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2020.12.02 (公開 2020.12.02) 海水魚図鑑

ナメラヤッコの飼育方法~サンゴをつつくためサンゴ水槽には向かない

ナメラヤッコは灰色と黒という色彩で派手さはないのですが、鱗ひとつひとつに白色斑があり、眼の周りが赤く、よく見ると大変美しくかわいい小型ヤッコです。しかしながら本種はケントロピーゲ亜属に含まれ、ルリヤッコやアカハラヤッコに比べ多少飼育しにくい面があります。ただしこの亜属のものの中では状態さえよければ長期飼育も決して難しいものではなく、おとなしい種で争いも好まずケントロピーゲ亜属の初チャレンジにも適した一種です。今回はナメラヤッコの飼育方法をご紹介します。

標準和名 ナメラヤッコ
学名 Centropyge vrolikii (Bleeker, 1853)
英名 Pearlscale angelfishなど
分類 条鰭綱・スズキ目・スズキ亜目・キンチャクダイ科・アブラヤッコ属
全長 10cm
飼育難易度 ★★★☆☆
おすすめの餌 メガバイトグリーンなど(最初は冷凍餌から餌付けたい)
温度 25℃
水槽 60cm~
混泳 強くない魚とであれば混泳可能。ヤッコ同士の混泳は要注意
サンゴとの飼育 サンゴはよくつつく。ハードコーラルとの相性は悪い

ナメラヤッコって、どんな魚?

ナメラヤッコ

小型ヤッコは派手な色彩をした魚が多いのですが、このナメラヤッコは灰色と黒という色彩でやや地味な印象の種です。しかし眼の周りや胸鰭上方が橙色になり、さらに背鰭軟条部、臀鰭、尾鰭の縁辺が青色になるなど、派手ではないものの美しい色彩をしている種です。鱗の白い斑点から英語圏ではパールスケールエンゼルフィッシュ、つまり真珠の鱗のキンチャクダイという素敵な名前で呼ばれています。ただし淡水のエンゼルフィッシュの一品種にも同名で呼ばれているものがおり注意が必要です。

よく似たエイブルズエンゼルフィッシュ

エイブルズエンゼルフィッシュ

ナメラヤッコはインド洋から西太平洋のサンゴ礁に生息しますが、インド洋では東インド洋に少しいるだけです。そのかわりインド洋には本種によくにたエイブルズエンゼルフィッシュ(エイブリーエンゼル)が分布しています。分布域はインドネシアからスリランカで、インドネシアから入ってくるため安価ではありますが、あまり丁寧に扱われていないため、初心者には若干難しいヤッコといえます。体の色はグレーでナメラヤッコに似ていますが、鮮やかなオレンジ色の横帯があることにより容易に見分けられます。

交雑個体

▲コガネヤッコ

ナメラヤッコが含まれるケントロピーゲ亜属の魚にコガネヤッコというものがいます。コガネヤッコはナメラヤッコに非常に近い種とされており、この2種の間ではしばしば交雑個体が発生します。黄色い体でコガネヤッコに似た模様ですが、尾部が黒っぽくなり、ナメラヤッコの特徴がでていることが多いです。しかしながら交雑個体では模様などは個体ごとに異なります。

交雑個体は種や亜種としては認められませんので、標準和名や学名はつけられないのですが「ナメラピール」という愛称がつけられています。「ピール」というのはコガネヤッコの英名レモンピールにちなみます。

ヤッコに擬態するハギ

▲クログチニザ

ナメラヤッコに姿が似ている魚として、クログチニザというニザダイ科の魚がいます。クログチニザは成長すると黒っぽい色に変貌しますが、幼魚期間は小型ヤッコににた色彩をしています。ナメラヤッコのほか、ヘラルドコガネヤッコ、コガネヤッコ(レモンピール)に擬態したりすることで有名です。ニザダイ類の幼魚が小型ヤッコに擬態する理由としては、小型ヤッコは鰓蓋にある鋭い棘のおかげで肉食性の魚から捕食されにくいともいわれており、それが理由になっているようです。

ナメラヤッコとクログチニザの見分け方は、ナメラヤッコは体に大きな鱗があり、鰓蓋に大きな棘があること、尾柄に棘がないこと、クログチニザは大きな鱗や鰓蓋の棘がないこと、尾柄に小さな棘があることで見分けられます。これらの特徴は小型ヤッコやクロハギ属に共通の特徴であるため、ナメラヤッコではなくヘラルドコガネヤッコに擬態するクログチニザであっても同様の方法で見分けることができます。

