小型ヤッコ(ケントロピーゲ)の基本的な飼育方法

青みが強いルリヤッコの個体

ヤッコの仲間は海水魚のなかで最も人気があるグループといえます。ヤッコの仲間には全長50cm近くになる大型種もいますが、とくに人気があるのは全長10cm前後の小型種が多く含まれる「小型ヤッコ」と呼ばれるものです。この小型ヤッコをうまく飼育するためのポイントをご紹介します。

小型ヤッコの仲間の分類・種類

小型ヤッコ底生

「小型ヤッコ」はスズキ目・キンチャクダイ科のなかの小型のグループであるアブラヤッコ属とシマヤッコ属をあわせた呼び名です。アクアリストの中ではアブラヤッコ属を「ケントロピーゲ」と呼びますが、これは学名の属名に由来します。シマヤッコ属も同様に「パラケントロピーゲ」と呼び、「ケントロ」「パラケン」などと略されることもあります。

アブラヤッコ属 Genus Centropyge

アブラヤッコ

アブラヤッコ

アブラヤッコ属の魚は31種が知られ、インド-中央太平洋域と大西洋の熱帯から温帯海域に分布し、大きく二つのグループに分けられます。フレームエンゼルやアカハラヤッコに代表されるグループと、アブラヤッコやソメワケヤッコなどのグループです。

これらのうち前者はクシピポプス亜属とよばれ、後者はケントロピーゲ亜属とよばれています。さらにシマヤッコ属を認めず、アブラヤッコ属の亜属にする考えもあります。

基本的にクシピポプス亜属のものは飼育がやさしく、ケントロピーゲ亜属のものは飼育が難しいとされていますが、最近は輸送状態なども改善されてケントロピーゲ亜属の種を上手く飼育している人も多いです。ただしケントロピーゲ亜属の魚はハードコーラル、とくにLPSをつつくことも多いためそれらとの飼育は難しいことには変わりがありません。

シマヤッコ属 Genus Paracentropyge

スミレヤッコ

スミレヤッコ

シマヤッコ属を認めるかどうかは学者によって違いがあります。シマヤッコ属を認めない場合はアブラヤッコ属のいち亜属とされます。3種類が知られていますが、いずれも体高のある種類で、日本にはシマヤッコとスミレヤッコが分布します。

もう1種のペパーミントエンゼルフィッシュは赤い体に白く細い横帯がある極めて美しい種類です。南太平洋の深場に生息する種で、1匹100万円ほどの値段で販売されていましたが、今後の入荷は望めない種です。

シマヤッコやスミレヤッコは神経質で餌付きにくく、初心者にはおすすめしにくいのですが、色彩が美しくてかわいいのでいつかは飼育してみたい種類となるでしょう。

小型ヤッコを飼育するための基本的な環境

水槽

フレームバックの仲間など小型の種類は45cm水槽での飼育も可なのですが、初心者の方は小さくても幅60cm以上の水槽で飼育することをおすすめします。

また45cm幅の水槽でも、キューブ水槽であれば60cm水槽よりも多くの水量を稼ぐことができますし、60×45×45cm水槽であれば、「60cm水槽」といっても100リットル以上の豊富な水量を確保できます。

おすすめは60~90cmのオーバーフロー水槽で、高価ではありますがほかのどんな水槽よりも飼育はずっとカンタンになります。またオーバーフロー水槽であれば小型ヤッコ同士を混泳させるのにサンプ(水溜め)で新参の個体をいじめる先住者を隔離することもできるなど、便利です。

ろ過装置

小型ヤッコはスズメダイやハゼ、クマノミよりも水質の悪化に弱い面があります。ろ過装置は水槽のキモであり、心臓ですので、絶対に価格だけで選んではいけません。おすすめは上部ろ過槽と外部ろ過槽の併用で、外部ろ過槽の単独使用や外掛け式ろ過槽はおすすめしません。

もちろん、予算が許すのであればオーバーフロー方式にして、大容量のサンプ(水溜め)でろ過をするか、サンゴをあまり食害しないフレームエンゼルなどのクシピポプス亜属の魚であれば強力なプロテインスキマーを使用してベルリンシステムのサンゴ水槽で飼育するとよいでしょう。

水温

大西洋産のチェルブ(ヤッコ)

