2020.03.16 (公開 2018.07.31) 水槽・器具
上部ろ過槽(上部フィルター)の使用方法~ろ過能力が高く初心者にもおすすめ
上部ろ過槽はメンテナンスがしやすく、ろ過能力が高く酸欠にもなりにくいため、海水魚飼育初心者にも使いやすいろ過槽です。
ただし、照明器具を置くスペースが限られるなどのデメリットも存在します。今回は上部ろ過を上手く使うためのポイントをご紹介します。
上部ろ過槽って何?
▲上部ろ過槽(ジェックス デュアルクリーン600SP)の設置例
上部ろ過槽は水槽の上に設置して使うろ過槽です。外部ろ過槽など観賞魚用品は多くがアメリカやドイツなどの欧米で開発されていますが、この上部ろ過槽は日本で開発され、普及しているろ過槽です。そのため海外では見る機会が少ないといえます。
ほかの国で使われないからイマイチなのかといえば、そんなことはありません。私はオーバーフロー水槽を除くと、この上部ろ過槽は性能という面では初心者が海水魚飼育をスタートする際にもっともおすすめできるろ過槽だと思っております。
しかし、上部ろ過槽にもメリット・デメリットはもちろんありますので、理解しておくことが大事です。
上部ろ過槽のメリット
ろ過能力が高い・酸欠になりにくい
▲酸素がバクテリアにいきわたりやすいのが大きなメリット
上部ろ過槽には多くのろ材を入れることができます。ろ材を多く入れられるということは、ろ材につく生物ろ過を行う好気性バクテリアのすみかがたくさんあるということで、ろ過が活発に行われるということになります。しかし、それだけでろ過能力を決めることはできません。好気性バクテリアが生物ろ過を行うには酸素も必要になってきます。
シャワーパイプなどを用いて注水する上部ろ過槽は、バクテリアが酸素に触れやすいため酸欠になりにくく、優れたろ過装置ということがいえるでしょう。写真はサンゴ砂を使用していますが、ろ過能力を高めるため、上にウールマットなどを敷いておくのもよいでしょう。
メンテナンスが楽
外部ろ過槽と異なりメンテナンスが楽というメリットもあります。外部ろ過槽ではろ材の様子を確認するのにいちいち水を止めてフタを開けて確認する必要があるのですが、この上部ろ過槽はフタを開けるのにいちいち水をとめる必要はありません。ろ材の取り外しも容易で、頻繁に取り出して洗浄する必要があるウールマットなどでろ過をするのにも適しています。
このほかのメリットとして、比較的安価な60cm水槽用の飼育セットにも上部ろ過槽が付属しているものがあり、安価な値段で購入できるということもあげられます。ただし淡水・海水共用であることを確認してから購入するようにします。また海水魚専用として、ろ材がたくさん入る上部ろ過槽も市販されていますが、このような商品は高価です。今回使用しているジェックスの「デュアルクリーン600SP」は比較的安価ながら二つのろ過槽を持つ、海水魚飼育でも使用しやすい上部ろ過槽です。
上部ろ過槽のデメリット
照明器具を置くスペースが限られる
上部ろ過槽の最大のデメリットといえます。
上部ろ過槽は水槽の上に設置することになるため、照明器具を置くスペースが限られてしまいます。
ですが、上部ろ過槽でサンゴを飼育することはできないか、といえば、そんなことはありません。上部ろ過槽でも、照明やサンゴの配置場所に工夫をすれば、ほとんどのLPSやソフトコーラルの飼育は十分可能です。
音がうるさい
上部ろ過槽はポンプを使用し、ろ過槽の内部でシャワーパイプを使って散水をおこないます。酸素が供給されるので好気性バクテリアの活動をうながし高い生物ろ過能力を発揮してくれるのですが、どうしてもバシャバシャという音はしてしまいます。人によってはうるさく感じられますので、寝室などには置かないほうがよいかもしれません。
しかし、外部ろ過槽はこのような散水がない分静かではありますが、酸欠になりやすいというデメリットもあります。また音がしなくなったらポンプが故障しているおそれがある、とすぐにわかります。そのため、この「音がうるさい」というのは一概にデメリットとはいえません。
水槽によっては使えない
▲テトラ製の水槽。幅52cmという微妙なサイズ(中に入っているのは淡水魚)
上部ろ過槽を使用するときは原則、水槽のサイズにあった上部ろ過槽を使用しなければなりません。たとえば、90cm水槽用の上部ろ過槽は60cm水槽には使用できません。もちろん、逆も不可です。外部ろ過槽はよほどのことがない限り、ろ過能力は別として、ほとんどどんな水槽でも使用可能ですが、上部ろ過槽は水槽の上に乗せるもののため水槽サイズによって使用できるかどうかが決まってしまいます。
