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2020.12.01 (公開 2017.12.12) サンゴ図鑑

陰日性サンゴの飼育方法~種類によって異なる餌の与え方

イボヤギ(美ら海水族館)

サンゴは褐虫藻という植物を共生させ、光合成をおこない、エネルギーを得ている動物です。しかし、光が届きにくい深い海や岩影にもサンゴが生息しています。そのようなサンゴを俗に「陰日性サンゴ」と呼びます。

これら陰日性サンゴは光に頼らず餌を捕食してエネルギーを得ています。「光に頼らず餌だけ与えればよいから飼育も簡単」と思いきや、実は初心者には飼育が難しいサンゴです。しかし美しい色彩やユニークな形のものが多いことから「いつかは飼育してみたいサンゴ」となるかもしれません。

陰日性サンゴとは

サンゴの生き方としては、体に褐虫藻を共生させ、褐虫藻が光合成することによってエネルギーを得るものと、褐虫藻を共生させず、餌を食べることによりエネルギーを得るものがあります。前者を「好日性サンゴ」と呼び、後者を「陰日性サンゴ」と呼びます。

好日性サンゴも、陰日性サンゴも、「LPS」「SPS」同様に、学術的な分け方ではありません。たとえば好日性のチヂミトサカと、陰日性のトゲトサカは同じチヂミトサカ科のソフトコーラルであり、キサンゴ科のハードコーラルの中には好日性のスリバチサンゴやウィスカーズコーラル、陰日性のイボヤギやキサンゴが含まれています。

▲好日性のキサンゴの仲間・ウィスカーズコーラル。

陰日性サンゴの飼育は難しい

結論から言うと、陰日性サンゴは好日性サンゴと比較し初心者には難しいサンゴです。

好日性サンゴは光を当てるだけでエネルギーを得ることができますが、陰日性サンゴは餌からエネルギーを得る必要があります。そしてサンゴに必要なエネルギーは人間(あなた)が供給しなければなりません。つまり、陰日性サンゴを上手く飼育するには、人間が「光の代わり」をしなければなりません。

陰日性サンゴのうち、インドネシアなどから入ってくるものは比較的高水温にも耐えられるので飼育は容易となりますが、飼育設備をおろそかにしてもいいということはありません。

漁業廃棄物として販売される近海産の陰日性サンゴは20℃前後での飼育が向いています。そのような低めの水温をキープするためにはクーラーが必要ですが、できるだけハイスペックなものを使用するようにします。ごくまれに深海性のサンゴが販売されることもありますが、このようなサンゴを飼育するのであれば10数℃と、さらに低い水温で飼育しなければ飼育は無理というものです。

これらのことから陰日性サンゴは、海水魚飼育初心者にはまったくおすすめできないサンゴということになります。このようなサンゴを飼育したいのであれば、その前に他のサンゴで飼育経験を十分に積む必要があります。陰日性ハードコーラルを飼育したいのであれば、同じキサンゴ科ですが好日性のスリバチサンゴやウィスカーズコーラルなどを飼育すると、餌のやり方などを学ぶことができます。

陰日性ソフトコーラル

陰日性のソフトコーラルはトゲトサカやベニウミトサカ、アカヤギ、トゲナシヤギ、イソバナなどの種類が知られています。

トゲトサカ

こちらはトゲトサカの仲間です。トゲトサカは好日性トサカの代表的な種であるチヂミトサカと同じくチヂミトサカ科のサンゴです。チヂミトサカと異なるところは光合成をせず、捕食によってのみエネルギーを得ることです。

また色彩はチヂミトサカよりも鮮やかな色彩をしておりますが、飼育は難しいため最近は販売している店も少ないように思います。

▲トゲナシヤギ

こちらは陰日性のヤギです。ヤギの仲間は細長い枝状の形状をしているものが多く、全体に小さなポリプが付着しているサンゴです。

ヤギには好日性のものと陰日性のものがありますが、陰日性のヤギは鮮やかな色彩のものが多く人気があります。しかしながらこれも飼育が難しく、明るい水槽ではコケが生えるおそれがあり、生えてしまったところが死んでしまうこともあります。

いずれの種もポリプが開くと大変に美しいのですが、これらの種類はポリプが小さいものが多く(とはいえトゲトサカよりは大きいですが)、ポリプひとつひとつに餌を吹きかけていく必要がある種類です。餌は微細なプランクトンフード、液状フードなどを与えますが、給餌に非常に手間がかかるサンゴです。

初心者はもちろん、ベテランでもうまく飼育するのが難しい種類といえます。もちろんこのほかヨウ素や微量元素などの添加も必須です。そのため初心者には全くおすすめできないサンゴです。

陰日性ハードコーラル

陰日性のハードコーラルには、イボヤギ、キサンゴ、ハナタテサンゴ、センスガイなどの種類がよく知られています。

▲キサンゴの仲間

▲イボヤギ(左)とハナタテサンゴ(右)。他種のサンゴとは触れ合わないようにする。

これらのサンゴはポリプのひとつひとつが大きい特徴があります。餌は1週間に1~2回ほどスポイトを使ってポリプに餌を与えます。給餌は陰日性ソフトコーラルと比べて楽なものです。