大西洋産のチェルブは高水温に注意

コガネヤッコやアブラヤッコといったサンゴ礁の浅瀬にすむ種は25℃前後で飼育します。レンテンヤッコやカリビアンフレームバック、チェルブフィッシュなど、温帯性の種やカリブ海産のもの、あるいはマルチカラーエンゼルフィッシュなど熱帯性でもやや深場の種は22℃くらいのやや涼しいくらいの水温で飼育するとよいでしょう。

水温の変動は白点病などの病気を引き起こすおそれもありますのでよくありません。ヒーターとクーラーを使用しできるだけ一定の水温をキープします。クーラーは適合水量よりもワンランク上のものを用意するとよいでしょう。

照明

色が黒ずんだマルチカラーエンゼル

色が黒ずんだマルチカラーエンゼル

サンゴ水槽で飼育されることが多い小型ヤッコの仲間にサンゴ育成用のメタルハライドランプを照射することがありますが、フレームエンゼルフィッシュやマルチカラーエンゼルフィッシュといった種は体色が黒ずむ「照明焼け」をおこすおそれがありおすすめできません。

おすすめはボルクスジャパンのグラッシーレディオ。

ライブロック

ライブロックは小型ヤッコの飼育には重要なものです。ライブロックを組み合わせて小型ヤッコが隠れるスペースを作ります。

またライブロックにつくカイメンなどの付着生物は小型ヤッコにとってはよい餌になります。もちろん良質なライブロックを選ぶ必要があります。腐敗しているものは絶対に入れないようにしましょう。

小型ヤッコの餌

小型ヤッコは雑食性のものが多いです。海の中では藻類やカイメンなどの付着する生物を好んで食べますが、ほとんどの種類が最終的には配合飼料を食べるようになります。

餌付きやすい種類と餌付けが難しい種がおり、特にフレームエンゼルフィッシュやアカハラヤッコなどは餌付きやすく、逆にソメワケヤッコやスミレヤッコといったケントロピーゲ亜属の種やシマヤッコ属の種類はなかなか餌付きにくく、初心者にはあまりおすすめしにくい種です。

配合飼料

ヤッコの仲間に向く配合飼料が多数販売されています。ヤッコの仲間でも飼いやすいグループであるクシピポプス亜属の種類は藻類も好んで食するので、植物質の餌を与えるのもよい方法です。

配合飼料を食べている種類であっても環境が変わると配合餌を受け付けなくなる場合もあります。ある種の配合飼料を拒んでも別の配合飼料は食べる、などというケースも多くあるので、複数種の配合餌を用意しておきましょう。

冷凍飼料

配合飼料になかなか餌付かないことがあるアブラヤッコやソメワケヤッコなどの種類は、まず最初に殻つきのアサリを餌に与えることをおすすめします。活きアサリをそのまま冷凍し、殻つきのままヤッコに与えると食べることが多いようです。その後アサリの殻にミンチにしたアサリと配合飼料を混ぜたものを合わせて冷凍し、ヤッコに与えるという方法で配合飼料に餌付かせたりしますが、どうしても餌付かない場合はアサリをそのまま継続して与えます。

その他にも冷凍コペポーダ冷凍ホワイトシュリンプなど、小型ヤッコが好む冷凍餌がたくさんありますが、アサリにしろこれらの餌にしろ、与えすぎは水を汚すおそれもありますので、与えすぎに注意し、残餌は早いうちに取り除きます。

添加剤

マーフィードから出ている「ブライトウェル エンジェリクサー」という添加剤があります。これは餌に添加して使うもので、カイメン(スポンジ)の組織と同比率のアミノ酸やタンパク質を含有していて、餌付きにくいヤッコにおすすめの商品といえます。

初心者におすすめの小型ヤッコの種類

実は小型ヤッコの仲間はすべての種が初心者向きとはいえません。どうしても初心者には難しい種類もいます。

初心者には、3000~10000円くらいと比較的安価で、よく餌を食べるクシピポプス亜属の種類をおすすめします。中央太平洋に生息するフレームエンゼルフィッシュや、マルチカラーエンゼルフィッシュといった種は丈夫で飼いやすく、ハワイ経由で来るので状態よく届く可能性が高いといえます。

フレームエンゼル(ヤッコ)

▲ヤッコの中でもとくに飼いやすいフレームエンゼル

アカハラヤッコ

▲アカハラヤッコも飼いやすいが、産地には注意

ルリヤッコやアカハラヤッコといった種類も本来は丈夫で飼育しやすいのですが、これらの魚種はお店によっては1000円を切るような値段で販売されていることもあり、主に東南アジアから来るもので、雑な扱いを受けている可能性もあります。

