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2020.07.21 (公開 2020.07.20) 海水魚の採集

関東で採集できるチョウチョウウオ~種類と飼育の際の心構え

夏から秋にかけては関東地方沿岸にもチョウチョウウオの仲間の幼魚が出現します。沖縄などと比べると数は少ないのですが、それでもチョウチョウウオ、トゲチョウチョウウオ、フウライチョウチョウウオは毎年のように見られ、チョウチョウウオなど一部の種は越冬しているのではないかと思えるくらい見ることができます。この関東沿岸でみられるチョウチョウウオの仲間を飼育するにはどうすればよいでしょうか。

関東でみられるチョウチョウウオ

我が国は四方を海に囲まれており、その海には「海流」という大きな海水の流れがあります。よく知られているのが太平洋岸を流れる日本海流、通称「黒潮」で、フィリピンあたりからはじまり、沖縄を経て九州から四国、そして本州の太平洋岸に及びます。その後は房総沖あたりで千島海流(親潮)とぶつかり日本から離れていきます。この黒潮に南方から魚の卵や稚魚が運ばれて夏になると本州から九州の太平洋岸でみられるようになりますが、冬になると寒さに耐えられず死んでしまい、このような魚を「死滅回遊魚」とか、最近では「季節来遊魚」とかいったりします。チョウチョウウオもこのような死滅回遊魚の一種であり、夏から秋の終わりにかけて関東以南の磯でみられるのですが、残念ながらほとんど越冬できず冬には死に絶えてしまいます。アクアリストはこのような魚と出会うために、毎年海へ出かけていくのです。トップの写真も外房で採集したチョウチョウウオとフウライチョウチョウウオです。

「外房5種」とは?

よくアクアリスト、それも磯採集が好きな人が使う言葉に、「外房5種」というものがあります。「外房5種」とは、千葉県外房地域(房総半島南端から勝浦あたりの太平洋岸)でよくみられるチョウチョウウオの仲間です。種類でいえばチョウチョウウオ(俗にナミチョウ)、トゲチョウチョウウオ、フウライチョウチョウウオ、チョウハン、そしてアケボノチョウチョウウオです。これらの5種はほぼ毎年のように見られる種で、ベテランとなるとこれらのチョウチョウウオには見向きもせず、より珍しい種を追い求めていく、という人もいます。しかしこれらの種類も美しいため、あまり無視してほしくはないなと思います。

外房5種のチョウチョウウオ

チョウチョウウオ(ナミチョウ)

▲チョウチョウウオ

関東の沿岸ではもっともよくみられるのがこのチョウチョウウオ。この種の標準和名が科の標準和名にもついていることからもわかるように、この仲間の代表的な種といえます。しかし、この種は採集できても持って帰らないという人も多いのです。理由は飼育が難しいからで、雑食性のチョウチョウウオであるにもかかわらずなかなか配合飼料を食べないという問題があります。また、磯にたくさんいるので軽視されがちという問題もあります。成魚は黄色がきれいなだけにもったいないといえます。

トゲチョウチョウウオ

▲トゲチョウチョウウオ

チョウチョウウオ(ナミチョウ)に次いで2番目に多いのがこのトゲチョウチョウウオ。成魚では背中から臀鰭、尾鰭まで黄色くなりますが、幼魚ではこれらの鰭はオレンジ色をしていて、尾鰭は透明です。チョウチョウウオの仲間でも丈夫で(比較的)飼育しやすいものですが、成魚はやや強めになります。はじめてチョウチョウウオを飼うなら本種がおすすめといえますが、まずはほかの魚から飼育を初めて経験を積むのが安心でしょう。

トゲチョウチョウウオの飼育についてはこちらをご覧ください。

フウライチョウチョウウオ

▲フウライチョウチョウウオ

フウライチョウチョウウオもトゲチョウチョウウオ同様、チョウチョウウオに次いでよく見られるチョウチョウウオの仲間の魚です。トゲチョウチョウウオに似ていますが、体側のオレンジ色の域が狭く、白色とオレンジ色の境界が黒っぽくなっているのが特徴です。また背鰭軟条部に黒色斑があるのは幼魚だけで、成魚にはこれは見られません。飼育については雑食性ですが、臆病であったり気が強めであったりという、説明するのが難しい性格で、なかなか長期飼育させにくいチョウチョウウオといえます。餌は食べるのですが、やせやすいです。

フウライチョウチョウウオの飼育についてはこちらをご覧ください。

チョウハン

▲チョウハン

チョウチョウウオによく似た種類で、眼を通る黒い帯の後方に黒色域があるチョウチョウウオの仲間です。背鰭には幼魚の時にだけ黒色斑がありますが、成魚では消失します。関東の磯でも毎年夏から秋にかけて見られますが、個体数はチョウチョウウオやトゲチョウチョウウオと比べると圧倒的に少ないです。飼育についても小さいものは臆病なところが見られます。ある程度の大きさに育ったものを飼うのが安心でしょう。

