関東の磯でみられるスズメダイの仲間

夏から秋にかけて、関東の磯でもカラフルな魚が見られます。これらは死滅回遊魚と呼ばれるもので、幼魚が黒潮にのり本州にまで運ばれてくるのですが、水温が低下する冬には死んでしまいます(暖冬の年には生き残ることもあり)。その中にはチョウチョウウオやキンチャクダイ(ヤッコ)の仲間のほか、スズメダイの仲間も多く見られます。今回は関東近辺(房総、三浦、伊豆半島。ただし伊豆諸島はのぞく)の磯でみられるスズメダイの仲間をご紹介します。

スズメダイの仲間の死滅回遊魚

スズメダイの仲間はスズキ目スズメダイ科の魚のことを指す場合も多いのですが、アクアリウムの本などではスズメダイの仲間のうち、クマノミ亜科のものをスズメダイの仲間から外して別扱いされることも多いです。基本的には琉球列島以南で見られることが多く、本州沿岸でも何種か見ることができます。スズメダイのような温帯性の種もいるのですが、沖縄などから黒潮にのって運ばれてくるような魚もいます。しかし、このような魚の多くは本州の冬の寒さに耐えることができず死んでしまいます。このような魚を「死滅回遊魚」といいます。

スズメダイの仲間とチョウチョウウオの仲間の回遊の違い

▲チョウチョウウオのトリクティス幼生

死滅回遊魚としてはチョウチョウウオの仲間がよく知られています。チョウチョウウオは死滅回遊魚として多くの種類が関東やその近くまで流れてきます。トゲチョウチョウウオ、フウライチョウチョウウオ、チョウチョウウオ(ナミチョウ)、チョウハン、アケボノチョウチョウウオなどは毎年のように流れてきますし、ミゾレチョウチョウウオ、ゴマチョウチョウウオ、セグロチョウチョウウオ、ニセフウライチョウチョウウオ、トノサマダイも見られ、少ないですがアミチョウチョウウオ、イッテンチョウチョウウオ、ミスジチョウチョウウオなども見られるようです。一方スズメダイの仲間は少なく、後述のような種類が見られるだけで、ルリスズメダイやシリキルリスズメダイ、デバスズメダイなどの種類は見ることができません。この違いは何に由来するものでしょうか。

実はスズメダイとチョウチョウウオの仲間では、卵のタイプが大きく違います。チョウチョウウオ類は分離浮性卵、つまりばらばらになって浮かぶタイプの卵を産むのに対し、スズメダイの仲間は岩や死サンゴ(クラカオスズメダイ属のように生きたサンゴに産卵することもある)に卵を産み付けるという繁殖様式をもち、多くは親魚により保護されます。しかし、スズメダイ科のこのやり方では卵の孵化率はあがるのかもしれませんが、分布を遠くに広げることができません。チョウチョウウオ科の魚類は南アフリカから西―中央太平洋にまで分布しているという種も多いのに対し、スズメダイの仲間の分布域が狭いものが多いというのはこれも理由のひとつのようです。

チョウチョウウオの稚魚期はトリクティス幼生などと呼ばれ、頭部に兜をかぶったような姿をしています。この期間は浮遊しており、卵だけでなくこの姿で海流により流されてくることもあるようです。一方スズメダイの仲間の稚魚の浮遊期間はチョウチョウウオよりも短く、はやいうちに着底するようです。そのためチョウチョウウオのように分布域を北へ広げるのが難しいといえそうです。

関東の磯でみられるスズメダイ

スズメダイ

▲スズメダイ

スズメダイは温帯によく適応している種で、日本海側でも越冬するなど、死滅回遊魚とはいえません。関東ではあまり食されることはないのですが、福岡県の玄界灘では本種をアブッテカモとよび食用にします。これがなかなか美味しいものです。スズメダイとしては比較的おとなしめの魚で、同じくらいの大きさの魚と飼育することもできますが、高水温にやや弱く、また水が汚いとすぐ眼が突出してしまうなどの問題がありますので注意が必要です。また全長も15cmくらいになりますので大きめの水槽で飼育することを心がけます。本種は和名も「スズメダイ」であり、スズメダイ科の魚でも代表的なものといえます。属はスズメダイ属であり、この属には本種のほかにデバスズメダイやブルークロミスなど、おなじみの種類が多く含まれています。

