2020.12.07 (公開 2018.01.19) 海水魚図鑑
ニセモチノウオの飼育方法~混泳・餌の注意点
ニセモチノウオは、全長10cmにもならない小型種で、かつカラフルでかわいいベラの仲間です。しかし小型でありながら性格がやや強めなのでハゼなどとの混泳には注意が必要です。ここではニセモチノウオを上手く飼育するためのポイントをまとめました。
標準和名 | ニセモチノウオ |
学名 | Pseudocheilinus hexataenia (Bleeker, 1857) |
英名 | Sixline wrasse |
分類 | スズキ目・ベラ亜目・ベラ科・モチノウオ亜科・ニセモチノウオ属 |
全長 | 8cm |
飼育難易度 | ★☆☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッド、冷凍イサザアミ |
添加剤 | アイオディオン |
温度 | 23~28度 |
水槽 | 45cm以上 |
混泳 | 同種同士はNG、気が弱い魚は注意 |
サンゴ飼育 | 可 |
ニセモチノウオってどんな魚?
▲ニセモチノウオ
▲モチノウオ亜科の代表種、モチノウオ属のアカテンモチノウオ
ベラの仲間は種類が豊富で500種以上が知られています。ベラ科はタキベラ亜科・カンムリベラ亜科・モチノウオ亜科・ブダイベラ亜科の4亜科に分けられることが多く、このほかにテンスの仲間を独立した亜科にしたり、ブダイ科やオーストラリア近海のオダクス科をベラ科の亜科にするなど研究者により意見が分かれています。
ニセモチノウオはその中のモチノウオ亜科に含められます。モチノウオ亜科のベラはベラ科で最大種であるメガネモチノウオやヤシャベラなどさまざまな種を含んでおり、小型種のハシナガベラやイトヒキベラ、クジャクベラの類はニセモチノウオ同様アクアリストにお馴染みの種ベラです。
ニセモチノウオに適した飼育環境
水槽
ニセモチノウオは小型のベラですので小さいキューブ水槽での飼育も可能ですが、小型水槽は水温や水質の変動が激しく安定しにくいため、もう少し大きめの45cm以上の水槽で飼育することをおすすめします。理想は60cm水槽です。
水質
ニセモチノウオは丈夫な魚ですので水質悪化にも比較的強いのです。もちろんアンモニアや亜硝酸が多量に検出されるような水槽では飼育してはいけません。
ろ過槽は上部・外部ろ過槽のどちらでもよいですが、外部ろ過槽は酸欠になりやすいという根本的な問題がありますので、上部ろ過槽と組み合わせたり、小型のプロテインスキマーと組み合わせるようにします。
水温
ニセモチノウオはサンゴ礁の比較的浅い場所(水深30m以浅)に生息する種類ですので、基本的に23~28℃、理想は25℃で飼育したいところです。高水温では魚の色があせるなどの影響が出やすいので注意しましょう。
めったに病気になることはないニセモチノウオですが、あまりに水温の変動が大きいと体調を崩して病気になることがあります。ヒーターとクーラーを使用して水温を一定に保ちましょう。
フタ
ニセモチノウオの仲間は他の魚と争うことがあり、その争いの際や何かに驚いたときなど、水槽から飛び出してしまうことがあります。フタはきちんとしておきましょう。
ライブロック・サンゴ岩
ニセモチノウオは夜間の睡眠時は砂に潜らないベラですので、砂を敷かなくても飼育することができます。夜間は岩やサンゴの陰で眠りますので、ライブロックやサンゴ岩を水槽に入れ、ニセモチノウオのベッドを作ってあげましょう。
ニセモチノウオの餌と添加剤
ニセモチノウオは餌付けやすく配合飼料をよく食べてくれるはずです。このほか甲殻類が大好物で、クリル(乾燥オキアミ)や、冷凍のホワイトシュリンプもよく食べます。ただし冷凍餌は水を汚すおそれがあり、栄養も偏りがちなので単用を避けて下さい。添加剤はヨウ素を添加してあげるとよいでしょう。ビタミン類は配合飼料にも含まれていますが、不安な場合は添加しましょう。
ニセモチノウオの入手方法
ニセモチノウオは南アフリカ~トゥアモトゥ諸島までのインド-中央太平洋の熱帯・亜熱帯域に広く分布していますが、観賞魚としてはフィリピンやインドネシア、たまに沖縄などから入ってきます。
選び方の基本は他の魚と同様です。口やそのまわりに傷がないこと、体表に傷があったり、赤くなっていないことなどです。泳ぎ方がおかしい個体や入荷してすぐの個体は避けた方が無難です。個体をしっかり見たり、お店の人に入荷日をたずねたりするようにします。入荷量は少なくないのでじっくり選びましょう。一旦水槽の水になじめば強健(すぎ?)で、病気にもなりにくいです。
ニセモチノウオの混泳
同種同士の混泳
