2020.01.16 (公開 2017.07.28) 海水魚図鑑
クモウツボの飼育方法~ウツボ飼育初心者に最適!
ウツボというと「怖い」「凶暴」「海のギャング」という面が強調されがちです。しかしテレビ番組などで強調されるほど、怖い存在でも海のギャングと言えるようなものでもないのです。
もちろん動物食性で夜間に小魚やイカ、タコなどを捕食するのに鋭い歯をもっていて怖いように見えるのは事実ですが、そんなウツボの仲間も世界で200種近くが知られており、すべてがそのような怖い魚というわけではなく、かわいい見た目のウツボというのもおります。とくに今回ご紹介するクモウツボはかわいいだけでなくウツボ飼育初心者向けの魚でもあり、ウツボの仲間をはじめて飼育するのには最適といえるでしょう。
標準和名 | クモウツボ |
学名 | Echidna nebulosa (Ahl, 1789) |
分類 | ウナギ目・ウツボ科・ウツボ亜科・アラシウツボ属 |
全長 | 約60cm |
飼育難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめの餌 | 餌の単用は避け複数種を与える(後述) |
温度 | 24~26度 |
水槽 | 90cm以上 |
混泳 | 口に入るサイズの魚はNG |
サンゴ飼育 | 可 |
クモウツボが初心者向けのウツボとされる理由
クモウツボがウツボ飼育初心者向けと言われているのには、いくつかの理由があります。なお、ウツボ飼育の基礎についてはこちらでも解説しておりますので、ご覧くださいませ。
水温や水質の変化に強い
▲水深1mの場所で採集したクモウツボ
クモウツボはいったいどんな場所に生息しているでしょうか。分布域は和歌山県以南の太平洋岸、琉球列島、海外では南アフリカからメキシコのバハ-カリフォルニアまでおよび、インド-汎太平洋の熱帯域に広く分布する種といえます。
サンゴ礁域を主な生息場所にしているのですが、水深1mを切るような浅瀬にも多数生息しており、水温や比重の変化が激しい潮溜まりにも生息している本種は、水温や水質の変化にもかなり強いといえそうです。
ただし、さすがに汚い水や30℃以上の高水温だと拒食になってしまうこともありますので、なるべく綺麗な水で、一定の水温のもと飼育するようにします。死因で一番多いのは飛び出しと、ウツボ同士の無理な混泳によるもので、病気もほとんどかかりません。
比較的おとなしい
クモウツボは動物食の魚ですが、主に甲殻類や小魚を食べ、ウツボの仲間では比較的温和な性格をしています。大きめの魚となら、さまざまな魚との飼育を楽しむことができます。ただ、ハゼの仲間などの小さな魚と一緒に組み合わせると、食べられてしまうことがあり注意します。
ウツボの全長と寿命
クモウツボは最大で1m近くになるとされますが、ふつうは大きくても全長60cmくらいの比較的小型のウツボで、水槽の中ではもっと小さいことが多いです。そのため初心者向けの一般的な60cmほどの水槽でも長く飼育することができます。
ウツボは上手く飼育すれば30年以上生きるものもいるようです。海水魚の中でも寿命は非常に長い種です。
クモウツボの特徴
▲クモウツボの上顎歯と下顎歯
クモウツボはウツボ科のうちウツボ亜科のアラシウツボ属に含まれます。ウツボ科にはウツボ亜科とキカイウツボ亜科がいますが、観賞魚として流通するのはウツボ亜科のものが多く、キカイウツボ亜科の魚はモヨウキカイウツボなど少数派といえます。この2つの亜科は背鰭の位置で見分けられ、クモウツボは鰓蓋後方の上から背鰭がはじまり、背鰭が尾部の方にしかないキカイウツボ亜科の仲間と見分けられます。アラシウツボの仲間は他にもシマアラシウツボや、淡水~汽水にすむナミダカワウツボ、黒地に白の水玉模様があるポルカドットモレイなどがいます。
体には黒っぽいアメーバ状の斑紋や黄色っぽい斑点があり、鼻管や眼が黄色っぽいのが特徴です。歯は多くが臼歯状ですが、前上顎の歯は雌雄によって形が異なり、雄は鋭い歯をもちます。雌はほかの歯と同様に臼歯状となっています。
クモウツボに適した環境
水槽
クモウツボのような比較的小型の種であれば60cm水槽でも飼育できます。混泳を考えるのであれば90cm以上の水槽があるとよいでしょう。オーバーフロー水槽で飼育するときは、フロー管からサンプ(水溜め)に落ちないようにフェンスを付けるなどの工夫が必要ですが、水を汚しやすいウツボの飼育に重要な広いろ過スペースを確保できるなど、他の水槽よりも大きなメリットがあります。
水質とろ過システム
クモウツボにはイカの足など、生の餌を与えることが多いので、水が汚れやすくなります。ろ過装置はきちんとしたものを選ぶようにします。
外掛け式フィルターは隙間ができやすく、ろ過能力もそれほど高くはないですので賢明な選択とは言えません。上部ろ過槽や外部ろ過槽、オーバーフロー水槽のサンプにろ過槽を設けるやり方が現実的といえますが、外部ろ過槽はパワーがイマイチであることや酸欠が起こりやすいなどの点に注意します。ワンランク上の機種を選ぶようにするとよいでしょう。
