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2020.11.27 (公開 2017.10.26) 海水魚図鑑

小型ヤッコ(ケントロピーゲ)の基本的な飼育方法

ヤッコの仲間は海水魚のなかで最も人気があるグループといえます。ヤッコの仲間には全長50cm近くになる大型種もいますが、とくに人気があるのは全長10cm前後の小型種が多く含まれる「小型ヤッコ」と呼ばれるものです。この小型ヤッコをうまく飼育するためのポイントをご紹介します。

小型ヤッコの種類と分類

「小型ヤッコ」はスズキ目・キンチャクダイ科のなかの小型のグループであるアブラヤッコ属とシマヤッコ属をあわせた呼び名です。アクアリストの中ではアブラヤッコ属を「ケントロピーゲ」と呼びますが、これは学名の属名に由来します。シマヤッコ属も同様に「パラケントロピーゲ」と呼び、「ケントロ」「パラケン」などと略されることもあります。

アブラヤッコ属 Genus Centropyge

アブラヤッコ

アブラヤッコ

アブラヤッコ属の魚は31種が知られ、インド-中央太平洋域と大西洋の熱帯から温帯海域に分布し、大きく二つのグループに分けられます。フレームエンゼルやアカハラヤッコに代表されるグループ「クシピポプス亜属」と、アブラヤッコやソメワケヤッコなどのグループ「ケントロピーゲ亜属」です。

一般的にはクシピポプス亜属のほうが餌付きやすく、丈夫で飼育しやすいとされていますが、スズメダイやハゼなどと比べると病気になることもあるし、水質の急変に弱かったりすることもあるので、ある程度ほかの魚の飼育経験があったほうがよいと思います。ケントロピーゲ亜属はアブラヤッコやソメワケヤッコ、ナメラヤッコなどカラフルなものが多いのですが、餌に難ありで最初から「メガバイト」とかそういうのは難しいところがあります。一度慣れれば丈夫ですが、ソメワケヤッコやヘラルドコガネヤッコなどは成長すると気が強くなります。またケントロピーゲ亜属はハードコーラル、とくにLPSは好んでつついてしまいますのでLPSとの飼育は危険です。クシピポプス属はやや組み合わせやすいですがそれでもつつくことがあります。つまり小型ヤッコとハードコーラルの飼育は常に要注意なのです。

アブラヤッコ属カタログ

●クシピポプス亜属

世界にはおよそ30種類が分布しています。★マークがついているのは日本にも分布しています。

★ルリヤッコ Centropyge bispinosa (Günther, 1860)

▲ルリヤッコ

分布域:琉球列島、インド-中央太平洋(ハワイ諸島にはいない)

ルリヤッコはヤッコの中ではもっとも丈夫であり、はじめて小型ヤッコを飼うのに最適な種類です。体色はバリエーションが大きく、青っぽいもの、赤みが強いもの、グレーにちかいものまでさまざまです。初心者からベテランまで楽しむことができるヤッコといえます。

★アカハラヤッコ Centropyge ferrugata Randall and Burgess, 1972

▲アカハラヤッコ

分布域:田辺湾以南~西太平洋

ルリヤッコ同様、初めて小型ヤッコを飼育するのに最適な種類です。その名の通り腹部が赤いのでほかの小型ヤッコとは容易に見分けられます。英語名Rusty angelfishは「さびたヤッコ」という意味で、体色に因みます。安価で購入できますがフィリピンなどの個体は状態を崩していることもあるため、入荷して時間が経つものを飼育するようにしましょう。

★ダイダイヤッコ Centropyge shepardi Randall and Yasuda, 1979

分布:小笠原諸島、硫黄島、南硫黄島、台湾、マリアナ諸島

英語ではマンゴーエンゼルと呼ばれるヤッコです。フレームエンゼルやアカハラヤッコに似ていますが、体色が明るいオレンジ色です。丈夫で飼育はしやすいものの、性格がややきついためほかの小型ヤッコとの混泳は注意が必要です。また高価であり、あまり初心者向けのヤッコとはいえないところがあるようです。

フレームエンゼルフィッシュ Centropyge loriculus (Günther, 1874)

分布:ハワイ諸島やポリネシア、パラオ、フィリピン

日本には分布していませんが、ポリネシアに分布する有名な小型ヤッコで、赤い体が特徴です。かつてはしばしば輸入されていましたが、ハワイの採集規制や、COVID-19のパンデミックなどの影響もあるのか、最近はあまり見なくなりました。入荷状況はそれなりによいことが多く、比較的飼いやすいように思います。たまに交雑個体も見られます。

