2020.06.17 (公開 2020.05.12) 海水魚図鑑
共生ハゼの混泳、飼育の組み合わせを考える
テッポウエビと共生するハゼ、通称「共生ハゼ」は海水魚の中でも人気の魚です。色彩がきれいというのもありますが、クマノミとイソギンチャクの共生と異なり、海の中で共生する様子を水槽内でも簡単に再現することができるというのも人気の理由の一つ、といえます。しかし共生ハゼを一つの水槽で2種類以上飼育している場合、種類によってははげしい争いが発生することがあります。またほかの魚と共生ハゼを飼育していると、ほかの魚が共生ハゼを食べてしまったなんていうこともあります。今回は共生ハゼを複数飼育する、もしくはほかの魚と飼育する上での注意点をご紹介します。
共生ハゼとは
ハゼの仲間は2000種近くの種が知られています。ハゼの中には、ほかの生物と共生するものがいますが、その中でもテッポウエビと共生するタイプのものが有名で「共生ハゼ」といえば一般的にはテッポウエビと共生するものをいいます。共生ハゼの詳細についてはこちらの記事もご覧ください。
共生ハゼのパワーバランス
一つの水槽で複数の共生ハゼを飼育させるのであれば、共生ハゼのパワーバランスを理解しておく必要があります。ここでは共生ハゼ各属のパワーバランスをご紹介します。ただし消滅したホタテツノハゼ属、飼育経験のないオドリハゼ属、カスリハゼ属、ハラマキハゼ属、Nes属の魚は除きます。
イトヒキハゼ属
イトヒキハゼ属は共生ハゼのメジャー種としてギンガハゼを含みますが、そのほかの種(オイランハゼやムラサメハゼなど)はどうしてもマイナーな種です。この属は共生ハゼとしては性格がきつめで、大きくなるためほかの共生ハゼとは組み合わせにくいところがあります。どうしてもほかの共生ハゼと混泳させるのであれば広い水槽で飼育するようにしますが、それでも大きく育つギンガハゼと小さなヤシャハゼやヒレナガネジリンボウとの混泳は不向きです。
ハゴロモハゼ属
小さくて大人しいハゴロモハゼはあまり混泳には向いていません。観賞魚として流通されるのはほとんどがハゴロモハゼで、クロオビハゼやミホノハゴロモハゼは流通しているのはなかなか見られません。
ダテハゼ属
▲ハチマキダテハゼやクビアカハゼなどが混泳向き
ダテハゼの仲間は共生ハゼの仲間でも種類が多いグループで、ギンガハゼと比べると性格はきつくなく、共生ハゼ同士の混泳ができるものが多いです。ただしダテハゼの仲間も大きいのは性格がきつくなることがあります。ニチリンダテハゼは結構性格がきついものが多く、共生ハゼ同士の混泳は避けた方が無難です。ヤノダテハゼやクビアカハゼはやや大人しめでほかの共生ハゼとの混泳もできますが、とくにヤノダテハゼは臆病な性格で、水槽から飛び跳ねることもあるため注意が必要です。
ネジリンボウ属
▲ヒレナガネジリンボウ
ネジリンボウ属の中で観賞魚として飼育されるのはヒレナガネジリンボウ、ヤシャハゼ、ドラキュラゴビーの3種です。これらの種は同種雄同士では争いますので、ペア飼育が理想です。ほかの共生ハゼとの飼育も可能ですが、サイズがあまりにも大きすぎるハゼとの混泳はできません。また大きめで性格きつめの魚との混泳にも向いていません。カクレクマノミとの混泳は可能ですが、90cmくらいの広めの水槽で、多くの隠れ家が必要になります。それでも隠れがちになります。
オニハゼ属
混泳に向いているのはヒメオニハゼやレイドシュリンプゴビーなどで、かなり大きくなり肉食もつよいオニハゼは共生ハゼ同士の混泳には不向きです。逆にホタテツノハゼは混泳させると魅力的な第1背鰭が切れてしまうこともあるので、ほかの共生ハゼや強い魚との混泳は禁物です。
シノビハゼ属
シノビハゼの仲間はマイナーな共生ハゼです。観賞魚店でみられるのはハタタテシノビハゼなどですが臆病で混泳させにくいといえます。混泳させるならおとなしめの小型共生ハゼということになるでしょう。無理な混泳は寿命を縮めやすく、また病気にもかかりやすくなります。
ヤツシハゼ属
ヤツシハゼ属のハゼも温和でなものが多く、混泳には注意が必要です。一般に飼育される種は西太平洋にすむイエローラインシュリンプゴビーと呼ばれる種で、白っぽい体に黄色い縦線が入る美種です。
