ベントスゴビーの飼育方法

ハゼの仲間は種類が豊富です。底を這っている底生ハゼ、とても小さく妖精のようなピグミーゴビー、遊泳性がつよい遊泳性ハゼ、テッポウエビと共生する共生ハゼ、サンゴの枝間にひそむコバンハゼなど…。今回ご紹介するのは砂を口に含み、鰓から砂だけを出すという変わった習性をもつ「ベントス食性ハゼ」(通称ベントスゴビー)です。

ベントスゴビーとは

ベントスゴビーは口に砂を含み、砂の中の餌を捕食し、砂だけを鰓から出すという習性をもっているハゼのことを指します。分類学的にはハゼ科ハゼ亜科のいくつかの属の種を指しますが互いに近縁種というわけではないようで、分類学的な分類というわけではありません。

ベントスゴビーの仲間は、概ね3つに分けられます。オトメハゼ・ミズタマハゼ・アカハチハゼなどに代表される「クロイトハゼ属」と、キンセンハゼ・サラサハゼなどの「サラサハゼ属」、一種のみを含む「シグニゴビウス属」です。

クロイトハゼ属 Valenciennea

この仲間はスリーパーゴビーともいわれます。カワアナゴの仲間のように、胸鰭は吸盤のようにならず、左右に分かれることや、鱗が非常に細かいことなどが特徴で、日本には10種が分布し、世界では少なくとも16種が分布します。インド-中央太平洋に見られ、大西洋には分布しません。属の学名はフランスの生物学者 アシル・ヴァランシエンヌにちなむものと思われます。

主な種 (★は日本に分布する種)

オトメハゼ Valenciennea puellaris (Tomiyama, 1956)

▲オトメハゼ

体側のオレンジ色の斑点が明瞭できれいなハゼです。全長は15cmほどになりますが、水槽内ではもっと小さいです。観賞魚としては国内産、フィリピン産、インド洋(スリランカ)産などがあり、模様が若干違っていることもあります。底の方にいることが多く、アカハチハゼなどのように遊泳しサンゴの上に砂をばら撒くこともないため比較的サンゴ水槽でも入れやすいです。入荷量は多めです。

ミズタマハゼ V. sexguttata (Valenciennes, 1837)

▲ミズタマハゼ

体が真っ白の地味なハゼですが、頭部に水玉模様があるのが特徴です。全長15cmになりますが、水槽ではそこまで大きくはなりません。いつも水槽の底の方にいて、水槽の底砂を口に含み餌を食べていますので、サンゴ水槽でも飼育しやすい魚です。琉球列島にも分布しますが概ね東南アジアやスリランカから輸入されてきます。基本的には丈夫なハゼですが入荷直後のものは購入しない方がよいでしょう。

★ササハゼ V. wardii (Playfair, 1867)

相模湾以南、インド-太平洋にすむ美しいハゼです。体側には茶色の横帯があります。底の方にいることが多いためサンゴ水槽でも飼育できると思われますが、注意が必要です。あまり入荷は多くなく欲しいならなるべく早いうちに購入したいところですが、入荷直後のものは注意が必要です。

★アカハチハゼ V. strigata (Broussonet, 1782)

▲アカハチハゼ

頭部が黄色、または名前の通り赤色でその下に青いラインが入るのが特徴です。古くから人気のあるハゼですが、底の方だけでなく中層も泳ぎ、サンゴの上にも砂をかけてしまうのでサンゴ水槽向きではない種類です。砂とサンゴ岩だけの水槽で飼育するのに最適な魚です。沖縄などからコンスタントに入荷されるほか、まれに磯で採集することもできます。全長20cm近くにまでそだちこの仲間では大きくなります。

★アカネハゼ V. bella Hoese and Larson, 1994

アカハチハゼに似ているのですが、その名の通り赤みを帯びています。やや深場に生息しているせいか入荷数は少なく、たまに入ってきてもアカハチハゼよりもだいぶ高価な種類です。習性はアカハチハゼに似ており底から中層を泳ぎ砂をサンゴにかけてしまうこともあり、あまりサンゴ水槽向けとはいえないハゼです。沖縄から入ってくることが多く、そのほかフィリピンにも分布しています。

★クロイトハゼ V. helsdingenii (Bleeker, 1858)

▲クロイトハゼ

体側に暗色~オレンジ色の縦帯が二本入るのが特徴の種類です。第1背鰭にも黒色斑があります。日本の温帯域から南はオーストラリア、東西では紅海・東アフリカからマルケサス諸島にまで分布し、この属では非常に広い分布をしています。生態はアカハチハゼに似ており砂をサンゴにまき散らすことがあります。そのためサンゴ水槽全盛の昨今は人気がないのか、あまり入荷していない種です。全長は25cmに達しますが、ふつうはもっと小さいです。

