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2020.07.03 (公開 2020.07.02) 海水魚図鑑

コケギンポの飼育方法~動物食性でコケは食べないので要注意!

コケギンポは眼の上にまつ毛のような皮弁がユニークな磯魚です。名前に「ギンポ」とあり、コケなどを食べそうですが口が大きくプランクトンや小動物、魚の稚魚などを食べる肉食性が強い魚です。したがってコケは食べないので注意が必要です。しかしながらそのユニークな顔などが特徴的で、ライブロックなどの穴から頭部だけを出している様子は面白く、大きくもならないため飼育していて楽しい魚です。今回はコケギンポの飼育方法をご紹介します。

標準和名 コケギンポ
学名 Neoclinus bryope (Jordan and Snyder, 1902)
英名 不明
分類 スズキ目・ギンポ亜目・コケギンポ科・コケギンポ属
全長 8cm
飼育難易度 ★☆☆☆☆
おすすめの餌 メガバイトレッドなど
温度 23℃前後
水槽 45cm~
混泳 口に入らないサイズの魚や肉食魚をのぞき多くの魚と飼育できる
サンゴ飼育 問題なし、ただし捕食性のサンゴは注意

コケギンポって、どんな魚?

▲コケギンポ

コケギンポは日本の広い範囲に分布する魚です。「ギンポ」の名前がありますが、天ぷらでお馴染みのギンポが含まれるニシキギンポ科や、コケを食べてくれるカエルウオなどを含むイソギンポ科とは異なる科の魚です(ニシキギンポ科などとは科の上の「亜目」の時点で異なる)。頭部、眼の上に房状の皮弁があり、口がかなり大きくなるのが特徴です。食性は甲殻類などの無脊椎動物や、魚の稚魚、卵などを食べる肉食性が強い魚で、イソギンポ科のカエルウオの仲間のような藻類食性の魚ではありません。したがってコケ取りのために本種を入れてもコケを食べてはくれません。

コケギンポ科の魚

▲西大西洋に分布するセイルフィンブレニー

コケギンポ科魚類の分布の中心は北米・南米の沿岸で、太平洋岸と大西洋岸どちらにもいます。ただし大西洋といっても、欧州やアフリカの沿岸には生息していません。北米・南米沿岸以外の分布は日本や韓国、台湾など北西太平洋に限られ、種類数も1属8種と少ないです。観賞魚としては西大西洋産のパイクブレニー、セイルフィンブレニー、東太平洋産のハンコックブレニーなどが入ってきますが数は多くありません。なお、ハンコックブレニーは「バーナクルブレニー」の名前で販売されていることが多いのですが、厳密には一般的にバーナクルブレニーとされているのは別種のようです。

日本にはこの科の魚はコケギンポ属の魚のみが知られています。日本産のコケギンポ属魚類はアライソコケギンポ、トウシマコケギンポ、シズミイソコケギンポ、オキマツゲなど8種が知られていますが、その中でもこのコケギンポが最も多い種といえます。全長10cm前後の種が多い属ですが、東太平洋に生息するサーカスティックフリンジヘッドNeoclinus blanchardi Girard, 1858のように30cmになるような種もいます(コケギンポ科としても最大級)。

フサギンポとの違い

▲フサギンポ

コケギンポはたまにフサギンポと間違えられることがあります。眼の上に大きな皮弁があるところがよく似ています。しかしこの2種は分類学的には大きく異なり、コケギンポはイソギンポやカエルウオに近い「ギンポ亜目」なのに対して、フサギンポはダイナンギンポやオオカミウオなどに近い「ゲンゲ亜目」の魚です。またフサギンポは北海道や東北地方などの冷たい海が分布の中心であり、一般にアクアリウムで飼育されるサンゴや熱帯性の海水魚とは一緒に飼育できませんので注意が必要となります。北海道では釣り採集でき飼育もできますが、やはり高水温に弱く飼育しにくいのがネックです。

コケギンポとフサギンポの違いはコケギンポの背鰭は大体25本ほどの棘条と16~19本の軟条からなるのに対し、フサギンポの背鰭は50以上の棘条からなっています。また、コケギンポは大きくても全長10cmほどと小さいですが、フサギンポは50cm近くにもなります。フサギンポは「がんじ」「がんじー」などと呼ばれ食用となっていますが、コケギンポは食用にする話はほとんど聞きません。

棘条と軟条のちがいはこちらをご覧ください。

コケギンポ飼育に適した環境

水槽

コケギンポは全長10cm程度の小型種です。そのため小型水槽でも飼育できますが、あまりにも小さいと維持管理が大変になることもあるので、初心者の方はできるだけ45cm水槽で飼育するようにしましょう。

水質

硝酸塩の蓄積には強めの魚ですが、できるだけきれいな海水で飼育したいものです。小型水槽では外掛けろ過槽と外部ろ過槽の二つを組み合わせ、60cm以上の水槽であれば上部ろ過槽が最適です。もちろんオーバーフロー水槽が用意できればそれがベストといえます。ベルリンシステムなどサンゴ水槽でも飼育できますが、サンゴメインの水槽で飼育する場合は魚の数は少なめにしておいたほうが無難です。

