2020.07.01 (公開 2017.11.20) 海水魚図鑑
カニ(海水)の飼育方法と種類~サンゴへの影響や注意点は?
海水魚飼育において、エビやヤドカリは人気がありますが、同じ十脚目の甲殻類であるカニは種類によっては魚などを捕食したり、せっかく組んだレイアウトを崩してしまうこともあるため人気がないようです。しかしながら、面白い生態をもつカニも沢山おります。ここではアクアリスト向けのカニの仲間と具体的な飼育方法、また「注意すべきカニ」も合わせて紹介します。
カニとは
▲世界最大の甲幅をもつカニ、タスマニアンジャイアントクラブ
カニは食用になるものも多く、私たち人間にとってなじみの深い生物です。十脚目・抱卵亜目に含まれる仲間で、この亜目には「カニ」とよばれる生物のすべてと、ヤドカリの仲間、エビの仲間のほとんどの種類が含まれています。ただし、エビの仲間といってもロブスターやイセエビ、モエビの仲間、テナガエビの仲間などはカニと同じ抱卵亜目に含まれますが、クルマエビの仲間やサクラエビの仲間はこの亜目には含まれません。
カニは抱卵亜目のうちの短尾下目というグループの生物の総称です。他の下目にはアクアリストに人気のスカンクシュリンプやホワイトソックスなどが含まれるコエビ下目やザリガニなどを含むザリガニ下目、ヤドカリという名前でお馴染みの異尾下目などがあります。
イソギンチャクと共生するアカホシカニダマシなどのカニダマシの仲間は、名前に「騙し」とついているように、カニではなく異尾下目、つまりヤドカリの仲間になります。また深海性・冷水性のタラバガニやイバラガニ、イガグリガニといった種類もカニではなくヤドカリの仲間です。カニとヤドカリの仲間はハサミ(鋏脚)を含めた脚の数で見分けることができます。カニの仲間は10本、タラバガニなどを含むヤドカリの仲間は8本です。
ライブロックやサンゴから出てきたカニは…?
▲カニにサンゴをひっくり返されないようしっかり接着を
ライブロックからはカニが出てくることもあります。それもかなり高い確率で出てきます。
カニは石灰藻を削ってしまいライブロックをただの岩のようにしたり、あるいは大きなツメでレイアウトを崩してサンゴを落下させてしまうことがありますので、あらかじめ接着剤を使用してライブロックやサンゴを固定させることをおすすめします。サンゴは落下して砂を被ったり、他のサンゴと接触するとダメージを受けてしまうおそれがあります。
サンゴ、とくにミドリイシやハナヤサイサンゴについているサンゴガニの仲間はこれらのサンゴと共生することが知られています。サンゴガニはサンゴの中にすむことで外敵から身を守ってもらい、サンゴを捕食するオニヒトデを鋭いハサミで追い払うのです。逆にキモガニという種類はミドリイシの組織を食べるので、水槽から出した方がよいといえます。
カニは問題児となるおそれもありますが、上手く飼育すれば楽しい生物です。ただし一番最後の脚がオール状になっているイシガニやガザミなどのカニは他の魚を襲うこともありますので注意が必要です。
飼育におすすめの海産カニの仲間~お役立ち系のカニ
カニの仲間はアクアリストには「厄介者」扱いされることも多いのですが、お役立ち系のものも存在しています。他の魚の寄生虫を食べたりカーリー食のものもいるエビとは異なり、ライブロックなどにつくコケや海藻を取り除いてくれるものが多いです。
トゲアシガニ
千葉県以南の太平洋岸に見られるカニの一種です。このカニは脚に大きな棘があり、他の多くのカニと見分けることができます。ショウジンガニと呼ばれるカニは本種似ていますが本種は水中で見ると黄色や緑色とカラフルで、ハサミの様子もかなり違うように見えます。
ライブロックのコケを食べてくれますが、大きい個体は魚を傷つけてしまうこともありますので、注意が必要です。購入することも可能ですが、浅い海にも見られますので自分で採集することも可能です。
エメラルドグリーンクラブ
カリブ海産のカニの仲間です。その名の通り緑色が特徴のカニで、藻類を食してくれ、残り餌や死んだ魚なども食べるお掃除屋さんです。ただし極めて小さな魚などとの混泳は注意したほうがよいでしょう。
アローヘッドクラブ
これもカリブ海産のクモガニ科のカニの仲間で、何種類か知られていますが、その中でよく知られているのは和名で「ノコギリイッカクガニ」とよばれる種類です。このカニはウミケムシを食べるのでウミケムシ対策として入れられることもありますが、そのほかの小型生物も食べてしまうことがあるので、注意が必要です。