★アオハチハゼ V. randalli Hoese and Larson, 1994

アカハチハゼに似ている種で、頭部にある太い縦帯が特徴で、帯の上下にある黄色線も目立ちます。琉球列島、フィリピン、インドネシアに分布していますが、輸入量が少なく、欲しいときにないことも多いです。水槽の底を離れて泳ぐタイプなので注意が必要です。

★ヒメクロイトハゼ V. parva Hoese and Larson, 1994

白っぽい体で薄い黄色の線が入る程度の地味なベントス食ハゼです。「クロイトハゼ」の名前がありますが、この属の中では小型種で全長8cm、水槽ではさらに小さいです。浅瀬から水深20m以浅に生息します。過去に石垣便などで入ってきたことがありますが、入荷は少なく珍しい部類です。

★サオトメハゼ V. limicola Hoese and Larson, 1994

日本ではまれな種類で、インドネシアからフィジーにかけて分布する種です。体側にある2本の黄色い縦縞と、眼の下のブルーがとても鮮やかな種類です。残念ながら観賞魚としての入荷はほとんどないようですが、いつかはお目にかかりたいベントスゴビーです。

★キイトハゼ V. yanoi Suzuki, Senou and Randall, 2016

2016年に新種として記載されたばかりの珍しいハゼで、琉球列島に生息しています。サオトメハゼに似ていますが、眼下の模様や背鰭の形などがやや異なっています。水深12~30mの砂地に生息しています。観賞魚としての入荷はほとんど期待できません。

★サザナミハゼ V. longipinnis (Lay and Bennett, 1839)

全長20cmになります。基本的には丈夫で飼育はしやすいですが、そのサイズから90cm以上の水槽が欲しいところです。底のほうからやや中層にいることもあり、あまりサンゴ水槽での飼育はおすすめできません。日本では琉球列島のサンゴ礁域に多く生息し、海外ではインド-太平洋に分布しています。

ムラールゴビー V. muralis (Valenciennes, 1837)

日本には分布していませんが、フィリピン、インドネシア、パラオ、南シナ海など西太平洋のサンゴ礁域に広く分布するベントスゴビーです。サザナミハゼにそっくりですが、背鰭に明瞭な黒色点があるところや、体側の縦線が明瞭なところなどが異なります。全長15cmに達します。入荷は極めて少ないといえます。

サラサハゼ属 Amblygobius 

クロイトハゼの仲間よりも小型のものが多いです。入荷量はクロイトハゼ属よりも少なく、種によってはなかなか観賞魚店では見られません。また入荷しても別の種の名前で販売されている、なんていうこともあります。生態としては底から離れて泳ぐことも多く、砂をまき散らすなどサンゴ水槽には不向きの種類も多くいます。

なお、キンセンハゼやレインフォーズゴビーなどの種はKoumansetta属とされることもありますが、この属はAmblygobius属の異名とされています。

主な種(★は日本にも分布する種)

★キンセンハゼ Amblygobius hectori (Smith, 1957)

サラサハゼ属としては小型種で、全長5cmほどです。体側を通る黄色と黒の線が特徴で、吻がとがっていることから、ハゼの仲間というよりはベラの仲間の様な印象をうけます。入荷量もこの属としては比較的多いのですが、意外と飼育が難しい種です。痩せやすいので多めに餌をあげるべきですが、高価な魚ではなく、ザツな扱いを受けている可能性もあるかもしれません。やや小型の種でサンゴへの影響もそれほど大きくはありません。さまざまな微生物やゴカイなどが増殖した、サンゴ水槽で長期飼育を目指しましょう。

レインフォーズゴビー A. rainfordi (Whitley, 1940)

体側を通る縦線の色彩がキンセンハゼと少し違う近縁種です。西太平洋に広く産しますが日本では見ることが出来ません。観賞魚として東南アジアからまれに入ってきます。飼育についてはキンセンハゼと同様ですが、こちらの方が大きくなるようです。なお本種とキンセンハゼは、Koumansettaという別属に入れられている場合もありますが、これは先ほども述べたようにAmblygobius属の異名とされます。

ジュウモンジサラサハゼ A. decussatus (Bleeker, 1855)

からだが白っぽく、体側の模様が十文字状になるのが名前の由来になるのではないかと思われます。派手さはないものの美しい共生ハゼでありますが、中層から砂をばら撒くなどの習性があり、サンゴ水槽には全く向いていません。後ろにキクメイシの一種が写っていますが、このキクメイシも砂をかけられて死んでしまいました。

★ホホベニサラサハゼ A. nocturnus (Herre, 1945)