クログチニザは西―中央太平洋に広く分布していますが、インド洋ではココスキーリング諸島以東にしかいません。そのかわりインド洋には極めてよく似たインディアンミミックタンというのがいます。この種の幼魚は灰色の体にオレンジ色の横帯があり、尾は黒くエイブルズエンゼルフィッシュに擬態しているようです。

ナメラヤッコに適した環境

水槽

小型水槽でも飼育不可能ではないのですが、60cm以上の水槽で飼育するとよいでしょう。水量が多ければ多いほど水質が悪化しにくく、変化が少ないので水質悪化に比較的弱い小型ヤッコを飼育するのであれば、大型水槽が理想といえます。しかしながら小型ヤッコ飼育初心者が120cm、150cmほどの大型水槽で飼育するのは現実的でなく、そのような意味でも手軽でそこそこの水量をキープすることができる60cm規格水槽がおすすめ、ということになります。

もちろん経済事情が許すというのであれば同じ60cm水槽でも60cm×45cm×45cmの水槽や、45cm×45cm×45cmの水槽(45cmキューブ水槽)などを使用するのもよいでしょう。前者は60cm水槽でありながら100リットルオーバーの水量を稼ぐことができ、後者は45cm水槽ではありますが、60cm規格水槽よりも多くの水量を確保することができます。ただ水量が多いということは同時に重くなるということですので、水槽台はよりしっかりしたものを使用する必要があります。

水質と水槽システム

小型ヤッコの仲間はハゼやスズメダイ、クマノミといった魚よりは硝酸塩の蓄積に弱いですので、しっかりとした飼育システムが求められます。外部ろ過槽や外掛けろ過槽は単用を避け、ほかのろ過槽やプロテインスキマーと組み合わせるようにします。病気を予防するため殺菌灯の使用もおすすめです。

もちろんサンゴを飼育するためのベルリンシステムやゼオビットシステムなどでの飼育もできるのですが、ケントロピーゲ亜属の魚はどの種もサンゴ食性が強く、ハードコーラルとの飼育には向いていません。

水温

クマノミなどと同じく25℃で飼育可能です。水温が上下すると病気になりやすいので、水温を安定するためにヒーターと水槽用クーラーで水槽を安定させるようにします。また、いくら殺菌灯をつけて菌を殺しても水温の変動が激しければ魚も体調を崩して病気になりやすくなりますので、病気になりやすい魚の場合はとくに水温が安定していることが大事です。

隠れ家と砂

ナメラヤッコが落ち着けるように、サンゴ岩やライブロックを入れてあげましょう。砂は敷きたくなりますが、配合飼料への餌付けがすむまではやめておいたほうがよいでしょう。これは最初のうちはアサリをあげたくなるためで、このアサリをヤッコが食い散らかしてしまうと、残り餌が水質を悪化させてしまう危険性があります。そのため残り餌はこまめに吸い出す必要があります。そして砂がないほうが残り餌を吸い取りやすいでしょう。

ナメラヤッコに適した餌と餌付け方

▲アサリを食うナメラヤッコ。周囲が汚れている

ナメラヤッコはアブラヤッコやソメワケヤッコと同じくケントロピーゲ亜属の種で、ルリヤッコやアカハラヤッコなどと比べて餌付けは若干難しめ、といえます。とくに大きな個体になると餌付けの難易度が増してしまいます。逆に小さな幼魚は餌付きやすいのですが、こまめな餌やりが必要です。ですから大きすぎても小さすぎても飼育しにくいものです。また、観賞魚店で餌を食べていても、環境が変わってしまうとなかなか餌を食べないこともあります。最初はナメラヤッコのみ、もしくはナメラヤッコにとってプレッシャーになりにくい魚と混泳するとよいでしょう。

水槽に入れた翌日から餌やりをはじめ、配合飼料を食べない場合は冷凍餌などを与える必要があります。また餌付けに効果があるとされる「エンジェリクサー」などを添加した餌を与えるのもおすすめです。添加剤はヨウ素や微量元素などを添加するとよいでしょう。ヨウ素はサンゴだけでなく、魚にも有用な成分だからです。どうしても餌付かない場合はアサリを与える必要がありますが、上水槽のように食べ残しは水質を汚しやすいので注意しなければなりません。このナメラヤッコはその後病気になってしまったので薬浴して治療し回復しましたが、そうならないようにこまめな水かえが大事です。また底砂も汚しやすいので、初心者は砂を敷かないほうがいいかもしれません(前述)。

