深海生物を飼育する~家庭でも飼育できる深海魚と飼育方法をご紹介

深海生物は水深200m以深に生息する生物のことをいいます。最近は深海生物が人気で、水族館でも深海生物が種類は少ないながらも飼育されており、中には家庭の水槽で飼育できるようなものもいるのです。このような深海魚の飼育ではどのような点に気を付ければよいでしょうか。

深海生物とは

「深海生物」とは、一般的に水深200m以深に生息している生物のことを指します。浅い海の生物とはことなるユニークな生態、変わった見た目、いまだに未知の生物が多数生息しているというロマン…これらの要素により昨今「深海生物」がブームとなっています。

博物館などで行われる深海生物の展示はいつも盛況、マスメディアでも深海生物の話題は広く取り上げられており、さらには深海生物についての知識を身につけられる「深海生物検定」なるものも登場しています。そして、最近は多くの水族館でも深海生物展示コーナーを設けるなどして、深海生物ブームを引っ張っていきます。

深海生物の飼育は難しい

しかし、深海生物を展示している水族館でも、生きた深海生物にはあまり多くの種類には出会えず、がっかりされた方もいるかもしれません。しかし、それには理由があるのです。

状態よく上がってくることが少ない

▲深海から上がってきたホウズキ(メバル科)。眼や内臓が飛び出ている。そうなると飼育は困難

まず深海生物を水族館などで展示するには、深海から生物を連れてこなければなりません。しかし深海生物を連れてくるのは、なかなか難しいことなのです。

深海にすんでいる生物を釣りや底曳網などで一気に引き上げてしまうと、急激な水圧の変化によって鰾(うきぶくろ)が膨張してしまい、口や肛門からは内臓が飛び出し、眼が飛び出していることもあります。そのようになってしまった魚は飼育が難しいのです。

低い水温を保つ必要がある

大体12℃から14℃を保たなければならないものがほとんどです。そのため、クーラーも強力なものが必要になります。ゼンスイなどから販売されている強力なクーラーが必要になります。

また、クーラーの能力をフルに引き出すためにクーラーのある部屋も涼しく保ちたいものです。ゼンスイの「ZC100α」を例にあげれば、水温15℃で周りの温度が30℃の場合、40リットルの水を冷却することができますが、周辺が35℃の場合25リットルにまで能力が落ちてしまうからです。夏を通り越すことが深海生物の飼育で最も大変なことといえます。ゼンスイでいえば「ZC-500α」など、できるだけ大きなクーラーを用いるようにしましょう。

なお、水温を低くしてしまうと結露が発生してしまうので、分厚いアクリル板の水槽がよいでしょう。そうすればあるていど結露の発生を防ぐことができるようです。

人気深海魚の飼育は難しい

▲リュウグウノツカイ

人気ある深海魚といえば「リュウグウノツカイ」や「チョウチンアンコウ」、深海性のサメの仲間である「ラブカ」や「ミツクリザメ」などですが、これらの飼育は難しいです。リュウグウノツカイはいくつかの水族館が水槽で泳がせていましたが、残念ながら数時間で死亡してしまいました。ラブカやミツクリザメも駿河湾や東京湾などで漁獲されたものが水族館で飼育されていたことがありますが、基本的に2,3日くらいで死亡してしまいました。

1960年代にチョウチンアンコウが江ノ島水族館で飼育されましたが、そのときは8日ほど飼育されており、光るルアーを使うシーンなど貴重な行動も記録されました。現在の科学のチカラであれば、もっと長期飼育できるかもしれません。

深海生物を採集する

深海魚釣り

▲深海延縄で釣り上げられたトウジン(ソコダラ科)

深海生物を採集する上では一般的な採集方法です。普通に竿を使った釣りのほか、深海延縄などがあります。前者は主に遊漁、後者は職漁で使用されることが多いです。ただし、釣りで採集された魚はすべて状態よく持ち帰ることができる、というわけではありません。口から胃袋などを出したりして飼育することが出来なくなってしまっているものも多いです。

水深100m前後にいる魚は鰾(うきぶくろ)に専用の針を刺すなどしてうまく泳げるようになることもあるのですが、それでも生存率はそれほど高くありません。水族館にいたり、観賞魚店で販売されているものは、奇跡的に生き延びた個体ともいえます。大事に飼育してあげたいものです。

