魚との混泳も避けた方が無難です。全長3cmほどになります。

マハゼ

▲マハゼ

河川、汽水域から海に生息するもっとも普通に見られるハゼで、内湾の砂地や、そこに近い磯でも見られる普通種です。一般に釣りの対象となっていたり、天ぷらで賞味されているハゼは本種で、大きいものでは全長30cm近くになることもあります。かなり丈夫な種類で、釣りで採集したものを飼育することもできます。

飼育方法については、こちらをご覧ください。

サビハゼ

▲サビハゼ

マハゼに近い仲間ですが大きくても15cmほどと、マハゼよりも小型で、下顎に多数の小さなヒゲがあることにより区別することができます。このような特徴をもつ種類はほかにコモチジャコやアカハゼ、ヤキインハゼがいますが、これらとは異なり、胸鰭上部に遊離軟条があります。学名はSagamia geneionemaといい、属名は相模湾に因みます。青森県~鹿児島県までの各地沿岸と朝鮮半島近海に生息します。

ヒメハゼとミナミヒメハゼ

▲ヒメハゼの雌

▲ミナミヒメハゼ。本州では極めて少ない。尾鰭付け根の斑紋に注目

マハゼに似ていますが、分類学的にはあまり近縁とはいえません。青森県から琉球列島までの各地沿岸に分布する種で、河川河口から沿岸の砂底にすみ、干潮時になると子供の足ほどの深さになるところでもよく見られます。飼育に関してはマハゼやドロメよりもややデリケートで、餌付きにくくてやや難しいという印象を受けます。写真の個体は雌で、雄の第1背鰭第2棘条がよく伸びています。

近縁種にミナミヒメハゼというのがいますが、これは尾鰭付け根の模様が異なります。ヒメハゼは二叉する模様があるのに対し、ミナミヒメハゼは二つ連なった小さな黒色斑があります。

ミミズハゼの仲間

▲磯で採集したミミズハゼの仲間。おそらくイソミミズハゼだろう

ミミズハゼの仲間は色々な種類がいます。生息環境もさまざまで磯に生息するもの、やや深い泥底にいるもの、洞窟内にいるもの、伏流水にすむものなどがいます。磯で採集できるのはミミズハゼや、イソミミズハゼ、ヤリミミズハゼなどの種類です。なお、ミミズハゼ属によく似ているセジロハゼの仲間や、シロクラハゼの仲間もごくまれに採集できます。

生態は多様ですが多くの種は岩の下などにひそみ、なかなか表には出てきません。潮が引くと水がなくなってしまいそうな場所の、大きな岩の下などで見られることがあります。岩を起こして採集するとよいのですが、採集が終わったら岩はもとに戻しておきましょう。種類は多いのですが同定は極めて難しく、ハゼ学者を悩ませる存在です。

磯のハゼまとめ

  • 本州沿岸でも多くのハゼを見ることができる
  • 磯で多いハゼはアゴハゼ、ドロメ、キヌバリ、クモハゼなど
  • ドロメやアゴハゼは動物食性が強め。混泳は要注意
  • クモハゼもやや大きくなり小魚を襲うことも
  • クツワハゼはかなり気が強め
  • ホシハゼは青い斑点が綺麗
  • 砂地に近い場所ではマハゼやヒメハゼなども見られる
  • 岩をどけるとミミズハゼが出てくることも

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