2020.04.17 (公開 2017.09.07) 海水魚図鑑
キンセンイシモチの飼育方法~混泳や口内保育のポイント
テンジクダイ科魚類の中でも最も大きなグループであるスジイシモチ属。その中でも色彩が美しく、観賞魚店においてよく販売されているのがキンセンイシモチです。
ただ色がキレイなだけでなく、水槽内で群れを再現できたり、他の魚と一緒に飼育したり、さらには口腔内で卵を育てる様子を水槽内でも観察できるなど、楽しみが多い種です。
標準和名 | キンセンイシモチ |
学名 | Ostorhinchus wassinki (Bleeker, 1861) |
分類 | スズキ目・スズキ亜目・テンジクダイ科・スジイシモチ族・スジイシモチ属 |
全長 | 約8cm |
飼育難易度 | ★☆☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッド、冷凍イサザアミ |
温度 | 24~26度 |
水槽 | 60cm以上 |
混泳 | 群泳が望ましい、気が強い魚とは注意が必要 |
サンゴ飼育 | 可 |
キンセンイシモチってどんな魚?
キンセンイシモチはテンジクダイ科・スジイシモチ属の魚で、この仲間では観賞魚店で最もよく見られる種類です。釣りの外道でおなじみのネンブツダイやコスジイシモチなどもこの属の魚です。
従来「キンセンイシモチ」とされているものの中には鰓蓋(さいがい)から腹部にかけての斑紋が破線状になるものと、線状になるものの2タイプがいましたが、現在ではそれぞれが別種となり、前者は「スジオテンジクダイ」と呼ばれ、後者が「キンセンイシモチ」と呼ばれています。
▲四国沿岸で採集されたキンセンイシモチの成魚。
▲スジオテンジクダイ。鰓蓋から腹部に点状の斑紋がある
なお多くの書籍や図鑑などでキンセンイシモチの学名はOstorhinchus properuptusとされていますが、これはオーストラリアのサンゴ海産の個体をもとに記載されたもので、日本のものとは色彩や腹部の細縦帯の有無が異なり、別種である可能性が高いようです。
このほか「キンセンイシモチ」として販売されているものの中には日本にも分布するアカホシキンセンイシモチO. rubrimacula, 海外産のO. cyanosomaといった種類が混ざっていることもあり、違いを探してみるのも面白いです。
キンセンイシモチ飼育に適した環境
水槽サイズ
▲60cm水槽でキンセンイシモチの幼魚を飼育している例
キンセンイシモチは大きいもので全長8cmほどになります。小さい個体は小型水槽でも飼育できますが、水質の悪化にやや弱いことや大きくなることを考えると、60cm前後の水槽で飼育するようにしたいものです。
水質・ろ過
キンセンイシモチは水質が悪いと鰭が溶けてしまったりすることもあります。ろ過装置もろ過能力が高いもの(上部ろ過槽や、オーバーフロー水槽)を使いましょう。外部ろ過槽 (パワーフィルター) を使用する場合は水槽適合サイズよりもワンランク上のものを使用したり、他のろ過槽を併用するのもよい方法です。
おすすめの上部ろ過槽
おすすめの外部ろ過槽 (パワーフィルター)
プロテインスキマーや殺菌灯も、きれいな水質を保つのに有効です。これらを動かすためのポンプや、殺菌灯の灯具は水温の上昇を招く恐れがありますので、余裕あるサイズのクーラーも必要になります。
水温
一般的に観賞魚店で販売されているフィリピンやインドネシア、あるいは沖縄県産の個体は25℃前後で飼育します。一方本州~九州の沿岸に生息し、磯で採集されたような個体は25℃でも飼育できますが、22℃くらいのやや低めにしてもよいかもしれません。
ライブロックとサンゴ岩
キンセンイシモチは自然下では洞窟のような場所や、ウニの棘の合間に潜んでいることが多い種類です。ライブロックやサンゴ岩を組んで、水槽内にもそのような環境を作ってあげるとよいでしょう。
キンセンイシモチに必要な餌と添加剤
