フリーワード検索
海水魚の記事
サンゴの記事

2020.05.28 (公開 2020.05.21) 海水魚図鑑

アジの仲間が海水魚水槽で飼育しにくい理由

アジの仲間は食用魚として人気があります。一部の種は美しい色彩やユニークな見た目から、観賞魚として飼育されることもあります。しかしアジの仲間はアクアリウムの中ではマイナーで、長期飼育が難しい魚です。今回はなぜアジの仲間が飼いにくいのか、ご紹介します。

アジ(アジ科魚類)とは

アジはスズキ目・アジ科の海水魚の総称で、世界で146種、そのうち日本には61種類が知られています。どの種も沿岸から外洋の海域に生息していますが、一部の種では河川の汽水域や純淡水域に入るものもいます。

アジ科魚類は食用になるものが多いです。アジ類の「アジ」は、味がよいことからついた、ともいわれています。魚のことをあまり知らなくてもブリ、カンパチ、シマアジ、マアジなどは知っている人も多いですし、伊豆諸島の「くさや」はムロアジ類からつくりますが、現在はトビウオなどほかの魚でも作られるようです。

アジ科魚類の特徴

稜鱗(ぜんご、ぜいご)

▲矢印が稜鱗

アジの仲間は体側に「稜鱗」と呼ばれる鱗があります。これは一般的には「ぜんご」「ぜいご」ともよばれ、アジ科の大きな特徴でもあります。ただし、稜鱗はすべてのアジにあるわけではなく、ブリやブリモドキ、ツムブリ、イケカツオ、コバンアジなど稜鱗がないものもいます。そのような魚種は次の臀鰭遊離軟条の特徴で見分ける必要があります。

アジ科の中には稜鱗の長さが同定に重要な種もいます。例えばムロアジ属のムロアジは稜鱗が側線直走部の後3/4を占めるのに対し、クサヤモロは1/2くらいです。

臀鰭遊離軟条

▲ギンガメアジの臀鰭遊離軟条

アジ科はみな臀鰭棘の2棘が臀鰭第3棘から離れています。これもアジ科とほかの魚を見分けるうえでの重要な特徴といえます。ブリやイケカツオなど、体側に稜鱗がないアジの仲間はこの特徴からアジ科とされています。ただしオキアジなど、臀鰭棘が皮下に埋没し外見上見られないものがいますので、注意が必要です。またこの臀鰭棘は可動性です。

アジの仲間が飼いにくい理由

アジの仲間はキラキラ光る体が美しく、色彩が鮮やかなものや、形が面白い魚も多いのでアクアリストにも人気が出そうですが、残念ながらあまり販売されておらず、あまり人気がない仲間です。その理由は主に以下の理由からといえます。

大きくなる種が多い

▲沖縄美ら海水族館のロウニンアジ

アジの仲間には大きくなる種が多いです。とくに写真のロウニンアジや、観賞魚として輸入されてくるコガネシマアジなどは1m近くなることもあります。家庭水槽ではそこまで巨大にはならないかもしれませんが、小さな水槽ではいずれ持て余してしまうことになるため、注意が必要です。これらを終生飼育するならば超巨大な水槽が必要になるのです。釣ってきた小さなギンガメアジも上手に飼えばすくすく大きくなっていきます。もちろん、海へ放流するようなことがあってはなりません。

ほかの魚を食べる

アジの仲間は魚食がつよく、ほかの魚を食べてしまうことがあるため、小魚との混泳には向きません。ある程度大きな魚との混泳は可能ですが小魚を食べていないか、逆にアジの仲間が他の魚に追われていないかをチェックするようにします。アジの仲間も幼魚のうちはほかの魚に襲われたり、なかにはつつき殺されたりすることがあるからです。スズメダイの大きいものやコトヒキなどとの混泳はやめたほうがいいかもしれません。

スレにより傷つきやすい

▲シマアジ

アジの仲間の多くの種類はスレ傷に弱いという特徴があります。実際にシマアジなどは体表が傷つきやすく、手で触ったりするとそこがすれて白っぽくなったりすることもあります。シマアジなどの養殖業者はシートを張ったタモの中にいれて水ごと運ぶなどの工夫をしています。もちろん水槽に入れる時も水ごと水槽に移すなどしたほうがよいでしょう。

また彼らは遊泳性が強く、水槽で飼育する時もあまりごつごつした飾りをいれないほうがよいでしょう。飾りと接触してけがをするおそれもあるからです。

水質悪化に弱い

アジの仲間は水質悪化に弱いところがあります。しっかりとしたろ過能力をもろ過装置を使用して飼育しなければなりません。オーバーフロー水槽が最適です、というかアジを飼育するのであれば大型水槽が必要でオーバーフローシステムしか現実的な装置はないのですが。ベルリンシステムなどはサンゴを中心に飼育するシステムで、魚を多く入れることはできず、アジのようなタイプの魚には向いていないところがあります。またアジの上記のような性質上、せまい水槽にサンゴを入れるのはあまりおすすめしません。