沖縄から来るものは東南アジア産よりは高めですが、丁寧な扱いを受けており輸送時間も短めです。初心者はそのような個体を選ぶとよいでしょう。

ココスピグミーエンゼルフィッシュ(インド洋)やデベリウス(モーリシャスやレユニオン産)、現在では入手困難となったホツマツアエンゼルフィッシュ(イースター島産)といった種類は生息地が辺境にあり、高値で売れるので丁寧な扱いをうけていることが多いといえますが、あまりにも高価なので初心者の方にはおすすめしにくい種といえます。

初心者には難しい小型ヤッコの種類

ソメワケヤッコ

▲ソメワケヤッコ。従来は難しかったが最近は改善されている

初心者に難しい小型ヤッコの仲間は、コガネヤッコ、スミレヤッコ、エイブリーエンゼルといったアブラヤッコ属のうちのケントロピーゲ亜属や、シマヤッコ属の魚種です。これらの種類は付着生物を捕食しており配合飼料を食べるようになるまで時間がかかることもあります。

またヘラルドコガネヤッコ、ソメワケヤッコ、アブラヤッコ、ナメラヤッコ、エイブリーエンゼルといった種類は主に東南アジアから輸入されることが多く、価格も1000~2000円前後と安価なのですが、そのせいで雑な扱いを受けているのかもしれません。しかし近年は状態も改善されてきており、チャレンジしやすくなりました。

レンテンヤッコやチェルブフィッシュといった種は分類学的にはアブラヤッコなどよりもフレームエンゼルフィッシュに近いようで餌付きなどもよいのですが、これらの種は日本近海やカリブ海に生息する種類ですので、高水温に注意が必要です。

小型ヤッコの混泳

色鮮やかな小型ヤッコをたくさん混泳させたくなりますが、小型ヤッコはスズメダイの仲間ほどではないものの性格がきつめなので、とくに小型ヤッコ同士の混泳は注意が必要です。他の魚との混泳は問題ないことが多いです。

小型ヤッコ同士の混泳は小型水槽では無理です。60cm以上の大きさの水槽で小型ヤッコとの混泳を考えることができますが、できれば90cmより大きな水槽が望ましいと言えます。

種類ごとの序列

▲フレームバック系は気が強く混泳注意

フレームバック系の種類は小型ですがかなり強めの性格をしているので、小型ヤッコの仲間を混泳させるのであれば後に入れるくらいがちょうどよいくらいです。またヘラルドコガネヤッコなどの種類もやや気が強く個体によっては他のヤッコとの混泳が困難だったりします。

逆に最も弱いのはシマヤッコ、スミレヤッコで、小型ヤッコの混泳水槽にこの2種を加えるのであれば、まずこの種類を餌付かせて、水槽に慣れさせてから他のヤッコを追加するようにしなければなりません。

小型ヤッコの混泳テクニック

先住の小型ヤッコがいるところに新しく小型ヤッコをそのまま追加するのはおすすめできません。まずは隔離ケースを水槽にうかべ、その中に小型ヤッコをいれて、先住の小型ヤッコと「お見合い」させましょう。お見合いさせる「隔離ケース」は「ビックフィッシュハウス」等なるべく大きめのものがよいのですが、長く隔離していると弱ってしまう恐れがあるので注意が必要です。

新入りの個体のほうがが大きいと上手くいくことが多いですが、ケントロピーゲ亜属の種は大きすぎると餌付きにくいこともありますので注意が必要です。ケントロピーゲ亜属とクシピポプス亜属の魚との混泳ではまずケントロピーゲ亜属の魚を水槽に泳がせ、餌付いてからクシピポプス亜属の魚を水槽に入れます。ケントロピーゲ亜属の魚は大きくなるにつれ気が強めになりますので、新しく入れるクシピポプス亜属の魚は大きめのものがよいでしょう。

新入りの小型ヤッコがいじめられる場合は、いじめている方の小型ヤッコをいったん隔離し、水槽内のライブロックやサンゴ岩のレイアウトを一旦崩して全く新しいものにしていじめられていた方の小型ヤッコが自分の縄張りを持ちはじめてから、いじめていた小型ヤッコを再度水槽に導入する方法もあります。レイアウトを崩すときはデトリタスが舞わないように注意しましょう。その中に病気のもとになる生物が潜んでいるおそれもあるからです。サンゴ岩やライブロックをいじったら病気がでて魚を失った、なんてアクアリストも多いのです。できればレイアウトを変更するときはいじめている・いじめられた小型ヤッコの両方や他のすべての魚をいったん出してしまいたいものです。

