2019.10.30 (公開 2018.04.14) 海水魚図鑑
ルリヤッコの飼育方法~小型ヤッコの中でも飼いやすいが混泳・病気に注意
ルリヤッコはインド-太平洋のサンゴ礁に分布している小型ヤッコです。名前は「ルリ」となっていますが、地域により、個体により、色彩のバリエーションが非常に豊富なのが特徴です。本種はクシピポプス亜属の種で、小型ヤッコとしては飼いやすい種ではありますが、それでも個体の状態や水質などには注意しなければなりません。またLPSはつついてしまうことがあるので注意が必要です。
標準和名 | ルリヤッコ |
学名 | Centropyge bispinosa (Günther, 1860) |
英名 | Twospined angelfish, Coral beautyなど |
分類 | スズキ目・スズキ亜目・キンチャクダイ科・アブラヤッコ属・クシピポプス亜属 |
全長 | 10cm |
飼育難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッド、冷凍イサザアミ |
添加剤 | アイオディオン、アミノメガ |
温度 | 23~25度 |
水槽 | 60cm以上 |
混泳 | ハタ、ウツボ、スズメダイなど気が強い魚とは注意が必要 |
サンゴ飼育 | LPSとの飼育は要注意 |
ルリヤッコってどんな魚?
ルリヤッコはキンチャクダイ科の小型種で、いわゆる「小型ヤッコ」「ケントロピーゲ」と呼ばれるアブラヤッコ属の魚です。
アブラヤッコ属の魚はさらに「クシピポプス亜属」と「ケントロピーゲ亜属」という二つ(Paracentropygeを属とせず亜属とする場合は三つ)の亜属に分けられ、本種はクシピポプス亜属のメンバーです。この亜属の魚は比較的温和(ただしフレームバック系は気が強い)で、人工餌にも餌付きやすく飼育しやすいという特徴があり、小型ヤッコを初めて飼育するのにおすすめといえます。
クシピポプス亜属の魚はナハッキーエンゼルフィッシュや、ホツマツアピグミーエンゼルなどのように数10万円ほどで販売されているものもいますが、ルリヤッコはこの属の仲間では安価な種類です。
ルリヤッコのカラーバリエーション
ルリヤッコはその名の通り、あざやかな青色や紫色をしていることが多いのですが、輸入されてくるものの中には、体の中心部分のオレンジ色が広いものや、オレンジ色の部位がほとんどないもの、逆に体が一様にオレンジ色のものなど、とても同じルリヤッコとは思えないような模様をもっている個体も見られます。また同じクシピポプス亜属のアカハラヤッコなどと交雑することもあるようです。
ルリヤッコに適した飼育環境
水槽
小型ヤッコは「小型」といっても全長10cmくらいになります。最低でも45cm、初心者の方であれば60cm以下の水槽で飼育するのは難しいといえるでしょう。
これは小型水槽では水質の変動が大きくなりやすいため、水質にうるさい小型ヤッコの飼育が難しくなるからです。安価な60×30×36(cm)の水槽でも50リットル以上の豊富な水量を確保できます。もちろん90cmや120cmオーバーフロー水槽を用意できるのであればベストといえます。
ろ過装置
小型ヤッコの飼育にあたって特に重要な役割をするのがろ過装置です。水槽の心臓になるものなので、決して値段だけで選んではいけません。上部ろ過槽、外部ろ過槽、外掛けろ過槽と、さまざまなろ過槽が販売されていますが、上部ろ過槽と外部ろ過槽の組み合わせがよいでしょう。外部ろ過槽は酸素がろ材にいきわたりにくい密閉式のろ過槽ですので、酸素がろ材によくいきわたるように上部ろ過槽との併用をしたいものです。
もちろんオーバーフロー水槽にしてサンプでろ過をするようにすれば簡単にルリヤッコの長期飼育をかんたんに楽しむことができるはずです。また、ろ過槽のないベルリンシステムのサンゴ水槽でもルリヤッコの飼育を楽しむことができますが、サンゴの種類によってはルリヤッコにつつかれてしまうおそれがあるので注意しなければなりません。
プロテインスキマー
ルリヤッコに限らず小型ヤッコの仲間はハゼやスズメダイ、クマノミといった魚よりは硝酸塩のの蓄積に弱いため、プロテインスキマーの設置は有効といえます。プロテインスキマーは水槽内の有機物が分解される前にハイパワーで水槽から取り除いてくれます。また水槽内に酸素を豊富に供給してくれます。
