2020.09.26 (公開 2019.10.02) 海水魚図鑑
ヤクシマダテイシモチの飼育方法~2019年に日本から報告された大型テンジクダイ
2019年9月、日本産魚種がまた1種増えました。テンジクダイ科のヤクシマダテイシモチという魚です。この種は西太平洋のサンゴ礁域に生息する種で、フィリピン以南では多いのですが、沖縄などでは見られず、屋久島で採集されたものをもとに標準和名がつけられました。観賞魚の世界では従来フィリピン産のキンセンイシモチに混ざって入荷することがありました。全長12cmになり、テンジクダイの仲間では大きく育ちます。今回は筆者が2016年に本種(フィリピン産)を飼育した経験をもとに、このヤクシマダテイシモチの飼育方法をご紹介します。
標準和名 | ヤクシマダテイシモチ |
学名 | Ostorhinchus chrysotaenia (Bleeker, 1851) |
英名 | Yellowlined cardinalfish, Highfin cardinalfishなど |
分類 | スズキ目・スズキ亜目・テンジクダイ科・コミナトテンジクダイ亜科・スジイシモチ属 |
全長 | 12cm |
飼育難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッドなど |
温度 | 22~25℃ |
水槽 | 60cm以上 |
混泳 | 口に入る小魚は餌になるため避ける。逆に本種を捕食するような魚も不可 |
サンゴ飼育 | 概ね問題なし |
ヤクシマダテイシモチって、どんな魚?
▲体側の縦線が薄くなった状態
ヤクシマダテイシモチは2019年に屋久島から日本初記録種として報告されたテンジクダイ科の魚です。2004年に屋久島で見つかりましたが、報告までに15年ほどかかりました(水中写真だけだと初記録種として認められない)。
属としてはスジイシモチ属で、キンセンイシモチやネンブツダイなどと同じ属になります。テンジクダイ科でも最大の属で80種類以上の種が知られていますが、未記載のものも何種類かおり、総数は100種を超えるかもしれません。体側に縦線のあるスジイシモチ属で、尾鰭の付け根に黒色斑がないかあっても不明瞭なためキンセンイシモチなどに似ていますが、第2背鰭が非常に大きいのが特徴で、体には茶褐色の縦線が数本入りますが、この縦線は出したり、消したりすることができるようです。
分布域は狭く、オーストラリア西岸からインドネシア、フィリピン、ソロモン諸島に至る東インド-西太平洋に生息します。この仲間は親魚が卵を口にくわえて保護する習性があります。このような繁殖形態は、分離浮性卵を産みっぱなしにするチョウチョウウオやヤッコ、ベラと異なり、卵から仔魚の生存率が高くなります。しかしその反面、分散という意味ではほかの産卵形態をとる魚より劣ります。そのため分布は狭くなりがちです。
ヤクシマダテイシモチ飼育に適した環境
水槽
ヤクシマダテイシモチは全長12cmと、比較的大きくなるテンジクダイです。これを考えると小さくても60cm以上の水槽で飼育してあげたいものです。混泳するなら90cm以上の水槽が最適でしょう。
水質とろ過システム
テンジクダイの仲間はスズメダイの仲間よりもきれいな水質を好みます。そのためしっかりしたろ過装置が必要になります。上部ろ過槽がおすすめで、外部ろ過槽を使用するならほかのろ過槽と組み合わせる必要があります。大型水槽であれば上部ろ過槽でもよいのですが、おすすめはオーバーフロー水槽にしてサンプ(水溜め)でろ過を行う方式です。
サンゴにはいたずらしませんので、ベルリンシステムなどを用いたサンゴ水槽での飼育もできます。ただし、このようなシステムで飼育すると魚は沢山入れることができなくなります。
水温と病気対策