共生ハゼと混泳できる魚
ほかのハゼの仲間
▲テッポウエビの掘った巣穴に暮らすスミゾメハナハぜ
ハナハゼの仲間は危険が迫るとダテハゼとテッポウエビの共生する巣に居候することがあります。この様子は水槽内でも観察することができます。遊泳性ハゼは共生ハゼとの混泳は問題ないことが多いのですが、あまりにも共生ハゼが大きく、遊泳性ハゼが小さいと、共生ハゼに捕食されてしまいます。実際にダテハゼの仲間がハナハゼの幼魚を捕食することもあるようです。
ほかのハゼとしてはミズタマハゼ、サラサハゼ、ジュウモンジサラサハゼ、キンセンハゼといったベントス食性のハゼ、イレズミハゼやベンケイハゼ、サンカクハゼなども問題なしです。ただしクモハゼなどは共生ハゼの小さいのを襲って食べてしまうこともありますし、またベニハゼなどのピグミーゴビーはサイズによっては共生ハゼがこれらのハゼを食べてしまうこともあるので注意が必要です。
カエルウオの仲間
▲ヒメオニハゼ(左)とヤエヤマギンポ(右)
カエルウオの仲間も共生ハゼに悪影響を与えにくいのでおすすめです。ただオニハゼなどの大型種の口に入ってしまうような極小サイズのカエルウオはさすがに餌になってしまいます。同じくらいの大きさのカエルウオであれば問題が発生しにくいです。カエルウオの仲間は魚食性ではないので、写真のような体格差があっても問題は発生しにくいです。
テンジクダイの仲間
▲イトヒキテンジクダイは多くの共生ハゼにとってよいタンクメイトに
テンジクダイの仲間との混泳もできますが、共生ハゼとの混泳におすすめできるものとそうでないものがいるので注意が必要です。おすすめなのはマンジュウイシモチやイトヒキテンジクダイで、これらの種類は温和で飼育もしやすいからです。スジイシモチ属の種類としてはネオンテンジクダイやナガレボシなどが小型共生ハゼとの混泳に最適です。
一方シボリやヤライイシモチなど大きくなり、肉食性の強い魚は共生ハゼとの飼育は困難です。逆にネオンテンジクダイなどは小さく弱いので大型の共生ハゼに襲われたり捕食される可能性もあるので注意が必要です。
共生ハゼと混泳しにくい魚・できない魚
スズメダイの仲間
▲デバスズメダイなどとなら組み合わせられるが
▲カクレクマノミに尾鰭などをぼろぼろにされたハチマキダテハゼ
スズメダイの仲間は気性が激しいものも多くおり、共生ハゼとの混泳にはあまり適していません。ただしデバスズメダイなどは比較的おとなしい性格をしているので、一緒に飼育することができます。ただし、共生ハゼが落ち着いてから追加することをおすすめします。同じスズメダイ科のクマノミも避けたほうが賢明ですが、カクレクマノミなどとは隠れ家を多く入れたりすることにより混泳ができることもあります。ただし共生ハゼの隠れ家がないとカクレクマノミは共生ハゼの鰭や体をぼろぼろにしてしまいますので危険です。
チョウチョウウオ・ヤッコ
チョウチョウウオやヤッコは白点病になりやすく、砂を掘る(砂の中にひそむ白点病の原因となる生物を巻き上げてしまう)テッポウエビの仲間と共生するハゼとの飼育にはあまり向いていないといえます。ヤッコの仲間も同様の理由のほか、気が強いとハゼやエビにとって「見えない圧力」がかかり、ひきこもってしまうこともあるからです。またチョウチョウウオやヤッコを飼育するときは病気予防とメンテナンスの観点から砂を敷かないベアタンクで飼育しているアクアリストも多いのですが、このような水槽だとテッポウエビが砂を掘ることができなくなってしまいます。
ベラ
▲共生ハゼとの飼育ならイトヒキベラ類の小型種がよい
ベラの仲間はテッポウエビを襲撃するおそれがあります。キュウセンの仲間などは特にそのおそれが強いので一緒に飼育するのは避けたほうが賢明でしょう。ベラの中でもイトヒキベラやクジャクベラなどはそういうことをしにくいのでおすすめですが、あまり体格に差がある組み合わせは避けたほうがよいです。ハチマキダテハゼやクビアカハゼであればイトヒキベラの仲間では小型なラボックスラスなどがおすすめです。またできるだけ大きな水槽で飼育することも大事といえます。
フグ