★レンテンヤッコ Centropyge interrupta (Tanaka, 1918)

分布:南日本太平洋岸、伊豆―小笠原諸島、沖縄諸島、台湾、ハワイ諸島、ミッドウェイ

日本近海とハワイ諸島に生息し、わずかに台湾にも分布する種類です。全長15cmになりこの亜属中最大種で、属内でも最大級の種です。紫色の斑点をちりばめた美しい種で、幼魚は人気ですが非常に高価です。成魚は幼魚よりも安価なことが多いです。なお本種は温帯域が分布の中心であるため、水温はやや低めの21℃前後をキープするようにしたいものです。

マルチカラーエンゼルフィッシュ Centropyge multicolor Randall and Wass, 1974

分布:中央太平洋に広く分布するもハワイではほとんど見ない

中央太平洋に生息しています。パラオからソシエテ諸島に生息し、アクアリウムではハワイ経由で入ってきますが、ハワイにおける分布は漂着のようです。水深20~115mの深さのサンゴ礁に生息しており、高水温と強い照明は苦手です。とくに強い照明のもとで飼育すると背中が黒っぽくなってしまうことが多いので、あまりサンゴ水槽に向いていない種類といえます。餌食いはよいですが、ある程度ほかの小型ヤッコ飼育の経験を積んでから本種に挑戦するとよいでしょう。

ポッターズエンゼルフィッシュ Centropyge potteri (Jordan and Metz, 1912)

分布:ハワイ諸島周辺

ハワイ諸島やその周辺の固有種です。オレンジ色の横帯と尾鰭、背鰭、臀鰭後方に入る青いラインが美しいヤッコです。ハワイ諸島周辺にのみ生息するヤッコで、現在はやや高価です。餌食いは良好ですが、ハワイ周辺の5~100mをこえる深場に生息しており、高水温では飼いにくいところがあります。

ココスピグミーエンゼルフィッシュ Centropyge joculator Smith-Vaniz and Randall, 1974

分布:東インド洋ココス諸島、クリスマス島

黄色い頭部と、体側後半部の暗色が特徴的な小型ヤッコです。インド洋のココス諸島やクリスマス島にのみ生息する種で、輸送に時間がかかるため高価なことで知られます。輸送には時間がかかるものの丈夫で飼育しやすいためフレームエンゼルなどをうまく飼育できるアクアリストであれば、本種もうまく飼育できるでしょう。ただ性格は少々きついので混泳には注意が必要とされます。

★チャイロヤッコ Centropyge fisheri (Snyder, 1904)

分布:相模湾以南、インド∸太平洋。ハワイにも生息

チャイロヤッコは名前に「茶色」とありますが、色彩には産地による変異が見られます。日本で多くみられるのは濃紺色で、産地により頭部や体全体がオレンジだったりするなど変異が大きいのは別種扱いされていたこともあります。派手さはあまりないものの、小型で丈夫で飼育しやすいので小型ヤッコを初めて飼育するのには最適なのですが、小さい割には気が強いので注意します。なお、チャイロヤッコとこれより下の計5種を「フレームバック類」と呼称することがあります。

アフリカンフレームバック Centropyge acanthops (Norman, 1922)

分布:西インド洋

東アフリカに生息する小型ヤッコの仲間です。チャイロヤッコに似ていますが背中が濃いオレンジ色で、これが名前の由来となっています。餌食いはよく比較的丈夫な種ではありますが、性格がきついので注意が必要です。

チェルブエンゼルフィッシュ Centropyge argi Woods and Kanazawa, 1951

分布:北西大西洋とカリブ海、フレンチギアナ

インド∸太平洋域に多い小型ヤッコですが本種は3種しかいない大西洋産の1種です。体が青色~紺色、頭部がオレンジ色になるのが特徴です。丈夫で飼育しやすいですが、性格ややきつめのものが多いことや高水温、水質悪化に注意が必要です。

カリビアンフレームバック Centropyge aurantonotus Burgess, 1974

分布:カリブ海南部~ブラジル

東アフリカのインド洋沿岸に生息するアフリカンフレームバックに似ますがこちらはカリブ海産種です。違いは尾鰭の色でアフリカンは尾鰭が黄色、本種は尾鰭が紺色になっています。やはり高水温に注意が必要です。

