2020.11.28 (公開 2020.11.27) サンゴ図鑑
トゲナシヤギの飼育方法~鮮やかな色彩が魅力だが長期飼育は困難
トゲナシヤギは、ソフトコーラルの中でも変わったサンゴです。枝状の骨軸を共肉が覆い、そこからポリプが出ています。非常に美しいサンゴでありますが、陰日性サンゴの一種であり、光合成をしないので、給餌をする必要があります。そのため飼育は非常に難しく、初心者には向いていません。今回はこのトゲナシヤギの飼育方法をご紹介します。
トゲナシヤギって、どんなサンゴ?
▲浅場にすむカリブ海産のゴルゴニア(ヤギ)。トゲナシヤギと異なり光合成する
トゲナシヤギが含まれるヤギの仲間はソフトコーラルの一種ですが、骨軸をもち、それを共肉が覆いそこからポリプが出るという特徴を有します。ただしイシサンゴ目のハードコーラルとはことなり、骨軸はもろくて細く壊れやすいです。またポリプの触手の数は8本で、ほかの多くのソフトコーラル同様八放サンゴの仲間に分類されています。
ヤギの仲間は好日性のものと、陰日性のものがあります。好日性のヤギは比較的飼育しやすいですが、ヤギの仲間で人気の種類は陰日性のものです。陰日性ヤギは赤や黄色、そしてこのトゲナシヤギのようなカラフルなものがおり、鮮やかな色彩だからです。一方好日のヤギはカリブ海産のカリビアンゴルゴニアと総称されるカリブ海産のヤギなどがおり、やや高価ですがその割には地味です。
トゲナシヤギなど陰日性サンゴというのは学術的な分類ではなく、ウミトサカ目のサンゴであるトゲトサカの仲間や、イシサンゴ目のイボヤギ、キサンゴ、ハナタテサンゴなどを含んでおり、これらは強い光がなくても餌だけで飼育できるので簡単そうに思われますが、これはマメに餌やりや水かえができるタイプのアクアリストにしか飼えない種で、ビギナーが飼っても失敗しやすくまったくおすすめできないサンゴといえます。
トゲナシヤギ飼育に必要な環境
水槽
▲トゲナシヤギの骨軸
水槽でもそれなりに大きく、高さがあるものが必要になります。そのため最低でも60×45×45(cm)の水槽が欲しいところです。また陰日性サンゴはどの種も給餌が必要ですが、それにより水質が悪化しやすいため、大きな水量の水槽が必要になるのです。
水質とろ過システム
水質はベルリンシステムでも、ろ材を用いた強制ろ過でもどちらでも飼育できますが、水質の悪化には強くないのでよい水質をキープすることが重要です。水質維持のポイントは二つあり、適切な水かえとハイパワーのプロテインスキマーの設置です。給餌が必須な陰日性のサンゴは非常に水を汚しやすいサンゴで、そのため水質の維持にはこまめな水かえがかかせないのです。また、残り餌などを取り除いてくれるプロテインスキマーの設置も重要で、陰日性サンゴを飼育するのにはマストアイテムともいえそうです。水槽サイズに対してやや大きめの機種が望ましいといえます。
水温
陰日性サンゴの一種ですが、よく海水魚店に入ってくるインドネシア産の個体であれば23~25℃くらいで飼育できます。もちろん水温は一定に保つようにしなければなりません。
水流
水流はヤギの飼育に重要な要素のひとつです。強すぎず弱すぎずの水流が間接的にあたるのがよいとされています。また、多くのサンゴに共通する点として、直接水流が当たるのはよくないといえます。本種も同様であり、壁やガラス面にあたり分散された水流が間接的に当たるのが望ましいです。
照明と配置場所
陰日性のサンゴで、照明は弱くても問題ありませんが、逆にミドリイシの水槽のような強い照明は厳禁です。むしろ室内の光だけで十分なくらいです。そうしないと枝にコケがつき、そのコケがポリプを覆うように増えて死滅させてしまうこともあります。我が家ではゼンスイの古いLED照明を使用していましたが、それでも明るすぎるようでした。
トゲナシヤギに適した餌と添加剤
▲トゲナシヤギのポリプ。一つ一つに餌を吹きかけるようにして与えたい
