イットウダイの仲間を飼育する基礎知識

イットウダイの仲間(イットウダイ科)はキンメダイ目の海水魚です。メジャーな種類ではありませんが、テリエビスやイットウダイなどは赤い体に白い線が入り美しいので、古くから飼育されてきた魚です。意外と種類は多く、90種近くの種類が知られており、観賞魚としても20種近くが販売されています。今回はこのイットウダイ科魚種について基本的な情報をご紹介します。

イットウダイ科とは

▲イットウダイ科の含まれるキンメダイ目の魚たち

イットウダイ科はキンメダイ目イットウダイ科の魚類です。キンメダイ目魚類は深海性のものが多いのですが、このイットウダイ科は浅いサンゴ礁でもごく普通に見られます。浅いサンゴ礁域から深海にすみ、三大洋の熱帯域に広く分布していますが、ほかの熱帯性海水魚の多くの種同様、インド-中央太平洋域に多くの種が生息しています。

食用としては熱帯のサンゴ礁域でよく利用され、釣りや刺網などで漁獲されます。また鮮やかな赤色に白い縦線が入るなど綺麗な色をしたものも多く、観賞魚として飼育されるものも多いです。

イットウダイ以外のキンメダイ目魚類

水族館で見られる深海魚の代表種、ハシキンメ

キンメダイ目魚類はイットウダイ科のほかに、キンメダイ科・ヒウチダイ科・マツカサウオ科・ヒカリキンメダイ科・オニキンメ科・ナカムラギンメ科が知られています。ヒウチダイ科やマツカサウオ科、ヒカリキンメダイ科といった魚は水族館でおなじみで、キンメダイ科やヒウチダイ科は食用魚としても重要なものを含んでいます。

アクアリストにとってキンメダイ目で有名なものは、マツカサウオでしょう。この種は発光魚として知られていますが、生きたエビを好んで食べるので、配合飼料も食うイットウダイの仲間と比べると飼育難易度は高いです。ハシキンメの仲間もまれに観賞魚として出回り、深海生物としては飼育しやすいですが水温を低く保たなければ飼育することはできません。

棘に注意

▲ニジエビス(イットウダイ属)の棘

イットウダイ科のうち、特にイットウダイ属の魚の前鰓蓋骨には巨大な棘(黒い丸で囲んだ部分)があります。この棘には毒があるとも言われており、刺されるとずきずきします。短時間で痛みが引くので毒性は弱いようですが、注意が必要です。

イットウダイ科の基本的な飼育環境

イットウダイ科の魚は夜行性で、昼間は岩陰に隠れており、夜間に外に出て泳ぎ回ります。そのため飼育水槽でも岩陰を作ってあげましょう。サンゴを食べたりすることはなく、サンゴ水槽での飼育もできますが、エビやカニ、コシオリエビなどとの飼育は難しくなります。

イットウダイ科の食性

▲メガバイトレッド。Mサイズのほうがおすすめ

知られている限り、みな動物食性です。夜間に住処の岩陰から出てきて小魚や甲殻類を主に食べます。飼育下では配合飼料を食べてくれることが多いのですが、食べてくれないときはキビナゴの切り身やエビの切り身などを与えるようにします。ただしこのような餌は水質を悪化させやすく、注意が必要です。なお、釣り餌で使われるオキアミなどは与えない方が賢明でしょう。

配合飼料を与えるときは粒が大きめのものが最適です。アカマツカサのような口が大きいのは「メガバイトレッド」のSサイズよりはMサイズ、もしくはLサイズが適しているかもしれません。ただし個体サイズにより最適な粒サイズは異なります。

イットウダイ科・カタログ

▲イットウダイ亜科とアカマツカサ亜科

イットウダイ科は8属が知られ、うちイットウダイ属・ウケグチイットウダイ属・ノボリエビス属の3属はイットウダイ亜科に、アカマツカサ属・エビスダイ属・ヤセエビス属・リュウキュウエビス属・ヤスリエビス属の5属はアカマツカサ亜科に含まれています。このふたつの亜科は前鰓蓋部の隅角部に1本の大きな棘の有無(イットウダイ亜科にあり、アカマツカサ亜科には1種をのぞきない)および臀鰭軟条数(イットウダイ亜科7~10、アカマツカサ亜科10以上)により見分けられます。

イットウダイ属

▲アヤメエビス

▲線が白くないホシエビス

イットウダイ属を含むイットウダイ亜科は前鰓蓋骨の隅角部に大きな棘(前述)があります。これには毒があり、刺されるとズキズキとした痛みが走るので気をつけなければなりません。

ウケグチイットウダイ属に似た種もいますが、背鰭棘最後の1本は短く、軟条部には接しないことにより見分けられます。体に白い縦線が入るものも多いですが、アオスジエビスの縦線はグレーでありあまり目立たず、トガリエビスやクラカケエビスなど白い縦線がないものもいます。