餌は液状フードや冷凍コペポーダなどのほか、冷凍エビ、オキアミなど大きめのものも食べることができます。ただし与えすぎると消化不良を起こしてしまったり、水を汚してしまうこともあるので注意します。このほかカルシウム、ストロンチウム、ヨウ素など他のサンゴ同様に元素を添加する必要があります。水流はやや強めですが強すぎる水流はダメです。

丈夫な種類であり、陰日性サンゴを飼育したいのであれば、この仲間から飼育をスタートするとよいでしょう。ただし種類によっては強すぎる光や高い水温は苦手ですので気をつけて下さい。

また概ね毒性はやや強く、ほかの種類のサンゴとは触らないように気を付けるべきです。

液状フード

冷凍フード

陰日性サンゴと他の生き物との関係

陰日性サンゴと魚との関係

▲水族館の陰日性サンゴ水槽で泳ぐハナダイの仲間

陰日性のソフトコーラルにプランクトンフードや液体フードを与えるとロスが出てしまうことがあり、水質悪化を招いてしまいやすいのですが、陰日性のソフトコーラルは餌を食べないと生きていけないのでそのような給餌をやめるわけにもいきません。

小型のハゼ科魚類であるイソハゼやベニハゼの仲間を入れると、ソフトコーラルが食べられなかったプランクトンフードを食べてくれるのでおすすめといえます。ただし、これらの小さなハゼは陰日性ハードコーラルとの飼育には適していないことがあります。ウチウラタコアシサンゴなど、大型のハードコーラルは魚をも捕食してしまうからです。

小型ヤッコの中には、イボヤギやキサンゴなどをつついて食べてしまうような種類もいますので一緒に飼育するのはやめた方が無難といえます。もちろん、チョウチョウウオの仲間も一緒に飼育するべきではありません。生息する環境などを考えますと、ハナダイの仲間、小型のハナスズキ(リオプロポマ)属の魚、ヨウジウオ、ハゼ、深場のベラなどが向いています。

陰日性サンゴと甲殻類・軟体類などとの関係

カニの仲間のうちツノガニの仲間は、陰日性ソフトコーラルをちぎって体に付着させることがあります。「サンゴが付着した岩」になりきって身を守る防衛戦術といわれています。また大型のエビやカニは、サンゴを移動させたり、落下させたりすることもありますので、サンゴはライブロックやサンゴ岩などに接着させましょう。

イボヤギの仲間にはまれにミノウミウシの仲間が寄生していることがあります。鮮やかなオレンジ色をしていてイボヤギとそっくり。なかなか見分けが付きません。見つけ次第ピンセットなどで取りのぞきますが、水槽に入れる前に薬浴をしたほうが確実です。

陰日性サンゴと好日性サンゴとの関係

種類によって異なりますが、好日性サンゴとの飼育は難しいものが多いです。キサンゴやセンスガイなどはやや深い海に生息していることが多く、これらのサンゴは低い水温と暗い環境を好むため好日性サンゴとの飼育は難しいといえます。

一方浅い海にも生息するイボヤギやナンヨウキサンゴなどは陰日性ハードコーラルとしては比較的高めの水温で飼育できるため、オオバナサンゴやアザミハナガタサンゴなどとは飼育可能です。これらの好日性サンゴは餌を与えるとコンディションがよくなるといわれており、給餌が必要なイボヤギなどとの相性も悪くはないといえます。ただし、他のサンゴの陰になるような場所、あるいは洞窟のような場所に置く、などの配慮が必要です。

好日性サンゴのうち、ミドリイシやハナヤサイサンゴといったSPSは陰日性サンゴとの飼育にはまったく向いていません。SPSは強い光と清浄な水が必要なのに対し、陰日性サンゴは強すぎる光を好まず、また陰日性サンゴに給餌をすることにより水が汚れやすいからです。何でも一緒くたにしてしまっては、うまく飼育することはできません。これは陰日性サンゴに限らず、どのサンゴにもいえることです。

陰日性サンゴの飼育まとめ

  • 光合成をしないかわりに、餌を食べることでエネルギーを得ている
  • ソフトコーラルはトゲトサカ、ヤギ、イソバナなど
  • ハードコーラルはイボヤギ、キサンゴ、ハナタテサンゴなど
  • 陰日性ソフトコーラルの飼育はプロでも難しい
  • 陰日性ハードコーラルは給餌が必要だが、ソフトコーラルよりは簡単
  • 強い光や高水温は禁物
  • チョウチョウウオやヤッコなどとの混泳もおすすめできない
  • カニはソフトコーラルをちぎって体に付着させることも
  • イボヤギなどの寄生生物に注意
  • 好日性サンゴとの飼育は難しいことも多い
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