水温
基本的には25℃で問題ないのですが、やや深い場所に生息するので23℃くらいのほうがよいかもしれません。もちろん水温が短時間に変動するようではよくありません。
ライブロック
ライブロックを組むことでルリヤッコが縄張りを作ったり、隠れ家にすることができます。またライブロックについている微細な生物は、ヤッコの餌にもなります。しかし腐った臭いがするようなもの、白い膜のようなものに覆われているライブロックは水槽に入れてはいけません。逆に魚が死んでしまいます。
照明
本種は水深10~60mほどのサンゴ礁や岩礁域に多く、浅い潮溜まりなどではまず見られない種です。ですのでメタルハライドランプよりもブルー系のLEDの方がよいかもしれません。
ルリヤッコの餌と添加剤
小型ヤッコはどの種も基本的に雑食性です。ルリヤッコなどのクシピポプス亜属の小型ヤッコはケントロピーゲ亜属の小型ヤッコと比べて配合飼料などに餌付きやすいという特徴があります。
状態が悪いものを購入してしまいどうしても餌付きが悪いというときは冷凍したアサリやコペポーダ、ホワイトシュリンプなどに餌付かせる必要があります。
添加剤の中でもヨウ素は色彩の維持など、魚にも有用ですのでぜひ添加したいものです。魚が多めの水槽ではpHが賛成に傾きやすく、バッファ材などでpHを上昇させるようにします。このほか餌に添加するタイプの添加剤でもよいものがあります。たとえばブライトウェル「ガーリックパワー」はガーリックの成分を魚に届け、抵抗力や餌の嗜好性をアップさせます。同じくブライトウェルの「アミノメガ」は魚に効率よくアミノ酸を届けます。
ルリヤッコの選び方
ルリヤッコの分布域は広く、日本では和歌山県串本や琉球列島、小笠原諸島に分布し、海外では南アフリカのソドワナベイから中央太平洋のトゥアモトゥ諸島に至るインド-中央太平洋のかなり広い範囲に生息します(ただしハワイ諸島や紅海には生息していません)。
主にフィリピンのマニラやインドネシアなどから輸入されますが、沖縄で採集された個体が出回ることもあります。マニラ産の個体は時に1000円を切るような安価な値段で販売されますが、袋の水が少ないなど雑な扱いがされていることも多く、値段だけで即決してはいけません。状態をよく見ることが望ましいです。
それを考えると、通販で購入するよりは実際に海水魚店に足を運んで、自分の目で様子を見てみるのがよいでしょう。選び方は他の魚と同様で、鰭や体表に白点や赤いただれがないか、体がぼろぼろでないか、変な泳ぎ方をしていないか、眼が濁っていないか、などです。もちろん入荷直後の個体も避けた方が賢明といえます。
そのほか海外産ではバヌアツ、トンガ、ニューカレドニア、モーリシャスなどで採集されたものが販売されることがあります。マニラ産のルリヤッコとは大きく趣が異なる模様をもつものが多いのですが、お値段はマニラ産のルリヤッコよりもずっと高価です。
ルリヤッコがかかりやすい病気と対策
ルリヤッコは小型ヤッコの中では飼育しやすい部類ですが、汚い水でも平気で泳いでいるクマノミなどと比べると病気になりやすい傾向がありますので注意しましょう。病気を避けながら上手く飼育していると水槽内で10年くらい生きてくれます。
白点病
体表や鰭に小さな白い点が多数つく病気です。
治療法は銅イオンの添加やグリーンFゴールドを溶かした海水に魚を泳がせることです。銅イオンは効き目が強いのですが魚を殺してしまったり、退色しやすいなどのデメリットも多く、初心者にはグリーンFゴールドや過酸化水素水などで治療するのが安心といえるでしょう。
このほか薬品を一切使用しない治療法として、バケツ換水という方法もあります。やり方は簡単で、ヤッコをバケツで飼育し、飼育しているバケツの水を毎日すべて換えるだけです。低比重での飼育や淡水浴はあまり効き目はありません。
予防法としては水をいつもきれいにすること、水温の安定(23~25℃)、新しく水槽に魚を入れるときの検疫です。
トリコディナ
伝染力が非常に強い病気です。体の色が一部薄くなっているようなときや膜が張っているなどのケースではこの病気を疑うのがよいでしょう。魚種としてはヤッコやクマノミなどが発症することが多いですが、主に輸入直後の個体に出やすい傾向があります。恐ろしい病気ですが、淡水浴が有効です。治療法は淡水浴の項目を参照してください。