キンセンイシモチは動物食性です。「メガバイト レッド」などの動物食魚用配合飼料を中心に与え、たまにイカやイワシの切り身、あるいは冷凍のプランクトンフードなどを与えたいところです。ただし生や冷凍の餌はきちんとろ過が働いていない水槽では水質悪化を招きますので要注意です。ハゼなどと異なり表層の餌も捕食できるので、フレークフードでもよいでしょう。
添加剤についてはサンゴほど必要はないのですが、できればすべての生物に必要なヨウ素や、魚用のビタミン、アミノ酸なども欲しいところです。カルシウムなどの成分は魚に必要ない、なんてことはなく、定期的な水替えで補うようにします。
キンセンイシモチの入手方法と個体のチェック
キンセンイシモチはフィリピン、インドネシアなどから輸入されるもののほか、沖縄などから来ることもあります。テンジクダイの仲間は若干輸送に弱いので、沖縄産のものは輸送時間が短くておすすめですが、いずれにせよ輸送の疲れが残っていないような個体を選ぶべきです。体に傷があるものや鰭に白い点などが見られる個体は絶対に選んではいけません。
繰り返しになりますが、テンジクダイの仲間は水質が悪化すると鰭が溶けたりすることがあります。そのような症状があらわれている個体も選ぶべきではありません。
キンセンイシモチの病気と予防
▲白点病に罹ってしまったキンセンイシモチ
テンジクダイの仲間は比較的病気になりやすいといえます。白点病は鰭や体表に白い点がつく病気で、専用の魚病薬で治すのですが、肌がやや弱いらしく薬にも強いとはいえないので、基本的に予防につとめるようにします。
病気の予防に重要なことは、
- きれいな水質を保つ
- バランスよくさまざまな餌を与える
- 水温を一定にする
- ろ材や底砂を必要以上にいじらない
- 魚に傷をつけないよう丁寧に扱う
以上のことが重要です。これは他の魚でも同様です。
キンセンイシモチとの混泳
同種同士の混泳
▲ペアになったキンセンイシモチ
キンセンイシモチは自然下では群れて生活しますので、水槽の中で再現してみるのも良いでしょう。数匹で飼育してもケンカをしない、してもそれほど深刻にはなりませんが、多くの個体を飼育するなら大きめの水槽や、高いろ過能力をもつろ過装置が必要になってきます。
テンジクダイの仲間はマウスブルーダーで、うまくいけば、親が口の中で卵を保護する様子を観察することができるかもしれません。仔魚は小さく、繁殖は難しいのですが、挑戦する価値はあります。
▲卵を口内保育している親。下顎の形が変わっている
他の魚との混泳
▲スズメダイでも小型個体となら飼育可能
キンセンイシモチは同じようにサンゴ礁に生息する他の多くの魚と飼育することができます。ハゼの仲間、小型のベラの仲間、アイゴの仲間、ニザダイの仲間、もちろんカクレクマノミや小型ヤッコといった魚との飼育を楽しめます。
一方混泳を避けるべき魚は大型のスズメダイの仲間や、やはり大きくなり気が強いメギスの仲間、またキンセンイシモチを食べてしまうおそれがある魚も一緒に飼育するべきではありません。
サンゴ・無脊椎動物との飼育
▲サンゴには無害。サンゴ水槽にもよく似合う
キンセンイシモチをはじめ、テンジクダイの仲間はサンゴにいたずらをすることがありませんので、深海性のサンゴ以外のほぼすべてのサンゴと組み合わせることができます。大型のイソギンチャクの仲間は魚を食べてしまうことがありますので、注意が必要です。
夜行性のエビの仲間のうち、小型のものは、同じく夜行性であるテンジクダイの仲間に捕食されてしまうおそれがありますので、注意が必要です。逆に大型の甲殻類には捕食されてしまう恐れがあり、こちらも注意するべきです。
キンセンイシモチはガンガゼというウニの棘の隙間にいることも多く、水槽内でも再現してみたくなるところですが、ガンガゼの棘には毒がありますので、扱いは要注意です。もちろん、飼育下ではガンガゼが必要というわけでもありません。
キンセンイシモチの飼育方法まとめ
- やや水質の悪化に弱い
- 60cm以上の大きめの水槽、強力なろ過装置が必要
- 病気対策にきれいな水、安定した水温が求められる
- ろ材や底砂を必要以上に動かさない
- 多くの種の餌を与える、冷凍の餌も与えたい
- 入荷直後のもの、鰭が溶けているものは購入しない方がよい
- 他の温和な魚、同種との混泳が可能、サンゴ水槽も可