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2020.11.02 (公開 2020.11.02) 海水魚図鑑

大型ヤッコの幼魚を小型水槽で飼育することはできるのか

大型ヤッコは全長30cmをこえる種類も多いのですが、幼魚と成魚では色彩や模様が大きく異なるものが多く、育てる楽しみもあります。この大型ヤッコの幼魚を60cm水槽で育てているアクアリストも多いのですが、必ず大型水槽が必要になるなど、いろいろ注意しなければならないポイントもあります。今回は60cmくらいの手ごろな大きさの水槽で大型ヤッコの幼魚を飼育するメリットとデメリット、注意点をご紹介します。

大型ヤッコの幼魚

▲タテジマキンチャクダイの幼魚。通称ウズマキ

大型ヤッコはサザナミヤッコやタテジマキンチャクダイなどのサザナミヤッコ属(通称ポマカン)と、クイーンエンゼルやパッサーエンゼルなどのホラカンタス属の魚の総称です。この仲間は幼魚と成魚では見た目が大きく異なり、幼魚も成魚も魅力的な色彩をしています。30cmをこえる種類が多く、いずれの種類も、うまく飼育するのには120cm以上の大型水槽が必要になりますが、育つ様子を観察したり、大型ヤッコ同士の混泳は楽しいものです。

混泳注意

▲パッサーエンゼルは大きく育つと気が強くなりやすい

しかし大型ヤッコのなかには、イナズマヤッコやロックビューティー(ヌリワケヤッコ)のように成魚サイズが小さくて臆病なものがいます。このような種類は大型ヤッコ同士の混泳はさせないほうが賢明でしょう。葛西臨海公園水族園やうみたまごといった水族館の大型水槽ではロックビューティーとクイーンエンゼルの混泳を見せていますが、狭い家庭水槽では避けたほうがよい組み合わせといえるかもしれません。大体強いのがタテジマキンチャクダイ、マクロスス、サザナミヤッコ、アデヤッコ、パッサーエンゼルなどですが、個体差もあります。

大型ヤッコの幼魚を60cm水槽で飼うメリット

大型ヤッコの成魚は30cmを超え、家庭の水槽で飼える海水魚としては大きめに育ちます。そのため60cmほどの水槽では終生飼育不可で、90cmでも困難、120cm水槽以上の水槽で飼育すべきものです。成長は早いものが多く、ぐんぐん育ちますので「幼魚のうちは小型水槽で飼って、成長につれて大きな水槽にしていこう」という考えではいけません。最初から大きな水槽で飼育したい種といえます。小さいうちから育てると何年も生きてイヌやネコ以上に長生きすることもあります。その点でも、長く付き合えるような飼育方法を考えるべきでしょう。

ただし、大型ヤッコの成魚が飼育できるレベルの水槽を有したうえで、60cm水槽で大型ヤッコの幼魚を飼うということは否定しません。60cm水槽で大型ヤッコの幼魚を飼うのには、いくつかのメリットもあるからです。ただし、勘違いしてほしくないのは、これらはあくまでも「大型水槽を用意できる、終生飼育できると約束できる方」に限っての話です。

幼魚のみのスペースを作ることができる

▲磯で採集したサザナミヤッコの稚魚。通称「三本線」

大型ヤッコの幼魚を購入(または採集)し、そのまま水槽に入れれば先住の縄張りを主張する大型ヤッコの存在がプレッシャーとなりストレスで死んでしまうか、餌がいきわたらずに餓死してしまうというパターンが多いように思います。一方60cm水槽を別途用意するのであれば、幼魚のための専用スペースを作ってあげられます。

水槽には飾りサンゴやライブロックを入れてあげましょう。そうすると大型ヤッコの幼魚が落ち着くからです(後述)。サンゴ、とくにハードコーラルやケヤリムシ、ウミアザミなどは食べてしまうことがありますので、あまり入れないほうが賢明でしょう。

なおこのような水槽を立ち上げるとほかの魚を入れたくなりますが、あまりほかの魚とは飼育しないほうがよいでしょう。同じくらいの大きさのヤッコであっても小型ヤッコなどは成魚であるため、気が強いからです。ほかの魚と飼育するのであればおとなしい小型のカエルウオか、ハゼの仲間になります。クマノミやスズメダイなどは縄張りをアピールするのでよくないです。またおとなしい種類との混泳であってもいわゆる「三本線」のような稚魚はかなり臆病で餌付きもよくないため、ほかの魚を入れるのは望ましくないし、飼育も難しいといえます。また幼魚は餌付きやすい反面体力もないため十分気をつかってあげましょう。

