2022.09.27 (公開 2018.07.23) メンテナンス
天然海水の特徴と使い方~自分で採取するより通販での購入がおすすめ
海水魚を飼育するのには海水が必要です。その海水は、大きく分けて2種類があります。ひとつは人工海水、もうひとつは天然海水です。
「人工」と「天然」であれば天然の方がよさそう…と思いがちですが、必ずしもそうとは限りません。今回はそんな天然海水のメリットとデメリット、使い方をご紹介します。
天然海水とは
▲台風一過。河川の濁りが沖合にまで達している。こんなところでは汲みたくない
天然海水とはずばり、「海で汲んできた水」のことです。塩化ナトリウムを主原料として製造される、いわば「工業製品」である人工海水と異なります。
しかし私たちアクアリストが海で汲んできた海水を観賞魚水槽に使用することはおすすめしません。得体のしれない浮遊物がぷかぷか浮かんでいる港や、比重の変動が大きい河川の汽水域周辺で汲んできた海水をサンゴ水槽で使用したら高い確率でトラブルが発生するでしょう。
観賞魚店や通販で販売されている天然海水はきれいな海域、それも多くは海洋深層水を汲みあげて処理を行い出荷されるので、アクアリストが海で汲んできた海水と異なりサンゴ水槽でも安心して使えるものとなっています。
なお人工海水については以下で解説しています。
天然海水のメリット
実は人工海水でも魚やサンゴを状態よく飼育することは可能です。しかし天然海水で魚やサンゴを飼育すると、以下のようなメリットを享受できます。
生物が元気になる
▲ナガレハナサンゴなどは元素の欠乏に弱い
海水には80種類以上の元素が含まれるとされていますが、残念ながら人工海水には含まれていない元素もあります(一説によれば人工海水に含まれる元素は30種くらい)。しかし、天然海水には、当然ながら海水中に含まれるとされる80種以上もの元素がふくまれています。これが天然海水を使用する最大のメリットといえるでしょう。
サンゴは開き方に違いが出てきます。天然海水にしか含まれない元素がふくまれているということで、サンゴがイキイキしてきます。ポリプを人工海水で飼育しているとき以上にふさふさに伸ばしたり、共肉をぷっくり膨らませたりすることがあります。また、ナガレハナサンゴの類やハナガササンゴなどのように、ある種の微量元素の欠乏に弱いとされるサンゴの長期飼育にも効果が期待できます。
コケが生えにくくなる
天然海水を導入するとコケが生えにくくなるという声を聞きます。たしかに、天然海水を使った後、コケの生えるスピードが遅くなったような感じはします。微量元素のバランスがよかったり、コケの栄養になるケイ素の量が少ないのではないかと推測されますが、科学的には完全に立証はされていないようです。
また、コケを予防するのであれば天然海水に頼るだけでなく、硝酸塩やリン酸塩の数値を測りながら餌や魚の数、照明の点灯時間などを見直して対策する方が確実だと思います。
そのまま使用できる
▲そのまま使える海水が玄関に
人工海水は水道水やRO水に溶かしてから使用しなければならないのですが、天然海水はそのまま、もしくはいったんバケツなどに開けてから水槽に注水するだけなので簡単です。重い箱でも通販で購入すれば宅配便のドライバーの方がドアの前まで届けてくれるのでとても楽です。ただし、冬期に天然海水が届いた場合などはヒーターを使用して温度合わせをしなければなりません。
天然海水のデメリット
コストが割高
天然海水は採水したり、処理を施す必要があるためかどうしても人工海水よりも割高になってしまうというデメリットもあります。
たとえば私が愛用しているデルフィスの人工海水「ライブシーソルト」であれば100リットル用で3,000円(メーカーによる標準価格)+消費税+水道代で済みます。
一方天然海水は、送料・税込で100リットル使用するなら10,500円(チャームの「足し水くん」)かかってしまいますので割高になってしまいます。
重量がある
天然海水はそれなりの重量があるため、女性には扱いにくいかもしれません。また、通販で天然海水を購入すると、どうしても送料が高くなってしまいやすいです。ただし一部のWEBショップでは天然海水を購入すると送料が無料、もしくは安価になることもあります。
長期保存は不可
人工海水は袋さえ購入しておけば後からでも使うことはできますが、天然海水は放置しておくと雑菌などが入ることもあるので、できるだけ早く(数日以内)に使ってしまうのが理想といえます。
ただし、商品によっては直射日光を避けて保管すれば10日以上保存できる、と謳っているものもあるようです。もちろんどこの海で採集された天然海水にもいえることですが開封したらなるべく早く使い切るのが原則です。
自分で海水を汲んで使用するデメリット
▲河口に近い場所では水質が安定しない