配合飼料を与えるのであれば我が家のナメラヤッコもよく食べているキョーリンの「メガバイトグリーン」などがおすすめですが、まずは冷凍餌からスタートしなければなりません。

ナメラヤッコをお迎えする

▲高知県の海で泳いでいるナメラヤッコ

ナメラヤッコはお店では1000~2000円くらいで販売されており、小型ヤッコの中でも安価なもののひとつといえます。しかし、主な生息地はフィリピンやインドネシアなどの東南アジア近海で、小さい袋で来ることも多いため入荷してから時間が経った個体を購入することをおすすめします。

東南アジアのほか、沖縄から来ることもあります。値段は東南アジアのものよりもやや高めですが状態はよいことが多く、はじめてナメラヤッコを飼育するのであれば沖縄産のものがよいかもしれません。ケントロピーゲ亜属飼育初心者の方は小さすぎず大きすぎないサイズで、すでに粒餌を食べているものを選ぶとよいでしょう。ただしお店では配合餌を食していても、環境が変わってしまうと餌を食べなくなるおそれもありますので注意が必要です。

購入する際のチェックポイントは、概ねほかの海水魚と同様です。つまり鰭に白い点がついていないか、鰭がぼろぼろだったり溶けていないか、体に赤いただれはないか、眼は動くものによく反応しているか、口に傷がないか、入荷して時間はたっているか、ゆったりと泳いでいるか、などです。

また和歌山や四国などでは磯で採集することも可能ですが、本種を採集するのにはある程度の技術が必要になります。

ほかの生物との関係

ほかの魚との混泳

小型のスズメダイ、小型のゴンベ、小型のベラ、チョウチョウウオ、ハギ(ニザダイ)の仲間、ハナダイ、ギンポなど他の多くの魚と組み合わせられます。もちろん初心者に人気のカクレクマノミとも混泳できます。

スズメダイの仲間とは混泳可能と述べましたが、大きいスズメダイは気性が荒いため混泳には注意が必要です。とくにルリスズメダイ属、ソラスズメダイ属、ミスジリュウキュウスズメダイなどとの飼育は避けたほうがよいでしょう。デバスズメダイやクロオビスズメダイなどスズメダイ属の小型種との飼育は可能です。小型ヤッコは色彩が美しいためいろいろな種を一つの水槽で飼育したくなりますが、争うおそれがあるため小型水槽での複数飼育はおすすめしません。

サンゴ・無脊椎動物との相性

本種を含むケントロピーゲ亜属の魚はどうしてもサンゴ食性が強いため、サンゴ、とくにハードコーラルメインの水槽で飼育するのには適していません。ソフトコーラルも個体によって、またはサンゴの種類、状態によっては捕食してしまうことがあります。ケヤリムシなどの環形動物もつついてしまいますのでおすすめできません。

甲殻類や軟体動物との飼育は可能なものが多いです。クリーナーシュリンプとしてはスカンクシュリンプやホワイトソックスは大丈夫ですが、オトヒメエビは性格がきついので避けた方が賢明です。イセエビなども種によっては魚を傷つけたり食べたりすることがありますのでおすすめできません。

ほか、ペパーミントシュリンプや小型のヤドカリ、底砂掃除のマガキガイ、壁面掃除のニシキウズなどは一緒に飼育可能です。ただし温帯性のシッタカは水温の都合上あまり好ましくなく、ナマコは底砂にたまるデトリタスを分解してくれるので飼育されていることも多いのですが、死んだり傷ついたりすると魚に致命的なサポニンという毒を放出しますので注意が必要です。

まとめ

  • 地味だがよく見ると模様が美しい小型ヤッコ
  • クログチニザなどは本種や近縁種に擬態
  • 60cm以上の水槽で飼育したい
  • 水質悪化にはスズメダイより弱い面あり。しっかりしたろ過槽を
  • 水温は25℃前後で安定していることが大事
  • 隠れ家をしっかり用意してあげたい
  • 配合餌などに餌付いていない場合は砂を敷かないほうがよい
  • 配合飼料を最初から食うとは限らないのでアサリなどから餌付ける
  • アサリの食べ残しは水質を著しく悪化させる
  • 購入するときはほかのヤッコ同様体表や鰭、吻部、泳ぎ方をしっかり見たい
  • 多くの魚と混泳を楽しむことができるが気が強いスズメダイなどは避けたほうがよい
  • サンゴとの相性はよくない。とくにハードコーラルとは飼わないほうが無難
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