2020.09.22 (公開 2019.11.15) 海水魚図鑑
イソヨコバサミの飼育方法~ホンヤドカリとの違い、採集方法など
イソヨコバサミは十脚目ヤドカリ科に属するヤドカリの仲間です。地味な色彩ですが、触覚が青かったり、ハサミに白い斑点が入っていたりと、よく見たらおしゃれな種です。磯の潮溜まりではホンヤドカリと同様によく見られるヤドカリで、水温や水質の変化につよくとても飼育しやすいヤドカリです。今回はこのイソヨコバサミの飼育についてご紹介します。
標準和名 | イソヨコバサミ |
学名 | Clibanarius virescens (Krauss, 1843) |
英名 | coastal hermit crabsなど |
分類 | 節足動物門・甲殻上綱・軟甲綱・十脚目・抱卵亜目・異尾下目・ヤドカリ科・ヨコバサミ属 |
全長 | 甲長1.5cm |
飼育難易度 | ★☆☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッドMなど ※フレークは食べにくい |
温度 | 18~25℃ |
水槽 | 35cm~ |
混泳 | ベラなどに襲われるおそれあり |
サンゴ飼育 | サンゴをひっくり返されることのないよう固定が必要 |
イソヨコバサミって、どんなヤドカリ?
イソヨコバサミはインド-西太平洋の熱帯・亜熱帯から日本近海まで広く分布するヤドカリの仲間で、ホンヤドカリとならび浅い潮溜まりで多く見られるヤドカリの仲間です。ユビワサンゴヤドカリやベニワモンヤドカリのような派手な種類ではないのですが、よく見るとおしゃれなヤドカリです。
イソヨコバサミの体の特徴
▲イソヨコバサミ
▲ホンヤドカリ。触覚と鉗脚のサイズが違う
イソヨコバサミは触覚が青いことや、歩脚(足の部分)には白い帯がありよく目立つという特徴があります。鉗脚(ハサミの部分)には白い点がありますが、これがない個体もいるようです。同じく日本沿岸の浅瀬に生息するホンヤドカリも脚部の白色部が目立っています。しかし、ホンヤドカリは右側の鉗脚の方が大きいので、左右の鉗脚が同じくらいの大きさであるイソヨコバサミとは容易に区別できます。また触覚の色彩も違っています。
どちらのヤドカリも関東の磯でよく見られる種ですが、ごく浅い場所ではホンヤドカリの方が優勢のようです。ホンヤドカリはイソヨコバサミと比べると性格がキツいので注意が必要です。
イソヨコバサミ飼育に適した環境
水槽
小型水槽でも飼育できますが、初心者であれば45~60cm水槽が最適です。
水質とろ過システム
イソヨコバサミは水質の悪化には極めて強いですが、できるだけ綺麗な水で飼育してあげたいものです。ろ過槽は外部ろ過槽を使用するなら外掛けろ過槽、もしくは外掛けプロテインスキマーを併用し、60cm水槽なら上部ろ過槽が最適でしょう。魚水槽で飼育するならオーバーフロー水槽という選択肢もあります。
イソヨコバサミはサンゴ水槽を飼育するためのベルリン水槽での飼育もできますが、このシステムではあまり沢山の魚は入れられません。ヤドカリは魚ほど水質は汚さないとされますが、あまり多く入れないようにしましょう。
水温
水温の適応範囲も広いですが、できるだけ18~25℃くらいで飼育したいものです。もちろんヒーターとクーラーを使用し水温の急変を避けるようにします。
貝殻
ヤドカリの仲間は成長して貝殻のサイズが小さくなると、定期的にすみかの貝殻を変える「宿かえ」をします。イソヨコバサミはイシダタミやクボガイなどの貝に入り、貝の好みは少ないようですが、ベニワモンヤドカリなどが好んで入るようなタカラガイやイモガイなどの貝殻は好みません。
イソヨコバサミに適した餌と添加剤
▲甲殻類にヨウ素の添加は重要