フグの仲間も動物食性が強いので一緒に飼育してはいけません。さまざまなものを食べ雑食性が強いのですがエビも強い歯で食べてしまいます。またハコフグの仲間は皮膚から毒を出すのでこちらもいけません(サザナミフグなども皮膚から毒を出すとされる)。
肉食魚
▲トラギスの仲間も危険
ハゼの仲間は細身の体で肉食性の魚には捕食されやすいといえます。カサゴやオコゼ、カエルアンコウ、ウツボ、ハタ、サメ、エイなど明らかな魚食性魚のほか、ある程度に育つバスレットの仲間やトラギスの仲間、ゴンべの仲間などにも捕食されることもあるため注意しなければなりません。メギス(ドティバック)は動物食性であるだけでなく気性も激しく似た形の魚に攻撃を仕掛けることもあるので混泳は避けたほうがよいでしょう。このほかハゼだけでなくエビの仲間を好物とする魚も多く、そのような魚も注意が必要です。
組み合わせの例
共生ハゼ同士の組み合わせ例
個人的には、小型のダテハゼ(ヤノダテハゼやニチリンダテハゼなどは除く)は、比較的ほかの魚と組み合わせやすいように思います。クビアカハゼはそれほど大きいものではないのですが丈夫で飼育しやすく、協調性があり、ほかの共生ハゼとの飼育もしやすいといえます。写真は40cmの水槽でのヒメオニハゼとの組み合わせ例です。ヒメオニハゼとほかの共生ハゼを入れるのであればこのようなダテハゼ類か、ヒレナガネジリンボウが最適でしょう。テッポウエビについてはヒメオニハゼやヒレナガネジリンボウなどはコトブキテッポウエビ(ランドールズピストルシュリンプ)を好みますが、クビアカハゼは多くの種のテッポウエビと組み合わせることができるようで、コトブキテッポウエビとの共生例もあります。ただし一般的にはニシキテッポウエビやコシジロテッポウエビのほうを好むようです。写真では1匹のテッポウエビと2種の共生ハゼが共生している形になりますが、できれば1種の共生ハゼにつき1匹のテッポウエビという関係がのぞましいかもしれません。
共生ハゼとほかの魚の組み合わせ例
▲90cm水槽でカクレクマノミなどと飼育されているハチマキダテハゼ(左端)
写真は90cm水槽でハチマキダテハゼを飼育している例です(右側の部分はカットしています)。ほかにカクレクマノミやアケボノハゼ、写真には写っていないもののシールズカーディナルフィッシュやヤクシマダテイシモチ、ヤミテンジクダイ、ヒフキアイゴなども飼育しています。テンジクダイの仲間は口が大きく、口の中に入る魚は食べてしまうこともあるので小型種は当然入れられません。そのためある程度の大きさの共生ハゼとテッポウエビしか入れられません。ハチマキダテハゼは丈夫で飼育しやすく協調性がありますのでこのような混泳水槽での飼育もできるのです。テッポウエビは大きめのニシキテッポウエビが最適です。
なお同じようにクマノミなどの魚と混泳できる共生ハゼにはクビアカハゼもいます。クビアカハゼは小さい共生ハゼから大きめの魚まで混泳をよくこなします。ギンガハゼやニチリンダテハゼも混泳できますが、これらのハゼは性格がきつくなるので他の共生ハゼとの飼育はさせないほうが賢明です。
テッポウエビを飼育しなくても共生ハゼは飼育することができますが、ほかの魚に追いかけまわされても隠れられるような場所が必要です。隠れ家としてはライブロックのほか、小型の塩ビパイプや土管などを組み合わせるのもありです。ただし人工物は目立ってしまいやすい、一部は有害な成分が溶出するなどのデメリットもあります。ミニテムの「ハゼ土管」などは水槽に有毒な物質が溶け込むこともなく、地味な色彩で水槽にもなじみやすいのが特徴です。
まとめ
- 共生ハゼにも相性がある。小型水槽では組み合わせが難しいパターンも
- ギンガハゼなどイトヒキハゼ属は気が強め
- ハゴロモハゼはイトヒキハゼ属と比べおとなしい
- ダテハゼ属やオニハゼ属は種類ごとにサイズや性格が異なり注意
- ヒレナガネジリンボウやヤツシハゼの仲間は小型種なので組み合わせに要注意
- 小型ハゼやカエルウオ、大人しめのテンジクダイとの組み合わせがよい
- スズメダイの仲間の大きいのやヤッコ、チョウチョウウオ、フグ、肉食魚はだめ
- 1種につき1匹のエビと共生させたほうがよさそう
- ライブロックやサンゴ岩などをうまく組み合わせればカクレクマノミなどとの混泳もできる