2020.09.21 (公開 2020.02.01) サンゴ図鑑
ナガレハナサンゴの飼育方法~美しいサンゴだが初心者には難しい
ナガレハナサンゴは、イシサンゴ目ハナサンゴ科のハードコーラルです。ミドリイシほど難しくはないサンゴですが、水質の悪化に弱かったり、水流も強いものが必要であるなど飼育がやや難しかったり、また非常に強い毒をもちほかのサンゴを攻撃してしまったりと、初心者にはやや難しいサンゴといえます。
しかし水流にポリプをなびかせる様子や、鮮やかな緑色は、アクアリストを魅了します。今回はナガレハナサンゴの飼育方法をご紹介します。
ナガレハナサンゴって、どんなサンゴ?
イシサンゴ目ハナサンゴ科(またはチョウジガイ科)に属するハードコーラルのひとつです。ハナサンゴ科のサンゴはミドリイシほど飼育が難しいというわけではないのですが、それでもオオバナサンゴやキッカサンゴなどと比べるとやや飼育しにくいサンゴといえます。
なお名前がよく似たハマサンゴは全く別のハマサンゴ科のサンゴです。この科のサンゴにはアワサンゴやハナガササンゴなどが含まれ、骨格の形がハナサンゴ科のサンゴとは大きく異なっています。初心者にはやや難しいサンゴの仲間なのですが、ポリプが水流によりゆらゆらとなびく様子はアクアリストには魅力的です。
特徴とバリエーション
▲先端はT型やイカリ型などのバリエーションがある
色彩はグリーンやベージュが多く、先端とその付け根の部分の色が異なっているものもあります。オオトゲサンゴやキッカサンゴの類と比べて色彩のバリエーションは少ないようです。先端部の形状はイカリやハンマーの形をしていますがこれにも若干のバリエーションがあるようです。
近縁のコエダナガレハナサンゴ
▲ハナブサツツマルハナサンゴと思われるもの(右)
▲コエダナガレハナサンゴ(タコアシ)
▲海水魚店で飼育されているオオナガレハナサンゴ(トランペット)
ナガレハナサンゴと近縁なものに、コエダナガレハナサンゴというものがいます。これは海水魚ショップでは「タコアシサンゴ」などと呼ばれることもありますが、タコアシサンゴというサンゴは別にいるため混同しないように注意が必要です。
なお、チョウジガイ科(ハナサンゴ科)にはほかにもハナブサツツマルハナサンゴ、オオナガレハナサンゴ(英名トランペットコーラル)や、オオハナサンゴ、ミズタマサンゴ(バブルコーラル)などがいます。どの種もアクアリストにはお馴染みのサンゴといえましょう。
ナガレハナサンゴ飼育に適した環境
よく飼育書などでナガレハナサンゴはハードコーラルとしては飼育しやすい、と記述されることもあります。しかしこれはミドリイシなどと比べると簡単、ということであり、ハナガタサンゴやシコロサンゴと比較すると飼育しにくいハードコーラルといえます。うまく飼育するためには機材を万全に整えることが重要です。
水槽
水槽はできるだけ大きなものが必要です。これは大型水槽の方が水質の安定に有利だからです。はじめてナガレハナサンゴを飼育するのであれば90cm水槽で飼育するのがおすすめです。また水槽のタイプはオーバーフロー水槽がおすすめです。
水質とろ過システム
ナガレハナサンゴは水質の悪化に弱い面があります。硝酸塩などの濃度が低い状態を常にキープしておきたいものです。そうなると強制ろ過方式よりもベルリンシステムの方が有利になります。強制ろ過システムを採用するのであれば、ベンチュリー式のプロテインスキマーを使うべきでしょう。
水温
水温は23~26℃前後で飼育するようにします。もちろん設定しておけばいいというものではなく、クーラーとヒーターを使用して水温を常に安定させなければなりません。
水流
水流もナガレハナサンゴの飼育には重要な条件のひとつになります。強く複雑な水流を作ってあげましょう。その一方ナガレハナサンゴに強い水流を直接当てるのはよくありません。触手がゆるやかに動くような水流がよく、常に触手が一定の向きになってしまうような強い水流も避けるようにします。複数の水流ポンプを使うのはもちろん、ポンプをコントロールして水流をつくるウェーブポンプの使用も効果的です。
照明
▲T5蛍光灯
従来はメタルハライドランプが一般的でしたが、現在はLEDが一般的となっています。高度にシステム化されたものや、「グラッシーレディオ」などのように多灯してそれぞれのサンゴに適した光になるように調整したりします。ただギラギラしたスポットタイプのLEDの直下に置かない方がよいかもしれません。グラッシーレディオなどを使用するならある程度水槽から離したほうがよいかもしれません。