本種を含むスジイシモチ属の魚は病気にかかりやすい面があります。まず水温は25℃くらいで安定していることが大事です。病気予防といえば「殺菌灯」が思い浮かびますが、水温の上下が激しければ、いくら殺菌灯をつけていても魚は病気になってしまうでしょう。殺菌灯をつけることも病気予防には重要ですが、まずヒーター、クーラーなどを見直してみるようにしましょう。
ヤクシマダテイシモチに適した餌
動物食性です。餌は早いうちに粒餌を食べてくれますが、極端に大きな個体など粒餌をなかなか食べないというときは冷凍のエビやホワイトシュリンプなどを与える必要があります。ただし釣り餌で使うオキアミは添加剤を使用していることもあり、おすすめはできません。また冷凍餌は水を汚すおそれがあるため、与えすぎは厳禁です。
ヤクシマダテイシモチをお迎えする
本種だけが輸入され、販売されるということはまずありません。ほかのテンジクダイの混じりで入荷することが多いです。沖縄からの記録はないので(生息しているのに見逃しているという可能性はありますが)、フィリピン産のキンセンイシモチの混じりで入ってくるのを狙うしかないようです。この個体は2016年に埼玉県の「ビーボックスアクアリウム八潮店」(現存しない)で購入したもので、やはりフィリピン産のキンセンイシモチに混ざって入って来たものです。このほか群馬県高崎市の「ベッセル」でも入荷された実績があります。
購入時の注意点
▲購入する前にここはチェックしたい
まずテンジクダイ科の魚を購入するのに大事なこと、それは「入荷直後の個体は絶対に避ける」ということです。どんな魚でも同じようなことがいえますが、とくにテンジクダイの仲間は入荷後ある程度時間が経った個体を購入しないと、突然死することもあるので注意しなければなりません。また、体に赤いただれがあるもの、鰭に白い点があるもの、鰭がぼろぼろのものなどは絶対に購入してはいけません。
ヤクシマダテイシモチとほかの生物との関係
ほかの魚との混泳
▲シールズカーディナルフィッシュ(左)との混泳例
ヤクシマダテイシモチは動物食性が強いので、小魚は捕食されてしまいます。ほかのテンジクダイの仲間との混泳は概ね問題ありません。ただあまりにも異なる大きさのものや、温和なマンジュウイシモチなどとの混泳は避けるようにします。テンジクダイ以外の魚では、スズメダイの仲間(ただし温和なもの。カクレクマノミなども可)、ハゼの仲間、小型ヤッコ、ハギ・アイゴ、ハナダイの仲間など、同じくらいのサイズであれば多くの魚と組み合わせることができます。
サンゴ・無脊椎動物との相性
▲ほとんどの種のサンゴと飼育できる
サンゴにはいたずらすることはなく、サンゴ水槽での飼育もできます。ソフトコーラル、ハードコーラル、LPS、SPSどのような水槽にもよく似合います。ただしクマノミと混泳するようなイソギンチャクは魚を食べてしまうのでおすすめできません(ディスクコーラルやマメスナギンチャクなどは問題ありません)。
甲殻類は好んで食べてしまうので、クリーナーシュリンプやサンゴヤドカリなどをのぞき一緒にしない方がよいでしょう。ペパーミントシュリンプなども美味しく平らげてしまいます。逆に大型のエビ、大型のカニ、大型のヤドカリは魚を食べてしまうことがあり、これも組み合わせてはいけないパターンです。
ヤクシマダテイシモチ飼育まとめ
- 2019年に日本からも報告された大型のテンジクダイ
- キンセンイシモチに似ているが第2背鰭が大きいのが特徴
- やや大きく10cmを超えるほどになる。60cm以上の水槽で飼いたい
- きれいな水を好むのでろ過槽は上部ろ過槽がよい
- 水温は25℃前後がよい
- 温度の変動が大きいと殺菌灯をつけていても病気になるおそれあり
- 動物食性で粒餌などもよく食べる
- 入荷は少なくキンセンイシモチの混じりで入ってくる程度
- 入荷直後のもの、鰭や体表にキズ・ただれ・白点があるものなどは購入してはいけない
- 口に入る魚とは混泳しない
- テンジクダイの仲間同士の混泳は可能だが、おとなしいものや極端な小型種は避ける
- サンゴとの飼育は問題なし
- 甲殻類は食べてしまうことも。逆に大型甲殻類に襲われることがある