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2020.07.08 (公開 2020.06.26) 海水魚図鑑

キンチャクガニの飼育方法~イソギンチャクをもつ不思議なカニ

キンチャクガニはハサミの部分にイソギンチャクをつけて振り回すという習性でよく知られたカニですが、色彩もカラフルで美しい種です。しかし体が非常に小さなカニなのでサンゴ水槽ではどこへいってしまったのか、わからなくなってしまうこともあります。今回はキンチャクガニの飼育方法をご紹介します。

標準和名 キンチャクガニ
学名 Lybia tessellata (Latreille, 1812)
英名 Boxer crab, Pom-pom crabなど
分類 十脚(エビ)目・抱卵亜目・短尾下目・オウギガニ科
全長 甲幅5mm
飼育難易度 ★★★☆☆
おすすめの餌 沈降性の配合飼料など
温度 25℃前後
水槽 小型水槽での飼育に向く
混泳 大きな魚との飼育はやめたほうがよい
サンゴ飼育 捕食性の強いサンゴなどとの飼育は避ける

キンチャクガニって、どんなカニ?

▲セスジボラの幼魚を威嚇するキンチャクガニ

キンチャクガニはオウギガニ科の小型のカニです。ほかのオウギガニの仲間と違うユニークなところは、脚部や甲に鮮やかな模様を有していること、ハサミにイソギンチャクをつけているというところです。これはハサミにイソギンチャクをつけて、捕食しようとしてやってきた大きな魚に対し攻撃を仕掛けるのです。また、イソギンチャクの毒で獲物を麻痺させて仕留めることもあるようです。英名はこの習性にちなみ「Boxer crab」とも呼ばれています。また「Pom-pom crab」などともよばれているようです。日本の太平洋岸からインドー太平洋に分布しているようですが、ハワイ諸島に生息しているものは別の種類のようです。なおこのほかにもヒメキンチャクガニやハタグモガニなど、同じ属のカニはハサミにイソギンチャクをつけて身を守っており、なかにはウミウシをつけているものもいるようです。

イソギンチャクを利用する甲殻類

▲ヤドカリコテイソギンチャクをつけたトゲツノヤドカリ

キンチャクガニのようにイソギンチャクを利用する甲殻類はほかにもいます。たとえばヤドカリの仲間のトゲツノヤドカリは左鉗脚掌部、つまり「左ハサミの掌」にヤドカリコテイソギンチャクとよばれるイソギンチャクをつけているのが特徴です。これも威嚇など身を守るために使うのでしょうか。また同じくヤドカリの仲間のソメンヤドカリなどもイソギンチャクを貝殻に付着させて天敵から身を守っているようです。

キンチャクガニはこのように身を守ったり、餌をとるのに使うのですが、たまにイソギンチャクを持っていないこともあります。イソギンチャクを失っても、飼育自体は問題ありません。

キンチャクガニ飼育に適した環境

キンチャクガニに適した水槽

キンチャクガニは小型水槽での飼育もできます。大きな水槽だと、どこへ行ってしまうかわかりにくくなるのですが、小さな水槽では本種の行動をじっくり観察できます。ただし小さな水槽は水量が限られ安定しにくいというデメリットもあります。そのため、小型水槽でも、いや、小型水槽だからこそろ過はしっかりしたものを構築してあげるべきです。

水質とろ過システム

先ほども述べたように小型水槽ではろ過槽の問題があります。小型水槽向けオーバーフロー水槽も悪くはないのですが、小型水槽で海水にすむ生物を飼育するのなら外掛けろ過槽と外部ろ過槽の両方を使用するのが一番飼育しやすいといえます。ふたつのろ過槽を組み合わせることで豊富なろ材の容量を確保することができ、またどちらかが何らかのトラブルで止まってしまっても(とくに外掛けろ過槽ではこのトラブルが起こりやすい)、もう片方が動けば最悪の事態は避けることができます。

本来は生きたサンゴのそばにすむ種で、サンゴ水槽で飼育するのもよいでしょう。小型水槽ではベルリンシステムなどはやりにくかったのですが、現在は小型のプロテインスキマーもベンチュリー式のものが出てきたりして、可能になってきました。ですがこのようなシステムでサンゴを飼育するときはやはり入れる生き物の数を減らして、ごくごく少量の生物だけ飼育するようにしなければなりません。また初心者には小型水槽でのベルリンシステムは難しいのである程度経験を積んだアクアリスト向けといえるでしょう。

水温

一般的に販売されている個体はインドー太平洋のサンゴ礁にすむものなので25℃前後で飼育します。もちろん、ヒーターとクーラーを使用するなどして、しっかり温度管理をするようにしましょう。

キンチャクガニに適した餌と添加剤

キンチャクガニなどのカニやヤドカリなどはどうしてもフレークフードは食べにくいので、底に落ちた配合飼料を与えます。クリルなどを与えてもよいのですが、栄養の偏りと酸化には注意が必要ですので、できるだけ配合飼料を中心に与えたいものです。またカルシウムは骨格の形成に役立ち、ヨウ素は生命力の維持などにも重要です。さらに甲殻類で起こりうる脱皮不全はヨウ素不足が原因のひとつともされ、定期的な添加が重要です。またサンゴ水槽ではプロテインスキマーにこしとられるなどしてなくなりやすいので定期的な添加が必須といえます。

キンチャクガニをお迎えする

キンチャクガニはなかなか採集できる種ではないので、観賞魚店で購入することになります。あまり高価な種ではないのですが、意外にも販売しているところが少ないです。甲殻類につよいお店で購入するのがよいでしょう。チェックポイントとしては眼が欠けているものはだめです。脚は1本2本折れているくらいでは何ともないのですが、大多数の脚やハサミがないのは回復に時間がかかるため購入を避けたほうが無難です。これはほかの甲殻類についても、同じことがいえます。

キンチャクガニとほかの生物との関係

魚との関係

小型の甲殻類は魚がビュンビュン泳いでいると引きこもってしまうことがあります。小型水槽で飼育する場合は混泳する魚もイソハゼやベニハゼなど、小型種のみにとどめておくべきでしょう。もちろん、甲殻類を食べてしまうベラやバスレットなどは厳禁です。ヤッコなども小型の甲殻類には脅威になることがあるので、避けたほうが無難です。

サンゴ・そのほかの無脊椎動物との相性

サンゴや無脊椎動物を襲ったり傷つけてしまうということはないのですが、LPSやイソギンチャクなど、捕食性が強い生物との飼育は避けたほうがよいかもしれません。また大きなエビなどとの相性も悪いところがあります。ミドリイシやソフトコーラルとの飼育は問題ありません。

キンチャクガニ飼育まとめ

  • イソギンチャクを手にもつ変わったカニ
  • イソギンチャクを使って身を守ったり餌をとったりする
  • イソギンチャクを水槽内でなくしてしまうこともあるが飼育には問題ない
  • 小型種なので大型水槽では観察しにくい
  • ろ過システムは小型水槽でもしっかりしたものが欲しい。もしくはベルリンシステム
  • 水温は25℃をキープする
  • 底に沈むタイプの配合飼料でないと食べにくい
  • 健全な成長のためにはヨウ素やカルシウムの添加が重要
  • 大きな魚はそれだけで脅威になることも。甲殻類を食う魚との飼育もだめ
  • 甲殻類や捕食性の強いサンゴとの飼育は避ける
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