数ある上部ろ過槽のなかにはジェックスの「デュアルクリーン フリー」のように45cm水槽にも、60cm水槽にも使用できるものもありますが、これはろ過槽の下の部分が変形し45cm水槽にも60cm水槽にも対応できる、というものですのでろ過槽の容量が変わるわけではありません。淡水魚ならある程度対応可能ですが、海水魚水槽で45cm水槽から60cm水槽へステップアップするならば最初から60cm用のものを購入した方がよいと思います。ただしテトラ(スペクトラムブランズジャパン)から出ている幅52cmなんていう微妙なサイズの水槽にも使用できるというのはメリットといえます。
60cm水槽+上部ろ過槽で魚を飼育しており、90cm水槽にステップアップしよう!とおもったら、上部ろ過槽も新たに90cm水槽用のものを購入する必要があるわけです。
また、水槽のサイズや形状によっては上部ろ過槽を使えないものもあります。小型水槽用の上部ろ過槽はほとんどなく、フレーム(枠)がない水槽では使用できません。ずれたり落っこちてしまうおそれもあるからです。このような水槽では、外掛けろ過槽や外部ろ過槽を使用する必要があります。
付属するポンプが海水魚に使えないものも
▲ジェックス「デュアルクリーン600SP」に付属するポンプは海水・淡水両用
▲ヘルツフリーでないものも多いので注意が必要。写真はネワジェット
上部ろ過槽にはほとんどの場合、ポンプが付属してきますがポンプの種類によっては淡水魚水槽にしか使用できないものもあります。特に水中ポンプではなく、水上に設置し水を汲みあげるタイプのポンプは海水に使用できないものも多く見られます。その場合、アクアリウムシステムズ(ナプコリミテッド)の「マキシジェット」やネワ(同)「ウェーブ」、カミハタの「リオプラス」など、適当なサイズの水中ポンプを購入して取りつける必要があります。
このほかの注意点としてはヘルツフリーでないポンプも多いことがあげられます。特に新潟県や長野県、静岡県など50Hz地区と60Hz地区の混在する地域は注意しなければなりません。これはマキシジェットなどの水中ポンプでも同様のことがいえます。
上部ろ過槽を上手く使うためのポイント
ほかのろ過槽と併用する
▲上部ろ過槽と外部ろ過槽の併用例
おすすめの方法です。
上部ろ過槽と組み合わせるのであれば外部ろ過槽がおすすめです。外部ろ過槽は酸欠に陥りやすいのですが上部ろ過槽と上手く組み合わせることにより欠点を解消することができます。外部ろ過槽は生物ろ過槽を担わせ、上部ろ過槽では生物ろ過と併用してウールマットなどを用いた物理ろ過を担わせるのがおすすめです。このほか、写真のように外部ろ過槽にクーラーや殺菌灯を接続したりする方法もあります。そのような利用方法をする時は外部ろ過槽はワンランク上のサイズのものを使用するとよいでしょう。
ヤッコやクマノミなど、砂を掘ったりしない魚だけを飼育し、サンゴも飼育しないのであれば底面ろ過装置との組み合わせもよいでしょう。底面ろ過装置は底砂一面をろ過槽とするものでろ過能力が高いのですが、底砂内にたまった有害な物質を抜く「毒抜き」を定期的に行わなければいけないのでメンテナンスが面倒くさいといえます。それゆえ最近は底面ろ過装置は敬遠されがちです。
二つのろ過槽を併用するメリットは、単純にろ過能力の向上を図るだけではありません。どちらか片方のろ過槽が壊れてしまっても、どちらかが動いていれば全滅を免れることができます。
海水魚飼育で使いやすいのは上部ろ過槽だったりする。でもそれは60cm水槽の話。それより小さい水槽だと無かったりするから外部ろ過槽と外掛けろ過槽の併用をすすめるしかない。
— 椎名まさと (@aquarium_lab) October 17, 2018
プロテインスキマーを使用する
プロテインスキマーを併用して使用することもおすすめです。外掛けろ過槽であればろ過能力の補助、外部ろ過槽であれば酸欠になるのを防ぐために補助的に用いられるものですが、上部ろ過槽で使用するのもよいでしょう。生物ろ過の過程でどうしても硝酸塩が蓄積されてしまいますので、生物ろ過がはじまる前に魚の排せつ物や残り餌などをスキマーで水槽から取り除いてしまうのです。
上部ろ過槽と一緒に使うのであればゼンスイ「QQ1」やカミハタ「海道達磨」、各種エアリフト式スキマーなどの外掛け式のものになりますが、水槽の上部がごちゃごちゃしてしまうというデメリットもあります。
スポットライトを多用する
先ほど、上部ろ過槽を使用すると照明を置くスペースが限られてしまう、と述べたばかりですが、上部ろ過槽ではサンゴが飼えない、ということはありません。
最近人気の「グラッシーレディオ」など、スポットライト的なろ過槽をうまく使用すればディスクコーラルやスターポリプなどの丈夫なソフトコーラルだけでなく、ハードコーラルの飼育も十分に可能です。