レスプレンデントエンゼルフィッシュ Centropyge resplendens Lubbock and Sankey, 1975

分布:中央大西洋のアセンション島

スズメダイ科のセナキルリスズメダイによく似た色彩をした美種です。人気が高いヤッコではありますが生息地が大西洋のアセンション島近海であり、非常に高価な魚になってしまっています。筆者も飼育どころか見たこともないのですが、実際に本種を飼育するのであれば明るすぎないライティングや低めの水温が望ましいでしょう。

●ケントロピーゲ亜属

★ナメラヤッコ Centropyge vrolikii (Bleeker, 1853)

分布:神奈川県三崎以南(幼魚)、和歌山県以南、西太平洋、ミクロネシア、クリスマス島(インド洋)

体の前半部が灰色、後半部が黒という、派手さはないものの美しい色彩が特徴のヤッコです。英語名は「パールスケイル」、つまり真珠の鱗という意味です(キンギョのチンシュリンもパールスケイルと呼ばれる)。全長は12cmほどですが普通はもっと小型です。安価でうまくならせば餌付けもできるため、はじめてこの亜属を飼育するのには本種が適しているでしょう。ただし入荷直後の状態には注意が必要です。ニザダイ科のクログチニザは本種や次のコガネヤッコに擬態します。

★コガネヤッコ Centropyge flavissima (Cuvier, 1831)

分布:小笠原諸島、慶良間諸島、宮古島、中央太平洋。ハワイ諸島のものは導入か。

「レモンピール」の名でお馴染みの、中央太平洋を代表する小型ヤッコのひとつです。全身が黄色っぽく、眼の周りに青い模様があるのが特徴です。幼魚は成魚とほとんど色が変わらないのですが、体側に目玉模様があり美しいです。中央太平洋から入ってくるものでほかのヤッコよりも高価ではありますが、その分状態がよいものが届くことも多いです。餌付けはこの亜属では比較的容易なほうですが、LPSなどはつつくので一緒に飼わない方がよいでしょう。また本種とナメラヤッコとの交雑個体は比較的よく見られます。

ココスレモンピール Centropyge cocosensis Shen, Chang, Delrieu-Trottin and Borsa, 2016

分布:インド洋のクリスマス島・ココス(キーリング)諸島

インド洋に生息するコガネヤッコのそっくりさんです。全身が黄色く、コガネヤッコと異なり眼の内側に青い円斑があるのが特徴です。コガネヤッコも安価ではありませんが、本種はかなり高価であるためなかなか手を出しにくい種類とされます。幼魚期はコガネヤッコ同様大きな黒色斑があります。サンゴはよくつつき、コガネヤッコよりも飼育が難しいとされています。

エイブルズエンゼルフィッシュ Centropyge eibli Klausewitz, 1963

分布:インド洋

学名をそのままよんだ「エイブリーエンゼル」と呼ばれることもあります。ナメラヤッコに似ていますが体側のオレンジ色の縞模様が特徴です。また尾部が黒く「ブラックテールエンゼルフィッシュ」と呼ばれることもあります。インドネシア便などで来るため安価ですが状態には注意が必要です。またサンゴもよくつつくので注意が必要です。ナメラヤッコはよくクログチニザに擬態されますが、クログチニザはインド洋にはほとんどおらず、インディアンミミックサージャンフィッシュというニザダイが本種によく似た模様をもちます。

アブラヤッコ Centropyge tibicen (Cuvier, 1831)

分布:静岡県以南、西太平洋、東インド洋

暗色の体に白い模様が入るのが特徴のヤッコで、英語名ではその特徴から「キーホールエンゼル」と呼ばれることもあります。体は一見黒で地味なように見えますが大型個体は紺色になり美しいものです。全長18cmにもなりこの属では最大級。大きいものほど餌付けに苦労します。またハードコーラルはつついてしまうのでハードコーラルメインの水槽には適していません。

ソメワケヤッコ Centropyge bicolor (Bloch, 1787)

分布:静岡県以南、東インド-太平洋域

体の前半分が黄色、後ろ半分が青色、眼に通る青いラインがある、という色彩が美しいヤッコです。背鰭や臀鰭は若干先がとがります。浅いサンゴ礁域に生息し、付着生物を食べますが水槽ではサンゴも食べてしまうことがあり、注意が必要です。東南アジア便で届きますが状態がイマイチなことが多く飼育は難しいです。餌も最初はアサリから餌付けなければならないことが多いです。

