2020.09.15 (公開 2019.04.01) 海水魚図鑑
イトヒキテンジクダイの飼育方法~混泳は要注意!
イトヒキテンジクダイはテンジクダイ科の小型種です。体は派手というわけではないのですが、透明感ある体、眼の周りの青色、そして体側にあるオレンジ色の横帯がきれいな魚です。性格は温和で逆に強すぎる魚とは混泳できません。また、サンゴにいたずらをすることもないので、温和な魚の多いサンゴ水槽での飼育に向いています。
標準和名 | イトヒキテンジクダイ |
学名 | Zoramia leptacantha (Bleeker, 1856) |
英名 | Threadfin cardinalfish |
分類 | 条鰭綱・スズキ目・スズキ亜目・テンジクダイ科・イトヒキテンジクダイ属 |
全長 | 8cm |
飼育難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッドなど |
温度 | 25℃前後 |
水槽 | 60cm~ |
混泳 | 同種同士の混泳も可能。臆病なので強い魚との混泳は注意 |
サンゴとの飼育 | 可 |
イトヒキテンジクダイってどんな魚?
イトヒキテンジクダイはスズキ目・テンジクダイ科の魚で、琉球列島以南、インド-中央太平洋域のサンゴ礁に生息している普通種です。
テンジクダイ科の魚はさまざまな形の魚がいますが、本種は体は半透明で背鰭が細長いという特徴があり、標準和名や英語名はこれに由来していると思われます。また、眼の部分が青いのも特徴ですが、テンジクダイの仲間にはほかにもヒラテンジクダイなどいくつか眼が青い魚種が知られています。
マウスブルーダー
▲卵を咥えているイトヒキテンジクダイの雄
イトヒキテンジクダイをはじめテンジクダイの仲間は卵を口腔内で保護する習性があります。卵を口腔内で保育している雄は口の形がいつもよりも膨らんでいるのですぐにわかります。うまく飼育していれば産卵までは行くことが多いのですが、産まれた稚魚を育てるのは難しいです。また、親の栄養が足りないと卵を食べてしまうこともあり、ハッチアウトまで観察できないこともあります。
分類
従来はネンブツダイやキンセンイシモチなどとともにテンジクダイ属とされたものですが、テンジクダイ属の分類体系が大きく変わったことにより、本種はイトヒキテンジクダイ属に入れられました。この属とサンギルイシモチ属(アマミイシモチなどを含む)は極めて近縁なものとされ、この2属でイトヒキテンジクダイ族を構成します。どちらの属も半透明な体をした魚が多く含まれています。
近縁種
▲イトヒキテンジクダイの特徴
イトヒキテンジクダイ属は6種が有効とされています。うち日本産は本種とウスモモテンジクダイの2種が知られています。イトヒキテンジクダイは尾鰭の付け根に黒色斑がないのですが、ウスモモテンジクダイは黒色斑があることにより見分けられます。どちらも沖縄などから入ってきますが、イトヒキテンジクダイの方が多い印象です。
イトヒキテンジクダイ飼育に適した環境
水槽
小型水槽でも飼育できないことはないのですが、急激な水質悪化に弱いことを考えると水質が安定しやすい60cm以上の水槽で飼育した方がよいでしょう。
ろ過槽
きれいな水を好むためろ過もしっかりしたものが必要です。上部ろ過槽がおすすめですが、外部ろ過槽と外掛けろ過槽を組み合わせたものでも飼育可能です。またサンゴを飼育するためのベルリンシステムでも飼育できますが、ベルリンシステムで飼育するのであれば魚の数は少なく抑えなければなりません。
水温
原則25℃をキープします。本種は比較的白点病などの病気になりやすいため、病気を防ぐためには水温を安定させるのも大事といえます。ヒーターとクーラーを使用し、常に一定の温度で飼育しましょう。
隠れ家
臆病な性格なので隠れ家は欠かせません。カクレクマノミなど大人しめのクマノミとであれば混泳も楽しめますが、隠れ場所を作ってあげるのが飼育の条件となります。
そのほか
白点病などの魚病にかかることがあり、かつ薬に弱いため病気予防のためには綺麗な水槽での飼育が欠かせません。病気の予防には砂中の汚れを舞い上がらせない、水温を一定にキープしておくということが殺菌灯の設置よりもずっと効果的といえます。
イトヒキテンジクダイに適した餌
海では動物プランクトンや小型の甲殻類を捕食しています。水槽内ではすぐに配合飼料も食べるようになりますが、どうしても食べない時はコペポーダや冷凍ホワイトシュリンプなどを与えるとよいでしょう。
ただ、状態がイマイチだったり、水質が悪かったり、強い魚に怯えているような状況ではこれらの餌も食べないことがあります。こういうときはほかの魚を除けたり、水質などの条件を改善しましょう。
