2020.09.21 (公開 2018.06.25) 海水魚図鑑
キヌバリの飼育方法~高水温に注意が必要!
キヌバリはハゼの仲間ですが、その中では遊泳性が強い種です。
温帯性の魚なのですが、まるで熱帯魚のような鮮やかな色彩が特徴的です。低めの水温を好み、夏の高水温対策としてクーラーを用意できるのであれば、本種の飼育も楽しいでしょう。
今回はキヌバリを飼育するためのポイントをご紹介します。
標準和名 | キヌバリ |
学名 | Pterogobius elapoides (Günther, 1872) |
分類 | スズキ目・ハゼ亜目・ハゼ科・ゴビオネルス亜科・キヌバリ属 |
全長 | 12cm |
飼育難易度 | ★☆☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッド、冷凍イサザアミ |
温度 | 20~23度 |
水槽 | 45cm以上 |
混泳 | 肉食性の魚は注意 |
サンゴ飼育 | 可だが水温に合うサンゴが少ない |
キヌバリってどんな魚?
▲マハゼと同じゴビオネルス亜科の魚
キヌバリは日本沿岸に分布するハゼ科の魚です。ハゼといえば、海底でじっとしているイメージがありますが、本種は海底から離れた岩礁を遊泳しています。ただし、一般に遊泳性ハゼ、とされるハナハゼやハタタテハゼ、クロユリハゼなどの含まれるクロユリハゼ科とは異なり、本種はハゼ科に含まれます。
キヌバリの腹鰭は吸盤状になっていますが、クロユリハゼ科魚類の腹鰭は左右に分かれています(ただし、ハゼ科の中にもイソハゼのように左右の腹鰭が分かれ、吸盤状にならない種がいます)。
ハゼ科はワラスボ亜科・オクスデルクス亜科・ボウズハゼ亜科・ゴビオネルス亜科・ハゼ亜科の5亜科に分けられますが、キヌバリはその中のゴビオネルス亜科に含まれます。第1背鰭は8棘あり、釣りでお馴染みのマハゼなどに近いようですが、そうとは思えないほど派手ないでたちです。そのため本種を熱帯魚と思うアクアリストもいるようですが、琉球列島では見られません。
キヌバリのバリエーション
▲千葉県産の個体。体側の横帯は6本
キヌバリは産地によって体側の黒色横帯の数に違いがあります。千葉県から三重県、瀬戸内海、宮崎県にすむ太平洋型は体側に6本の黒色横帯があるのに対し、東北地方や日本海沿岸に分布する日本海型は尾鰭基底をふくめ7本の黒色横帯があります。飼育の方法はどちらも変わりません。
キヌバリの近縁種
▲チャガラ
キヌバリ属の魚は東アジア固有で、4種類が知られています。日本には4種いずれも生息しています。
キヌバリのほかにオレンジ色の綺麗なチャガラ、カラフルな色彩のニシキハゼ、白い体に黒い横帯があるリュウグウハゼがおり、これらも観賞魚となっています。しかしキヌバリ同様に高水温には弱く、とくにニシキハゼやリュウグウハゼはやや深場(水深20mほど)に生息するため注意が必要です。チャガラは海藻が多い磯で採集でき、ニシキハゼやリュウグウハゼは釣りで採集することができます。
なおチャガラにも太平洋型と日本海型があります。太平洋型は多くの場合黄褐色横帯が6本、日本海型が5本とされ、鰭条数も若干の違いがみられます。
キヌバリに適した環境
水槽
小型水槽でも飼育できますが、複数個体を飼育するときや、他の魚との混泳を考えるのであれば45cm以上、できれば60cm水槽がベストです。
ろ過装置
キヌバリは比較的水質悪化にも耐えますが水が汚いのはよくありません。ろ過装置もきちんとしたものを使用したいものです。外部ろ過槽や外掛けろ過槽を使用するのであれば小型プロテインスキマーを付けるなどの工夫が必要になります。
水温
キヌバリは温帯性の魚です。同じ温帯の魚でもメジナなどは高水温への耐性がありますが、キヌバリは高水温には弱いです。