琉球列島、インド-中央太平洋の内湾に生息する種で、灰色の体に赤い縦線が入るのが特徴です。しかしジュウモンジサラサハゼのような十文字模様はありません。内湾の浅瀬にすみ、観賞魚店ではあまり見ることができないハゼといえます。

★エサキサラサハゼ A. esakiae Herre, 1939

西表島、パラオ、インドネシア、フィリピン、パプアニューギニアなどに分布する種で、河川の河口域や内湾の泥底に生息しています。吻の先端にある黒色点や、ひし形の尾鰭などが特徴的です。観賞魚として入荷されることはあまりない珍しい種です。

ブアンゴビー Amblygobius buanensis Herre, 1927

日本には分布しませんがフィリピンやインドネシアに多く見られます。サラサハゼに似ていますが頭部にめだつラインがあることが異なっています。内湾のサンゴ礁域、極めて浅い場所に見られます。

★ワカケサラサハゼ A. linki Herre, 1927

サンゴ礁域には生息しない種で、マングローブ域の泥底にのみみられます。頭から尾鰭の付け根にかけて黒い縦線が2本あることにより、他のサラサハゼの仲間とは容易に区別することができます。全長5cmほどで、この仲間としては小型です。

★スフィンクスサラサハゼ A. sphynx (Valenciennes, 1837)

大きいものは全長10cmを超える大型種。サラサハゼに似ているが、背鰭の形が異なっているのが特徴です。水深20m以浅の内湾の砂地に生息していますが、日本では西表島で見られる程度で、観賞魚としてはごくまれにしか流通しない珍しい魚ですが、フィリピンでは食用とされているようです。

サラサハゼ A. phalaena (Valenciennes, 1837)

この種も全長10cmを超える大型種です。サンゴ礁域の砂地、海草が生えるような場所に多く生息しているハゼです。一見地味なハゼなのですが、体側に黒や青色の横帯がありよくみたら綺麗な種です。伊豆半島以南の南日本、西太平洋に生息し、A. albimaculatus (Rüppell, 1830)や A. semicinctus (Bennett, 1833) と行った種類と混同されやすいので注意が必要です。中層を泳ぐのでサンゴ水槽では気をつけます。この仲間では比較的入手しやすい種です。フィリピンでは食用とされているようです。

シグニゴビウス属 Signigobius

1属1種のみが知られています。

ツインスポットゴビー Signigobius biocellatus Hoese and Allen, 1977

日本からはまだ見つかっていないハゼなのですが「カニハゼ」とも呼ばれています。背鰭に大きな黒色目玉模様があり、それが名前の由来です。日本に生息していないのに日本語名がついているところからわかるように、古くから観賞魚として親しまれていました。主にフィリピンやインドネシアから輸入され、入手は難しくはありませんでしたが、最近は入荷が減っているようです。入荷が減っている理由は不明ですが、飼育が非常に難しいことがあげられるでしょう。痩せやすくベテラン向けのベントスゴビーです。

ベントスゴビーの飼育に適した水槽

水槽

水槽はベントスゴビーの大きさに合わせますが、60cm以上の水槽で飼育するべきです。キンセンハゼやクラブアイドゴビーなどは小型ですが痩せやすいので、餌を多く供給してあげたいからです。クロイトハゼやアカハチハゼなど、大きめに育つ種については90cm水槽で飼育してあげたいところです。

ろ過装置

ろ過装置は底面ろ過槽を除きどれでもOKですが、できるだけ複数の種類のろ過槽を組み合わせるとよいでしょう。とくにクロイトハゼ属はきれいな水質を好むからです。底面ろ過槽は砂を動かしてしまうベントス食性ハゼの飼育にはまったく適していません。外掛けろ過槽も水面に隙間ができてしまうため、注意が必要です。

またDSBやモナコシステムなど、砂やプレナムがシステムの中心になる水槽にも入れられません。ベルリンシステムでは問題なく飼育でき、とくにキンセンハゼやクラブアイドゴビーなどはよく微生物がわいたベルリンシステムの水槽で飼育するのが望ましいといえます。

フタ

この仲間は意外と飛び跳ねて死んでしまうことが多くあります。オトメハゼやミズタマハゼなど、いつも底の方にいるにもかかわらず、水槽から飛び出して干物になって対面することもありますので、フタはしっかりしておきましょう。

ベントスゴビーの飼育には砂が必要になります。砂はパウダー状、もしくは小粒のものが最適です。砂がないとストレスになることもあるので、確実に敷いてあげます。3~5cmほど敷くようにしますが、あまりにも厚く敷きすぎてしまうと、硫化水素の発生などを招いてしまうのでやめましょう。また先ほども述べたように砂を厚く敷いたDSBシステムの水槽には絶対に入れてはいけません。