水温

温帯性の魚です。比較的高水温にも耐えるようですが、25℃までが安心といえるでしょう。大体23℃くらいまでで飼育したほうがよいです。一方低い水温には比較的耐性があります。もちろん温度の急激な変化はよくありませんので、クーラーやヒーターを使用してできるだけ同じ水温で飼育したいものです。

飾りサンゴなど

コケギンポの隠れ家となるような飾りサンゴが必要です。コケギンポが入れるような直径で奥が深い円形の穴が開いているような飾りサンゴだと、中にコケギンポが入る様子を観察することができます。また専用の土管も販売されているので、そのようなものを使ってもよいでしょう。

コケギンポに適した餌

▲メガバイト レッドがおすすめ

名前に「ギンポ」とあるのですがアクアリウムでもおなじみのヤエヤマギンポやホシギンポなどのカエルウオの仲間とは異なる科の魚で、コケは食べることはほとんどなく、主に動物プランクトンや小型の甲殻類を捕食しています。しかしアクアリウムにおいては粒状の配合飼料もよく食べるので心配はいりません。どうしても食べない場合のみ、ホワイトシュリンプなどを与えますが、こういう餌は水質が悪化しやすいですので、なるべく配合飼料に慣らしたほうが安心といえるでしょう。「メガバイト レッド」などがおすすめです。

コケギンポをお迎えする

▲浅い磯でみられる

コケギンポは販売されることが少なく、近海魚専門店で購入するか、採集するしかありません。分布域が広く、太平洋岸では千葉県以南、日本海岸では積丹半島以南の岩礁域に生息し、タイドプールでもごく普通にみられる魚ですが、琉球列島では見られないようです。筆者は房総半島、三浦半島、九州北岸で採集しており、写真の個体も九州北岸で採集したものです。大きめの岩をどけたりすると出てくることがあり、それを網で掬うのです。また岩と岩の隙間などにも見られることがあります。

このほかある程度の大きさに育ったものは釣りで採集できることもあります。ただし小さな針と小さな餌でないと釣ることはできません。潮だまりでの採集が一番といえます。

コケギンポのとほかの生物との関係

ほかの魚との混泳

コケギンポは様々な魚との混泳が楽しめます。ただし、細い体をしており、肉食性の魚に襲われることもあります。ハタやカサゴなど明らかな魚食魚はもちろん、バスレットや大きめのハゼ、一部のテンジクダイとの混泳も注意すべきです。またスズメダイの大きいのなども性格がきつく混泳させないほうがよいでしょう。逆にコケギンポの口に入るような魚、例えばイソハゼの仲間の小さいのなどは避けたほうがよいかもしれません。

サンゴ・無脊椎動物との相性

コケギンポはサンゴ水槽での飼育もできます。生息地的にはLPSや地味なミドリイシとの飼育がよさそうですが、サンゴには無害でどんなサンゴとも組み合わせられます。ただし、クマノミが共生するタイプのイソギンチャク(マメスナギンチャクや小型ディスクコーラルであれば問題なし)、ウチウラタコアシサンゴなどのような捕食性が強いサンゴとの飼育は避けます。これは本種のようなギンポ類やハゼ類などはイソギンチャクにとくに捕食されやすいからです。

甲殻類は概ね問題ないのですが、コケギンポの口に入ってしまうようなものと組み合わせてはいけません。小型のサンゴヤドカリ、クモガニやオウギガニなどの小さいもの、サラサエビ、アカシマシラヒゲエビ(スカンクシュリンプ)、シロボシアカモエビ(ホワイトソックス)などが無難です。逆にイセエビや大型のカニ・大型のヤドカリなどの甲殻類はコケギンポを捕食するおそれがあるので避けましょう。小さくてもオトヒメエビの仲間は動きが遅いギンポやハゼなどを食べてしまうことがありますのでこれも避けなければならない組み合わせということがいえます。

コケギンポ飼育まとめ

  • 名前に「ギンポ」とあるがヤエヤマギンポの仲間ではない
  • 種の標準和名「ギンポ」とも無関係
  • フサギンポに似ているが全く違う仲間
  • コケの仲間は食べてくれない
  • 小型水槽でも飼育できるが45cm以上の水槽での飼育がおすすめ
  • 45cm水槽なら外部ろ過と外掛けろ過、60cm水槽なら上部ろ過槽がおすすめ
  • 水温は23℃前後が望ましい
  • 飾りサンゴや土管など隠れる場所が必要
  • 動物食性なので配合飼料を与える
  • 販売されることは少なく磯で採集するか釣るしかない
  • 多くの魚と混泳可能だが気が強い魚や肉食魚、コケギンポの口に入る魚とは飼育できない
  • サンゴには無害だがコケギンポを食べるイソギンチャクや大型甲殻類との飼育は不可
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