日本には15種ほどが知られていますが、基本的には沖縄などに多く、温帯域に分布するものは限られています。たまにニジエビスやアヤメエビスなど一部の種が輸入されています。近海便ではテリエビスかイットウダイが多いですが、ほかの種は少ないです。最大種は沖縄では食用となるトガリエビスで40cmを超えますが、普通はもっと小さいです。

種一覧(★は日本産種、▲は日本にもいるがまだ和名のない種)

★イットウダイ Sargocentron spinosissimum (Temminck and Schlegel, 1843)

★テリエビス Sargocentron ittodai (Jordan and Fowler, 1902)

★ニジエビス Sargocentron diadema (Lacepède, 1802)

★アヤメエビス Sargocentron rubrum (Forsskål, 1775)

★クロオビエビス Sargocentron praslin (Lacepède, 1802)

★スミツキカノコ Sargocentron melanospilos (Bleeker, 1858)

★ヒメエビス Sargocentron microstoma (Günther, 1859)

★バラエビス Sargocentron dorsomaculatum (Shimizu and Yamakawa, 1979)

★ハナエビス Sargocentron ensifer (Jordan and Evermann, 1903)

★トガリエビス Sargocentron spiniferum (Forsskål, 1775)

★クラカケエビス Sargocentron caudimaculatum (Rüppell, 1838)

★スミレエビス Sargocentron violaceum (Bleeker, 1853)

★サクラエビス Sargocentron tiereoides (Bleeker, 1853)

★コガシラエビス Sargocentron iota Randall, 1998

★アオスジエビス Sargocentron tiere (Cuvier, 1829)

★ホシエビス Sargocentron punctatissimum (Cuvier, 1829)

▲スリースポットスクアールフィッシュ Sargocentron cornutum (Bleeker, 1854) 高知県、西太平洋

シミズスクアールフィッシュ Sargocentron shimizui Randall, 1998 インドネシア

スパイニースクアールフィッシュ Sargocentron lepros (Allen and Cross, 1983) 東インドー太平洋

Sargocentron hormion Randall, 1998 クック諸島~仏領ポリネシア

ハワイアンスクアールフィッシュ Sargocentron xantherythrum (Jordan and Evermann, 1903) ハワイ周辺

Sargocentron megalops Randall, 1998 ピトケアン諸島

ウィルヘルムスクアールフィッシュ Sargocentron wilhelmi (de Buen, 1963) ラパヌイ

イエローチップスクアールフィッシュ Sargocentron seychellense (Smith and Smith, 1963) 西インド洋

ビッグスケールスクアールフィッシュ Sargocentron macrosquamis Golani, 1984 西インド洋

ラティススクアールフィッシュ Sargocentron inaequalis Randall and Heemstra, 1985 西インド洋

Sargocentron marisrubri Randall, Golani and Diamant, 1989 紅海

ティンセルスクアールフィッシュ Sargocentron suborbitale (Gill, 1863) 東太平洋

ダスキースクアールフィッシュ Sargocentron vexillarium (Poey, 1860) 西大西洋

イッテンエビス Sargocentron bullisi (Woods, 1955) 西大西洋

リーフスクアールフィッシュ Sargocentron coruscum (Poey, 1860) 西大西洋

サドルスクアールフィッシュ Sargocentron poco (Woods, 1965) 西大西洋

レッドスクアールフィッシュ Sargocentron hastatum (Cuvier, 1829) 東大西洋

ウケグチイットウダイ属

▲ウケグチイットウダイ

ウケグチイットウダイ属はイットウダイ属よりも細長い体をしています。インド-中央太平洋、西大西洋に見られ、太平洋の分布はハワイ諸島、マルケサス諸島まででそれより東にはいません。5種類が知られ、そのうち日本産は4種がいます。よく知られているのはウケグチイットウダイで、日本では琉球列島や小笠原諸島だけでなく、田辺湾以南に見られます。ホソエビスはウケグチイットウダイに似ますが国内では石垣島で確認されているもののまれな種です。ヒレグロイットウダイは八丈島、長崎、琉球列島に分布し、その名の通り背鰭の多くの範囲が黒いのが特徴です。

ホホベニイットウダイと大西洋のロングジョースコーレルフィッシュは赤みを帯びた色彩が特徴的で、どちらも水深30m以深とやや深い場所にすみますので、アクアリストが採集することはまず無理でしょう。まれに観賞魚店に入ってくることがありますが、かなり高価です。一方浅い海にすむウケグチイットウダイはたまに観賞魚店に入り、安価で購入できます。

ノボリエビス属

大西洋の広い範囲に生息するイットウダイの仲間です。大西洋にのみ分布しており、他の海域では見られません。この仲間では最大クラスで全長50cmを超えますが、ふつうはもっと小さいです。入荷量は少ないのですが、ノボリエビスはたまに観賞魚店に入ってくることがありますが、大西洋産なのでウケグチイットウダイよりは高価です。