ヘラルドコガネヤッコ Centropyge heraldi Woods and Schultz, 1953

分布:和歌山県以南、西-中央太平洋

全身黄色で眼の周辺には青いリング模様がない(黒色斑がある)ことからコガネヤッコと区別できます。性格はコガネヤッコよりもきつく、ほかの小型ヤッコとの混泳は要注意です。また最初はアサリを与える必要があることや、サンゴをつつくこともあるなど、飼育も簡単ではないところがありますが、上手く餌付けば長期飼育も可能です。観賞魚店ではヘラルドヤッコとも呼ばれ、安価です。

ウッドヘッドエンゼルフィッシュ Centropyge woodheadi Kuiter, 1998

分布:フィジー、トンガなど南太平洋

ヘラルドコガネヤッコに似ていますが、背鰭に黒い線があることで見分けることができます。従来ヘラルドコガネヤッコの色違いとされていましたが、最近になって有効種とされました。飼育方法はヘラルドコガネヤッコとほぼ同様と考えられますが、飼育したことはなく不明です。お値段はヘラルドコガネヤッコよりも高価です。

ゴールデンエンゼルフィッシュ Centropyge aurantia Randall and Wass, 1974

分布:西太平洋、インドネシア

全長10cmほどです。オレンジ色が強いルリヤッコのように見えますが、サンゴ食性が強く、ハードコーラルは食べられてしまいます。そのため魚水槽で飼育することになります。飼育はやや難しい小型ヤッコで、入荷数も多くありません。

ブルーベルベットエンゼルフィッシュ Centropyge deborae Shen, Ho and Chang, 2012

分布:フィジー

オハグロヤッコに似ている紺色が美しい小型ヤッコです。フィジー周辺で採集され2012年に新種記載されたものです。観賞魚としての入荷はあるようですが高価なようです。飼育したことはなく、食性や習性などは不明ですが、恐らく餌食いはあまりよくなくサンゴをつつくこともあると思われます。

イエローフィンエンゼルフィッシュ Centropyge flavipectoralis Randall and Klausewitz, 1977

分布:モルディブとスリランカ

ダスキーエンゼルフィッシュに似ていますが、胸鰭が黄色いのが特徴です。体側には黒色の横帯があり、一見ルリヤッコを濃紺色にしたような趣の種ですが、やや神経質で配合飼料への餌付けもしにくく、あまり初心者にはおすすめできない種類です。またサンゴをつつくこともあるようです。スリランカ便でたまに入りますが、あまり多くは入ってきません。

ダスキーエンゼルフィッシュ Centropyge multispinis (Playfair, 1867)

分布:インド洋

メニィスパインドエンゼルフィッシュとも呼ばれます。黒っぽい体で体側に横帯が入りイエローフィンエンゼルに似ていますが胸鰭が黄色くないので見分けられます。インド洋に広く生息していますが、地味なためかあまり入荷はなく、配合飼料への餌付けが難しい種類とされます。

オハグロヤッコ Centropyge nox (Bleeker, 1853)

分布:西表島、西太平洋-オーストラリア西岸

全身が真っ黒で目立たない小型ヤッコです。ただし若魚のころは鰓蓋のところに黄色斑が出ます。やや飼育が難しい小型ヤッコで、餌食いもよくなくサンゴ水槽に入れればサンゴをつつくこともあります。

アヤメヤッコ Centropyge colini Smith-Vaniz and Randall, 1974

分布:小笠原諸島、西太平洋、インドネシア、ココスキーリング諸島

学名から「コリンズエンゼル」とも呼ばれます。ほかのヤッコよりも体高が高く、淡い黄色と青色が美しいヤッコですが可憐で混泳には気を使い、長期飼育も難しいとされています。入荷量は少なく、入ってきても小型ヤッコとしてはやや高価な部類になります。

