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2020.07.31 (公開 2020.07.31) 海水魚図鑑

ヘビギンポの飼育方法~磯魚で容易に採集できるがコケは食べてくれない

ヘビギンポは国内の広い範囲に分布するギンポ亜目の魚です。カエルウオやヤエヤマギンポとは異なり、ヘビギンポ科に属する魚です。見た目上最大の特徴は3つ背鰭があることで、この特徴をほかにもつのはタラ類くらいで珍しいものといえます。磯に生息する魚で磯採集の際にヘビギンポも採集できるのですが、カエルウオなどと異なり採集直後は飼育しにくいところがあります。今回はこのヘビギンポの飼育方法をご紹介します。

標準和名 ヘビギンポ
学名 Enneapterygius etheostomus (Jordan and Snyder, 1902)
英名 不明
分類 条鰭綱・スズキ目・ギンポ亜目・ヘビギンポ科・ヘビギンポ属
全長 5cm
飼育難易度 ★★★☆☆
おすすめの餌 クリーンコペポーダホワイトシュリンプ
温度 23℃前後(本州産)、25℃前後(沖縄産)
水槽 45cm~
混泳 おとなしい魚との混泳が最適。ヘビギンポの口に入るような魚や肉食魚などはだめ
サンゴとの飼育 概ね可。イソギンチャクなどは要注意

ヘビギンポって、どんな魚?

▲房総半島の磯でみられたヘビギンポ

ヘビギンポはほとんど日本各地に生息するスズキ目・ギンポ亜目・ヘビギンポ科の魚です。分布域は広くて青森県以南の日本海岸、千葉県以南の太平洋岸、琉球列島に見られ、海外では韓国、台湾、香港などに生息します。雌雄で体色が異なり、特に雄は黒い体に白い線が入るという独特な色彩になります。

食性は雑食性で藻類も少し食べるようですが、基本的には動物食性が強くコケはほとんど食べてくれないので注意が必要です。

ヘビギンポの鰭の特徴

▲ヘビギンポの背鰭

ヘビギンポはカエルウオやヤエヤマギンポなどと同じギンポ亜目の魚ですが、これらの魚とことなり、ヘビギンポ科に分類されます。この科の魚の最大の特徴は背鰭で、多くの魚は背鰭が1基、もしくは2基ですが、ヘビギンポの仲間は3基の背鰭をもち、英語ではこの仲間をTriplein(3つの鰭)と呼びます。ほかに背鰭を3つ有するものとしてはタラの仲間くらいで珍しいものといえます。一方ヘビギンポ科の魚は臀鰭が一つしかないのですが、タラの仲間は臀鰭が二つありますので見分けがつきますが、ヘビギンポとタラの類では臀鰭の数のほか、体色も、体つきも、生息環境も大きさも全くことなるので、見分けに苦労することはまずないでしょう。

よく似たミヤケヘビギンポ

ミヤケヘビギンポは名前に「ミヤケ」とあるように、三宅島や八丈島にのみ生息するヘビギンポの仲間です。この種もそれらの島々にある潮だまりなどで普通にみられるものです。一方八丈島にもヘビギンポはおり、単に置き換わっただけというわけではないようです。この種とヘビギンポの差は微妙なのですが、体側の茶色い帯の上に白い点があるのが特徴といえます。また雄の婚姻色はオレンジ色になり、非常に美しい魚です(ただし水槽では色が出ないことが多い)。なお、飼育はそれほど難しくなく、採集した個体を何年も飼育していました。

ヘビギンポに適した飼育環境

水槽

ヘビギンポは小型水槽でも飼育できますが、特に初心者の場合は45cm以上の水槽での飼育が望ましいでしょう。また複数飼育する場合やほかの魚と飼育するのであれば60cm以上の水槽が安心でしょう。

水質とろ過システム

ヘビギンポは水質の変化に弱いイメージがあります。そのためできるだけ高い能力をもったろ過システムを構築しなければなりません。小型水槽では外掛けろ過槽と外部ろ過槽の両方を使用し、60cm水槽では上部ろ過槽をメインにするのが間違いありません。もちろん圧倒的なろ過能力をもつオーバーフロー水槽も望ましいです。

ヘビギンポの仲間はサンゴの上に乗っかることがありますが、悪影響は与えないのでサンゴ水槽で飼育できます。ただしベルリンシステムなどは魚をたくさん入れられるようなものではないので、入れすぎに注意します。

水温

基本的に温帯の磯で採集された個体は23℃前後、沖縄などのサンゴ礁で採集された個体は25℃前後で飼育するとよいでしょう。もちろん水温の変動が大きいと病気になりやすいので常に水温を一定に保つようにします。クーラーやヒーターは余裕のあるサイズのものを使用したいところです。