餌
トゲナシヤギはひとつひとつのポリプが大きいので、トゲトサカの仲間と比べればまだ餌を与えやすいです。餌の種類は粉末状のフードや、コペポーダなどのプランクトンや、コペポーダよりもやや小さめのワムシ類などを主原料とした「ズープランクトスS」などを与えるとよいでしょう。ほかにもショップ限定のパウダーフードなども効果があるようです。
与え方としては給餌の際には循環ポンプと水流ポンプを停止させ、スポイトを使ってポリプに吹きかけるようにして与えます。もちろん給餌後にはポンプを再起動するのを忘れないようにします。そうしないとサンゴや魚が死んでしまうおそれがあるからです。なお、餌は毎日しっかり与えるようにします。
添加剤
ほかの多くのサンゴと同様、カルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、ヨウ素、微量元素などを添加するとよいでしょう。意外なほど微量元素の添加も重要で足りていないとポリプが剥離するともいわれます。その点もこの仲間がやや難しいといわれる理由でしょう。
トゲナシヤギをお迎えする
トゲナシヤギは海水魚店で販売しているものを購入するのがベストです。近海産でイセエビ漁などで漁獲されたものがまれに販売されることもありますが、インドネシアのもののほうが飼育はしやすいでしょう。これはインドネシア産のものが比較的高い水温への耐性があるとされているからです。ただでさえ難しいサンゴですからできるだけ状態がよさそうなものを購入したほうがよいということです。
購入時の注意点はよくポリプを広げているものを選ぶということのほか、共肉が剥げて骨軸が見えているところが少ないこと、もやっとしたコケがはえていないというのも選ぶ際に重要なポイントになります。骨軸が見えている部分が多いものは飼育していても共肉が退行してコケが生えやすくなったりすることもあるようで注意が必要です。
トゲナシヤギとほかの生物の相性
魚・甲殻類
トゲナシヤギを飼育するなら魚は少ないほうがよいでしょう。魚と一緒に飼育するのであれば食べ残しを食べてくれる小型のハゼ類や小型のテンジクダイ、ハナゴイなどおとなしい魚との飼育が適しているでしょう。ヤッコやチョウチョウウオにはポリプをつつかれてしまうので避けたほうが無難です。また一部のエビやカニなどもポリプを食べてしまうことがあり、おすすめできません。
ほかのサンゴとの相性
トゲナシヤギはほかのサンゴとの相性もよいとはいえません。ほかのサンゴの多くは光合成をするため、水槽内を照明で照らさないといけません。この光が大敵であり、先ほども述べたようにコケがヤギの骨を覆ってポリプを殺してしまうこともあるのです。さらにトゲナシヤギには頻繁な給餌が必要なのですが、その給餌により水質が悪化してしまうこともあります。そのため、好日性サンゴとの飼育は困難なのです。
ほかのサンゴと組み合わせるならイボヤギなど同じような陰日性サンゴが最適ですが、これらのサンゴの中にはイボヤギなど毒性強めのサンゴもおりますので、接触させないようにするべきです。
トゲナシヤギ飼育まとめ
- 鮮やかな色彩のサンゴであるが飼育は難しく初心者には困難
- 骨軸があるがハードコーラルの骨格と異なり弱くて折れやすい
- 陰日性サンゴで光を好まない
- しっかりとしたろ過システムと残り餌を取り除くスキマーが必要
- 強めの水流を好むが直接当てるのはよくない
- 水温は低めを好むが産地によっては23~25℃でも飼育できる
- 添加剤はほかのサンゴと同じように添加する
- 餌は重要、毎日開いたポリプに液状やプランクトンフードをふきかける
- 購入する時はよくポリプを開き剥げている部分が少ない個体を選ぶ
- 剥げているところにコケが生えて骨軸を覆ってしまうことも
- 魚は少ないほうがよい。小型のテンジクダイやハナダイなどにとどめる
- 陰日性サンゴとの組み合わせはよいが好日性サンゴとの組み合わせは困難