フタ
▲フタをして隙間埋めしてペットボトルの重石をする
クモウツボに限らずウツボは脱走しやすいのでフタは必須です。ウツボの死因で最も多いのは「飛び出し」です。できればフタをするだけでなく、フタにできる小さな切りかけもアクリル板で覆ったり、上部ろ過槽のポンプを置く位置にもスポンジを詰めるなど、隙間埋めをしっかりしておきたいものです。また隙間埋めだけでなく、水槽の上に重石をしておきます。重石は写真のような角ばったペットボトルが最適で、炭酸飲料などが入っている丸みをおびたものは転がって落下しやすいので注意が必要です。また重石として本当に重い石を置いてしまったら水槽のフタが割れてしまい、逆に飛び出して死んでしまうおそれもありますのでやめましょう。
水槽のフタはアクリル・ガラスなど色々な材質があります。アクリルは加工がしやすいですが照明の熱などで反りやすいデメリットがあり、ガラスはそのようなことがないものの重石として本当に重いものを置いたら割れてしまうというデメリットもあります。一長一短で好みや水槽周りの環境に合わせて選ぶとよいでしょう。筆者はジェックス製のガラスフタを使用し、水の入ったペットボトルを重石にしています。
砂
クモウツボを飼うのには砂はいらないといわれることもありますが、我が家の場合は砂を敷くことで落ち着きました。砂はパウダーでも粗めの粒でもよく、厚く敷く必要もありません。砂を厚く敷くと硫化水素なども発生することがあるので、あまりよくありません。
飾り
クモウツボが落ち着けるように隠れ家が必要になります。飾りサンゴやサンゴ岩、ライブロックなどを組み合わせて隠れる場所をつくります。ただし不安定な組み方だとウツボに崩されてしまうおそれもありますので注意が必要です。味気ないですが塩ビ管などでもよいでしょう。
クモウツボの餌
基本的に動物食性ですので、餌も動物質のものを中心に与えます。クモウツボは主に小型の甲殻類や魚類などを捕食していますが、ウツボの仲間ですので、やはり頭足類は大好物です。イカの足の部分を与えると喜んで食べます。本種に限らずウツボは人に慣れやすく、給餌は楽しみですが、毎日ではなく大体1週間に1~2回くらいで問題ありません。クモウツボの雌はあまり鋭い歯をもっていませんが、できるだけ長いピンセットで給餌してあげるとよいでしょう。カミハタから出ている「多目的ピンセット」などがおすすめです。
餌のイカはあらかじめ冷凍したものを与えるようにします。ほか魚の切り身やエビのむき身などを餌に与えるときも同様です。まずは冷凍して寄生虫を殺してから与えたほうがよいでしょう。
クモウツボの選び方
▲採集してきたクモウツボ
クモウツボは採集することも、購入することもできます。購入するときは入荷してすぐの個体、頭部の白い部分がやや赤みを帯びている個体(水が悪いとそうなることもある)、極端に小さな個体は避けるようにします。琉球列島では潮溜まりで出会える可能性が高いといえますが、単独で行くのは絶対に避けるべきです。とくに夜は足元にも注意しなければなりません。
クモウツボと他の魚の混泳
▲他の魚との混泳
▲細めのカエルウオの仲間はとくに餌になる恐れあり
クモウツボはウツボの中では比較的おとなしく、ほかの魚との混泳も不可能ではないのですが、60cmくらいのサイズの水槽でスズメダイと一緒に飼育しているとスズメダイが徐々に捕食されて消えてしまうことがあります。上の写真のネズスズメダイやミツボシキュウセンは食べられてしまいました。またカエルウオやハゼなどの体が細い魚は特に捕食されやすいので要注意です。ほかのウツボ類との混泳はおとなしいゼブラウツボなどとであれば可能ですが気が荒いドクウツボやニセゴイシウツボ、グリーンモレイなどと混泳させてはいけません。
サンゴ・無脊椎動物の関係
▲クモウツボとサンゴ
クモウツボはサンゴ水槽でも飼育できますが、あまりおすすめはしません。基本的にサンゴはきれいな水を好み、生の餌を与えて水を汚しやすいサンゴとの飼育にはあまり向かない面があります。どうしてもサンゴと飼育したいのであれば、ディスクコーラルやグリーンボタン(タチイワスナギンチャク)などがよいでしょう。グリーンボタンとは3年ほど一緒に飼育していたことがあります。力が強く岩組を崩してしまうことがあるので、サンゴ水槽での飼育は要注意です。甲殻類はクモウツボに食べられてしまうことも多いので一緒に飼育しないほうがよいでしょう。場合によってはクリーナーシュリンプも食べてしまうことがあります。
クモウツボ飼育まとめ
- ウツボの中でも温和でやや小型、丈夫で飼いやすい種
- 脱走と水質悪化に注意
- 魚の切り身やイカの脚などを与えるが、慣れれば配合飼料も食べる
- ウツボの仲間では温和だが、他魚との混泳は注意
- 逆に大型のウツボとの混泳は危険
- 甲殻類は捕食するおそれあり