深海生物用のワナ

▲筒状のワナ

筒状やカゴのワナを海底に仕掛け、中に入った生物を捕獲するというものです。アナゴ類や食用となる深海性のカニ(ズワイガニの仲間など)はこれで獲れます。他に深海性のゲンゲ類やクサウオ科、各種甲殻類なども入ることもあります。入る魚種は限られますが、状態は概ね良好です。

底曳網漁業

▲底曳網漁業で採集された生物。スレ傷などが多

袋状の網を船でひいて魚介類をとるのが底曳網漁業です。イカ釣り漁やカニかご漁、イカナゴ漁では特定の魚を追いかける漁法ですが、この底曳網漁業は特定の魚を追いかけて漁業をするのではなく、獲れる魚を獲る、という漁業です。網に入った魚は食用魚や練り製品の原料の魚は持ち帰りますがそうでない魚は逃がすことになります。深海の生物に大きな影響を与えるので漁期や網の目のサイズなど、ほかの漁業よりも多くの規制があります。したがって底曳網漁業の禁漁期間は、この漁法でしかとれないような生物は手に入りません。

底曳網漁業で獲れる魚は傷ついていることも多く、魚の採集には適さないこともあります。しかし深海性の貝類やヒトデ、各種甲殻類などはスレにつよく、採集して生かして持ち帰ることができます。またキホウボウなど一部の魚もうまく生かして持ち帰られる場合があります。

一方サメの仲間はスレに強い印象があります。確かに硬骨魚類より強いことが多いのですがなぜかこの漁法で採集されたものは長期飼育が難しい傾向にあります。オオメコビトザメなど、採集したばかりのときはバケツで泳ぎ回っていますが、表層の水温に耐えられないのか、すぐに死んでしまいます。ただしこの仲間のサメは水族館でも上手く飼育できておらず、水温のせいだけではなさそうです。

無人潜水艇で採集する

▲深海性のウニ、ヤミガンガゼ。沖縄美ら海水族館で撮影

「ROV」と呼ばれる遠隔操作で動く無人潜水艇を使用して深海生物を採集することがあります。しかしこのROVは水族館で展示する魚や研究用としての実績はあるのですが、アクアリストが運用して魚を採集するとなると、莫大な費用が必要になることから困難になってしまいます。さらに泳ぎ回る魚をROVを使用して採集することはどうしても困難なので、現在のところは「水族館が飼育するための無脊椎動物を採集する」というものになっています。

沖縄美ら海水族館ではROVを使用して採集した甲殻類や棘皮動物などの生物を色々と飼育しています。写真のヤミガンガゼもそのような無脊椎動物です。

浅いところに来たものを採集する

▲オオクチイシナギは幼魚が浅い海に現れることも

深海生物の種類によっては、幼魚が浅い場所に現れるのでそのときに採集することができます。たとえば成魚は深い場所にうつるムツやオオクチイシナギ、ツボダイといった魚は幼魚は浅場で釣りや定置網などで採集されることがあるので、それを釣るなどして採集することになります。また一部の魚種は水温が下がる冬期には浅い場所に出現することがあります。やはりその時期に採集するとうまく飼育できることがあります。

一方ハダカイワシの仲間は昼は深海におり、夜間は水面近くに浮上してくるのですが、その習性からもわかるように遊泳力が非常に強く、名前からもわかるように鱗が剥げやすいので、飼育は困難です。発光器をもち、飼育すると美しい姿を見ることができるハズなので、ぜひとも各地の水族館にはチャレンジしてほしいものです。

家庭でも飼育可能な深海生物

飼育が難しい深海生物ですが、その中には家庭の水槽で飼育できるものもわずかながらいます。

ユメカサゴ

ユメカサゴ

水深150~900mまでの深海に生息するメバル科の深海魚です。別名は「ちょうか」、もしくは喉が黒いことから「のどぐろ」などと呼ばれています。深海釣りではよく釣れる魚で食用になり、煮つけや塩焼、揚げ物などで美味な魚ですが、状態よいものが観賞魚店に入ってくることもあります。釣りたてのものは赤くて綺麗なのですが、飼育されているものは灰色っぽくなるようです。