水温は20~23℃くらいが適温でしょう。間違っても28℃くらいで飼育してはいけません。餌の食いが悪くなり、次第に弱ってしまいます。水槽用クーラーを導入するか、部屋のクーラーをつけっぱなしにするしかありません。
キヌバリにおすすめの餌
状態がよく、水温が適正で、キヌバリを脅かすような生物がいないのであれば採集してすぐに配合飼料を食べるようになります。
自然下では動物プランクトンなども食べますが、このようなプランクトンフードは水を汚す恐れがありますのでたまに与える程度にしましょう。とくに小型水槽では注意が必要です。
遊泳性のハゼですので、粒状のペレットフードでもフレークフードでも、どちらもよく食べてくれるはずです。添加剤はヨウ素や微量元素をたまに添加してあげればよいでしょう。
キヌバリの入手方法
キヌバリは近海の魚ですので、採集するのが手取り早いでしょう。磯の浅瀬には春季から初夏、ゴールデンウィークの時期によく出現します。それ以降は深みに移ってしまいますので、確実に入手するのであれば、5月の連休か、その前後がよいでしょう。潮が引いた、海藻が多いタイドプールで出会えるチャンスが多い魚です。
秋が深まると関東地方の沿岸に水深1mほどの海底に10cmほどに成長した大型個体が出現します。このような個体は手網で獲るのは難しいので、オキアミを餌に釣るとよいでしょう。
このほか近海産魚に強い観賞魚店であれば、キヌバリを販売していることもあります。
観賞魚店でキヌバリを購入するときの注意点は、鰭や体表が赤くただれていたり、白い斑点がついていないか、口に傷がないか、動くものに反応しているか、など他の魚と同様の注意点のほか、ストックされている水槽の水温は適切か、餌食いはよいか、などの点があげられます。
水温が適正でないと、白点病などの病気にかかることがあります。殺菌灯を使用するのが予防に効果的とよくいわれますが、水温は低めでかつ一定に保つようにすることも重要です。殺菌灯は水温の上昇を招きますので、この点も頭に入れておきましょう。
キヌバリと他の生物との関係
キヌバリと他の魚との混泳
▲キヌバリとコモンイトギンポの混泳例
キヌバリ自体は温和で、同じくらいの水温を好む、口に入らないサイズの魚との飼育は可能です。ナベカなどの小型のギンポ、ダイナンギンポ、小型ハゼなどと飼育するとよいでしょう。
やや細身の体ですので、他の魚に食べられやすいといえます。本種やチャガラはブリなどを釣る餌として使用されることがあるほどです。ですから肉食性の強いカサゴやソイなどの仲間や、コチの仲間などとの混泳は避けるべきです。メバルは幼魚は大丈夫ですが、成魚は他の魚を捕食してしまうので注意します。またキヌバリは温帯性の魚であるため、サンゴ礁の浅い場所にすむ魚との飼育は不可能というわけではありませんが、あまり似合いません。
なお、キヌバリ同士は複数飼育可能です。ただチャガラと違って大きな群れをつくるわけではないようで、小競り合いはあるようです。大きめの水槽で飼育するとよいでしょう。60cm水槽が理想です。
キヌバリとサンゴ・無脊椎動物との相性
キヌバリはサンゴには無害ですので、サンゴとの飼育も可能です。ただし好む水温の違いから、ミドリイシなど、熱帯の浅場にすむサンゴよりはやや深場に生息する陰日性サンゴとの飼育が向いているように思います。
無脊椎動物は、大型のヤドカリやエビ、カニなどはキヌバリを捕食してしまうおそれがあるので一緒に飼育してはいけません。コケ取りの巻貝や小型のヤドカリなどとは飼育可能です。
キヌバリの飼育まとめ
- 遊泳性のハゼの一種
- 高水温に弱いためクーラーが必要
- 水温にさえ気をつければ丈夫で飼育しやすい
- 飼育しやすいが白点病にかかることもある
- 小型水槽での飼育も可能だが60cm以上の水槽を推奨
- 状態よく水温が適正ならすぐ餌を食べてくれる
- 春の磯で出会うことができる
- 購入する場合はストック水槽の水温に注意
- 肉食魚との混泳は禁物