★滅多に見られない幻の小型ヤッコたち

アベズエンゼルフィッシュ  Centropyge abei Allen, Young and Colin, 2006

ブルーモーリシャスエンゼルフィッシュ Centropyge debelius Pyle, 1990

ホツマツアエンゼルフィッシュ Centropyge hotumatua Randall and Caldwell, 1973

ナハッキーエンゼルフィッシュ Centropyge nahackyi Kosaki, 1989

ナークエンゼルフィッシュ Centropyge narcosis Pyle and Randall, 1993

ブラックスポットエンゼルフィッシュ Centropyge nigriocella Woods and Schultz, 1953

シマヤッコ属 Genus Paracentropyge

シマヤッコ

シマヤッコ属を認めるかどうかは学者によって違いがあります。シマヤッコ属を認めない場合はアブラヤッコ属のいち亜属とされます。3種類が知られていますが、いずれも体高のある種類で、日本にはシマヤッコとスミレヤッコが分布します。

もう1種のペパーミントエンゼルフィッシュは赤い体に白く細い横帯がある極めて美しい種類です。南太平洋の深場に生息する種で、1匹100万円ほどの値段で販売されていましたが、今後の入荷は望めない種です。

シマヤッコやスミレヤッコは神経質で餌付きにくく、初心者にはおすすめしにくいのですが、色彩が美しくてかわいいのでいつかは飼育してみたい種類となるでしょう。

シマヤッコ属カタログ

シマヤッコ Paracentropyge multifasciata (Smith and Radcliffe, 1911)

分布:東インド-中央太平洋

ココスキーリング諸島から中央太平洋に生息するヤッコです。日本では八重山諸島にのみ分布するのみで、日本で売られる個体はほぼすべての個体が海外産です。主にマニラやインドネシア、バヌアツ、マーシャル諸島などから入ってきますが、東南アジア産のものは調子がイマイチなことが多く、マーシャル諸島やバヌアツ産のものが人気です。なお、これらの海域から入ってくるものは若干東南アジアのものと模様の様子が異なります。

スミレヤッコ  Paracentropyge venustus (Yasuda and Tominaga, 1969)

分布:西太平洋

伊豆諸島から沖縄、台湾、フィリピンにかけて分布する美種です。体が青と黄色のツートーンカラーになっていますが、それぞれの色の面積などは個体による差が大きいです。観賞魚としてはマニラや沖縄産のものがやってきますが、個体の状態は沖縄の方がよいようです。属名がころころ変わり、1属1種とする説から、古くはホラカンタス属のなかに入れられたりしましたが、最近はシマヤッコ属のなかに入れられています。フィリピンではスミレヤッコとのハイブリッドが採集されており、この2種が近い魚種であることをうかがわせます。

ペパーミントエンゼルフィッシュ Paracentropyge boylei Pyle and Randall, 1992

分布:南太平洋

南太平洋のクック諸島に生息する小型ヤッコで、赤い体に白い横帯が5本入るのが特徴です。水深50~100mほどの深い海に生息しているため、流通しても非常に高価な種類(100万円以上とも!)です。

小型ヤッコを飼育するための基本的な環境

水槽

フレームバックの仲間など小型の種類は45cm水槽での飼育も可なのですが、初心者の方は小さくても幅60cm以上の水槽で飼育することをおすすめします。

また45cm幅の水槽でも、キューブ水槽であれば60cm水槽よりも多くの水量を稼ぐことができますし、60×45×45cm水槽であれば、「60cm水槽」といっても100リットル以上の豊富な水量を確保できます。

おすすめは60~90cmのオーバーフロー水槽で、高価ではありますがほかのどんな水槽よりも飼育はずっとカンタンになります。またオーバーフロー水槽であれば小型ヤッコ同士を混泳させるのにサンプ(水溜め)で新参の個体をいじめる先住者を隔離することもできるなど、便利です。

ろ過装置

小型ヤッコはスズメダイやハゼ、クマノミよりも水質の悪化に弱い面があります。ろ過装置は水槽のキモであり、心臓ですので、絶対に価格だけで選んではいけません。おすすめは上部ろ過槽と外部ろ過槽の併用で、外部ろ過槽の単独使用や外掛け式ろ過槽はおすすめしません。

もちろん、予算が許すのであればオーバーフロー方式にして、大容量のサンプ(水溜め)でろ過をするか、サンゴをあまり食害しないフレームエンゼルなどのクシピポプス亜属魚であれば強力なプロテインスキマーを使用してベルリンシステムのサンゴ水槽で飼育するとよいでしょう。