釣りやかごなどで漁獲され、深海魚を飼育している水族館ではまず間違いなく出会えるでしょう。

ハシキンメ

▲水族館で飼育されているハシキンメ

ハシキンメは水深150~700mに生息する深海性の魚です。名前に「キンメ」とあるようにキンメダイ目の魚ですが、キンメダイ科ではなくヒウチダイ科の魚で、浅海でみられるマツカサウオと近縁な魚です。この種も状態よく水揚げされることがあり、そのようなものは水族館へいったり、観賞魚店で販売されることもあります。ユメカサゴ同様、水族館ではよく見られる深海魚です。

地方名では「ごそ」とよび、底曳網の魚が水揚げされる三河湾や駿河湾では食用となります。白身の魚で開いたものを焼くと極めて美味です。

ムツ

スズキ目・ムツ科の魚です。成魚は水深200~700mに生息していますが、幼魚は沿岸のごく浅い場所に生息し、磯で採集することもできます。それを水槽で育てるのも簡単で、深海生物を扱っている水族館ではよく見られる魚です。

ただし肉食性の魚ですので、小魚などを捕食することがあるため注意が必要です。また幼魚が浅いところに出現するわりには高水温にも弱いようで注意が必要です。さらに大きいものは60cmになるため、成魚は大型水槽が必要です。釣りや延縄などで釣れる食用魚です。

キホウボウ

水深110~500mに多く生息するキホウボウも比較的丈夫な深海魚であり、底曳網で漁獲されたものでもうまく飼育されていることがあります。体がほかの魚と比べて硬いこともその理由でしょう。海水魚店でも極まれに販売されていることがありますが、そのような個体を購入して飼育するのもよいでしょう。ただし水温は12~14℃に抑えておかなければなりません。

キホウボウは成魚でも20cmほどの小型種ですが、中には50cmにもなるものがいます。大型になる種は食用魚で塩焼などにするとかなり美味ですが、その姿から食用として流通することはまずありません。

オオグソクムシ

▲トラップで採集されたオオグソクムシ

等脚目・スナホリムシ科の節足動物です。見た目は巨大なダンゴムシのようで、実際に海に進出したダンゴムシの仲間といえます。海底に非常に多くの個体がおり、底曳網やカゴ漁などで漁獲されます。私は静岡県石花海、高知県足摺岬沖などで採集しています。

甲殻類は水圧の変化に強い面があり、非常に飼育しやすく、うまくいけば長期飼育が楽しめます。ただし高水温にだけは注意したいものです。深海生物専用に高性能のクーラーを使用するしかありません。食用となり美味、お土産物の「オオグソクムシせんべい」なども人気です。

よく似ているダイオウグソクムシは全長50cmにもなり、等脚目としては世界最大です。メキシコ湾などの深海に生息していますが、水族館向けでの輸入はあるものの、観賞魚店ではなかなか見られないようです。

タカアシガニ

日本の太平洋岸と台湾の深海にすむクモガニ科のカニです。脚を広げた長さでは世界最大のカニとして知られており、1.5mになり、最大で3mにもなります。

そのサイズから家庭水槽での飼育は難しいです。まれに小型の個体が販売されることもあるのですが、やがては大きくなることを考えておかなければなりません。甲殻類は水圧の変化に強く、水温にさえ気を付ければ飼育しやすいです。餌は水族館では魚やイカの切り身を与えています。なお食用種でもあり鍋にして食べられ美味です。

タカアシガニは大きくなり飼育が難しいのですが、このほかにもやや小ぶりな深海性のカニや、「カニ」という名前がついていても実際にはヤドカリの仲間であるイガグリガニ(タラバガニの仲間)、ヤドカリや貝殻を背負わないコシオリエビなど、深海の甲殻類も色々な種類がいるのです。

深海生物の飼育まとめ

  • 水深200m以深にすむ生物を深海生物という
  • 現在は深海生物ブームで水族館で深海生物を見ることもできるが、種類は少ない
  • 状態よくあがってくることが少なく、水温が高くなると弱ってしまうことが多い
  • キホウボウやオオグソクムシなど家庭で飼育できる深海生物もいる
  • 水温は12~14℃くらいがちょうどよい
  • 深海釣りで釣れてもすべてうまく持ち帰られる、わけではない
  • トラップで採集されたものは底曳網のものと比べて状態がよいが種類は限られる
  • 底曳網漁業では多くの種類が獲れるが飼えるような状態のものは少ない
  • 水族館では無人潜水艇を使って採集することもある
  • 一部浅い海に現れるような深海魚もいる

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