従来、三宅島などにすむ「ミヤケスズメダイ」は本種の亜種とされていましたが、現在はこの亜種を認めず変異とされていることがほとんどです。

オヤビッチャ

▲房総半島で採集したオヤビッチャ

オヤビッチャは関東沿岸では非常に多くみられるスズメダイです。丈夫で飼育しやすく、性格がきついものの混泳困難というほどにはならないことが多いです。カクレクマノミなどとの混泳もできますが、小型水槽での混泳はやめましょう。本種はスズメダイの中では分布域が広いですが、これは流れ藻などによくついており、流れ藻と一緒に移動することがあるからかもしれません。また流れ藻のほかにもブイや流木などの浮遊物についていることが多いです。

ロクセンスズメダイ

▲ロクセンスズメダイの幼魚

房総ではほとんど見ないスズメダイですが、三浦や伊豆半島などで採集することができます。オヤビッチャに似ていますが尾鰭に黒い線があるので容易に見分けられます。生息場所も潮だまりにいたり、ブイなどの浮遊物についているなど、オヤビッチャに似たところがあります。成魚の体はブルーグリーンで性格もシマスズメダイよりはおとなしめで飼育しやすいスズメダイといえます。

シマスズメダイ

シマスズメダイの幼魚

シマスズメダイの幼魚も夏から秋にかけ非常によく見られます。潮だまりに多い魚で、ごく浅い場所でよく見られるものです。そのため子供でも簡単に採集することができます。しかし成長すると15cmにもなり(海では20cm以上!)、性格は非常にきつくなってしまいますので、持ち帰って飼育するかはよく考えてからにしましょう。琉球列島では成魚も水深1~2mほどのごく浅い場所に見られ、活発に泳ぎ回ります。海では藻類を主に捕食していますが、甲殻類なども食べています。成魚は食用になります。

イソスズメダイ

▲イソスズメダイの幼魚

イソスズメダイは灰色っぽい体で黄色い横帯が入ります。オヤビッチャ同様に磯やサンゴ礁の浅いところで見られプランクトンを主食としています。幼魚はそれほどでもないのですが、成長するにつれて性格がきつくなっていくので注意が必要です。

テンジクスズメダイ

▲テンジクスズメダイの幼魚

テンジクスズメダイはやや内湾の磯に多い感じのスズメダイです。基産地のベンガル湾とか、タイランド湾などでもよく見ます。日本国内でも房総半島以南でよく見られますがバリバリの波浪がすさまじい磯というよりは、内湾の磯、防波堤などに多い感じで、小笠原諸島などの海洋島ではまれです。成長するとほかのスズメダイ同様に大きくなり、性格もきつくなります。なんとか混泳はできますが、小魚やおとなしめの魚とは避けたほうが無難です。

ミヤコキセンスズメダイ

▲ミヤコキセンスズメダイの幼魚

ミヤコキセンスズメダイは黄色い体と青い縦線が特徴のスズメダイです。背鰭付近に大きな眼状斑があり、チョウチョウウオの仲間と間違えられることもあります。関東の磯ではイチモンスズメダイよりもミヤコキセンスズメダイのほうが多いようです。見分け方は鰓蓋の周辺に橙色の斑点があればミヤコキセンスズメダイ、なければイチモンスズメダイという見分け方がなされることが多いです。成魚は黒い体で白い帯があり地味です。そして性格はかなりきついです。幼魚のうちはおとなしくむしろ臆病ですが成長するにつれ大胆になります。

インド洋のものはきれいで、観賞魚として輸入されることがあります。「サージダムゼル」という名前で販売されていることがありますが、ミヤコキセンスズメダイと同種とされており、大きくなると地味になります。ただしインド洋のもの(Chrysiptera brownriggii)は太平洋のもの(Chrysiptera leucopomaとされた)とは色彩(特に幼魚)が異なっております。そのため日本近海の個体についてはChrysiptera leucopomaの学名が復活する可能性もあります。またミヤコキセンスズメダイ、という誤植もよく見られます。

イチモンスズメダイ

▲イチモンスズメダイの幼魚

イチモンスズメダイもミヤコキセンスズメダイ同様に関東の磯でみられる種ですが、関東の磯では幼魚の数はミヤコキセンスズメダイよりは少ないようです。実際に私も関東の磯では本種を見たことはなく、逆に高知などでミヤコキセンスズメダイを見たこともありませんでした。もっともこの2種は非常に酷似しており、写真からだけでは同定が難しいところもあります。成魚まで育てられれば一発で見分けられますが、成魚は地味になり性格もきつくなってしまいます。

