2020.08.15 (公開 2020.08.03) 海水魚図鑑
淡水と海水の「エンゼルフィッシュ」の違い
淡水の熱帯魚を飼育されているアクアリストであれば、カワスズメ科の魚でよくのびた鰭を有するエンゼルフィッシュはお馴染みの魚といえます。しかし熱帯・亜熱帯のサンゴ礁にすみ、やはりアクアリウムで飼育される「エンゼルフィッシュ」と呼ばれている魚がいます。
今回は淡水の熱帯魚でエンゼルフィッシュと呼ばれている魚と、海水の熱帯魚でエンゼルフィッシュと呼ばれている魚の違いについてご紹介します。
海水のエンゼルフィッシュ
▲タテジマキンチャクダイ(英名Emperor angelfish)
まずこのサイトは「海水魚ラボ」ということで、海水のほうの「エンゼルフィッシュ」からご紹介します。
マリンアクアリウムの世界で「エンゼルフィッシュ」と呼ばれているのはヤッコの仲間です。正確にいえばキンチャクダイ科の魚を指します。分類学的にはスズキ目・スズキ亜目の魚で、チョウチョウウオ科の亜科とされていたこともありましたが、前鰓蓋のところに大きな棘があるのでチョウチョウウオ科とは見分けられます。インド洋・太平洋・大西洋に生息しており、特にインド―中央太平洋に種類が多いです。小型のものから全長50cm近くになる大きいものまで知られており、食用ともされます。最近はインドネシアなどで養殖もおこなわれていますが、これは食用ではなくアクアリウムのための養殖です。
なお、単に「エンゼルフィッシュ」と呼ばれることはなく「~エンゼルフィッシュ」と呼ばれることがほとんどといえます。例えば「フレームエンゼルフィッシュ」といった具合です。ただし日本に生息する魚では英語名ではなく種の標準和名で呼ばれることが多いです。例えば写真の魚では「エンペラーエンゼルフィッシュ」よりは種の標準和名である「タテジマキンチャクダイ」、もしくは「タテキン」、幼魚は「ウズマキ」と呼ばれることが多いといえます。例外はアヤメヤッコとフカミヤッコで、それぞれ「コリンズエンゼルフィッシュ」「オーネイトエンゼルフィッシュ」「ベルスエンゼルフィッシュ」(もしくは略してコリンズ、ベルス)などと呼ばれています。
淡水のエンゼルフィッシュ
▲エンゼルフィッシュ
一方淡水のエンゼルフィッシュはスズキ目・スズキ亜目(ここまではおなじ)のカワスズメ科に含まれています。分類学的にはヤッコよりもスズメダイに近い仲間とされており、スズメダイ科とともにベラ亜目に入れられることもありますが、これについては否定的な意見が多いです。これら2つの科をスズキ亜目からはなしてもベラ亜目には含めないことも多いです。
カワスズメ科は主に南米・アフリカ(一部アジアにも達する)に広く分布する魚で、特に北米やアジアにも移入されています。理由は食用魚・釣り魚で東南アジアの食品店では養殖されたティラピア類が見られますが、逸出個体も多く見られます。釣り魚として有名なのは南米に生息するアイスポットシクリッドの類ですが、これらもいろいろな地域に放されてしまっているようです。いずれにせよ淡水魚(に限らず海水魚もそうですが)の野外への逸出を招くようなタイプの養殖方法は見直すべきかもしれませんし、もちろん釣って面白いからといって野池に放して釣るのは論外といえます。だれも寄り付かないようなため池であっても大雨などで河川へ逸出するおそれもあります。
ちなみにエンゼルフィッシュの仲間(Pterophyllum属)には3種類が知られています。(Pterophyllum altum, P.leopoldi, およびP. scalare)が知られていますが、一般に「エンゼルフィッシュ」として知られているのはP. scalareです。またエンゼルフィッシュはいくつかの改良品種が作出され、筆者も飼育していました。とても丈夫で美しく、かつ飼育もしやすいため大昔からアクアリストに人気のある種類です。ただし小さい魚に対しては気が強いこともあります。その辺はスズメダイと似ています。
一般的に「エンゼルフィッシュ」といえばどちら?
世界的な魚類データベースである比「Fishbase」のコモンネームで「Angelfish」と呼ばれるのは海産のキンチャクダイ類であるHolacanthus bermudensisです。一方淡水産のエンゼルフィッシュは「Freshwater angelfish」というコモンネームを採用しています。しかしながら基本的に「エンゼルフィッシュ」といえば一般的に淡水のほうを指します。そのため「エンゼルフィッシュを飼育しているんですよ~」と言ってくる人がいれば、その人は淡水のエンゼルフィッシュを飼育していると考えてよいでしょう。なお筆者も「フレッシュウォーターエンゼルフィッシュ」という名前でエンゼルフィッシュを販売しているところを見たことはありません。同じ属の近縁種もPterophyllum altumは「アルタムエンゼル」、P.leopoldiのほうは「ドゥメリリィエンゼル」(旧学名から)と呼ばれ、最も普通に飼育されるP.scalareと区別することができます。ただし品種名で販売されることもあります(ブラックエンゼル、ダイヤモンドエンゼルなど)。
一方H. bermudensisは日本国内では「ブルーエンゼルフィッシュ」と呼ばれることが多いです。また海外でも少なくともアクアリウム界隈ではBlue angelfishの名称で通じます。もしくはこの種の産地である大西洋のバミューダ諸島にちなみ「Bermuda blue angelfish」と呼ばれることも多いです。
エンゼルフィッシュまとめ
- 淡水の熱帯魚で「エンゼルフィッシュ」と呼ばれるものと海水の熱帯魚の世界で同名で呼ばれるものは全くの別種
- 海水の「エンゼルフィッシュ」はヤッコの仲間を指す
- 淡水の「エンゼルフィッシュ」はカワスズメ科の魚を指す
- 一般的に「エンゼルフィッシュ」といえば淡水魚のほうを指すことが多い