水温

コガネヤッコやアブラヤッコといったサンゴ礁の浅瀬にすむ種は25℃前後で飼育します。レンテンヤッコやカリビアンフレームバック、チェルブフィッシュなど、温帯性の種やカリブ海産のもの、あるいはマルチカラーエンゼルフィッシュなど熱帯性でもやや深場の種は22℃くらいのやや涼しいくらいの水温で飼育するとよいでしょう。

水温の変動は白点病などの病気を引き起こすおそれもありますのでよくありません。ヒーターとクーラーを使用しできるだけ一定の水温をキープします。クーラーは適合水量よりもワンランク上のものを用意するとよいでしょう。

照明

色が黒ずんだマルチカラーエンゼル

サンゴ水槽で飼育されることが多い小型ヤッコの仲間にサンゴ育成用のメタルハライドランプを照射することがありますが、フレームエンゼルフィッシュやマルチカラーエンゼルフィッシュといった種は体色が黒ずむ「照明焼け」をおこすおそれがありおすすめできません。

おすすめはボルクスジャパンのグラッシーレディオ。

ライブロック

ライブロックは小型ヤッコの飼育には重要なものです。ライブロックを組み合わせて小型ヤッコが隠れるスペースを作ります。

またライブロックにつくカイメンなどの付着生物は小型ヤッコにとってはよい餌になります。もちろん良質なライブロックを選ぶ必要があります。腐敗しているものは絶対に入れないようにしましょう。

小型ヤッコの餌

小型ヤッコは雑食性のものが多いです。海の中では藻類やカイメンなどの付着する生物を好んで食べますが、ほとんどの種類が最終的には配合飼料を食べるようになります。

ただし、餌付きやすい種類と餌付けが難しい種がおり、特にフレームエンゼルフィッシュやアカハラヤッコなどは餌付きやすく、逆にソメワケヤッコやスミレヤッコといったケントロピーゲ亜属の種やシマヤッコ属の種類はなかなか餌付きにくく、初心者にはあまりおすすめしにくい種です。ただし個体差もありますし、また、あまりにも大きいものは餌付かせることが難しいです。

配合飼料

ヤッコの仲間に向く配合飼料が多数販売されています。ヤッコの仲間でも飼いやすいグループであるクシピポプス亜属の種類は藻類も好んで食するので、植物質の餌を与えるのもよい方法です。

配合飼料を食べている種類であっても環境が変わると配合餌を受け付けなくなる場合もあります。ある種の配合飼料を拒んでも別の配合飼料は食べる、などというケースも多くあるので、複数種の配合餌を用意しておきましょう。

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冷凍飼料

配合飼料になかなか餌付かないことがあるアブラヤッコやソメワケヤッコなどの種類は、まず最初に殻つきのアサリを餌に与えることをおすすめします。活きアサリをそのまま冷凍し、殻つきのままヤッコに与えると食べることが多いようです。その後アサリの殻にミンチにしたアサリと配合飼料を混ぜたものを合わせて冷凍し、ヤッコに与えるという方法で配合飼料に餌付かせたりしますが、どうしても餌付かない場合はアサリをそのまま継続して与えます。

その他にも冷凍コペポーダ冷凍ホワイトシュリンプなど、小型ヤッコが好む冷凍餌がたくさんありますが、アサリにしろこれらの餌にしろ、与えすぎは水を汚すおそれもありますので、与えすぎに注意し、残餌は早いうちに取り除きます。

添加剤

マーフィードから出ている「ブライトウェル エンジェリクサー」という添加剤があります。これは餌に添加して使うもので、カイメン(スポンジ)の組織と同比率のアミノ酸やタンパク質を含有していて、餌付きにくいヤッコにおすすめの商品といえます。

初心者におすすめの小型ヤッコの種類

実は小型ヤッコの仲間はすべての種が初心者向きとはいえません。どうしても初心者には難しい種類もいます。

初心者には、3000~10000円くらいと比較的安価で、よく餌を食べるクシピポプス亜属の種類をおすすめします。中央太平洋に生息するフレームエンゼルフィッシュや、マルチカラーエンゼルフィッシュといった種は丈夫で飼いやすく、ハワイ経由で来るので状態よく届く可能性が高いといえます。

▲ヤッコの中でもとくに飼いやすいフレームエンゼル

▲アカハラヤッコも飼いやすいが、産地には注意

ルリヤッコやアカハラヤッコといった種類も本来は丈夫で飼育しやすいのですが、これらの魚種はお店によっては1000円を切るような値段で販売されていることもあり、主に東南アジアから来るもので、雑な扱いを受けている可能性もあります。