イトヒキテンジクダイをお迎えする
産地による注意点
分布は広く、紅海及びマダガスカル、東アフリカ沿岸からサモアにまで及びますが、観賞魚としてはフィリピンやインドネシア、あるいは沖縄で採集されたものが入ってきます。
おすすめは沖縄産です。沖縄産であれば輸送時間が短く、袋もそれなりに大きいものでやってくるので、状態よく入ってくることが多いです。テンジクダイの仲間は輸送に弱い面がありますので、これは大きなポイントといえるでしょう。
東南アジア産の個体は安価ですが、袋が小さいもので来ることが多くやや難ありといえます。ただし東南アジア産であっても、海水魚店で長期ストックされている売れ残りの個体であれば安心して購入できます。
個体をよく見る
購入するときの注意点としてはいくつかありますが、まず入荷後ある程度時間が経っているものを購入するということです。これはテンジクダイの仲間は輸送に弱いうえ雑に扱われていることが多いのか、入荷直後の状態が悪いことも多いからです。また、体が白く濁っているもの、体に傷があるもの、体や鰭が赤くなっているものなども購入してはいけません。鰭が若干切れていたり鰭の先端が折れている程度であれば問題ないことも多いですが、溶けているようなものはよくありません。もちろん鰭や体表に白い点がついているものもやめましょう。また、もし1匹でも白点病がひどく出ているのであればその水槽の魚は購入しない方がよいかもしれません。
イトヒキテンジクダイの混泳
イトヒキテンジクダイ同士の混泳
イトヒキテンジクダイはとてもおとなしい性格の魚で、同種同士の複数飼育も可能です。しかしながら小型水槽ではろ過が追い付かなかったりすることもあるので60cm以上の水槽で飼育するのがベターといえます。
ほかの魚との混泳
▲カクレクマノミとの混泳は可能だが、隠れ家は作りたい
ほかの魚との混泳で注意しなければならないことは、イトヒキテンジクダイはおとなしく、かつ臆病な性格であるということです。そのため攻撃的な性格の魚との混泳はなるべく避けなければいけません。クマノミの仲間も、ハマクマノミやスパインチークなどは性格がきつく、家庭の小型水槽での混泳はやめたほうが無難でしょう。ほかスズメダイやメギスの大きいの、モンガラカワハギの仲間など、性格が悪い魚やほかの魚を食べてしまうことがある魚、チョウチョウウオやハギの仲間など白点病にかかりやすい魚もやめたほうが無難です。
テンジクダイの仲間との混泳は同じように温和なマンジュウイシモチやプテラポゴン、キンセンイシモチなどと組み合わせるとよいでしょう。オオスジイシモチやヤライイシモチなどの種は結構気が強めで、シボリなどは魚食性が強く混泳はやめたほうがよいといえます。
サンゴ・無脊椎動物との相性
▲サンゴ水槽での飼育が楽しめる
海中では主にハマサンゴやミドリイシなどの枝状サンゴの周辺に見られます。浅場のSPS、もしくはソフトコーラルがよく似合いますが、サンゴを捕食したりすることはないので、サンゴ礁にすむサンゴであればほとんどどんな種とも組み合わせられます。ただしウチウラタコアシサンゴや、ハタゴイソギンチャクといった強い毒をもつ魚食性の生物との組み合わせはやめたほうがよいでしょう。
甲殻類は微小なものはイトヒキテンジクダイに捕食されるおそれがあるのでやめましょう。逆に大きすぎるイセエビやコモンヤドカリ、カニなどは魚を捕食するおそれがあり、これもだめな組み合わせです。クリーナーシュリンプ、サラサエビ、小型のサンゴヤドカリなどはイトヒキテンジクダイに影響を与えないのでよいといえます。ただしクリーナーシュリンプといってもオトヒメエビは魚を襲撃するおそれがあるため、おすすめできません。
イトヒキテンジクダイ飼育まとめ
- 派手ではないが透明感がある体が美しいテンジクダイの仲間
- 背鰭が長く伸び尾柄に黒い点がないのが特徴
- 60cm以上の水槽での飼育が理想
- きれいな水を保つためにしっかりしたろ過槽が必要
- ベルリンシステムでの飼育もできる
- 水温は25℃前後で安定していることが重要
- 臆病なので隠れ家を作ってあげたい
- 白点病などになりやすく病気対策が必要
- 配合飼料にもすぐに餌付く
- 餌付かない場合は冷凍餌を与えたり強い魚を隔離するなど工夫が必要
- 沖縄のものが状態よく届きやすいが入荷直後は注意
- 鰭が溶けていたり傷があるものなどは避ける
- 同種同士での混泳も可能。できるだけ複数で飼いたい
- 強い魚との混泳は避ける
- サンゴには無害だが小さな甲殻類を捕食することも
- 大型の甲殻類には食べられるおそれあり