クモガニ科のカニは種類が多く、カイメンなどを体表につけたりするなど、変わった習性のものも多いのですが、ソフトコーラルもちぎるおそれがあるので注意が必要です。このクモガニ科には、脚を広げた大きさが世界最大のカニ、タカアシガニも含まれています。
変わった生態のカニ
カニの仲間には変わった生態のものも多く知られています。しかしその生態によってサンゴや同居している貝などに害を与える種類もいるので注意が必要です。
キンチャクガニ
▲日本の沿岸に分布するキンチャクガニ
ハサミにイソギンチャクをつけているオウギガニの仲間です。アクアリストの間では「ポンポンクラブ」という名前で呼ばれていることもあります。観賞魚店でもしばしば販売されており、入手しやすいといえます。写真は磯の水深1.5mほどの場所で採集したものです。
このカニがハサミにイソギンチャクをつけている理由は、チアリーダーのようにほかのカニを応援するというのではありません。有毒のイソギンチャクを振り回して捕食者から身を守ったり、餌をとるのに使うのです。
カイカムリの仲間
▲カイメンを背負うカイカムリの仲間
貝殻を背中に背負うことから「カイカムリ」と名前がついていますが、種類によってはカイメンや死サンゴの骨格、生きたソフトコーラルなどを背負っていることも多いです。飼育は難しくはないのですが水槽内で飼育しているとウミアザミやウミキノコ、あるいはトサカといったソフトコーラルをちぎって背負うこともあり、そのようなサンゴとの飼育には向きません。またクモガニの仲間などはソフトコーラルを引きちぎって自分の体につけたりしますので、これもサンゴとの飼育には向いていません。
観賞魚店ではあまり見られず、甲殻類に力を入れているところでないと入荷もしません。一部の種は磯などで採集することができます。写真の個体もまさに採集した個体です。
カラッパの仲間
▲トラフカラッパ
カラッパの仲間はとてもカニの仲間とは思えない見た目が特徴の仲間です。トラフカラッパ、メガネカラッパなどの大型種や、小型種のソデカラッパなどが観賞用として販売されています。ソデカラッパは磯の浅場に生息し、採集することも可能です。
カクレクマノミなど一般的な熱帯性海水魚と飼育することはしにくいのですが、単独で飼育するとユニークな習性を観察することができます。ハサミを使って器用に貝を食べてしまうのです。
スベスベマンジュウガニ
オウギガニ科のカニでユニークな名前、大きくなると本当におまんじゅうのような形になるのが特徴の種類です。
スベスベマンジュウガニはごく浅いタイドプールから水深数10mの場所までみることができ、イセエビ漁の網にかかることもあります。食用に適していそうなサイズですが、体全身に強い毒を有しているため食用にすることはできません。しかし、観賞用として飼育されることはあります。サンゴなども食べるため、サンゴとは飼育しにくいです。またライブロックの岩組を崩してしまうこともあります。
ケブカガニ
▲沖縄で採集したケブカガニ
ケブカガニは、その名前の通り前身が毛におおわれているカニの仲間です。この「毛」は藻類に擬態するためにあるものと思われます。
南日本の太平洋岸や琉球列島に分布し、潮溜まりにもいるので自分で採集することも可能です。水槽で飼育していると、昼はライブロックの中に隠れていますが夜間に這い出てきます。レイアウトを崩してしまうこともあるので、注意が必要です。
カニの脱皮
▲ケブカガニの脱皮殻
カニもエビと同様に甲殻類で、脱皮を繰り返しながら成長します。脱皮した殻はカニが食べたり他の生き物に分解されますのでわざわざ取り除く必要はありません。
ヨウ素などの元素が不足すると脱皮不全を起こす可能性があり、それを防ぐためにヨウ素だけでなく微量元素、カルシウムなどを供給してあげるようにします。もちろん定期的な水替えも重要です。
ヨウ素添加剤
微量元素添加剤
カニの飼育まとめ
- 多くのエビと同じ抱卵亜目の生物
- アカホシカニダマシやタラバガニなどはカニではなくヤドカリの仲間
- ライブロックから出てくることもある
- 岩組を崩したりサンゴを落とすこともあるので接着剤で接着したい
- エメラルドグリーンクラブやトゲアシガニはコケを食べてくれる
- アローヘッドクラブはウミケムシを食べてくれる
- キンチャクガニはイソギンチャクをはさみに付けて身を守る
- カイカムリはソフトコーラルをちぎることも
- カラッパの仲間は貝類などを捕食する
- スベスベマンジュウガニは猛毒をもつ
- ケブカガニは体中に毛が生えている。レイアウトを崩されないよう注意
- 脱皮不全対策のため添加剤を添加。もちろん水替えも重要