2020.05.22 (公開 2017.08.17) 海水魚図鑑
キンギョハナダイの飼育方法~同種同士の混泳には注意
キンギョハナダイはハタ科のハナダイ亜科の魚です。「ハナダイ」といえば飼育が難しいようなイメージがありますが、飼育のポイントを押さえれば難しくないものが多いです(一部ハナゴイの仲間のように難しいものもいますが)。そのなかでもキンギョハナダイは強健な種で飼育は容易、ハナダイ入門種として最適な魚です。
標準和名 | キンギョハナダイ |
学名 | Pseudanthias squamipinnis (Peters, 1855) |
分類 | スズキ目・スズキ亜目・ハタ科・ハナダイ亜科・ナガハナダイ属 |
全長 | 約12cm |
飼育難易度 | ★☆☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッド |
温度 | 23~25度 |
水槽 | 60cm以上 |
混泳 | 気が強い魚とは注意が必要 |
サンゴ飼育 | 可 |
キンギョハナダイってどんな魚?
高級食用魚として有名なクエやキジハタなどと同じ、ハタ科の魚です。ハタ科の魚には人間よりも巨大な大きさに育つタマカイなど巨大なものもしられていますが、キンギョハナダイが含まれるハナダイ亜科・ナガハナダイ属の魚は大きくても20cm弱で、成魚でも10cm程度のものが多く含まれます。
ハナダイ亜科は200を超える種がインド‐汎太平洋域、大西洋域の熱帯から温帯にかけて分布しますが、ナガハナダイ属はとくに種類が多く60種類以上が知られていますが、複数の亜属に分けられています。分布域は南アフリカから中央太平洋で、大西洋や東太平洋沿岸部には生息していません。
ハナダイの仲間についてはこちらの記事もご参照ください。
キンギョハナダイの雌雄の見分け方
▲雄の胸鰭には赤(ピンク、紫)色斑がある
▲雌。胸鰭に模様がない
ハナダイの仲間は雌雄で色彩が異なるものが多く、キンギョハナダイも雌雄で色彩や斑紋が大きく異なっています。雄の成魚は背鰭の3番目の棘が長く伸び、胸鰭に赤色の斑が出ますが、雌ではこれらの特徴がありません。雄同士は複数飼育すると激しく争うので、複数個体飼育するのであれば雌を購入した方がよいでしょう。うまく飼育すればやがて性転換して雄になります。
キンギョハナダイに似た魚
▲メラネシアンアンティアスの雄
▲メラネシアンアンティアスの雌
フィリピンからくるものの中には雌が黄色く(ほかの地域のものより色が薄い、もしくは暗い)、雄が緑~灰色というちょっと変わったものが入ってくることがありますが、これはメラネシアンアンティアスとか、レッドチークドフェアリーバスレットとよばれている種で、キンギョハナダイとはまた別の種です。西太平洋の浅いサンゴ礁域に生息する種類で、飼育についてはキンギョハナダイと同じでかまいません。性格もハナダイの仲間としては丈夫で強すぎるくらいなので混泳相手には配慮が必要です。
キンギョハナダイをお迎えする
▲高知県の磯で採集されたキンギョハナダイの幼魚
キンギョハナダイはインド‐西太平洋に広く分布し、日本では千葉県・山口県日本海岸以南の各地沿岸で見ることができます。観賞魚としては沖縄、フィリピン、インドネシア、インド洋のスリランカなどから入ってきます。
スリランカなどインド洋産の個体は太平洋のものと比べて鮮やかで美しく「インドキンギョハナダイ」という名前でも販売されています。キンギョハナダイは産地によって色彩に若干のバリエーションがありますが、これらはすべて同じ種類なのか、別の種類に分けるべきなのかは現状では結論が出ていません。
沖縄のキンギョハナダイは採集が丁寧で輸送にかかる時間も短くてすむため、状態よく届くことが多いためおすすめです。ただし、たまに全長2cmくらいのかわいい稚魚も入ってきますが、このような個体はまめな給餌が必要で性格もかなり臆病なため初心者にはあまりおすすめできません。
運が良ければ日本の太平洋岸の防波堤でもキンギョハナダイと出会えます。防波堤を泳いでいる個体は釣りにより採集でき、飼育も可能ですが、針をのみこんでしまったものは飼育には向いていません。また船釣りでやや深い場所から釣り上げられた個体もあまり飼育には向かないと言えます。
キンギョハナダイに適した環境
水槽
キンギョハナダイは水槽内でも全長10cmほどになる魚です。幼魚のうちは小型の30cmキューブなどでの飼育も可能ではありますが、水槽で成長することを考えると、できるだけ大きめの水槽を用意してあげたいものです。
60cm規格水槽では雄1匹と雌1~2匹くらいに留めましょう。もちろん他の魚との混泳も考えるならば、もっと大きめの水槽が欲しいところです。
ろ過槽
ハナダイの仲間としては丈夫でわりと飼いやすいほうではあるのですが、あまり綺麗でない水で飼育していると色褪せしやすい面もあります。常にきれいな状態を保つように心がけます。
ろ過槽は外部式ろ過槽を単独で使用するよりは小型水槽なら外掛け式、60cm以上の水槽なら上部式ろ過槽など、多くの酸素を水槽に供給できるろ過槽を併用した方が良いでしょう。このほかに小型のプロテインスキマーを接続するのも良い方法です。