ネズスズメダイ

▲ネズスズメダイの幼魚

インド―太平洋に広く分布する種で、わが国でも房総半島や伊豆半島ではよく見られるスズメダイです。分類学的にはルリスズメダイ属で、ミヤコキセンスズメダイやイチモンスズメダイによく似ていますが、グレーの体に背中の青い線、体側の青い点が独特の魚です。しかしこの特徴は幼魚のときにしかみられず、成魚はねずみ色になってしまいます。また性格もかなきついものになってしまいますので、お持ち帰りはあまりおすすめできません。

ソラスズメダイ

▲ソラスズメダイ

関東地方の磯でみられる「青いスズメダイ」はほぼ間違いなく本種といえます(ルリスズメダイやシリキルリスズメダイは関東ではほぼいない)。本種を磯で見たら、だれでもドキドキ、ワクワクしてしまうというものです。しかし成長すると色は黒っぽくなってしまうことも多いです。性格はややきついので、混泳を考えるのであればある程度の大きさの水槽での飼育が適しています。死滅回遊魚というよりも温帯(から熱帯)の磯で多く見られる魚です。

ナガサキスズメダイ

▲ナガサキスズメダイ

ナガサキスズメダイは先ほどのべたスズメダイに似ていますが、スズメダイ属ではなくソラスズメダイ属に含まれます。幼魚は体が暗い青色ですが、成魚は写真のように暗色になります。丈夫で飼育はしやすいのですが、性格はきついので注意が必要です。名前は本種が採集された「長崎」にちなみますが、千葉県以南の太平洋岸、琉球列島、モルディブ以東のインド洋~西太平洋に生息します。

ミツボシクロスズメダイ

ミツボシクロスズメダイの幼魚

ミスジリュウキュウスズメダイ属のスズメダイは国内に4種いますが、関東近辺でみられるのはフタスジリュウキュウスズメダイ(伊豆周辺)と、このミツボシクロスズメダイです。幼魚は黒い体に大きな白色斑があるのが特徴です。しかしこの白色斑は成長に従い小さくなっていき、しまいにはほかの魚を追い掛け回すようになってしまいます。なお幼クマノミが共生するイソギンチャクと戯れる習性がありますので、イソギンチャクの周辺で採集できますが、性格が非常にきついので持って帰るべきかはよく考えましょう。

なお、ここで紹介したもののほかに、ハクセンスズメダイ、セダカスズメダイ、コガネスズメダイなどの種類も関東沿岸でみることができます。

関東でみられるスズメダイの注意点

丈夫で飼育しやすい

スズメダイの仲間はよく餌を食べますので、餌付きという点での心配は不要といえます。藻類などを食べる種類でもすぐに配合餌を食べてくれることが多いです。丈夫で飼育しやすいものが多く、初心者向きといえそうですが、大きな落とし穴があります。

混泳は難しい

スズメダイの仲間は飼育は簡単です。しかしながら性格がきつく、混泳が難しいというところがあります。スズメダイの仲間は縄張りをつくることが多く、その縄張りの中に入ってきた魚を追い払ってしまいます。そのためほかの魚との混泳が難しいといえるのです。大きめの水槽であれば混泳可能なこともあるのですが、初心者は60cmくらいの水槽しか持っていないことも多く、採集したスズメダイを飼育するのには不向きな点があるといえそうです。

もちろん、スズメダイが飼育できなくなったからといって、海へ逃がすのは慎まなければなりません。

関東の磯のスズメダイまとめ

  • 関東でも一部のスズメダイが死滅回遊してくる
  • チョウチョウウオの仲間と異なり浮遊期間が短く流れてくる種類は少ない
  • スズメダイは温帯性
  • オヤビッチャは流れ藻についてくるもので数が多い
  • テンジクスズメダイは内湾に多くみられる
  • ソラスズメダイは青がきれいだがその色を保つのが難しい
  • ミヤコキセンスズメダイやイチモンスズメダイは幼魚はきれいだが成魚は地味になる
  • シマスズメダイやミツボシクロスズメダイなどは飼育したら後悔することも
  • 飼いきれなくなっても海へ逃がしてはいけない

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