隠れ家

ヘビギンポは意外と臆病なところがあります。ライブロックでも、サンゴ岩でも、専用の土管などでもよいので隠れられて落ち着く場所などを作ってあげるとよいでしょう。

ヘビギンポに適した餌

ヘビギンポは海では動物プランクトンを食べていますが、水槽下でも最初のうちは動物プランクトンを与えたほうがよいのですが、冷凍のプランクトンフードは水を汚しやすいので注意します。冷凍プランクトンフードもいろいろな種類がありますが、個人的には小型個体はコペポーダ、大きく育った個体はホワイトシュリンプをよく食べます。ただし最初の期間さえ乗り越えれば配合飼料になれるのも早いです。しかし採集時の状態が悪かったものなどはスレていて弱っており、そのまま死んでしまった、なんていう例もあります。

ヘビギンポをお迎えする

▲ヘビギンポの成魚。第3背鰭にスレ傷がある

ヘビギンポは磯で簡単に採集することができます。二つの網を用意して、一つの網をセットしておき、もう一つの網で追い込むようにすれば簡単に採集することができます。ただしヘビギンポはカエルウオなどのイソギンポ科と比べるとスレ傷に弱いところがあります。採集する際もできるだけ網を水から上げないようにし、採集した後は容器などで掬うなどの工夫をしましょう。鰭膜と網がすれても弱ってしまうことがあり、たとえば写真のヘビギンポは体表はそれほど傷ついていないように見えましたが、第3背鰭が擦れによりぼろぼろになっています。この個体は写真を撮影した翌日、死んでしまいました。たくさんいるのでついついたくさん採集したくなりますが、欲張って大量に持ち帰っても死なせてしまうだけなので、健康そうなものを少しだけ持ち帰るようにするとよいでしょう。

また弱りやすく、運搬中に死んでしまったり、バケツの中の水質が悪化したりしてほかの魚も道連れにしてしまうことがあります。できるだけヘビギンポは別の容器(水を共有しない)で運んであげたほうがよいかもしれません。

ヘビギンポとほかの生き物との関係

ほかの魚との混泳

ヘビギンポは比較的おとなしい魚ですが、一部のベニハゼなど、口に入る魚は食べてしまう可能性があります。そのため口に入るサイズの魚と飼育するのはいけません。ほかの魚とであれば混泳できる可能性が高いですが、スズメダイやメギスのような気性が激しいものや、遊泳性ギンポなどのようにほかの魚をつつく魚、肉食性の魚との混泳は避けなければなりません。とくにヘビギンポは細身の体をしており、肉食性の魚に襲われる可能性も高いといえます。なお、以前はヤエヤマギンポや遊泳性ハゼ、ハチマキダテハゼ、ヒフキアイゴ、小型のカクレクマノミなどと一緒に飼育していました。

サンゴ・無脊椎動物との相性

基本的にサンゴとの飼育は問題ありません。ヘビギンポはサンゴ礁でも見られ、浅い潮だまりでも見られるため、ミドリイシなどのSPSやソフトコーラルとの相性がよいといえます。LPSとの相性もよいのですが、LPSに給餌した餌を横取りしてしまうこともあります。LPSにも餌がいきわたっているか確認しましょう。また陰日性のウチウラタコアシサンゴや、クマノミと共生するタイプの大型イソギンチャクなどは魚を捕食してしまうことがあります。とくにイソギンチャクは本種に限らずギンポやハゼなど動きが遅い魚を好んで食べてしまうこともあり、飼育はおすすめできません。クマノミと共生するタイプのイソギンチャクを飼育するのであれば、クマノミとイソギンチャクのみを飼育するのがベターといえます。

甲殻類も大型のエビ(イセエビなど)、大型のカニ、大型のヤドカリはヘビギンポを襲って食うことがありますので混泳はさせないほうがよいでしょう。クリーナーシュリンプ、ペパーミントシュリンプ、サラサエビ、小型のカニ、サンゴヤドカリは問題ないことが多いです。ただしクリーナーシュリンプのうち、オトヒメエビは大きなハサミをもち、ほかの魚(特に夜間、動きが鈍くなるところ)を捕食する恐れがあるので、一緒に飼育してはいけません。

ヘビギンポ飼育まとめ

  • カエルウオなどの含まれるイソギンポ科とは別科の魚
  • 背鰭が3つあるのが特徴的
  • よく似たミヤケヘビギンポとは見分けるのが難しい
  • 45cm以上の水槽で飼育するのがおすすめ
  • 水質悪化に弱いように思われる。しっかりしたろ過槽が必要
  • 本州産のものは23℃、沖縄産のものは25℃の水温で飼育したい
  • 隠れ家をつくってあげたい
  • 配合飼料は最初から食べるとは限らないので冷凍餌で餌付ける
  • 擦れに弱いため採集時に傷つけないように
  • 口に入る魚やスズメダイなど気が強いとの混泳はさける
  • 肉食性やイソギンチャク、大型の甲殻類などとの飼育もだめ
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