アケボノチョウチョウウオ

▲アケボノチョウチョウウオ

アケボノチョウチョウウオも人気があるチョウチョウウオの仲間です。写真はちょっと大きくなった個体ですが、夏から秋にかけては模様がほとんど変わらず、そのまま小さくしたような個体を見ることができます。サンゴのポリプを中心にした雑食性ですが、状態がよければ配合飼料にも早く餌付きます。

外房5種以外に関東で見られるチョウチョウウオ

ハタタテダイ・ムレハタタテダイ

▲ムレハタタテダイの子

ハタタテダイ・ムレハタタテダイともに広い分布域をもち、外房5種と呼ばれるチョウチョウウオに本種を合わせて「外房6種」なんて言ったりもします。ムレハタタテダイは定置網に入ることも多いのですが、定置網では獲れたあと氷水に漁獲物を入れることも多く、状態はよくないです。一方ハタタテダイは岸壁でも採集することができます。早い段階で配合飼料を食べるのですがやせやすく。かつ好奇心は旺盛でほかの魚の鰭をつつくことがあります。

セグロチョウチョウウオ

▲セグロチョウチョウウオ

セグロチョウチョウウオも幼魚は千葉や三浦で採集できるのですが、その数は少なく、採集できたらハッピーといえます。トゲチョウチョウウオに近い仲間とされ、トゲチョウチョウウオ同様、成長すると背鰭後方の鰭条が長く伸長するようになります。幼魚は内湾の環境を好み、濁った漁港の中で見られますが、成魚はサンゴ礁でよく見られます。食性は雑食性で餌は食べてくれますが、ややデリケートなようです。

ニセフウライチョウチョウウオ

▲ニセフウライチョウチョウウオ

ニセフウライチョウチョウウオは全長30cmを超えるチョウチョウウオ科としてはもっとも大きくなるもののひとつです。幼魚は千葉県以南の太平洋岸でも見られ、セグロチョウチョウウオと同様に内湾に多いように思います。基本的には丈夫で飼育しやすく、成魚であればヤッコなど大きめの魚との混泳もできるのですが、幼魚のうちはアサリなどから餌付かせるようにします。

ミゾレチョウチョウウオ

▲ミゾレチョウチョウウオ

ミゾレチョウチョウウオはチョウチョウウオ科の中でもとくに餌付きがよい魚なのですが、やや気が強いというところがありますので、混泳には注意が必要です。外房でも見られ、分布域は非常に広いのですが、チョウハンやトゲチョウチョウウオなどと比べると数は非常に少ないといえ、これも採集出来たらハッピーといえます。先ほども述べたように餌付きがよく配合飼料も食うようになりますが、小さいのは餌を食っていてもやせやすいので配合飼料を食っていてもアサリなどをしばらく一緒にあたえるのがベターです。

シラコダイ

▲シラコダイ

シラコダイは温帯に多いチョウチョウウオで色彩は派手ではないのですが、うすい黄色の体と紫色の頭部が特徴で美しい魚です。ほかのチョウチョウウオと異なり餌付きは非常によいのですが、高水温に注意しなければなりません。

このほか関東沿岸でもゴマチョウチョウウオ、アミチョウチョウウオ、トノサマダイ、ミスジチョウチョウウオ、フエヤッコダイ、ハシナガチョウチョウウオ(1匹のみ)などの採集記録はありますが、これらは個体数が少なく、今回は外させていただきました。このほかゲンロクダイなど深場にすむ種も除外しています。

外房5種の飼育

外房5種は毎年よく見られるだけあり、ほかの珍しいチョウチョウウオの仲間と比べると扱いが雑になってしまいやすいのですが、そのような扱いをするのであればチョウチョウウオの仲間は飼育しないほうがよいでしょう。チョウチョウウオの仲間の飼育にはしっかりとした装備が必要になり、以下に述べるようなものをそろえないと短命に終わってしまいやすいのです。ですから初心者のアクアリストはチョウチョウウオの仲間を採集しても持ち帰らず、逃がしてあげたほうがよいでしょう。

水槽サイズ

チョウチョウウオの仲間の幼魚はアサリなどを与えなければならず、水を汚しやすいため小型水槽での飼育には向かないところがあります。最低でも60cm、できれば90~120cm水槽が欲しいところです。