またT5蛍光灯などを使用するのもよいでしょう。筆者が利用している海水魚専門店では、T5蛍光灯を使用して本種を育成している水槽があります。
置き場所
メタハラの直下(とくに250w)に置くのは避けます。ハナサンゴの仲間はどの種も毒性が強いですので、ほかのサンゴとの接触はしないようにしましょう。また攻撃用のスイーパー触手を出すこともあるのでほかのサンゴに触れたり、近づけないようにしなければなりません。
餌と添加剤
餌
餌は与えなくてもよいタイプのサンゴです。同じ水槽で飼育している他のサンゴに餌を与える場合でも、餌を与えすぎて水質を悪化させるようなことがないよう注意します。
添加剤
添加剤はカルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなど骨格の形成に必要な元素を添加するほか、ヨウ素や微量元素が必要になります。カルシウムは添加剤を利用してもいいのですが、イオンバランスの崩壊などのリスクがあることを考えると、KHの安定にも役立つカルシウムリアクターを用いてカルシウム濃度を安定させた方が簡単でしょう。
ナガレハナサンゴをお迎えする
まず購入してはいけないのが、骨格がみえてしまっているようなものです。こうなってしまうと回復させるのは困難です。硝酸塩の蓄積や強すぎる水流でダメージを受けてしまうこともありますが、いずれにせよ最初から骨格が見える個体は購入しない方が賢明です。
産地は従来はベトナムやインドネシアから来ていましたがインドネシアでの問題のあとはオーストラリア、マレーシアなどからの入荷がメインになっています。ただし2020年1月現在は再びインドネシアから来ていますが、従来よりも高価です。
ナガレハナサンゴとほかの生物との関係
ほかのサンゴとの関係
ナガレハナサンゴは比較的水質悪化に弱いため、ミドリイシやショウガサンゴなど、同じように水質悪化に弱いサンゴと組み合わせたいところですが、ナガレハナサンゴを置く場所には配慮しなければなりません。強すぎるメタハラの直下は避けるようにします。
またナガレハナサンゴは強毒のスイーパー触手をだしほかのサンゴを溶かしてしまうことがあります。そのためほかのサンゴとの接触は避けなければなりません。ナガレハナサンゴ同士、もしくは近縁のコエダナガレハナサンゴ同士は接触しても問題ないことが多いですが、ハナサンゴは溶かしてしまうこともありますので接触させてはいけません。
逆に同じく和名に「ハナサンゴ」の文字をもつオオナガレハナサンゴ(トランペットコーラル)はナガレハナサンゴよりもさらに強い毒をもち、ナガレハナサンゴがダメージを受けることが多くあります。とくにオオナガレハナサンゴは大きく膨らむことがあり接触しやすいので注意が必要です。
魚・甲殻類などとの関係
サンゴをつつくようなヤッコやチョウチョウウオにはよい餌になってしまうことが多いです。クマノミの仲間もナガレハナサンゴにすり寄ることがあり、おすすめできません。このような魚とナガレハナサンゴとの飼育は不適です。ハギやアイゴの仲間は問題ないこともあるのですが、個体によってはサンゴをつついてダメにしてしまうこともあるのでなるべく避けます。共肉が減退しているとあっというまに食べられて丸裸にされてしまうことがあります。
小型のスズメダイ、ベラ類、遊泳性ハゼ、ピグミーゴビー、ハナダイ・バスレット類、イトヒキベラ、クジャクベラ、テンジクダイなどを少しだけ飼育するのが望ましいといえます。ベントスハゼはミズタマハゼやオトメハゼならまだよいのですが、アカハチハゼやサラサハゼといった種はサンゴに砂をかけてダメージをあたえることもあり、一緒に飼育するのは避けるべきです。またミズタマハゼなどであっても砂がかかるほどの底層にサンゴを置くのは避けなければなりません。
甲殻類のうちモエビの仲間のフシウデサンゴモエビなどはLPSの共肉などをむしって食べるようなものもいるのでよくありません。イセエビや大型のカニ、大型のヤドカリは岩組を壊してしまうこともあります。
ナガレハナサンゴ飼育まとめ
- ミドリイシほどではないが強い水流と綺麗な水が必要
- 水流になびくポリプや色が美しく人気
- ハナサンゴやコエダナガレハナサンゴによく似る
- 90cm以上のオーバーフロー水槽でベルリンシステムでの飼育が最適
- 水温は25℃前後で一定を保つ
- 強く複雑な水流を作りたいが、強すぎるのはだめ
- 照明も強すぎるものは好まない
- 水は常にきれいに、硝酸塩は低めの値を好む
- マグネシウムやヨウ素など添加が重要。カルシウムはリアクターの使用が望ましい
- 骨格が見えているものは購入しない
- ほかのサンゴと接触しないよう注意
- 魚やエビとの飼育には注意が必要