ウケグチイットウダイの仲間は背鰭の最後の棘が軟条に接近し、その前方の棘より長いことが多いようですが、ノボリエビス属は背鰭最後の棘は最も短く、軟条部に接近しないのでウケグチイットウダイ属と見分けることができます。イットウダイ属とは背鰭軟条部が長く伸びることにより見分けられます。

種一覧(日本産種なし)

ノボリエビス Holocentrus adscensionis (Osbeck, 1765) (大西洋)

ロングスパインスクワールフィッシュ Holocentrus rufus (Walbaum, 1792) (西大西洋)

アカマツカサ属

▲アカマツカサ属のセグロマツカサ

インド-太平洋域に見られ、日本では15種が知られています。眼が非常に大きく、顔つきも丸いのが特徴です。

一般的な海水魚店ではアカマツカサ、マルマツカサ、セグロマツカサ、ツマグロマツカサなどが見られ、近海魚に強い店舗ではナミマツカサとツマリマツカサがよく見られますが、同定が難しいこともあります。大きめのヤッコやハナダイと混泳できますが、口に入るような小さな魚とは飼えません。小型個体は釣り採集することができます。

アカマツカサ亜科は背鰭棘数は通常12棘の属が多いのですが、アカマツカサ属だけは通常11棘です。その棘のうち第10棘と11棘の間は完全に分離され、第11棘は軟条に接近します。またアカマツカサ属の中には側線有孔鱗数が27~30と少ないグループと32~43と多いグループに分けられ、前者にはアカマツカサ、セグロマツカサ、ウロコマツカサなどが含まれ、後者にはクロオビマツカサ、キビレマツカサ、アメマツカサなどがいます。ツマリマツカサは側線有孔鱗数28~29なのですが、なぜか「日本産魚類検索」で側線有孔鱗数32~43のグループに入れられており間違えやすいので注意が必要です。

エビスダイ属

▲エビスダイ

インド-中央太平洋、西大西洋に分布し14種が知られ、日本には4種が知られています。代表的な種は属の和名になっているエビスダイです。エビスダイは状態よい個体が水族館で飼育されたり、深海生物につよい海水魚店でも販売されていることがあります。両鼻骨間の溝は深いV字状なので、ひし形状のヤセエビスなどと見分けることができます。

水深200m前後の深場に多く見られる種類ですが、水族館で飼育されていることも多い種です。また近海魚メインのお店でもまれに販売されていることがあります。深海生物としては飼育しやすい種のようですが、それでも水温は低めに抑えなければならないでしょう。

ヤセエビス属

▲ヤセエビス

1属1種で、ヤセエビスのみが含まれます。水族館で飼育されていることもありますが、やや深場にすみ、状態よい個体は少ないようです。国内では相模湾以南に分布し、近海魚を扱う店が販売している可能性もあります。マイナーではありますが食用にもなり、刺身などに向きかなり美味です。

形態的な特徴としては両側の鼻骨間の溝がひし形であること、側線有孔鱗数が28~30であること、生鮮時体側の鱗に白い斑点があり点列をなすことなどで見分けられます。

リュウキュウエビス属

和歌山県以南、東アフリカからハワイまでのインド-太平洋域に広く分布するリュウキュウエビスと、大西洋のカーディナルソルジャーフィッシュの2種が知られています。どちらも浅いサンゴ礁に生息しており、たまに入荷します(とくに最近カーディナルソルジャーはよく入るようになった)。美しい赤い体が美しく、非常に大きな眼が可愛い海水魚です。リュウキュウエビスはヤセエビスに似ていますが側線有孔鱗数が32~42と多く、不明瞭な白い点があるのが特徴です。

種一覧(★は日本産種)

★リュウキュウエビス Plectrypops lima (Valenciennes, 1831) (インドー太平洋、チリ領イースター島)

カーディナルソルジャーフィッシュ Plectrypops retrospinis (Guichenot, 1853) (大西洋)

ヤスリエビス属

ヤスリエビスのみの1属1種です。米国サウスカロライナからブラジル沿岸、セントヘレナ、カーポベルデの深場に生息する種で、日本にはいません。観賞魚として入荷したという話も聞きません。この属は前鰓蓋に強い棘をもっていますが、臀鰭軟条11という特徴はアカマツカサなどと共通し、アカマツカサ亜科に含められています。アカマツカサ亜科としては唯一の特徴です。背鰭棘数は12でエビスダイ属に近いです。

種一覧(日本産種なし)

ヤスリエビス Corniger spinosus Agassiz, 1831(大西洋)

イットウダイの仲間まとめ

  • キンメダイに近い仲間
  • 同じキンメダイ目にはキンメダイやヒウチダイ、マツカサウオなどが含まれる
  • イットウダイ属の前鰓蓋の棘は毒があるとされる。取扱い注意
  • 夜行性で昼間は岩陰に潜み、夜間に活動的になる
  • 動物食性。配合飼料にも慣れやすい
  • 個体のサイズにより粒の大きさを使い分けたい

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