沖縄から来るものは東南アジア産よりは高めですが、丁寧な扱いを受けており輸送時間も短めです。初心者はそのような個体を選ぶとよいでしょう。

ココスピグミーエンゼルフィッシュ(インド洋)やデベリウス(モーリシャスやレユニオン産)、現在では入手困難となったホツマツアエンゼルフィッシュ(イースター島産)といった種類は生息地が辺境にあり、高値で売れるので丁寧な扱いをうけていることが多いといえますが、あまりにも高価なので初心者の方にはおすすめしにくい種といえます。

初心者には難しい小型ヤッコの種類

▲ソメワケヤッコ。従来は難しかったが最近は改善されている

初心者に難しい小型ヤッコの仲間は、コガネヤッコ、スミレヤッコ、エイブリーエンゼルといったアブラヤッコ属のうちのケントロピーゲ亜属や、シマヤッコ属の魚種です。これらの種類は付着生物を捕食しており配合飼料を食べるようになるまで時間がかかることもあります。

またヘラルドコガネヤッコ、ソメワケヤッコ、アブラヤッコ、ナメラヤッコ、エイブリーエンゼルといった種類は主に東南アジアから輸入されることが多く、価格も1000~2000円前後と安価なのですが、そのせいで雑な扱いを受けているのかもしれません。しかし近年は状態も改善されてきており、チャレンジしやすくなりました。

レンテンヤッコやチェルブフィッシュといった種は分類学的にはアブラヤッコなどよりもフレームエンゼルフィッシュグループですので餌付きなどもよいのですが、これらの種は日本近海やカリブ海に生息する種類ですので、高水温に注意が必要です。このほかやや深いところにすむタイプのものは高水温を嫌うので注意が必要です。

小型ヤッコの混泳

色鮮やかな小型ヤッコをたくさん混泳させたくなりますが、小型ヤッコはスズメダイの仲間ほどではないものの性格がきつめなので、とくに小型ヤッコ同士の混泳は注意が必要です。他の魚との混泳は問題ないことが多いです。

小型ヤッコ同士の混泳は小型水槽では無理です。60cm以上の大きさの水槽で小型ヤッコとの混泳を考えることができますが、できれば90cmより大きな水槽が望ましいと言えます。

種類ごとの序列

▲フレームバック系は気が強く混泳注意

フレームバック系の種類は小型ですがかなり強めの性格をしているので、小型ヤッコの仲間を混泳させるのであれば後に入れるくらいがちょうどよいくらいです。またヘラルドコガネヤッコなどの種類もやや気が強く個体によっては他のヤッコとの混泳が困難だったりします。

逆に最も弱いのはシマヤッコ、スミレヤッコで、小型ヤッコの混泳水槽にこの2種を加えるのであれば、まずこの種類を餌付かせて、水槽に慣れさせてから他のヤッコを追加するようにしなければなりません。

小型ヤッコの混泳テクニック

先住の小型ヤッコがいるところに新しく小型ヤッコをそのまま追加するのはおすすめできません。まずは隔離ケースを水槽にうかべ、その中に小型ヤッコをいれて、先住の小型ヤッコと「お見合い」させましょう。お見合いさせる「隔離ケース」は「ビックフィッシュハウス」等なるべく大きめのものがよいのですが、長く隔離していると弱ってしまう恐れがあるので注意が必要です。

新入りの個体のほうがが大きいと上手くいくことが多いですが、ケントロピーゲ亜属の種は大きすぎると餌付きにくいこともありますので注意が必要です。ケントロピーゲ亜属とクシピポプス亜属の魚との混泳ではまずケントロピーゲ亜属の魚を水槽に泳がせ、餌付いてからクシピポプス亜属の魚を水槽に入れます。ケントロピーゲ亜属の魚は大きくなるにつれ気が強めになりますので、新しく入れるクシピポプス亜属の魚は大きめのものがよいでしょう。

新入りの小型ヤッコがいじめられる場合は、いじめている方の小型ヤッコをいったん隔離し、水槽内のライブロックやサンゴ岩のレイアウトを一旦崩して全く新しいものにしていじめられていた方の小型ヤッコが自分の縄張りを持ちはじめてから、いじめていた小型ヤッコを再度水槽に導入する方法もあります。レイアウトを崩すときはデトリタスが舞わないように注意しましょう。その中に病気のもとになる生物が潜んでいるおそれもあるからです。サンゴ岩やライブロックをいじったら病気がでて魚を失った、なんてアクアリストも多いのです。できればレイアウトを変更するときはいじめている・いじめられた小型ヤッコの両方や他のすべての魚をいったん出してしまいたいものです。