リムフォシスティス
ウイルス性の病気です。最初は白点病と同様に白い点が体表につきますが、この点が動かず徐々に大きくなっていくようであればこの病気を疑った方がよいでしょう。病気の進行速度は遅めで伝染力も低いです。
治療は淡水浴を行い、爪の先などで小さい点を取り除いてやることです。この他にイサキ科のポークフィッシュ(クロオビダイ)という魚が白い点を食べてくれることもあります。白点病とことなりホンソメワケベラも食べてくれるようですが、ホンソメワケベラは病気になりやすいため注意します。
ハダムシ
本種に限らずフィリピンやインドネシアからくる魚にはハダムシ(ベネデニア)と呼ばれる寄生生物が付着することがあります。この寄生虫は魚にとっては鬱陶しいもので、体表を岩やライブロックなどにこすりつけます。そうなると体に傷がつき、この傷から感染症にかかったりすることもあるので注意しなければなりません。
トリコディナ、リムフォシスティスやハダムシといった病気には淡水浴が効果があります。これは温度やpHをあわせた真水に泳がせて病気の原因となっている生物を殺したり魚から離れさせたりするというものです。淡水浴については、以下の項目で詳述します。
ルリヤッコと他の生物との関係・混泳
小型ヤッコは自然下ではハーレムをつくりますが水槽ではペア以外の同種・同属で縄張りをめぐって争うので、小型水槽では同属同士を入れないようにします。60cm水槽は小型ヤッコの種によるパワーバランスを考慮したり隠れ家を豊富にいれたりすることにより複数種飼育が可能になることもあります。
ヤッコ以外の魚との混泳は可能なことが多いです。デバスズメダイなど小型で温和なスズメダイ、ナンヨウハギなどのハギ(ニザダイ)、ゴンベの仲間、ハゼの仲間、ハナダイの仲間、小型のベラなどさまざまな魚との混泳ができます。もちろんカクレクマノミとの混泳も楽しめます。
混泳させてはいけないのは大きくなるハタやウツボの仲間(ルリヤッコを食べることがある)、モンガラカワハギの仲間(口が小さいが他魚をかじる)、ハマクマノミやミツボシクロスズメダイなど大型になるスズメダイの仲間(性格がきつい)、ハコフグやフグ、ヌノサラシの仲間(毒を出す)などです。
ルリヤッコとサンゴ・無脊椎動物との相性
▲ルリヤッコとLPSとの飼育は要注意
ルリヤッコはクシピポプス亜属の種類ですので、ソメワケヤッコなどのケントロピーゲ亜属の魚ほどサンゴをつつくことはありませんが、それでもキクメイシ、オオバナサンゴ、オオタバサンゴ、コハナガタサンゴなどのLPSはつつかれることがあり、注意が必要です。とくにサンゴの調子がイマイチのときは注意が必要です。
スカンクシュリンプ、ホワイトソックスなどのクリーナーシュリンプとの飼育も可能ですが、オトヒメエビは性格がきついので特にルリヤッコの幼魚と一緒に飼育するのは避けます。もちろん大型のイセエビなどとの混泳もやめましょう。
貝の仲間は概ね問題ありません。マガキガイやチョウセンサザエ、ムシロガイ、カキの仲間などにコケや残り餌の掃除を任せたり、水質浄化をさせることができます。ただしヤッコの仲間はシャコガイの仲間をつついてしまうこともあるようです。とくに貝が弱っているとつつかれやすいので気をつけます。
そのほかの生物としては環形動物(ゴカイの仲間)のケヤリムシやイバラカンザシなどは、ヤッコのいい餌になってしまうことがありますので、ヤッコのいる水槽にこのような生き物を入れないようにします。
ルリヤッコの飼育まとめ
- クシピポプス亜属の小型ヤッコで餌付きやすく丈夫で飼いやすい
- 色彩や模様に変異が多い
- 60cm水槽で飼育したい
- しっかりろ過がきいた水槽で飼育する。プロテインスキマーの設置もよい
- 水温は25℃をキープする
- 配合飼料にも餌付きやすい。アミノ酸やガーリックの添加も効果的
- 安価で丈夫だが雑な扱いがされていることもある
- 白点病が出ることもある。水温や水質に注意
- ハダムシやリンフォ、トリコディナには淡水浴が有効
- 多くの魚との混泳が可能
- 小型水槽では同属同士の混泳は避ける
- サンゴはつつくこともある。弱ったサンゴは注意したい
- シャコガイの外套膜やケヤリムシをつつくこともある