上に挙げたデメリットのほか、自分で汲んだ海水だと品質が安定しない、水を汲む労力が必要、そして有害物質が混入している可能性がある、などのデメリットもあります。これらは専門業者により採水された海水を購入して使用することで、100%ではありませんが防ぐことはできます。
また天然海水は絶対に煮沸消毒をしてはいけません。海水の成分が変化してしまうおそれがあるからです。人工海水をつくるときも同様の理由により、お湯では溶かしてはいけません。
天然海水の主な採水地
▲きれいな海で採水される(沖縄県国頭郡恩納村 万座毛)
日本国内において販売されている天然海水は主に静岡県伊豆半島、東京都伊豆諸島および小笠原諸島、沖縄県などで採水された海水です。最近は伊豆半島東岸に位置する、静岡県伊東市の相模灘赤沢沖で採水された海洋深層水がよく販売されています。
インターネットで「天然海水」と検索すると、いくつか天然海水を販売しているネットショップがありますが、多くのお店がこの伊豆赤沢、水深800mから採水された海洋深層水を販売しています。なんでもこの周辺には健康食品会社DHCの採水施設があり、それを人間の飲料用としても販売しているのだとか。さらにこの場所は近くに大きな河川がないため、品質が安定しやすい、ということも採水に都合のよい立地です。
入手方法
主に採水業者のWEBショップから通信販売で購入できますが、観賞魚店で取り扱っているところもあります。今回は群馬県邑楽町にある総合ペットショップ「charm(チャーム)」の通販で購入したものになります。
商品名「足し水くん 天然海水 20リットル」というもので、この商品も伊豆赤沢の水深800mで採水された海洋深層水です。
このほか横浜市の生麦海水魚センターでも海洋深層水を販売しています。これも伊豆赤沢で採水された深層水です。
実際に天然海水を使ってみました
今回は20リットル分を購入しました。
チャームでは「足し水くん」を20リットル以上購入すると送料が無料になります(航空便で運ぶ必要があるときは購入自体不可)。
段ボール箱を開けるとこんな感じ。天然海水入りのテナーボトルが入っています。これが最大サイズで、例えば40リットル購入するときはこれが2個口で送られてきます。チャームで20リットル以上の海洋深層水を購入すると送料無料になります。
まず、キャップについているシールの色を確認します。チャームで販売している水のうち、天然海水には黄色のシールが貼られています。ほかの色のシール、もしくは何もシールが貼られていないものは天然海水ではない可能性があります。
なお、付属の説明書によれば、緑はRO水、赤は汽水、シールなしがブラックウォーター(淡水)とのことです。この3種類の水ではカクレクマノミなど海水魚の飼育は不可なので注意が必要です。
天然海水を水槽に導入する前に、水温を測っておきます。今回は28℃でしたが、問題はないようでした。
段ボール箱の赤い丸の部分をハサミなどでカットしてからバケツに天然海水をそそぎます。バケツに天然海水がたまったら水槽に注入します。今回は夏に購入したもので、水温28℃、水槽の海水とは2℃ほどしか変わらなかったですが、冬期に購入したのであればこの時点でヒーターを使用して水温調節を行うようにします。
今回はコックなしのものを購入しましたが、初めて足し水くんを購入するときは、コックが付属しているのを購入することをおすすめします。
お値段も100円しか違いません。コック付きのものをいった購入しておけば、次回からコックなしのものを購入すればよいわけです。
天然海水が入っていたテナーボトルは捨てずに取っておいてもよいでしょう。RO水などを溜めたり、採集に持っていったりと、色々な使い道があります。
天然海水を使用した感想
▲ヤナギカタトサカ
今回足し水くんで水かえを行った我が家のオーバーフロー水槽は90×45×45(cm)の水槽とサンプに使用している60cm規格水槽で、おおよそ200リットルの水量があります。このうち天然海水20リットルで水替えを行っても、1/10しか変わらないことになります。
しかし使用してみたら、カタトサカの伸びがよくなったり、ウミバラの共肉がよく膨むようになったり、ハマサンゴの死んだ部分に付着したヒゲ状のコケは生えるスピードは遅くなったような感じはします。
天然海水まとめ
- 工業製品である人工海水と異なり、海で採水した海水のこと
- 自分で汲んだものは品質に不安、有害菌や有害物質混入のリスクも
- 業者が採水した海水はサンゴ水槽でも安心して使用可能
- 人工海水には含まれない元素も含まれ、サンゴの状態向上がのぞめる
- コケがはえにくくなる
- 溶かす手間がかからずそのまま使用可能
- コストは人工海水よりも割高
- 重量があるため持ち運びはしにくい
- 長期保存は不可。開封後は早く使い切る
- 絶対に煮沸消毒はしてはならない
- 伊豆半島(伊東市赤沢)、伊豆・小笠原諸島、沖縄などで採水される
- 水槽に入れる前に水温を調節したい