他にも夜間、先住のヤッコが寝静まっているときに入れるとうまく混泳できるとか、新入りの小型ヤッコを一度に2種以上いれて攻撃の対象を分散させるという方法もあります。

小型ヤッコとサンゴとの相性

現在はサンゴ水槽が主流で、その中で小型ヤッコを飼育しているアクアリストが多いです。しかし小型ヤッコの中にはサンゴを食べる種もおりますので、注意が必要です。

注意が必要な小型ヤッコ

▲アブラヤッコもサンゴをつつく

とくにケントロピーゲ亜属の種類はサンゴをよく食べてしまうので気をつけるべきです。コガネヤッコ、アブラヤッコ、ヘラルドコガネヤッコといった種類はハードコーラル、とくにLPSをよくつつくので一緒に飼育するのはすすめられません。種類によってはソフトコーラルも食べてしまう恐れがあります。

クシピポプス亜属のフレームエンゼル、フレームバック、ルリヤッコなどの魚はハードコーラル中心の水槽での飼育も可能ですが、個体によってはサンゴをつつくこともあるので注意が必要です。

シマヤッコ属のシマヤッコやスミレヤッコもLPSをつつくことがあります。ミドリイシなどのSPSやソフトコーラル水槽で飼育するのに向いています。

小型ヤッコに狙われやすい、注意が必要なサンゴ

▲キクメイシは小型ヤッコにつつかれやすい。要注意

ハードコーラルの中でもとくにLPS、たとえばカクオオトゲキクメイシ、オオバナサンゴやハナガタサンゴといったタイプのサンゴはつつかれやすいので注意が必要です。これらとケントロピーゲ亜属の小型ヤッコとの飼育は無謀ともいえます。クシピポプス亜属の魚との飼育は不可能ではないのですが種類や個体によりつついてしまうことがあるのでよく観察しましょう。

ソフトコーラルは比較的食害はされにくいのですが柔らかいウミアザミは食害されやすいので注意します。

またどんな種類のサンゴであっても、水質の変動などによって弱っているサンゴは小型ヤッコに食害されるリスクがあるといえます。サンゴが健康な状態で飼育できてはじめて、小型ヤッコとサンゴのコラボレーションが楽しめるといえます。

小型ヤッコの病気

小型ヤッコも病気にかかることがあります。とくに多いのは白点病で、体側に白い斑点がつくことがあります。銅イオンでの治療が一番確実ですが、濃度を間違えると魚を殺してしまいますので、初心者にはおすすめできません。

グリーンFゴールドなどの魚病薬で治療しますが、このような薬はサンゴ水槽で使えないことに注意します。

予防方法は紫外線殺菌灯を使用することです。また水温の変動があると病気が出やすくなるのでヒーターとクーラーを使用して年中水温を一定にすることが病気予防には大切なことだといえます。

また入荷後すぐの個体はトリコディナを発症することがあります。魚の表皮につき表皮の組織を食い荒らすやばい病気です。この病気に対して薬は効果がなく淡水浴で治療します。淡水浴はトリコディナのほか、魚につくハダムシにも効果的です。淡水浴の方法はこちらをご覧ください。

また、小型ヤッコがどうしてもうまく飼育できないという方は、こちらもご覧ください。

小型ヤッコの飼育まとめ

  • 初心者におすすめはフレームエンゼルやマルチカラーエンゼルなど
  • クシピポプス亜属のものは飼育しやすいものが多い
  • ケントロピーゲ亜属とシマヤッコ属は餌付きにくく難しいものも多い
  • 小さくても60cm以上の水槽を
  • ろ過装置は上部ろ過槽と外部ろ過槽の併用。最もよいのはオーバーフロー
  • 水温は25℃だが種によっては22℃前後
  • 種類によっては照明焼けする種も
  • ライブロックは隠れ家だけでなく餌も供給する
  • 餌付かない個体には複数種の餌を。冷凍飼料やアサリもよい
  • 添加剤をくわえた餌も効果あり
  • サンゴは種によっては食害されるおそれあり
  • 白点病とトリコディナに注意
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