水質とろ過システム

オーバーフロー水槽が最適

チョウチョウウオはできるだけきれいな海水で飼育したいものです。ろ過装置もしっかりしたものが必要です。ろ過槽の種類は上部ろ過でもよいのですが、おすすめはオーバーフロー水槽です。外部ろ過槽や外掛けろ過槽は思ったほどにパワーがなく底面ろ過槽は砂がないと使えません。また、できれば上部ろ過槽やオーバーフロー水槽でもセットして早いうちにチョウチョウウオを採集して水槽に入れるというのはよくありません。できればチョウチョウウオを入れる前に、ほかのおとなしい魚を泳がせておいてある程度時間がたってからチョウチョウウオを入れるようにしたいものです。

水温の安定

チョウチョウウオは白点病になりやすい魚です。そのため、水温の安定は非常に重要です。水温の変動が激しいと魚が体調を崩して病気になりやすいからです。ヒーターとクーラーの両方を使用して水温を安定させるのですが、紫外線殺菌灯も取り付けたいところですのでクーラーは強力なものを使わなければなりません。これは殺菌灯が水温上昇を招きやすいためです。

紫外線殺菌灯

紫外線殺菌灯はチョウチョウウオ飼育の必須アイテムともいえます。チョウチョウウオは白点病にかかりやすいため、その病気予防策が必須なのです。殺菌灯は病気予防に確かに効果はあるのですが、万能なアイテムではなく、いくら殺菌灯がついていても水質が悪化すれば魚は死んでしまいますし、水温の変化が激しいと魚も体調を崩してしまいます。そうなると病気にかかりやすくなるのです。水温を一定に保ち、水質も大きなろ過槽できれいな水を維持していることを前提に、殺菌灯で病気を防ぐというものです。

殺菌灯や殺菌灯を水槽につなげるポンプは熱を出してしまうのでパイプやホースで配管するときは必ずクーラーの前に来るようにします。殺菌灯の照射により温められてしまった海水をクーラーで冷やすというイメージです。そのためクーラーも強いものが必要になります。

隠れ家

チョウチョウウオたちが隠れられるように、水槽にはサンゴ岩や飾りサンゴなどの隠れ家を作ってあげましょう。ライブロックでもよいのですが万が一病気が発生したら、ということを考えると薬を使用することができるサンゴ岩や飾りサンゴのほうが適しているかもしれません。いずれにせよ一度隠れ家を入れたら動かさないようにします。隠れ家の底のほうにはデトリタス(有機物粒子)がたまりやすいからです。その中には白点病を引き起こす生物が潜んでいるかもしれません。

水流ポンプ

水がよどんでいるのもよくありません。そのような場所にはデトリタスが堆積しやすく、白点病を引き起こす生物がいる可能性もあります。コラリアなどの水流ポンプを使用し、よどんでいる場所をなくしたいものです。

いずれにせよすでに有機物が多数あるような水槽に新たに水流ポンプを使用して底方に強い流れを起こすのはよくありません。あらかじめホースなどを使用してデトリタスをとりのぞき、その分新しい海水を足してからポンプを稼働させる必要があります。

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底砂

底砂は敷くことも敷かないこともあります。敷くメリットとしてはpHの安定、底面のガラス面に移った自分の影におびえない、などがあげられ、逆にデメリットとしては砂の中に白点病のもとになる生物が潜んでいる可能性がある、食べ残しを回収しにくい、などがあげられます。底砂を敷くのであれば薄く(1cmくらいまで)敷くようにして決して厚く敷かないようにします。

餌はとりあえずアサリを与えます。冷凍したアサリを開いて、ミンチにしたり、切れ目を付けたものを殻ごと水槽に沈めるだけで十分です。アサリを冷凍させるのは寄生虫などがいることがあるからです。その後はアサリと配合飼料を一緒に与えて慣らしていきます。ただし配合飼料に餌付いても幼魚はかなりやせやすいため、できればアサリも継続して与えたいところです。このような餌やりは水を汚しやすいですが、だからこそ豊富な水量の水槽としっかりしたろ過槽が必要な理由になります。

関東のチョウチョウウオの仲間まとめ

  • 関東の磯でもチョウチョウウオと出会うことができる
  • 外房5種と呼ばれるチョウチョウウオ、フウライチョウチョウウオ、トゲチョウチョウウオ、チョウハン、アケボノチョウチョウウオは毎年のように見られる
  • ほかハタタテダイやミゾレチョウチョウウオなどに出会えることも
  • 採集できても準備ができていない、もしくは初心者は逃がしたほうがよいかもしれない
  • 90~120cm以上の水槽で飼育する
  • 水を汚しやすいのでろ過槽はしっかり。オーバーフロー水槽が理想
  • 水温の安定は重要。とくにクーラーは大きなものを
  • 殺菌灯は病気予防に有効だが水温や水流も重要な要素
  • 隠れ家はサンゴ岩や飾りサンゴが理想。あまり動かさないように
  • 水がよどまないよう水中ポンプもつけてあげたい
  • 底砂は敷かないほうが管理はしやすい
  • 餌は冷凍したアサリを中心に
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