イソヨコバサミは雑食性で、コケも多少は食べてくれます。また、魚の餌の残りも食べてくれますので、ヤドカリ専用の餌はとくに与えなくてもよいですが、ヤドカリのことを考えるのであれば沈降性の配合飼料を与えたり、魚の切り身やクリルを海水でふやかして沈めたものを与えたりするのもよいです。ただし、生の餌は水を汚すので注意が必要です。
添加剤はカルシウムやビタミン類、ヨウ素などを添加します。とくにヨウ素は重要で、ヨウ素の不足は脱皮不全の理由のひとつとなるようです。また魚やサンゴの色彩の維持にも効果的です。しかしながら、ヨウ素はプロテインスキマーなどにより取り除かれたりしやすい成分なので、定期的な添加が重要になります。もちろん過剰添加もよくありません。適量添加しましょう。
イソヨコバサミをお迎えする
▲房総半島の潮溜まりで採集できる
イソヨコバサミは磯で採集できるほか、最近は沖縄などで採集されたものを購入することもできます。沖縄からは「ヤドカリミックス」として来ることもあります。
購入する
イソヨコバサミはかなり安価で販売されています。購入するときは眼が左右ともあるもの、元気に歩いているものを選ぶようにします。鉗脚や歩脚が外れていたり不完全でも脱皮し成長することにより再生しますが、時間がかかることも多く、最初からこれらがない個体は避けた方がよいかもしれません。
採集する
磯の潮溜まりではごく普通に見られる種です。生息場所では多数採集できるのでついついたくさん獲ってしまいたくなりますが、持ち帰って飼育するものですから、獲りすぎはよくありません。
イソヨコバサミとほかの生き物の関係
同種同士・ほかのヤドカリとの関係
同種同士は争うこともありますが、岩組を工夫するなどすれば同じ水槽での飼育も可能です。また、ほかのヤドカリとの飼育もできます。ホンヤドカリの類、他のヨコバサミ類、サンゴヤドカリ、ベニワモンヤドカリなど小ぶりの種がよいでしょう。大きなコモンヤドカリなどは小さいヤドカリを駆逐するため一緒にしてはいけません。
魚との関係
一般的なサイズのハゼ、クマノミ、スズメダイ、チョウチョウウオ、各種ヤッコ、ハナダイ、ニザダイなど多くの魚と組み合わせられますが、イシダイやモンガラカワハギ、ベラ、特にタキベラ類やモチノウオ類はヤドカリを食べてしまうこともあります。ただしニセモチノウオの仲間やイトヒキベラなどは問題ないことが多いです。また、何らかの理由で貝殻を失うと、柔らかい部分が露出してしまい、いつもヤドカリを食べないような種類の魚に襲われることもあります。
このほか魚ではないのですが、タコの仲間もヤドカリが好物で襲って食べてしまうこともあります。
サンゴとの関係
▲イソヨコバサミとサンゴとの飼育も可能
サンゴとの相性は悪くはありません。ただしサンゴの上に乗っかったり、サンゴの隙間の餌を食べたりするので、サンゴを落下させてしまうこともあります。サンゴはあらかじめ接着剤でしっかりと固定させておきましょう。
イソヨコバサミ飼育まとめ
- とても丈夫で飼育しやすいヤドカリ
- 房総以南の磯で採集でき、青い触覚と左右揃った大きさの鉗脚が特徴
- 足の模様が似ているホンヤドカリとは触覚の模様や鉗脚の大きさで見分けられる
- 45cm以上の水槽が管理しやすいのでおすすめ
- 水質悪化には強いがなるべく綺麗な水で飼う
- 水温にも幅広く対応できるがなるべく一定にする
- 宿かえのためにサイズにあった巻貝の殻を入れておく
- 魚の残り餌やコケをよく食べてくれる
- ヨウ素やカルシウムなどを添加したい。特にヨウ素は重要
- 同種同士やほかのヤドカリとも飼えるが、大型種との飼育は厳禁
- 肉食性の強い魚もだめ
- サンゴはひっくり返すこともある。しっかり接着すること