他にも夜間、先住のヤッコが寝静まっているときに入れるとうまく混泳できるとか、新入りの小型ヤッコを一度に2種以上いれて攻撃の対象を分散させるという方法もあります。

小型ヤッコとサンゴとの相性

現在はサンゴ水槽が主流で、その中で小型ヤッコを飼育しているアクアリストが多いです。しかし小型ヤッコの中にはサンゴを食べる種もおりますので、注意が必要です。

注意が必要な小型ヤッコ

▲アブラヤッコもサンゴをつつく

とくにケントロピーゲ亜属の種類はサンゴをよく食べてしまうので気をつけるべきです。コガネヤッコ、アブラヤッコ、ヘラルドコガネヤッコといった種類はハードコーラル、とくにLPSをよくつつくので一緒に飼育するのはすすめられません。種類によってはソフトコーラルも食べてしまう恐れがあります。

クシピポプス亜属のフレームエンゼル、フレームバック、ルリヤッコなどの魚はハードコーラル中心の水槽での飼育も可能ですが、個体によってはサンゴをつつくこともあるので注意が必要です。

シマヤッコ属のシマヤッコやスミレヤッコもLPSをつつくことがあります。ミドリイシなどのSPSやソフトコーラル水槽で飼育するのに向いています。

小型ヤッコに狙われやすい、注意が必要なサンゴ

▲キクメイシは小型ヤッコにつつかれやすい。要注意

ハードコーラルの中でもとくにLPS、たとえばカクオオトゲキクメイシ、オオバナサンゴやハナガタサンゴといったタイプのサンゴはつつかれやすいので注意が必要です。これらとケントロピーゲ亜属の小型ヤッコとの飼育は無謀ともいえます。クシピポプス亜属の魚との飼育は不可能ではないのですが種類や個体によりつついてしまうことがあるのでよく観察しましょう。

ソフトコーラルは比較的食害はされにくいのですが柔らかいウミアザミは食害されやすいので注意します。

またどんな種類のサンゴであっても、水質の変動などによって弱っているサンゴは小型ヤッコに食害されるリスクがあるといえます。サンゴが健康な状態で飼育できてはじめて、小型ヤッコとサンゴのコラボレーションが楽しめるといえます。

小型ヤッコの病気

小型ヤッコも病気にかかることがあります。とくに多いのは白点病で、体側に白い斑点がつくことがあります。銅イオンでの治療が一番確実ですが、濃度を間違えると魚を殺してしまいますので、初心者にはおすすめできません。

グリーンFゴールドなどの魚病薬で治療しますが、このような薬はサンゴ水槽で使えないことに注意します。

予防方法は紫外線殺菌灯を使用することです。また水温の変動があると病気が出やすくなるのでヒーターとクーラーを使用して年中水温を一定にすることが病気予防には大切なことだといえます。

また入荷後すぐの個体はトリコディナを発症することがあります。魚の表皮につき表皮の組織を食い荒らすやばい病気です。この病気に対して薬は効果がなく淡水浴で治療します。淡水浴はトリコディナのほか、魚につくハダムシにも効果的です。

小型ヤッコの飼育まとめ

  • 初心者におすすめはフレームエンゼルとマルチカラーエンゼル
  • クシピポプス亜属のものは飼育しやすいものが多い
  • ケントロピーゲ亜属とシマヤッコ属は餌付きにくく難しいものも多い
  • 小さくても60cm以上の水槽を
  • ろ過装置は上部ろ過槽と外部ろ過槽の併用。最もよいのはオーバーフロー
  • 水温は25℃だが種によっては22℃前後
  • 種類によっては照明焼けする種も
  • ライブロックは隠れ家だけでなく餌も供給する
  • 餌付かない個体には複数種の餌を。冷凍飼料やアサリもよい
  • 添加剤をくわえた餌も効果あり
  • サンゴは種によっては食害されるおそれあり
  • 白点病とトリコディナに注意

この記事にコメントをする

入力エリアすべてが必須項目です。メールアドレスが公開されることはありません。

内容をご確認の上、送信してください。

海水魚を探す
サンゴを探す
フリーワード検索
    もっと読む