水温と殺菌灯

水温はどの種も原則25℃ですが、それより若干低めの22℃でも27℃でも飼育できる種が多いです。重要なのは水温が安定していることで、不安定だと体調を崩し病気になることもあるので注意しなければなりません。とくに白点病には注意したいところです。またアカネハゼはやや深場の種のようですので高水温にならないよう注意が必要です。

殺菌灯は砂をいじることが多いベントスゴビーを飼育するのには重要なもので、これにより病気を予防しますが、殺菌灯自体、そして殺菌灯に水を通すための水中ポンプが熱を放つので注意します。水槽用クーラーも接続して、温度を安定させるようにしましょう。殺菌灯で殺菌された暖かい水がクーラーを通り冷やされ、水槽に戻るように配管を工夫しましょう。

ベントスゴビーの選び方

まずどの魚でも入荷してすぐのものは避けます。また背肉が落ちているもの、腹が凹んでいるものもだめです。腹部についてはクロイトハゼ属の魚はある程度回復させることもできますが、クラブアイドゴビー(カニハゼ)などでは回復させにくいので注意が必要です。

もちろん白い点がついているもの、体表や鰭が赤くただれているものなどは絶対に危ないので、このような個体も選んではいけません。

ベントスゴビーの餌

餌はフレークフードよりも沈降性のフードが最適です。また、砂のなかにスポイトを使用して餌を埋めてあげるのもよい方法です。ただ沈降性の餌を砂上においておくだけだと他の魚に先に食べられてしまうおそれがありますので配慮が必要なことがあります。ベントスゴビーは意外なほど大食いなので、餌を多数入れてあげましょう。もちろん水質悪化には注意が必要です。

混泳の際の注意点

▲チョウチョウウオとの飼育は避ける。

ベントスゴビーと相性が悪いのはチョウチョウウオの仲間です。ベントスゴビーは砂を口に含み、その中にすむ餌を食べているのですが、その際に砂をいじってしまうため、白点病の原因となる原生生物が水中を舞ってしまうこともあるのです。チョウチョウウオは白点病にかかりやすく、混泳はおすすめできません。

このほか肉食性の魚も一緒に飼育できません。体が細いのでほかの魚に襲われてしまうことがあるからです。カサゴやオコゼ、カエルアンコウ、ウツボなどだけでなく、大きなテンジクダイの仲間も注意が必要です。また気性があらいスズメダイの大きいのや、メギス(ニセスズメ)なども避けた方が無難です。とくにメギスの仲間はシルエットが似ており、相性がよくないです。カクレクマノミや小型のスズメダイ、小型ヤッコや共生ハゼ、遊泳性ハゼ、イトヒキベラなど小型の温和なベラ、ハナダイ、カエルウオ、小型テンジクダイなどとの組み合わせがおすすめです。

サンゴや無脊椎動物との組み合わせ

サンゴは長い時間砂をかぶったままだと死んでしまいます。ベントスゴビーのうち中層を泳ぐようなアカハチハゼやサラサハゼ属の種はサンゴとの飼育は避けた方が無難でしょう。

内湾のサラサハゼの仲間のように、サンゴ水槽よりも海藻や海草の水槽の方が似合うかもしれない種もいます。オーバーフロー水槽にして、上でサンゴなどを飼育し、下で海藻や海草を育てるような水槽にするのも面白いといえます。海藻や海草は海水中の栄養塩を吸収して成長するため、自然のろ過を再現することができます。この隙間には様々な微小生物がくらし、ハゼの餌になることもありますが、それだけではハゼをお腹いっぱいにすることはできませんので、かならず餌を与える必要があります。

甲殻類は種類によってハゼの仲間を食べてしまうことがあります。大型のカニ、大型のヤドカリ、大型のエビなどは要注意です。エビは大型のイセエビのような種だけでなく、オトヒメエビのように大きなハサミをもつものも危険ですので、一緒に飼育しない方が無難でしょう。

まとめ

  • 口に砂をふくみ、砂中の餌を食べ、砂だけを鰓から吐き出す
  • クロイトハゼ属、サラサハゼ属など3属からなる。
  • カニハゼことツインスポットゴビーは飼育が難しい
  • サンゴとの飼育の際には、砂をかけられることがあるので要注意
  • 上部ろ過槽が適している。
  • 底面フィルターは使用不可
  • フタはしっかりとする
  • 腹部が凹んでいるもの、鰭がぼろぼろのもの、あるいは入荷後すぐのものは避ける
  • チョウチョウウオなどとの混泳には適していない
  • ハゼを捕食するような魚との飼育は避ける
  • 底の方にサンゴを置かないようにする。種類によってサンゴとの飼育が難しいハゼも
  • オトヒメエビや大型の甲殻類との飼育は避ける

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