ニセモチノウオは同種同士で争うことが多いため原則として、よほど大型の水槽でないかぎりひとつの水槽で1匹しか飼育できません。状態のよい巨大なサンゴ水槽や、大型ヤッコやハギの仲間など強い魚が入っている水槽では複数飼育も不可能ではないですが、小型水槽での同種同士の混泳はおすすめできません。
他の魚との混泳
小さい体のニセモチノウオですが、性格は結構きついので、他の魚との混泳、とくに温和なハゼなどとの混泳は特に注意する必要があります。またキュウセンやキツネベラの類、メギスの仲間など、よくにた体形の魚と争うこともありますので、これらの魚との混泳にも注意が必要です。
ヤッコやクマノミ、大型のハナダイ、チョウチョウウオなどとの混泳は可能です。大型魚の多数いる水槽でも堂々としています。ただ大型魚と言ってもハタやカサゴなど、ニセモチノウオを捕食するおそれがある魚との飼育はできません。
サンゴ・無脊椎動物との相性
ニセモチノウオは浅いサンゴ礁域にすむ魚なので、サンゴ水槽での飼育もよいでしょう。特にミドリイシなどのSPSが状態よく飼える環境で飼育すると美しい色彩になります。キクメイシやオオタバサンゴなどほかのサンゴとの飼育も可能ですがケヤリムシやハードチューブの仲間との飼育はつついてしまうおそれもありますのでおすすめできません。
またエビやカニなどの無脊椎動物は襲って食べてしまうこともあります。キャメルシュリンプやグラスシュリンプはもちろん、スカンクシュリンプなどのクリーナーも個体によっては捕食してしまうおそれがありますので注意が必要です。逆にニセモチノウオを捕食してしまうような大型の甲殻類とは一緒にしてはいけません。
ニセモチノウオと同じように飼育できる魚
ニセモチノウオ属Pseudocheilinusは南アフリカからハワイまでの海域に7種類が分布しています。この7種のうち海水魚店で見られるのは5種で、そのうち、ヒメニセモチノウオとヤスジニセモチノウオ、そしてニセモチノウオの3種はほとんど同じ方法で飼育することができます(同じ水槽で飼育できるというわけではありません)。
ヒメニセモチノウオ P. evanidus
ヒメニセモチノウオは体の線が非常に細く、眼の下に白い縦線が入るのが特徴です。名前に「ヒメ」とあり、温和そうな雰囲気ですが性格はニセモチノウオ同様に強いので他の魚との混泳は注意が必要です。インド-太平洋域に分布しており、日本でも四国など太平洋岸の磯で見ることができます。
ヤスジニセモチノウオ P. octotaenia
体側に8本の縦線があります。色彩には若干の変異があり、とくにハワイ産の個体は体側の縦線が明瞭で美しいもので別種かと思うほどです。写真の個体は東南アジア産。
基本的な飼育方法はニセモチノウオとほとんど同じですが、大きいものでは体長10cmを超えることもあるので大きめの水槽が必要で、性格もニセモチノウオと比べるとかなりきついので混泳には注意が必要です。大型魚との混泳が適しています。和名、学名、英名Eight-lined wrasse、いずれも体側の縦線にちなみます。ただし観賞魚店で「エイトラインラス」として販売されているものは、本種ではなくクジャクベラ属の魚のことを指すことが多いので注意が必要です。
日本にはこれら3種のほか、ヨスジニセモチノウオP. tetrataeniaとヨコシマニセモチノウオP. ocellatusの計5種が輸入されています。この5種はいずれも日本に分布しますが、観賞魚としては日本産はあまり見られず輸入されてくることが多いもので、それぞれフォーラインラス、オセレイトラスなどという名前で販売されています。ヨスジニセモチノウオは中央太平洋に広く分布しますが、主にハワイ便で入って来ていたもので、ハワイの規制により入荷が減ってしまうのは避けられないでしょう。
なお、世界にはこれらのほかP. citrinusとP. dispilusという種がおりますが、前者はクック諸島やポリネシアに、後者はインド洋のモーリシャスやレユニオンに分布しており、めったに輸入されない種です。
ニセモチノウオの飼育まとめ
- 成魚でも10cmほどの小型種
- イトヒキベラやクジャクベラと同じモチノウオ亜科のベラ
- 睡眠時は砂に潜らない
- 小型水槽でも飼育可能だが、初心者は45cm以上の水槽で飼育したい
- 上部フィルターを使用するとよい
- 水温は23~28℃で安定していることが重要
- 飛び出し注意。フタはしっかり
- 配合飼料にすぐに餌付く。添加剤はヨウ素を添加したい
- 口や体表に傷があったり、泳ぎ方が変な個体は避ける
- 基本的にひとつの水槽では1匹しか飼えない
- ハゼの仲間など温和な魚、体形が似ている魚は要注意
- 大型ヤッコやチョウチョウウオと一緒に飼育できる
- 甲殻類は大好物