餌付けを行うこともできる

アサリに餌付かせてからほかのヤッコと混泳させるようにしたい

幼魚の場合60cm水槽で餌付けを行うこともできます。というか、ここで配合飼料に慣らしてからメイン水槽へと移すようにします。ヤッコの仲間は飼育をはじめて最初のうちはアサリなどしか食べない個体も多く、そのような個体に混泳水槽でアサリをあげていてもほかの魚が我先に飛びついてしまい、新入りの魚がアサリを食べられないということも起こりうるからです。最初はアサリを食べたら冷凍餌、配合飼料という風に切り替えていきますが、食べ残しは水質を悪化させますので早いうちに取り除きたいものです。

大型ヤッコの幼魚を60cm水槽で飼うときのデメリットと注意点

終生飼育ができない

まずこの点があげられます。海水魚飼育は終生飼育が基本、のはずなのですが、これを忘れてしまっているというアクアリストもいるようです。そうなってしまうと海に捨てられてしまうおそれもあり、放流された魚は冬季の寒さに耐えられず死んでしまうことも多いのですが、生き残って場合によっては在来生物にダメージを与えたり、アクアリストのモラル低下につながってしまうこともあるからです。

成長すると60cm水槽ではせまい

▲鰭がよく伸びたセダカヤッコ(マクロスス)

これも上記と同様の理由に近いですが、ヤッコの遊泳のためのスペースがなくなってしまうため問題が起こりやすくなります。何かに驚いて暴れて体表にスレ傷がつくこともあります。また、マクロススやクイーンエンゼル、アフリカヌスなど背鰭や臀鰭(アフリカヌスでは尾鰭も)が長くのびるような種類は小さいうちからある程度の大きさの水槽で飼育したほうがよくのび格好よくなるとされています。タテジマキンチャクダイやアデヤッコ、ロクセンヤッコは丸かったり伸びても短いのであまり変わらないかもしれませんが、遊泳スペースに余裕を持たせた大型水槽のほうが明らかに健康に育ってくれるでしょう。また飾りは必要ですが、その飾りも遊泳スペースを阻害しないように置き方を工夫したいものです。

水質が安定しにくい

300リットル近くの水が入る120cmの大型水槽にくらべて50リットル台の60cm水槽は水量がどうしても少なくなってしまいます。そのため大型水槽ほどは水質が安定しにくいというデメリットがあります。水を汚しやすいアサリなどを餌にすることも多いため、しっかりと水かえを行い、コンディションを安定させる必要があるのです。

大型ヤッコの幼魚を60cm水槽で飼うときの器具

ろ過システム

大型水槽と比べると簡易的な60cm水槽であってもしっかりしたシステムを考えておくべきです。ろ過槽は外掛けろ過槽はあまりよくなく、上部ろ過槽、もしくは上部ろ過槽をメインに外部ろ過槽を補助に使うのが理想といえます。これは前述のように、60cm水槽で餌付けをすることも多く、特に最初はアサリを餌に与えることが多いのですが、アサリの汁や残り餌は水を汚しやすいのでしっかりしたろ過槽を組んでおく必要があるからです。そのため外掛けろ過槽や、外部ろ過槽(の単独使用)ではろ過能力が不足しやすいのでおすすめできません。ろ過の補助、もしくは酸素供給という理由で外掛けのプロテインスキマーをつけてもよいのですが、上部ろ過槽との相性はあまりよくありません(水槽上部のスペースがせまくなる)。

水温と病気対策

水温はクーラーやヒーターを用いて常に一定を保たないといけません。そうしないと体調を崩して病気になってしまうこともあります。とくに小型個体は体力がないので病気になったら死んでしまうことも多いです。殺菌灯で病気を防ぐというのも重要なのですが、それ以上に安定した環境で飼育することのほうがずっと大事だといえます。

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底砂と隠れ家

底砂は敷かないほうがよいでしょう。これはアサリなどを入れておくとどうしても餌が食い散らかされてしまうからです。そしてその餌を吸い取る際には底砂がないと掃除もしやすいのです。一方隠れ家は重要です。ライブロックでなくても飾りサンゴやサンゴ岩、殺風景ですが塩ビパイプなどでもかまいません。とにかくヤッコの幼魚が隠れられる場所を作ってあげるようにしたいものです。

大型ヤッコの幼魚を60cm水槽で飼育する―まとめ

  • 大型ヤッコは全長30cmを超えるため小型水槽での終生飼育は不可
  • 幼魚のうちは小型水槽で飼い、成長につれ水槽買い替え、というのでは間に合わない
  • 60cmで飼育するメリットは幼魚専用の空間をつくることができるという点
  • その幼魚専用の空間で餌付けるようにしたい
  • 60cm水槽で長いこと飼っていると鰭がうまく伸びないことも
  • 小型水槽では大型水槽よりも水質が安定しにくい
  • 上部ろ過などしっかりしたろ過槽が必要
  • 水温もヒーターとクーラーで一定に保ちたい
  • 底砂は敷かないほうが掃除しやすいのでおすすめ
  • ライブロックやサンゴ岩などで小型ヤッコの休息場所をつくる
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