上の写真は2012年当時の我が家の水槽。サンゴの種類はハナガタサンゴ、オオタバサンゴ、タバネサンゴ、ウミバラ、キクメイシ、ディスクコーラル、ウミアザミなどですが、実際にこのようにスポットライトを多用するだけでも長期飼育できます。
写真の右の方にコモンサンゴも写っていますが、このサンゴは上部ろ過槽を用いての飼育はあまりおすすめしません。これは光の問題ではなく、コモンサンゴやミドリイシ、ショウガサンゴ、ハナヤサイサンゴといった、俗に「SPS」とよばれるサンゴは硝酸塩の蓄積に弱いため、生物ろ過の過程でどうしても硝酸塩を出してしまうシステムでは飼育が難しいのです。
この水槽では栄養塩が吸着されることを狙い海藻も飼育しています。そのおかげもあってこの水槽でもコモンサンゴが若干成長しましたが、別のサンゴを購入したときについていたウミウシに食べられてしまいました。
上部ろ過槽に適したろ材
▲サンゴ砂をろ材として使用している例
先ほども述べましたが、ろ材の状態を確認するのにはふたを開けるだけですむためメンテナンスも楽々です。そのためウールマットなどを用いた物理ろ過を行うのにも適しています。ウールマットなどにはゴミや生物の排せつ物、残餌などが付着しやすいので頻繁に洗う必要があるからです。外部ろ過槽だと、いちいちウールマットを取り出すのに水を停止させて外部ろ過槽のフタを開けなければいけないので、面倒くさくなってしまうのです。
生物ろ過用のおすすめろ材は外部ろ過槽と変わりません。大粒のサンゴ砂や、セラミック製のろ材を組み合わせるとよいでしょう。
海水魚飼育に適したろ材はこちらの記事もご参照ください。
上部ろ過槽のメンテナンス
ポンプのメンテナンス
ポンプの部分はインペラーのメンテナンスを行います。インペラーにごみがたまると故障の原因になることがあるからです。また、インペラーにも寿命があります。1~2年をめどに交換するようにしましょう。製品によってはポンプごとの交換が必要な場合もあります。万が一の場合に備えて、予備のポンプを持っておくのもよいでしょう。
ストレーナースポンジのメンテナンス
▲ストレーナースポンジ
外掛けろ過槽や外部ろ過槽に付属するものと同様で、ポンプに大きなゴミなどが入ってしまい、ポンプが故障する可能性を減らすためのスポンジです。水中に漂っているデトリタスや残餌も引掛けるので、一種の物理ろ過ともいえます。ウールマットと同様に汚れがひどくなる前に洗いましょう。なお、このスポンジを洗浄するときは真水(水道水)でも問題ありません。
ほかのろ過槽との比較
ろ過槽の名称 | 値段 | ろ過能力 | メリット | デメリット |
上部ろ過槽 |
海水魚用のものは高価 | 高い | ・ろ材を多く入れられ酸欠にもなりにくい ・メンテナンスが楽 |
・照明を置きにくい ・小型水槽用のものがない |
安価 | 低い | 手軽で安価、酸素もろ材にいきわたりやすい | ・小型でろ材をたくさん入れられない ・モーター部から水がもれるおそれも |
|
高価 | 外掛けろ過槽より高い | ・ほかのろ過槽との併用が容易 ・クーラーや殺菌灯などをつなげられる |
・密閉式のため酸欠になりやすい ・メンテナンスが若干面倒くさい |
|
底面ろ過装置 |
安価 | 高い。ただし定期的な「毒抜き」が重要 | ・吸い込み口がない ・見た目がすっきりする |
・サンゴや砂を掘る魚は入れられない ・メンテナンスが面倒 |
非常に高価 | ほかのろ過槽と比べて圧倒的なろ過能力 | ・ろ材を大量に入れられる ・見た目がスッキリする |
・音がうるさく対策が必要な場合がある ・一度設置したら動かすのは難しい |
上部ろ過槽(上部フィルター)まとめ
- 水槽の上に乗せるタイプのろ過装置
- 使いやすくろ過能力も高いため初心者におすすめ
- ろ材をたくさん入れることができる
- 酸素がいきわたりやすく酸欠になりにくい
- フタを開けるのに水を止める必要がなくメンテナンスもしやすい
- 照明を置くスペースが制限される
- フレームのない水槽では上部ろ過槽を使用できない
- 大きな水槽に買い替える際にはろ過槽も買い替える必要がある
- 付属するポンプが海水魚に使えないものもある。Hzも要チェック
- 外部ろ過槽との併用がおすすめ
- 複数のろ過槽を使えば万一の故障でも全滅を避けられる
- プロテインスキマーを使用してもよいが水槽の上部がごちゃごちゃしやすい
- 上部ろ過槽を使用してもLPSやソフトコーラルは飼育可能
- ミドリイシなどのSPSは飼育しにくい
- 生物ろ材は大粒のサンゴ砂またはセラミックろ材
- ウールマットなどの物理ろ過の併用がおすすめ
- ポンプ内インペラーのメンテナンスも行う
- ストレーナースポンジもゴミが付着しやすいのでよく洗う