餌は「アジ=サビキ釣り」というイメージもあり、サビキ釣りで使うアミエビを与えるような人もいるようですがこんな餌をあたえていてはろ過が追い付かなくなり水質が悪化してしまい、死んでしまいます。基本的にペレットフードを与えるべきですが、アジの仲間は小麦粉などを消化吸収しにくいようで、できるだけ小麦粉類を使用しないフードが望ましいでしょう。最初はクリルを与えてから徐々に配合飼料への切り替えをしていくとよいのですが、どうしても食べないというときは海でアゴハゼの小さいのなどを採集して餌にするしかありません。これはクリルは栄養が偏っているからです。

飼育される主なアジの仲間

マアジ

▲マアジの群れ

マアジは名前に「マ」とつき、漢字でも「真鯵」と書くことからもわかるように、アジの仲間の代表的な種です。海水魚店で販売されることは少ないのですが、近海魚に近いお店で購入できることがあるほか、サビキ釣りでも釣ることができます。水質の悪化には弱いので大量に持ち帰ったりすることは避け、できるだけ大きな、しっかりしたろ過槽のある水槽で飼育するようにしましょう。全長50cmくらいになりますが、ふつうはもっと小さく、ギンガメアジなどと比べればまだ飼育可能です。

アクアリウムで飼育されるほか、いけす料理店などで生きたまま泳がせることがありますが、大きいものが多く網でスレているためか状態がイマイチな個体も多いです。また釣具店でも大きな水槽の中で泳いでいることもありますが、これはアオリイカ釣りの生き餌としての需要があるからで、このような用途に使う個体は弱っていてもよいのですが、飼育には向いていません。

ギンガメアジ

▲ギンガメアジの幼魚

ギンガメアジの幼魚は体に太い帯が5本ほどありますが、大きくなると消えてしまいます。海水魚店で「アジsp.」の名称で販売されているのは本種の幼魚であることも多いです。

沿岸域からやや沖合、サンゴ礁域や内湾の砂底までみられ、河川の汽水域にもよく見られます。また河川の中流でも本種の姿を見ることができますが、一般的には海水で飼育したい魚です。成魚は全長50㎝ほどになり、当然大型、いや、巨大水槽が必要です。

本種は「エバ」、幼魚を「メッキ」とよび、釣りの対象魚となります。引きがつよいだけでなく食用としても美味ではありますが、熱帯域のものはシガテラ毒をもつことがあります。東京ではある程度の大きさを超えると出荷できなくなるようです。

カスミアジ

▲カスミアジの幼魚

▲カスミアジの成魚

カスミアジは琉球列島の磯で見られるアジの仲間ですが、幼魚は関東から九州の太平洋岸や長崎近海で見ることができます。幼魚も鰭の付け根がブルーになり美しいのですが、成魚では体中に青い斑点が散らばり非常に美しい色になります。しかしながら成魚は60cmを超えるので小型水槽では終生飼育できません。180cm以上、できればもっと大きな水槽が必要です。

釣りではすばらしい引きを見せ、かつ磯からでも釣れるのでルアー釣りの対象魚として優れています。琉球列島では食用としても重要なのですが、太平洋諸島の地域によってはシガテラ毒をもつことがあるので注意が必要です。

コガネシマアジ

黄金色の体が美しいアジですが成長するとこの黄色が消えたり薄くなったりして、細い横帯があるだけのアジになってしまうことがあります。大きさも全長70cm(最大120cm)ほどになり、水槽飼育でもそこまでではないですが大きく育つので飼育には相当の覚悟が必要なアジといえます。特徴は体色や模様のほか、両顎に顎歯がないのも特徴といえます。

自らの身を守るためにサメなどの大型魚やジュゴンなどと一緒に泳いでいることが多いですが飼育については本種のみで飼育して問題はありません。というか、大きくなり家庭の水槽では本種1匹くらいが限界かもしれないです。日本ではおもに琉球列島に分布し、インド-汎太平洋域に広く分布しています。

イトヒキアジ

幼魚は有名で背鰭と臀鰭の軟条のうち何本かが著しく長く伸びるのが特徴です。しかしこの鰭はやがて短くなっていきます。

熱帯性のアジですが海流に乗ってやってくるため北海道沿岸やピーター大帝湾でも採集されています。近縁種のウマヅラアジ(ウマヅライトヒキアジ、とされることもあるが誤り)はイトヒキアジよりも眼前方の頭部の形状が直線的であることにより見分けられます。海水魚店でもまれに販売されることがありますが、近海魚をメインに扱っているお店に聞いた方が早いと思います。

成魚は食用になり、大きいものは美味です。船釣りで釣れることがあるほか、定置網や沖合底曳網で漁獲されることもあります。写真の個体は定置網で漁獲されたものです。このほか大西洋に生息するルックダウン(シロガネアジ)の仲間、沖縄などからくるコバンアジの仲間も入ってきます。

アジ飼育まとめ

  • きらきら光り輝き美しく変わった形のものも多いが飼育は難しい
  • 多くの種類に稜鱗がある
  • 多くの種類は臀鰭に遊離棘を二つもつ
  • 大型になり飼育には大型水槽が必要
  • 水質悪化にも弱くしっかりしたろ過ができるシステムが必要
  • 餌は配合飼料。間違ってもサビキ釣り用のアミなど与えないように
  • 遊泳性が強くスレにも気を付けるべき
  • 主にカスミアジやコガネシマアジ、イトヒキアジなどが販売されるが小型水槽では飼えない
フリーワード検索
海水魚の記事
サンゴの記事
    もっと読む