幼魚は頻繁に餌を与えるとよいのですが、与えすぎは水を汚す恐れがありますのでプロテインスキマーに排せつ物や食べ残しを取り除いてもらうのは良い方法といえます。
外部式ろ過槽
小型プロテインスキマー
プロテインスキマー+ろ過槽
砂と飾り
キンギョハナダイ自体は砂に潜ったりすることはなく、砂を敷かなくてもかまいません。ただし底砂を敷かない環境ではpHが酸性に傾く傾向にあり、バッファー材を使用するなどしてpHを維持するようにします。
サンゴ水槽であれば危急時にサンゴやライブロックの隙間に隠れますが、そうでない水槽の場合は隠れるために飾りサンゴやライブロックのレプリカなども入れておきましょう。
水温
一般的にサンゴ礁で採集されたものは25℃前後でよいでしょう。本州から九州の海で採集したものなどはもう少し低めの23℃前後がよいかもしれません。水深50m付近から採集されたことがあるなど低めの水温には耐性があるようですが、冬はヒーターで加温してあげたいものです。
フタ
よく泳ぐ魚ですので勢い余って水槽から飛び出してしまう事故もあります。そのような事故を防ぐために水槽にガラスフタを使用することをおすすめします。
水流
ハナダイの仲間は概ね潮通しのよいサンゴ礁域に生息し、流れにのってやってくるプランクトンや微小な甲殻類を捕食します。ですから水槽で飼育するときも、流れがあるほうが望ましいといえます。サンゴ水槽で飼育しているのであれば、そのサンゴにあった水流があればよいですが、魚水槽でハナダイの仲間を飼育する場合でも、水流ポンプで水流を作ってあげるのが望ましいといえます。
キンギョハナダイに適した餌
成魚や若魚は配合飼料を食べますので、餌についてはあまり心配することはありません。たまに冷凍の餌をおやつ代わりにあげるとよいでしょう。
たまに全長2cmほどの稚魚が流通することもありますが、このような大きさのものは餌をまめに与える必要があり初心者にはすこし難しいところです。5cmくらいの大きさになった個体が安心です。どうしても食べない時は、ほかの強い魚を隔離したり、餌にホワイトシュリンプなどの冷凍餌を与えるのもよいでしょう。
キンギョハナダイの混泳
同種同士の混泳
▲雄はひとつの水槽に1匹だけ入れるようにしたい
自然界では群れていることが多いのですが、雄同士は争いますので雄は水槽に1匹のみ入れるようにします。
雌や幼魚は雄ほどは争わないので複数飼育できますが、狭い水槽では雌同士争うこともありますので、なるべく広い水槽、たとえば90cm水槽などで飼育するとよいでしょう。雌を複数入れるとそのうち性転換して雄になります。
他魚との混泳
▲攻撃的な魚、肉食魚とは飼育するべきでない
成魚はチョウチョウウオ、小型ヤッコ、中型ヤッコ、ハゼ、小型のベラ、クマノミ、温和なスズメダイなどとの混泳を楽しむことができます。成魚はハナダイの仲間としては丈夫なので、大型ヤッコと飼育している例もあります。稚魚は極めて臆病ですので、他の魚とは混泳させないか、自分よりも小さいベニハゼ類などと混泳するようにするべきです。
もちろん、成魚、稚魚ともに、キンギョハナダイを捕食してしまうような魚とは一緒に飼育することはできません。とくに稚魚はさまざまな魚の餌になってしまう恐れがあるので気をつけます。上記の高知県で採集した個体も、ベラなどと飼育していたらひっそりと水槽から姿を消してしまいました。
ちなみにハナゴイの仲間は臆病すぎてカクレクマノミとの混泳が難しいともいわれていますが、キンギョハナダイに関しては比較的容易です。
サンゴ・無脊椎動物との相性
▲サンゴ水槽での飼育も問題なし
キンギョハナダイはサンゴにいたずらをすることもないので、それらとの飼育にも向いているといえます。ミドリイシなどのSPSとの飼育も、ハナガタサンゴやナガレハナサンゴなどに代表されるLPSとの飼育もできます。LPSにはプランクトンフードなどを与えたいのですが、キンギョハナダイも同様にプランクトンをよく食べるのでおすすめです。ただし、キンギョハナダイはLPS用のプランクトンフードだけでは腹を満たすことはできません。そのためかならず配合飼料も与えましょう。
軟体動物は貝類となら飼育可能ですが、イカやタコと一緒に飼育することはおすすめできません。甲殻類はイセエビやガザミなど大型の肉食性が強いものを避け、またキンギョハナダイの口に入るものも避けるべきでしょう。オトヒメエビも小型ですが強いのでとくに幼魚との混泳は避けるのが賢明です。
キンギョハナダイ飼育まとめ
- ハナダイの仲間としては丈夫で飼育しやすい種
- 雄は胸鰭に赤色斑をもち背鰭棘が伸びる
- 沖縄の個体は輸送時間が短く状態よく来るためおすすめ
- インド洋のものは色が美しい
- 小さすぎるのは難しい。小さくても5cm以上の個体を選ぶ
- 最低でも60cm水槽を用意したい
- 外部ろ過槽の単独使用は避ける
- 水温は25℃
- フタをしっかりして飛び出しを防ぐ
- 水中ポンプを使用して水流を作りたい
- 餌は粒状の配合飼料をメインに
- 雄同士の混泳は避ける
- 気が強いモンガラなどとの混泳も避ける
- サンゴとの飼育は問題なし